第三者委員会の説明責任〜有責と判断したことに根拠はあるのか?
修羅場の経営責任―今、明かされる「山一・長銀破綻」の真実 (文春新書)
- 作者: 国広正
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/09
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某社の第三者委員会が、監査役等を有責とし、監査法人を有責と認めなかったことが一つの話題となった。
第三者委員会報告書*1を斜め読みする限り、監査法人の責任の有無を判断するためには監査法人が無限定適正意見を出す過程でどのような資料を見て、どのような点に疑問を持って、どのような確認を行ったのか等を知る必要があるところ、それを証する証拠である監査計画及び監査調書を*2見ていないので、監査法人の説明等に依拠せざるを得ないというのも大きいらしい*3。
確かに、監査法人は大量の監査調書を作成する。最近は、埋めるべき書類ばかり増えて会計士自身が自分の頭で考えなくなったという評価もあるようだが、どのような事実を把握し、どのようなチェックをしたのか等プロセスを監査調書等を見ずに判断するのは困難であり、また、これを見ないまま「有責」と決めつけることは、逆に後で監査法人から訴訟等を起こされるリスクもある。この意味で、捜査権限がなく、あくまでも任意に説明や資料提出を求めることができるに過ぎない第三者委員会にとっては、限界があるのだろう。
2.日本のコーポレートガバナンス史上類を見ない山一事件
ところで、「飛ばし」といえば、山一証券を思い出す方も少なくないだろう。
山一事件の特徴はいろいろあるが、第三者委員会(法的責任判定委員会)が監査法人の責任を認定したという点は、日本のコーポレートガバナンス史上類を見ないと言って良いだろう。
仮に、かかる第三者委員会が、少ない資料等の限界の中で的確かつ適正に監査法人の責任を指摘していたのであれば、このノウハウは極めて貴重なはずである。
ところで、この山一証券第三者委員会については、前にこんなエントリを書いた。
第三者委員会の限界〜「山一証券法的責任判定委員会」の検討 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
要するに、監査法人の会計士の方の著作によると、山一証券の監査法人は、後に株主等から提訴されたが、なんと、判決までいった案件は全て監査法人の勝訴。つまり公認会計士には責任がないと判断されたのである。
- 作者: 伊藤醇
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これをどう見るべきか。
前のエントリでは、
果たしてこれが、伊藤先生の言うとおり「第三者委員会の失敗」なのか、それとも「第三者委員会の限界」なのかについては、判断材料がほとんどないのでコメント不能であるものの、第三者委員会隆盛の今だからこそ、山一証券法的責任判定委員会という「結果的に裁判所と違う判断となった」事案をもとに、「第三者委員会の検証」をすべきではないか。
第三者委員会の限界〜「山一証券法的責任判定委員会」の検討 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
と提言したところである。
3.国広先生の反論
ところで、この第三者委員会(法的責任判定委員会)の中心人物が国広正先生である。
最近、国広先生が、山一事件を振り返る書物を出された。これが、
国広正「修羅場の経営責任ー今、明かされる『山一・長銀破綻』の真実」
修羅場の経営責任―今、明かされる「山一・長銀破綻」の真実 (文春新書)
- 作者: 国広正
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- 発売日: 2011/09
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同書の中には、当初会社が第三者委員会調査報告書の開示を拒んだが、第三者委員会の内部者である菊野晋次氏が、「あの報告書を闇に葬ってはいかん」と、マスコミにリークして、これによってマスコミが「監査法人が悪い」と書きたてたこと等が明らかになっており、「今、明かされる『山一・長銀破綻』の真実」というサブタイトルにふさわしい内容もある。
しかし、肝心の『国広委員会は、なぜ監査法人を有責と認めたのか』『裁判所の判断との食い違いはなぜ生じたのか』については全くと言っていいほど書かれていなかった。
わずかに、
大きく浮上してきたのが監査法人の責任である。
山一の決算を長期間にわたって監査してきたにはある大手監査法人であった。この監査法人は、簿外債務が発生した92年3月期から97年3月期にかけて、山一の決算について「適正意見」を出し続けていた。この適正意見があったからこそ、本来行い得ない配当が行われ、投資家は山一株を購入していたのである。つまり、監査法人は。二千数百億円もの簿外債務の存在を5年以上にわたって見逃していたわけだが、全くそれに気付かなかったなどということがあり得るだろうか。
(中略)
古海公認会計士をリーダーとするチームは、山と積まれた資料をしらみつぶしに検証していった。そして、監査法人が簿外債務を発見する端緒をつかんでいたことを示す多くの証拠を見つけ出した。
国広正「修羅場の経営責任ー今、明かされる『山一・長銀破綻』の真実」81〜90頁
という記載があるだけである。
4.果たすべき説明責任
ここで、仮に十五年前の監査のレベルを前提としても、真に監査法人が簿外債務を発見する端緒をつかんでいたのであれば、それなのに、(国広先生のいうには)「5年以上にわたって見逃した」監査法人は、公認会計士としてなすべき注意を尽くさず、発見されるべき飛ばしを見抜かなかったということになるだろう。そして、多くの証拠があるならそのような事実を認定することも容易だろう。しかし、裁判所はそう判断しなかった。
このように、監査法人を有責と判断された国広先生の判断と裁判所の判断に大きな食い違いが生じている。
しかし、国広先生は、各判決が出揃った後の現在でもなお、監査法人に責任があると公言されるのである。
そして、この理由が説明されているのかというと、上記のとおりであって、具体的にどのような証拠を見てこのようは判断をされたかの根拠を示されない。
そもそも、第三者委員会は監査調書を一枚も見ていないという*4。このような最重要資料を見ない中で、有責と判断したのだから、どうしてそのような判断ができたのか、疑問を持たれるのは当然だろう。
もちろん、「原告の訴訟追行が下手過ぎただけ」ということも理屈からはあり得るだろう。国広先生が具体的に有責と判断した根拠を提示されれば、「なるほど、国広先生がこういう結論に達するのは分かる」となるかもしれない。しかし、現時点でそのような説明はなされていない。
少なくとも道義的には、国広先生に説明責任があると言っていいのではないか。
また、この点について議論を深めることが、日本の第三者委員会制度をよりよくして行く上で有益であろう。
まとめ
第三者委員会が監査法人の責任を判断することが多い昨今こそ、山一証券第三者委員会の検証をするべきである。
これによって、第三者委員会の限界や、第三者委員会がなすべきこと/なすべきでないことについて議論が深まるのではないか。
少なくとも、国広先生が説明責任を果たしているかは疑問が残るところである。