アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

速習!企業法務入門 1.総論〜新人法務部員のために

エッセンシャルビジネス法務

エッセンシャルビジネス法務


参考:第二弾の速習!企業法務入門2.NDAで学ぶ契約交渉の考え方 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常、第三弾の速習!企業法務入門3〜免責条項で学ぶ基本法の条文・判例の大切さ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常を書かせていただきました。


0.はじめに
 法務部初体験の方は、最初法務部の仕事に戸惑われる場合が相当程度あるようである。配置転換で法務部に配属された、専門職・インハウスとして法務部に入られた等々の方の戸惑い事例は意外と聞こえてくる。
 流石に、入門基礎レベルの法律(民法会社法・商取引法&業界関連法)は法務部・ロースクールで習得されたり、独学されるのだろうが、法務部・ロースクールで学べる法律の基礎と企業法務に必要な法務力の間にややギャップがあるように感じるのは私だけだろうか。
 普通の企業はこのギャップを埋める作業をOJTでやっていると思われ*1、たぶんそれで十分という見方もあるだろう。
 ただ、もしかすると、このギャップ部分を簡単に解説することにニーズがあるのではと思うのです。もし、ニーズがあるのであれば、今後も不定期連載をさせていただければと思います。
 第一回になるのか、これで終わりになるのかは未定ですが、一応企業法務総論というタイトルをつけさせていただきました。私が「総論」をお話できるほどの経験は間違いなくないものの、短いながらも、この界隈に身を置かせていただき、見聞きした内容から、「若手」が知っておいて損はないと思われる、企業法務にとって大切なこととしては、「自社を知る」「相手を知る」「案件を知る」「フォーマットを知る」「弁護士を知る」「自分を磨く」の6つに整理できると思います。これらについて、過去に「なるほど」と思ったことや、先輩に教えていただいたこと、同業者や弁護士の先生にお聞きしたお話等々から簡単にご説明したいと思います。


 なお、以下の内容はすべて私の個人的経験及びお聞きした他社事例を元にできるだけ一般化してお話ししている「一般論」です。個別具体的な企業毎に全然事情が違うと思います。また、できるだけ一般的なことを書こうと思っていますが、業界にやや偏りがあったりして特殊事例をあたかも一般的かのように述べているところがあるかもしれません。そういう限界があるものとしてご理解下さい。そして…。


こ、この中にある事例は、す、全て『一般的な事例』『ありそうなフィクション』で、決ーっして、現実にあった事例じゃ、な、ないんだからねっつ!?


1.自社を知る
 まず、自社の立ち位置を理解しなければならないでしょう。上場大企業か、上場中規模企業か、上場準備中のベンチャー企業*2。理由は、「交渉力」の見極めです。
 交渉力が弱いのに、法務が自社に有利な条項を「これでもか!」とばかりに入れようとするとどうなるでしょうか。多分、「全削除」若しくは「当事者の交代*3で終わるのではないでしょうか。
 もちろん、交渉上のテクニックとして、自社にドラフトを書かせてもらい*4、最初から全削除覚悟で「第一案」としてかなり自社に有利な条項を並べ、相手方に削除された後に「第二案」として「少なくともこれだけは残して下さい、文言をこう変えますから」といって最終的条項をより有利なものにするといったテクニックもないではありません。
 しかし、そういう戦略を考えず、交渉力上無理な条項をとにかく入れろ、さもなくは契約するなと言うと、営業から見れば「ビジネスを阻害している」ように見えてしまい、場合によっては現実に足を引っ張ることにもなりかねないでしょう。
 なお、上場企業と一口にいっても、交渉力はまちまちです。たとえば、昔「店頭登録」といっていたのですが、非上場と上場の間みたいな感じの制度があり、大半が中規模企業です*5。ところが、平成18年にジャスダック証券取引所になり、「上場企業」となった訳です。ジャスダック上場企業も、公開企業ですから、法務部ないしそれに準じる部門を設けて社会的責任を果たしていらっしゃいます。ただ、やはり、「日本を代表する大企業」と比べてしまいますと、同じ「上場企業」とはいえ、売上・利益等の規模において雲泥の差があることは否めません。交渉力ももちろん雲泥の差です。実は、同じ東証1部であっても、かなり交渉力に開きがあったりします。
また、上場準備中のベンチャー企業になると、かなりドラスティックな契約を結ばされることも多いと思われます*6
 こういう自社の「弱み」だけではなく、自社の「強み」も知る必要があります。業界における立ち位置や商品の特色、他の競業相手にないものです。曲がりなりにも法務部を作るほどに内部統制を充実できるほど大きくなった企業ですから、何か売りがあるのではないでしょうか。そういう「強み」が効く契約の場合には、交渉力は強くなる訳です。


2.相手を知る
 交渉力という意味では相手を知ることも重要です。
 まずは、お得意様なのか一見さんなのかというのは重要ですね。
一般的には、基本契約を結んでしまえば、後は個別契約は注文書でというのが多いと思われます。実務上注文書までいちいち法務にレビューをさせることはあまりないと思われます*7。そうすると、法務に来るのは新規の相手方が比較的多いのではないでしょうか*8。新規じゃないところが法務に来るというのは、何か理由があるはずです。
 相手がお得意様の場合には、ビジネスの人や法務部の先輩がいろいろな情報を持っていると思います。「あの時あそことこうトラブった」「社長がワンマンで最後の最後に無茶を言う」等々有益情報を得られることもあるでしょう。お得意様の場合には、ビジネスサイドから法務に来た「理由」の部分もよく聴き取っておくのが良いのではないでしょうか。ビジネス側で「これは法務に確認しないとまずいよね」と判断したのであれば、それは内規があるからだけなのかもしれませんが、何か懸念点があったり、問題意識を持っている場合も少なくありません。メールで「チェックして下さい」と契約書が送られて来た場合に、厭わずに電話(内線)をしてちょこっと話を聞いたりするだけでも違ったりします。
 一見さんのお客様でも、ビジネス側とコミュニケーションがあるはずなので、ビジネスサイドから最低限の情報は得られるはずです。どういう経緯で案件に至ったのかは聞いておいて損はないと思われます。そのあたりにリスクがあったりします。特に期末近くとか、期末近くとか。*9
最近は各社がHPを持っているので、「企業情報」にある程度書いていることが多いです。上場していればもっと情報は豊富です。会社の株主構成(どこのグループか)、規模、商流のどこに位置する企業か、最近相手方に関するニュースはないか等々をチェックするのがよいでしょう。新規だと、登記情報*10と信用調査会社*11のデータを用いることが内規になっている会社も多いのではないでしょうか。業界の噂も大切です。
 「案件を知る」とも関連してくるのですが、噂やニュース等で「弱み」を見付けられると、交渉力がアップしたりもします。例えば、基幹システムの新規開発案件の場合、「競合ERPを入れようとして失敗した」ので自社に引き合いが来たといった情報が入っていれば、「多分同じのをもう一度入れることはないだろう。そうすると、あの業界に対応し、かつIFRS対応しているERPって残るのは、現実的なものとしては自社がかついでるのと、●社がかついでるのくらいしかないんでない? ●社グループはあそことはあんまり仲が良くない*12し、あそこの基盤に適合しないんで入れるなら相当ハード投資が必要になるから、今回うちって交渉力強くね?」みたいな推測ができたりできなかったりする。


3.案件を知る
 案件について深く知るのは非常に重要だと思います。例えば、その事案での交渉力を知るため。一般にはお金を払う方が交渉力が強いといえますが、貴重な製品・技術の場合等例外は多々あります。まさに、ケース・バイ・ケースで対応すべき場合が多いと言えます。


こういう案件の個別性に鑑み、法務の仕事は決して定型フォーマットに固有名詞を入れるだけの仕事ではないと信じています。各案件毎に特殊性があり、その特殊性によって、法的リスクが異なり、また、それを避けるための対処法(主に契約書の条項や取引スキーム等)が違います。このような特殊性を知るために法務こそが案件を深く知るべきです。
 商流をきちんと確認したら、あれ、「エンドユーザーは誰?」ということで、よく調べてみたら、なんとなく商品の実在性に疑問が生じて…といった話、聞いたことはありませんか? じゃあ注意してれば見抜けるのかというと、結構見抜くのはむずかしいです*13が、怪しい話を法務がスルーしたということになると、取締役の業務執行をサポートする法務としての役割を果たしていないということになりかねません。
 残念ながら一部には、「弁護士の先生に聞かれてはじめてそれをビジネスに聞けばいいじゃん」という向きもあるようにも思われます。メールが発達した現在、やや例外的な事例かもしれませんが、ビジネスからもらった資料と契約書案を右から左に弁護士に横流しし、弁護士からの質問を右から左にビジネスに流すだけの「猛者」もいらっしゃいます。ここまでくると笑い話ですが、顧問弁護士がIT企業に対して、

「御社の責任限度額を1000万円に限定するのは交渉上難しいと思料いたします。例えば、契約金額の半額で提案されることが一案と存じます。ただし、一般的に申しますと『契約金額を上限とし、御社側に故意・重過失があった場合は免責されない』という条件を先方から突きつけられると、拒むのは難しいと思料いたします。」

とアドバイスを契約書上に書き込んだところ、法務もビジネスも誰もチェックしないままそのコメントが相手方にそのまま流れたといった話も聞いたことがあるような、聞いたことがないような*14
しかし、付加価値を提供しない人材は会社のためにならないし、そもそも、そういう「単純作業」を繰り返すだけでは自分のスキル(付加価値)も全く向上しないと思います。
 むしろ、ビジネスと積極的に話をして、案件を積極的に知り、この案件における自社のメリットは何か、他社は何をメリットと考えて当社と契約しようと思っているのか、自社のリスク・デメリットは何か、相手方はリスクについてどう考えているだろうか、自社として絶対に譲れないポイントは何か等を理解しておくことは、「専門家のチェック」と「法務のチェック」の二重チェックによって法務ミスをなくすという意味でも重要なのではないでしょうか。
 なお、外部弁護士の先生とお話してよくお聞きしたりしなかったりするのは「しっかりした法務の方とは仕事をしやすい」ということです。外部弁護士の先生にはしっかりと事案に関する情報を提供して、必要なアドバイスをいただく必要がありますが、ビジネスの情報は得てして法的観点からみれば情報量が多すぎるか、又は必要な情報が欠落していたりします*15。これを「要件事実」ではないですが、案件に関して法的に必要な情報を過不足なく整理して弁護士の先生にお渡しすると喜ばれます。また、長い契約書をべたーっと見るのは大変なので、法務の立場でポイントになると思われる点についてコメントを付けて「この点について当社として問題意識を持っておりますので、ご確認をお願いします。他に何かご指摘点がございましたら、ご教示下さい」とされていると、かなりレビューが効率化されるそうです*16「事実関係が整理されていて、契約文言で問題となりそうな部分についてアラートが付いている人からの『明日までお願いします』と、事実関係も整理されておらず、どこのフォーマットを切り貼りしたのかも分からないぐちゃぐちゃな契約書がべたっと送られてきて『明日までお願いします』ではやる気が違う」とおっしゃっていた先生がいらっしゃったようないないような。
 ビジネスの方は、せっかく契約が取れそうなのですぐにでも相手に契約書を渡したい又は相手にもらった契約書にコメントを付けて返したい訳です。2週間後でいい案件はほとんどありません。1週間後でも嫌な顔をすることが多いでしょう。やっぱり早ければ早いほど喜ばれます。まあ、「ごめん、明日の朝一で出さないといけないから、今日中で!」とか突然言われると流石に「えっ!」ってなりますが*17。事案をきちんと整理して、問題意識を明確化させることは、専門家のレビューを迅速化させ、ビジネスの満足度を高めると思います。それは究極的に言えば、ビジネスが積極的に法務に相談するようになるコンプライアンス向上効果を生むと考えます。


4.フォーマットを知る
 もちろん、フォーマットのない契約もあります。契約ではないですが、システム開発がうまくいかないので、原因を説明して謝罪する文書とか、非定型的だけどものすごく重要なものもあります*18。フォーマットがない場合には、関係しそうなフォーマットをツギハギして自社で作る方法と、弁護士の先生にお願いする方法があるでしょう。実は、弁護士の先生に「こういう契約なんですけど、先生のところに似た契約があれば、それを元に作ってもらえませんか?」とかお聞きすると、意外とズバリはないけど似たものがあって、自社で苦労するよりも速くかつリーズナブルに仕上げていただける場合もあったりもします。
 フォーマットがある契約類型、これが実際の実務、特に若手法務部員が任される案件では比較的多いと思いますが、フォーマットの各条項がどういう趣旨で作られたのかをきちんと理解することが大事だと思います。それがわかっていれば、各事案にあわせて適切に修正できます。フォーマットのなかにはダメダメなものも無いとは言いませんが、普通は、弁護士の先生に相談しながら、自社にとって重要な内容を網羅して作っています。例えば、商法526条の検査通知義務を外すために購買契約にはこういう条項が入っているのかということを知っているか知らないかでは大きく違うと思います。よく使われる3〜5個位のフォーマットについて各条項単位でその意味を学習することは、基本的な民商法の復習になるばかりではなく、その会社の業務全体を知り、法務として気をつけるべきことを知るという意味もあります。


5.弁護士を知る
 弁護士に関してはいろいいろな方がいろいろなことをおっしゃってますし、私もこのようなことを言える立場ではないのですが、法務のお仕事に入門される皆様の便宜上、あえて申しますと、(1)成果物が内容・形式の両面でしっかりしている、(2)仕事の速さ、親しみやすさ等があり頼みやすい、(3)コストがリーズナブルという辺りの評価軸が参考になります。
 会社によっては、「社長と親しいこの先生の所」という風にもう1つだけ事務所が決まっているところもありますが、規模が大きいと、複数の事務所を使い分ける*19ことも多いといえるでしょう。


(1)品質
 流石に、法務部員でも分かる明らかなミスをされる弁護士の先生はあまりいらっしゃらないのですが、時々「えっ」という事態が発生するのは極めて遺憾ながら事実です。一般論ですが、著作権譲渡契約において「翻案権等(著作権法27条)及び二次著作物の利用権(著作権法28条)」を譲渡する旨の明文規定がなく単に「著作権を譲渡する」とだけ書かれている(著作権法61条2項参照)とかが一つの例になるのではないでしょうか*20


 そういう場合を論外としますと、やはり、自社の基幹業務に関するあらゆる法分野について、実務知識はもちろん最新情報までフォローされていることが望ましいでしょう。また、ファイナンスM&A、税務、外国法等の例外的な分野であっても、ご自身で対応してくださるか、親しい専門弁護士、税理士、当該国の弁護士等を起用して自らが責任を持って高い品質を達成してくださるというのは頼もしいといえます。最近では、ある程度大きい事務所だと、「これはうちの事務所の●さんと一緒にやります」といって、1つの事務所でワンストップサービスをしてくれることが増えていますね。
 四大を除く*21と、実は、同業他社の顧問も多くされている所の方が業界実務をご存じの可能性が高いと考えます。要するに、IT企業が弁護士を頼む時「IT業界の顧問先が一社もない」先生がIT実務を知っている可能性は低いでしょ、ということです*22。もちろん、同業なので、コンフリクトの可能性はあるのですが、コンフリクトに関してきちんと対応してくださる先生であれば、結構そういう先生の方が豊富な経験に基づいて的確なアドバイスができることが多いと思われます。
 これは議論がありそうですが、ファイナンスといったテクニカルな分野はまた別でしょうが、一般論としては訴訟ができる先生の方が訴訟を見通して的確なアドバイスをしてくださることが多いように感じます。
 なお、忙しいのかもしれないが、時々形式的なミスが目につくこともあります。たまにであればいいのですが、繰り返しになると、確認は何回されているのだろうという疑義が生じない訳ではありません*23


(2)頼みやすさ
 仕事の早さ、親しみやすさ、説明の分かり易さ等の、頼みやすさもとても重要だと思います。
 これらのうち、一番重要なのはスピードと思われます。「すみません、明日までで!」と言って「わかりました!」と快諾し、きちんと翌日のビジネスアワー中に返答をくださる先生にはまた頼みたくなるのは法務部員の性ではないでしょうか*24。もちろん、熟考型の先生もいらっしゃるので、そのような先生が難しい案件や、訴訟等において、誰も見つけられなかったポイントを突かれるというのは絶対にあると思います。そこで、スピードが「絶対」ではないものの、日常的な契約事務処理、特に若手法務部員が担当するような簡単なものという意味では、スピードが早いほうがありがたいという限りでは言っていいのではないでしょうか。
なお、上記1.自社を知るで述べた、相手方に契約をドラフトさせず、自社がドラフターになるという点に関して1つ申しますと、非定形的契約だと相手方もフォーマット持っていないでしょう。そこで、自社の交渉力が弱い場合でも「うちは、明日出せますよ」とかいって仕事の速い先生にお願いするといったテクニックが使えるかもしれません。
後は、メールや電話で質問した際に、分り易く、人当たりよく回答していただくと、より次もお願いしたいなということになりやすいのではないでしょうか。
 なお、IT企業法務部員の仕事〜おおまかなスケッチ - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常8.ビジネスサイド&外部弁護士と仲良く、時には厳しくに書かせていただいた「ビジネスサイドへの説明のための絶妙の掛け合い」をさせていただけるような先生には、まさにお世話になりっぱなしである。


(3)コスト
 コストにつきましては、色々なことが言われていますが、上記の(1)(2)とその他もろもろを加味して総合的なリーズナブル感があるかどうかなのかな、と思っておりますが、各社毎に考えも違うでしょうから詳論は避けさせていただきます。
 コストに関して最近興味深く読ませていただいた記事に企業法務マンサバイバル様の
元企業法務マンサバイバル : 【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.43 10月号 ― 法務アウトソーシングの目的は、コストカットじゃありません
がございますので、ご参照下さい。


(4)オススメは若手の先生の「一本釣り」
 この点に関しまして、大変生意気ながら1点申し上げたいのですが、この点は極めて誤解を招きやすいので先にお断りさせていただきますと、若手法務部員はむずかしい案件は一人でやりません*25。そうすると、「定型的フォーマットの契約で、法律的にはあんまり難しくない、でも、ビジネス側はさっさと見てくれといってせかしてくる」というのが多いのではないでしょうか。そのようなベテランの先生の手を煩わせるまでもない案件について若手法務部員がどう弁護士の先生とコミュニケーションを取るといいのかについての私見を述べようとしているだけです。それ以外の複雑な案件や訴訟案件等は当然頼み方も違うと思います*26。そこで、以下は弁護士の先生との付き合い方一般では決してなく、「若手法務部員用の簡単な案件の処理」に関する極めて限定的な言及だとご理解下さい。


たぶん若手が任されるような定型的な契約法務*27を念頭に置くと、優秀な比較的若手*28の先生をご指名させていただく、いわば「一本釣り」させていただくことが法務部員にとって幸せにつながるのではないか思います。
もちろん、ベテランの先生方の多くは、本当によく事案を理解し、丁寧にレビューして下さいます*29。ただ、一般的には、定型的な契約であれば、そのような大先生にお出ましいただくまでもなく、比較的若手の、いわゆるシニアアソシエート/ジュニアパートナーの先生が実質的にレビューされていることが多いような印象を受けます。その実質的にレビューをご担当されている先生をご指名させていただくのが個人的には一番法務側が気持ちよく仕事しやすいのではないかと思います。


 いろいろな案件をいろいろな先生にお願いさせていただくと、この先生はすごいという先生が必ずいらっしゃいます*30。先生方それぞれに、いろいろな凄さがありますが、一例を挙げますと、メールも即返信していただけるし、期限についても気を遣って下さり、一度おっしゃった期限どおりにレビューして下さる。そして、内容は自社の問題意識にズバリ答えていて、説明も明快で判例・通説・実務を押さえていらっしゃる…*31
 基本的にはシニア・パートナーの先生にこのような比較的簡単な案件をお願いする場合、その先生が他の若手の先生に「振って下さる」訳ですが、そういう若手の素晴らしい先生はやや忙し目のことも多い(いわば「引っ張りだこ」状態)ので、「××さんは忙しそうだから」という形で、別の先生になることも多いのではないでしょうか。もちろん、別の先生だからといってそう大きな差はないでしょうし、「どなたか独禁法がわかる人がいますか?」とかであれば、「じゃあ、●●君がいいよ」と、その事務所の中の「専門弁護士」の方を適切にご紹介していただいた方がよいこともあります。ただ、若手法務部員が一人で担当するような一般的な契約レビューについて、即時に適切にアドバイスいただきたいという場合に限定しますと、そういうキラリと光る若手のすごい先生に直接お電話かメールでお願いするという方法を取った場合には


・早く正確にご対応いただけるので、ストレスがない
・あっという間に契約書を相手方に返せるからビジネスサイドに喜ばれる
・場合によってはうまく交渉のポイントをアドバイスしてもらえてビジネスサイドにもっと喜ばれる
・法務部員自身の問題意識について鋭いコメントをしていただけるので自己研鑽につながる


と、いう効果が期待できると考えます*32


 この項目は、少なくとも「複雑な事件」を担当されているベテランの法務部員の方には全く参考にならないと思いますが、若手法務部員のご参考になればと思いまして、あえて書かせていただきました。


6.自分を磨く
 4.案件を知るでも簡単に書かせていただきましたが、「丸投げ法務」ではなく、きちんと法務の仕事をする、外部弁護士の先生と「分業する」という意識で法務の仕事をするのであれば、自分磨きが大切になると思います。
 自分自身もまだ磨いている最中で、先は長いなぁという感じなのですが、案件をきっかけに本を読む、セミナーに行かせていただく、同業者・隣接業者の方と交流させていただく等々することが考えられます。
 また、ビジネスサイドの年齢の近い方と仲良くなると、ざっくばらんに法務に対する思いをお聞きすることができます。結構あるのが法務には法務の事情があるのだろうけど、「仕事が止まる」感があるのでできるだけ早く対応して欲しいという系の率直なお話をお聞きすることが少なからずあったりなかったりします。また、ビジネスの実務のうち「あまりにも当たり前すぎてなかなか聞けないこと」について教えてもらうというのは、こういう機会が良いのではないでしょうか。
法務であればどの業界でもやりますというのであれば、業界固有の勉強はそこまでやらなくてもいいかもしれませんが、この会社で長くやるとか、この系統の法務をやるという場合には、業界知識を学ぶことも有効だと思います。むしろ総合職で入ってグルグルローテーションした方がより会社のことを良く知ることができるかもしれません。専門職やインハウスとして入った場合でも、その業界に関する資格の勉強とかをすると、結構勉強になります。IT業界だと、段階的にレベルがあがっていくので、情報処理技術者試験がお勧めです*33


 最後に、上記で紹介した企業法務マンサバイバル様の
元企業法務マンサバイバル : 【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.43 10月号 ― 法務アウトソーシングの目的は、コストカットじゃありません
の一節が、心に響きましたので、引用させていただきます。

法務という役割が大切だと思うなら、自分たちの存在価値の高さを含めて法務業務にかかるコストの正当性を経営や株主に説明し理解してもらうことが重要であり、必要で大切な業務にかかるコストならば、むしろどんどん積み増しを要求するぐらいの気概を持つべきではないでしょうか?
(中略)
弁護士のフィーをカットし続けているだけのお仕事なら、じきに自分たちの給与もカットされることになるのは明白なわけで、そんなの嬉しくないですもんね!


 法務部員が自己研鑽して、「法務がいて良かった」「法務は相談しやすい」「法務部のおかげでリスクを事前に回避できた、ありがとう」とビジネスサイドに喜んでもらう。これが、外部専門家とは異なる、「内部の業務執行機関」たる法務の存在意義であると、私は思うのです。

まとめ
 「若手が若手のために法務について簡単に説明する」という大それた企画をさせていただいた。もちろん、若手なので、見えていない部分というのは多々あるだろう。間違っているところは素直に教えを乞いたい。
ただ、一人の若手としてもがいている中で、最初の最初にこういうことを教えてもらっていればもう少し楽になったんじゃないかなといったものが漠然とあるようなないような気がしてきた。そこで、それをこの場を借りて形にさせていただいた。
なお、弁護士の先生方には、もしかすると、言葉足らずで誤解を招くところもあったかもしれない。しかし、基本的には上述のとおり「限定された場合において一部の弁護士の先生があうのではないか」といった私見に過ぎず、当該一部以外の弁護士の先生を否定・批判する趣旨ではないことはご理解いただきたい。弁護士の先生には本当にいろいろと教えて頂き、よくしていただいてると感謝の気持ちでいっぱいであるので、その点を誤解しないでいただければありがたい。

*1:契約審査入門等を座学でやってるところがあれば、教えてください。まあ、若手を外部セミナーに参加させる等はあるかもしれませんが。

*2:中小企業だと法務部がない気が…。

*3:相手方に一方的に秘密保持義務や競業禁止規制を科したら、「乙」が全部「甲」になって返ってきたとか。

*4:ドラフターになるのは非常に重要なことです。ただし、定型的契約は相手方がフォーマットを持っているだろうから、交渉力が弱いとドラフトをどっちが出すかという交渉で負けることも多いと思われます。

*5:例外はヤフーとか、日本駐車場開発でしょうか?

*6:あくまでもイメージですが、「上場企業3社とのライセンス契約で年商の80%を占める。3つ全てにおいて上場企業側がに任意に解除できる条項がついていたり、契約期間が極めて短く設定され上場企業側が更新を望めば自社側は更新を義務付けられるが、自社にはそんな更新を義務付けるような権利はない」とか。

*7:まあ、金額によっては出てきますが

*8:新人法務部員にとってはほぼすべてが「新規」の相手方だろう

*9:「5億円の絵画の売買」とかは流石に最近は噂でもきかなくなりましたけどね..。

*10:今はインターネットで簡単に取れる

*11:帝国データ、商工リサーチ等

*12:なお、先輩とかに聞くと、昔は企業グループの結合が強くて、飲み会でビールの銘柄が違うグループのしかないとそれだけで大変なことになるとか聞きましたが、今は大分緩くなっているようです。

*13:だって、「ビジネスを最初っから疑いの目で見る」というのは法務のスタンスとちょっと違います。ビジネスから提供を受けた情報を元に「アレ?」と思えば納得するまで情報を求め、その結果疑惑が深まったら上司とも相談しながら行動するということだと思います。

*14:この程度ならまだましですけどね…。

*15:そりゃあビジネスサイドは法務部ではないので当たり前といっちゃ当たり前です。

*16:なお、そのポイントがずれているとアレなのですが…

*17:「えっ!」てなったの、これまで何回あっただろう…。

*18:こういうのを勝手に出さず、法務に相談するビジネスサイドは素晴らしいと思います。

*19:法務部員で顔を突き合わせて先生の名刺を出しあって「う〜ん」とか。

*20:あ、一般論ですからね、一応。

*21:コンフリクトの問題から、「顧問契約やりません」というところが出てきてますね。

*22:無論例外は多々ありますが。

*23:短納期でお願いすると、そういうことはやむを得ない場合もありますが。

*24:時々これを「明日の午後11時59分」と解釈される先生もいらっしゃいますが、私は「午後11時59分でいい場合には『明後日の朝一までに』とお願いし、ビジネスアワー中にいただきたい場合には『明日中に』とお願いする」というのがより一般的な法務部側の理解だと考えます。いかがでしょうか。

*25:よね?よね?

*26:一般にいうと、たぶんベテランの先生方のご経験がものをいうでしょうし、熟考型で、時間は一定程度かかるもののいいアウトプットを出して下さる方がとても頼りになるのだと思いますが、その辺りはまで全然書けるレベルにありません。まあ、このエントリを書くこと自体、本当にそんなレベルにあるかというと間違いなく「ない」のですが…。

*27:複雑なのは先輩と一緒にやったりするのではないでしょうか。まあ、「一人法務」ってのはありますが、大変そうですね..。

*28:実年齢そのものにはあまりこだわらないでいいと思います。

*29:そして、重要かつ複雑な案件については、長いご経験に基づく分析・リスクへの「気づき」や、大所高所からのアドバイスが有益な場合も多々あります。特に、経営陣を説得する場合に「●●先生がおっしゃるのなら」というような信頼をお持ちの先生には、よくお出ましいただいて、本当にお世話になっております。

*30:先輩にお聞きしましょう! ただ、先輩ごとに違う先生を「すごい」とおっしゃったりもします。なお、初対面の方のご指名は避け、2回目以降にした方がよいかもしれません。ただ、どうしてもという場合には「●●法律事務所 ●●先生 初めてご連絡させていただきます、株式会社●●法務部の●●と申します。弊社の●●が以前●●の件でお世話になりました。この件と同様の●●契約につきまして●●先生にぜひレビューをお願いしたいのですが…」等とお願いするのは1つの手かと思います。

*31:あくまでも1つのステレオタイプです。例えば、ロースクールや研修所で教鞭をとられており、メールが返ってくるまでに時間がかかるが、夜遅くまで熱心に自社のことを考えていただき、適切なアドバイスを下さる等のすごい先生もいらっしゃいますし、上述のように、すごいベテランの先生もいらっしゃいます。このような先生は本当に素晴らしく、ありがたいと思っておりますが、あくまでも「若手法務部員が担当するような比較的簡単な案件をお願いする場合」が大前提です。

*32:ただ、渉外事務所の先生だと、この時期に留学に行ってしまわれるんですよね…。

*33:知識0からの情報セキュリティスペシャリスト3ヶ月合格法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常 PM未経験者のプロジェクトマネージャ試験(情報処理技術者試験)1ヶ月合格体験記 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常参照。なお、PMPとか経験要件がある資格は、法務が体系的に勉強するという意味では難しいですが、もちろん、PMBOKの勉強をすることは有益だと思います。