- 作者: 杉井光,岸田メル
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1.暴力団排除条例10月1日施行
大物芸能人引退事件等、今「暴力団排除」が世の潮流である。このトレンドにおいて非常に重要なのは、今年の10月1日から東京都で施行される暴力団排除条例である。
暴力団排除条例は、暴力団を中心とした反社会的勢力との関係を遮断するべきことを内容とするものであるところ、「神様のメモ帳」のアリスが大丈夫か不安になった。
神様のメモ帳については、既に
神様の刑法メモ〜「神様のメモ帳」と麻薬等取締法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
で書いたので詳細は譲るが、NEET探偵を営む少女アリスは、インターネットを駆使して情報を収集し、探偵業務を行う。
そのアリスの主要顧客の一人が四代目と言われる、平坂組の組長である。平坂組のためにシマを荒らす薬物密売者の調査等を行っているが、暴力団排除条例により禁止されないか?
2.助長取引の禁止
暴力団排除条例の中で最も重要なのは第24条3項である。
暴力団排除条例24条3項事業者は、第1項に定めるもののほか、その行う事業に関し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることの情を知って、規制対象者又は規制対象者が指定した者に対して、利益供与をしてはならない。
ちょっとわかりにくいので、竹内朗「東京都条例24条3項から読み解く助長取引の中身」ビジネス法務2011年11月号*127頁という、この条文の解説を参考に説明したい。
本条の規制の中核は、(1)事業者が、(2)暴力団の活動を助長or運営に資するとの情を知って、(3)規制対象者に、(4)利益供与を行うことである。
(1) 事業者というのは、2条7号で、都内で事業を行うものであれば、個人なのか法人その他の団体なのかを問わないとする。渋谷近辺で探偵事業を営んでいるアリスは、個人だが「事業者」だ。
(2)暴力団活動の助長等の情を知ってというのは非常に微妙な概念である。
あえて分かりやすく言えば、例えば、コンビニに刺青をした兄ちゃんがおにぎりを買いに来たという場合を考えてみると、多分暴力団員におにぎりという利益を提供していることにはなる。しかし、そこまでを禁止してしまうと、暴力団員は生活できなくなる。すると、どこかで線を引かなければいけない。東京都条例は、線の引き方として、その行為がみかじめ料を渡すような暴力団の活動を助長するものだったり、襲名披露のためホテルが宴会場を貸すような暴力団の運営に資すると知ってのものであれば、これはダメであるが、そういう場合でなければ、あえて条例違反とまではしないとしたのである。
アリスは、シマを荒らされないという、暴力団の活動を助長する目的だと知っているので、この要件にも該当する。
(3)規制対象者は、暴力団といろいろな関係を持つ者が2条5号に列挙されていところ、暴力団員はその典型である。
ちなみに、平坂組は盃のやり取り等暴力団に近い組織運営がされているが、一応不良グループであって、指定暴力団の傘下組織ではないようである。しかし、条例が定義を委ねる暴対法2条2項、6項は、構成員が「集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」を「暴力団」、その構成員を「暴力団員」としており、指定暴力団でなくとも、平坂組もこれに該当するので、四代目は、東京都暴力団排除条例でも、「暴力団員」である。
(4)利益供与については、なんとなくみかじめ料的な無償・無対価の利益提供のみが規制されているような印象を受けるかもしれない。しかし、これは誤解である。
例えば、百貨店が暴力団から贈答品を受注するような、代金、対価をもらっている場合でも、「利益供与」であって、広く取引一般が禁止される*2。
アリスが探偵を請け負うのは、対価をもらっていても「利益供与」だ。
そう、アリスの行為は、暴力団排除条例違反の助長取引なのだ。
24条3項違反の制裁は、「勧告」(27条)と「公表」(29条)である。このままでは、アリスは平坂組との取引の根絶を勧告され、1年以内に繰り返すと、「NEET探偵アリスこと紫苑寺 有子」という名前が暴力団助長取引を繰り返した事業者として公表される。
3.アリスも「暴力団関係者?」
ところで、東京都条例は、暴力団員だけを規制するのではなく、暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者(暴力団関係者)も規制する。
具体的には、事業者は、暴力団活動を助長する疑いがある場合には相手が暴力団関係者でないことを確認しなければいけない(18条1項)。
そこで、仮に24条3項の規制対象者に該当しないとしても、東京都条例により、「暴力団関係者」は取引から排除される*3。
この「暴力団関係者」の詳細な意義は都条例自体からは分からないが、今年6月2日に銀行協会が改訂した最新の約款が、「暴力団を利用している」「暴力団に資金提供便宜供与している」「暴力団と社会的に非難される関係を有する」等の関係を持つ者を暴力団関係者と規定することが参考になる。
このうち、「暴力団と社会的に非難される関係」については、大阪地決平成22年8月4日において、「例えば、暴力団が関与する賭博や無尽等に参加していたり、暴力団員やその家族に関する行事(結婚式、還暦祝い、ゴルフコンペ等)に出席するなど、暴力団員と密接な関係を有していると認められる場合をいうと解するのが相当」と判示するのが参考になる*4。
アリスは、四代目に頻繁にぬいぐるみの裁縫をしてもらう等密接な関係を持つ他、上記の助長取引を繰り返しており、「暴力団に資金提供便宜供与している」「暴力団と社会的に非難される関係を有する」として、東京都条例上の「暴力団関係者」に該当する可能性が高い。そう、東京都条例上はアリスも暴力団関係者として扱われるのだ*5。
まとめ
アニメ、神様のメモ帳は、平成23年7月から9月末まで放映された。その理由は定かではないが、きっと、アリスの行為を違法とし、アリスも暴力団関係者とする東京都暴力団排除条例が施行される以前に放映できるよう、アニメの放映時期が10月1日以前とされたに違いない!
*2:禁止されないのは、多分暴力団が開く新年会で配るもちを貰う位だが、そもそもそれが「事業に関して」行われるという場合は想定し難い。
*3:24条の規制対象者と18条の暴力団関係者がイコールでないのが分かりにくいが、結局、勧告・公表という強めの制裁をするためには、比較的暴力団に近いコアな人に限定すべきであるが、規制対象者に列挙される暴力団の威力を示す常習者や暴力団への利益供与を合意している者というのは内心や過去の経緯の問題であって取引相手が把握できないことが多い。そこで、勧告公表という制裁はないものの、より広い概念である暴力団関係者でないことの確認義務を通じて暴力団関係者一般を取引から排除させ、間接的に24条の目的を達成しようとしているものと思われる。