アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

LAW&LITE〜今後が楽しみな法学系同人誌

著作権法

著作権法

*イメージ映像

1.LAW&LITEとは
文学フリマで、ある同人誌が人気を博した。
LAW&LITE
ローリテと読む。法律(LAW)と文学(LITERATURE)をテーマとした、法学徒inflorescenciaさんの法学同人誌である。
Flavors.me : Closed


巻頭特集は、「輝く白さのパクリ・マニュアル」


このタイトルだけで、読みたくなるのではないか?


2.分かりやすく最先端を語る
素人でもプロでも、物を書く(描く)ならどうしても気になるのが著作権法である。
著作権法の面白さは、その利益衡量の微妙さにあると思う。
著作権法の目的は文化の発展に寄与することである(著作権法1条)。文化が発展すること、これは誰もが望むことだろう*1。ところがどっこい、話はそう簡単ではない。
誰かのものを参考にしながら*2物を書く(描く)時、自分が書いたものが簡単に著作権法違反になっては困るので、著作権の保護範囲は狭くあるべき」と考えるのが普通の心情だ。著作権法の保護範囲を広くしすぎると、萎縮効果(怖いから辞めようという効果)で新たな作品が創作されにくくなる。そう、著作権による「独占」が認められる範囲は制限しないと、他の人が創作しにくい環境になって、文化が発展しないのだ。
ところが、一旦自分の作品ができると、これを勝手にパクられたくないのが人情である。また、商業的問題を考えれば、海賊版が自由に作れると、高い印税を払ってオリジナルを作るよりも、安上がりな海賊版で儲ける人ばかりの世界になりかねない。自分が創り上げた作品が他人によって簡単にマネされ、コピーされる世界でも、新たな作品が創作されずらくなる。そう、著作権による保護範囲が狭すぎると、これまた作品が創作されずらくなって、文化が発展しないのだ。
ようするに、著作権法は、この二律背反の要請の微妙なせめぎ合いがあり、だからこそ興味深いのである*3


本書は、著作権法の一番深いところを、法律にあまり詳しくない人も理解できるように、具体的に検討している同人誌である。
8頁と、極めて短いし、初心者優しい筆致である。と思っていると、「著作権を尊重する理由をラディカルに考えてみた」といったコラムは、かなり突っ込んだ議論をしておりあなどれない。inflorescenciaさんのまとめかたのうまさは秀逸である。


3.クリエイティブ・コモンズを実践
興味深いのが、この同人誌そのものが、クリエイティブ・コモンズ(CC)を実践しているということである。
by-nc-sa
つまり、原作者のクレジット*4を表示し、かつ非営利目的に限り、また改変を行った際には元の作品と同じ組み合わせのライセンスで公開することを守れば、改変や再配布が認められるというライセンスである。


私は、これまで、CCのライセンス契約を仔細に検討したことがなかったので、「改変可」のライセンスは、個人的には法的議論をする上では怖いなと思っていた。例えば、著作権の微妙な議論等を想起していただきたいが、部分部分を取り上げるだけで、本意とは違った内容になってしまう。「◯◯の文書を元にした〜」として、自分の意思と異なる文献が流布しないか等の観点から、少なくとも法律分野では*5普及しないのではないかと思っていた。しかし、LAW&LITEは、このライセンスを利用されている。
 この点、inflorescenciaさんのご指摘を受けて、CCのライセンス契約*6を確認したところ、この問題意識については、手当がなされていた。
 要するに、3条b項で「本著作物を翻案して二次的著作物を創作し、複製すること」が許可されているのだが、ここでいう「二次的著作物を創作」というのは、著作権法上の二次的著作物全てを含む訳ではなかったのだ!

第1条 定義
この利用許諾中の用語を以下のように定義する。その他の用語は、著作権法その他の法令で定める意味を持つものとする。
a 「二次的著作物」とは、著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、または脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。ただし、編集著作物又はデータベースの著作物(以下、この二つを併せて「編集著作物等」という。)を構成する著作物は、二次的著作物とみなされない。また、原著作者及び実演家の名誉又は声望を害する方法で原著作物を改作、変形もしくは翻案して生じる著作物は、この利用許諾の目的においては、二次的著作物に含まれない。

要するに、作者の名誉又は声望を害するものは許諾対象たる「二次的著作物」ではないので、翻案や複製は禁止されるというのがCCのライセンスだったのである*7
そう考えてみると、CCのライセンスは以外と使いでがあるのではないかと思うようになってきたところである*8


なお、このライセンスだと、紙を買った方が、電子版を頒布することも可能になる。この点、例えば「これからの『契約』の話をしよう」は、できるだけ多くの方にご覧になっていただきたいという観点から同人誌ショップ様に店頭での委託販売や、通信販売にご協力いただき、その対価として委託料をお支払いしている。その場合、同人ショップ様でお買い求めになった方のことを考えると、ネットで無料公開するのは4分の1とか、試し読みの範囲が限度ではないかと考えている。そういう意味で、色々な要素の中で、どういう方法を取るのが「作品をより多くの人に知ってもらう」という非プロ作者目的達成にとって有益なのか、これもまた、LAW&LITEの壮大な実験であろう。


クリエイティブ・コモンズの実践という意味でも、LAW&LITEの試みは着目に値する。


4.入手方法
 入手方法は、当面は、文学フリマでの委託販売によるとのことであった。
 今後、他の方法でより容易に入手できるようになることを期待している。

まとめ
LAW&LITEは将来が楽しみな同人誌である。
次号はエッチなのはいけないと思います!」と題して猥褻表現と有害表現に切り込むそうである。次号が楽しみな一冊である。

*1:まあ、文化なんて発展しなくとも良いという方もたまにはいらっしゃるのかもしれませんが….。

*2:というか、誰のものも参考にせず書くという行為を人はできるのだろうか。このblog記事だって、LAW&LITEはもちろん、著作権法についての複数の基本書(ただし、記事を書く際に読んでいるのではなく、自分の頭の中に入っている当該基本書の情報を参照しているということ)を参考にしている訳である。

*3:もちろん、このような説明は、いわば古典的な著作権観であり、近年はどんどん新たな著作権観が出ている。LAW&LITEが紹介している「求償権化」といった考え方は、いわばアウフヘーベン的な新たな著作権観といえよう。

*4:氏名、作品タイトルとURL

*5:改変禁止のndライセンスなら兎も角

*6:http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/legalcode

*7:反省になるが、定義規定は大事です。

*8:あえていえば、立証責任分配上、著作権者側で「名誉又は声望を害する方法」を立証しなければならないことであるが、どこまでこの点がクリティカルに問題となる事案があるかという点は今後の検討課題だろう。「微妙な場合には反論すればよい」と割り切れば、実質的な不都合は小さいかもしれない。