アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

胸が大きい女子高生を「肉」と呼んでもいいのか〜僕は友達が少ないと不法行為法

僕は友達が少ない (MF文庫J)

僕は友達が少ない (MF文庫J)

本エントリは「僕は友達が少ない」のネタバレ記事ですので、未見の方はご注意ください。


1.僕は友達が少ないとは
  エア友達と話す女子高生、三日月夜空。目付きが悪いとビビられるハーフ転校生羽瀬川小鷹友達がいないなら、友達を作る部活を作ってしまえとばかりに作った部活は「隣人部」
  タテヨミ(正確には斜め読み)で部員を募集したところ、やってきたのはその容姿で男子にモテモテだが、性格の問題で女子からは友達になってもらえない美少女(巨乳)、柏崎星奈。更に、小鷹を慕うメイドの楠幸村中二病重篤化している小鷹の妹羽瀬川小鳩、一応天才少女の志熊理科等が入部し、残念な部活生活を繰り広げる、そんな話が、「僕は友達が少ない」、公式略称「はがない」である*1


2.「肉」なんて呼んでいいのか?
  夜空と星奈は犬猿の仲。性格も、髪の色も違うが、一番の違いは、「胸の脂肪」の大きさである。
 夜空は、星奈を「乳女」「牛女」「牛」「生肉女」等と呼んでいたが、「肉」で定着した。本当は脂肪分がほとんどなのに、「肉」というのは優良誤認(景表法4条1項)ではないかという気はするが、まあ置いておこう。


  肉なんていうあだ名をつけても大丈夫なのか?


3.あだ名が問題となった裁判例
 あだ名が問題となった裁判例はいくつかあるが、概ね以下のように説明できるだろう。


 まず、あだ名をつけることが、いじめの一環として行われることがあるが、他の行為と総合して、不法ないじめと言える領域に達していれば、不法行為等として損害賠償が認められる。
 参考となる裁判例としては、学年の大半の男子生徒から「ペルー人」、「くそ」、「ヘボ」、「ホモ」等と呼ばれたことがいじめの重要な一内容をなすと認定した福岡地判平成13年12月18日判時1800号88頁等がある。


 次に、 いわゆる環境型セクハラ*2の一環として行われることもある。市議会議員の男性が市議会議員の女性に対し、市役所議会棟二階廊下で後ろから「男いらずの○○さん」と呼びかけた行為はセクシャル・ハラスメントの不法行為であり、男性発行の活動報告紙に女性の氏名の上に「オトコいらず」とルビを振った*3行為も名誉毀損・人格権侵害の不法行為であるとして、請求を一部認容した事千葉地判平成12年8月10日判時1734号82頁が挙げられる。


更に、名誉毀損の一環として、あだ名を用いる場合もある。貸金業を営むオーナーを「闇金融の帝王」、経営する会社を「マムシのA」と呼び、会社に狙いを定めて資金を出すと言って近づいては資産を吸い上げた挙句倒産させるという印象を与える記事を週刊誌に掲載したことが名誉毀損とされた東京地判平成4年3月24日判タ806号189頁等がある。


4.「肉」のあだ名は違法性が少ない?
 ここで、隣人部では、ともすると幸村に対するイジメ(パシリ等)が起こっているとも思えるが、少なくとも、星奈がいじめられているとは認定できないだろう。むしろ、夜空とは対等の喧嘩をしているだけである。肉との呼称をイジメと評するのは難しいと思われる。


 「肉」はもちろん、胸の肉を揶揄的に指しているのだから、シチュエーションによってはセクハラは成立し得る。例えば、男性教師が胸の大きさを気にする女子のことを「肉」と呼んでいる場合、そのこと自体がセクハラに該当する場合は十分あり得る。同様に、名誉毀損ないし侮辱的発言*4に該当する可能性もある。
  もっとも、そういう行為が違法なセクハラ等に該当するかはあだ名単独で決することはできず、四囲の状況により決まる。特に重要なのは本人の受け止め方である。やめて欲しいと本人が思いそれを表明しているのに止めないというのは違法性が高い。例えば、上記の千葉地判でも、最初に「女いらず」と呼びかけた際、女性は撤回を求めたが、男性は「ユーモアだよ」といって撤回しなかったという*5。こういう状況を含めてセクハラ認定されているのだ。


 本件では、星奈の以下の発言*6がポイントだ。

「その割にけっこうあっさり受け入れていた気がするんだが。最初から。」
(中略)
「…あだ名って初めてだったから」
「え?」
星奈は顔を真っ赤にしてうつむいた。
「…う、嬉しい?」
「よ、夜空には絶対内緒だからね!?
ていうかほら小鷹、食べ終わったならさっさとプール行くわよ!」
平坂読僕は友達が少ない」237〜238頁

 そう、星奈自身、表面上は反発しているが、心の奥では、「 肉」と呼ばれて満更でもないのである。
 このような星奈の心情を含めて総合的に考慮すれば、星奈を「肉」と呼ぶことは、未だ不法行為等として違法視される領域に至ってないと見るのが相当である。

まとめ
星奈を「肉」と呼ぶことは本件の事情の下では不法行為に該当しないと言える。
皆さんも、安心して「肉」とお呼び頂いて構わないのだ。

*1:「僕達は友達が少ない」ではない。

*2:職場でヌードポスターを飾る、女子職員のいるところでわいせつ雑誌を読む、職場にほぼ全裸の抱き枕を持ってくる等が挙げられ、直接手は出さないが、間接的に職場環境を悪化させるもの

*3:ルビと字面の乖離は、俺と一乃のゲーム同好会活動日誌等でも問題になるが、どっちかで問題のある記載があれば違法とされてもおかしくない。

*4:どちらかといえば「侮辱」の方で考えるのが自然かと。

*5:何がユーモアなのか私にはさっぱり分かりませんが…。

*6:よく、このニュアンスで「証言」という言葉を使う人がいるが、法律的にいうと正しくない。法的な「証言」は裁判所の面前で宣誓して話す内容だ。