アホヲタ元法学部生の日常

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司法試験受験生の副読本に「憲法論点教室」

憲法論点教室

憲法論点教室

1.はじめに
憲法事例問題を解くことは難しい。
そのためには、(1)憲法の各条文と、その条文につきどのような判例があるかを理解した上で、(2)違憲判断の方法等の憲法訴訟上の問題を理解し、(3)問題を検討して説得的に論述することが必要であろう。


旧司法試験の時代は、(1)と(2)はおざなりにして金太郎飴式の論証パターンでしのぎ、(3)の「あてはめ」勝負*1でなんとかしようという方法が人口に膾炙していた。
しかし、新司法試験ではそうはいかない。その意味でどのように憲法にアプローチするかは重要な課題である。


ここで、今までの芦部憲法・いわゆる「通説」パラダイムを捨てれば*2、そこには、三段階審査パラダイムが広がっている。


小山剛「『憲法上の権利』の作法」、宍戸常寿「憲法解釈論の応用と展開」、木村草太「憲法の急所」は、最近のドイツ流の考えを取り入れた学説を勉強するための必須かつ優秀な文献である。三冊で、一応基本的考えから演習まで揃っている。


とはいえ、司法試験受験生の中には、三段階審査を取り入れるまでの決心がつかないとか芦部憲法をベースに勉強したいが、新しい考え方がどういうものかを知りたいといった需要もあるだろう。


更に、三段階審査の世界に飛び込んだものの、疑問が浮かんでくるけれど、どうやって解消すればいいのかわからないという人もいるだろう。


2.「憲法論点教室」
ここで、このような問題意識を抱えている人のための「副読本」としてオススメなのが、「憲法論点教室」である。


本書は、法科大学院の准教授をされている方を中心とした若手研究者*3法科大学院生等からされる「よくある質問」に答えようとした企画である。年代が近いので、広島市暴走族追放条例事件は「コスプレ・イベント(略)などが規制対象から除外される」といった例が出てくる*4


審査基準とは何か、三段階審査との違いは何か、新司法試験式の当事者主張想定型の問題はどう解くのか、憲法上の主張として検討すべき範囲はどこか...。


等々、法科大学院の授業と自習の成果を元に新司法試験の問題に齧り付こうとして、「歯が立たない」と思った受験生が疑問に思いそうなところが取り上げられている。


例えば、平成22年の問題で「あれ、『憲法上の問題』っていうけど国賠法って書くの?」と疑問に思われた方であれば、「28『憲法上の主張』・『憲法上の問題』が意味することは何か?」が参考になる。出題趣旨や採点実感がこの点に触れることを
要請しているとした上で、

こうした違憲な国家行為と国賠の違法性認定における二分論の思考はー憲法学からの批判もあるようにーまさしく憲法論でもある。

曽我部真裕他「憲法論点教室」205頁

といった形で、出題趣旨や採点実感の「結論」の背景にある憲法学上の議論を解説してくれるのはありがたいのではなかろうか*5

共著なので、論者によって説明の難易度が変わるが、法科大学院生が疑問に思いそうな点について、比較的アクセスしやすい文献を引きながら説明しており、理解を助ける役に立つだろう。


特に、人権論のところでは、芦部説を導入で説明し、そこから、最近の批判がどのようにされているかという形で説明することが多く*6一応芦部憲法は分かったが、そこと最近の議論の関係が分からないという法科大学院生に優しい構成である。


3.本書の特性と望ましい使い方
このように「憲法論点教室」は良い副読本ではあるが、いくつかその特性上の注意点がある。


(1)「普通の法科大学院生」の質問??
本書の「はしがき」によると、あくまでも『普通の』法科大学院生がもう一歩理解を深めるための教材を目指したとある。


もっとも、結構レベルは高い。例えば、

ベースライン論とは何か? 後知恵的な説明以外に答案で使ってよいのか?


(略)


これに対しては、なぜそれを尊重しなければならないのかという説明が不十分だとし、内容形成義務を考えるべきだとする小山剛教授(注13)の批判がある(おそらく(4)の質問者は小山教授に共感を覚えているのでないか
(略)
【13】山野目章夫=小山剛「民法学からの問題提起と憲法学からの応答」法時81巻5号(2009年)12−13頁〔小山剛執筆部分〕


曽我部真裕他「憲法論点教室」134頁


いや、法律時報の「民法学からの問題提起と憲法学からの応答」を熟読して小山説にシンパシーを感じているレベルに至った生徒は「普通の生徒」のレベルではないと思うのですが!?


(2)演習は他の本に任せていること
何度も繰り返しているが、これは「副読本」である。
そこで、抽象的な質問には回答しているが、具体的な議論の適用(そうすると、具体的にこういう事例ではどうなるの?)については書かれていないことが多い。


例えば、平成24年の憲法といえば、政教分離の問題、もう少しいうと、「みんな当然空知太事件判決*7は知ってるよね。でも、空知太が目的・効果基準の判例を引いていることや、その後の白山比咩事件があること等から、最高裁が目的・効果基準を放棄していないことも知ってるよね。じゃあ、本当に空知太事件判決を理解したといえるか、具体的な事例で考えてみよう! *8というものである。


本書は、目的効果基準を使う場合とそうでない場合との使い分けは?」と題して、いわゆる藤田補足意見*9や調査官解説*10についての説明がなされている。その上で、目的効果基準を用いる場合には*1120条3項の問題の場面と、それ以外の場面*12で議論が違い得るという解説もしてくれている。


このような解説がされているという意味では、行間を読める生徒にとっては、本書の解説を読めば、平成24年の問題を解けるようになるだろう。


しかし、行間を読めるレベルに至っているということ自体、合格レベルということである。「普通」の受験生にとっては、更にじゃあ、一見*13純粋な宗教施設の再建のために公共資金を提供するとも見れるが、一回限りの作為行為ともいえる本件の行為はどうなの?*14といった問題意識があるだろう。


仮に規範について自分なりに方向性が決まったとしても、例えば、空知太事件判決の当てはめをする上で、本問のどの要素が具体的に「当該宗教的施設の性格、当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯、当該無償提供の態様、これらに対する一般人の評価」においてプラスないしマイナスに使えるのかというので悩む人もいるだろう。


更に、例えば、目的・効果基準を使うとしても、本書のいう*15「かかわり合いの態様や対象の宗教性の程度などを考えつつも、行為の目的が正当な世俗的目的であるかどうか、その効果が『宗教を援助、助長、促進又は圧迫、干渉等』になるかどうかの判断に力点を置いて、公権力の行為の違法性の有無を認定する」*16といっても、具体的にどうあてはめるのかという悩みを持つ人がいるだろう。


本書は、そのような読者の悩みに答えるため、「演習」として、宍戸「憲法解釈論の応用と展開」等の該当頁が引かれている。


もっとも、具体的な憲法の過去問というレベルの参考文献はない。興味深いことに、同書の出版社である日本評論社から出している法学セミナーの過去問解説は「演習」や「参考文献」として引かれていない。



ここは、「出題趣旨」「ヒアリング」「採点実感」を読む、オフィスアワーにも先生に質問に行く、合格者の添削を受ける、憲法ガールを検討する*17等の努力が必要であり、本書だけで具体的なあてはめまでできるようにはならない点に留意が必要であろう。


3.項目は網羅的ではなく「よく質問される順上位28」であること
確かに、よくある質問はかなり入っているが、網羅性はない。いや、そもそも本書は、よく質問される項目を拾っているのであって、最初から網羅性を目的としていない


例えば、平成24年の予備試験で出題されたような国民審査制はもちろん入っていない*18


芦部憲法の目次*19と照らし合わせると、主な欠落項目としては、思想良心の自由信教の自由プロパー*20学問の自由パブリックフォーラム論を除く表現の自由系全て(知る権利、報道の自由、営利的言論、集会結社等々)参政権教育を受ける権利労働基本権等が挙げられる。


また、内容の深さでいうと、本書が扱っている項目の中でもより深めた疑問であるアメリ憲法学の適用上の訴えと文面上の訴えの区別という議論はどういうものか、この議論と法令審査(違憲)・適用審査(違憲)の議論はどう違うのか?」*21とか、「規制目的が積極・消極いずれかと、損失補償の可否はどのように関係するのか?*22、損失補償の範囲はどう(積極実損、相当因果関係)考えるべきか?*23等についても深めてもらいたかった。


その意味で、この本を1冊潰せば主な論点を十分に深めたことになるとまでは言えないので、あくまでも本書を「副読本」的に使うことが望ましい。


なお、コンセプトは正しいと思うので、ぜひ、補訂版を作成していただき、もう少し扱う範囲と深さを広げていただきたいと思う。

まとめ
三段階審査の三冊を読んで問題なく理解できたという人には本書は不要かもしれない。
しかし、まだ三段階審査に完全に移る踏ん切りはついていないが最新の議論を理解したいとか、三段階審査の本を読んで大体分かって来たが、疑問が残っているという人にとっては、「憲法論点教室」を副読本とするのがいいだろう。
ただし、演習による補充が必要なこと、網羅性等については期待できないことに気をつけるべきである。

*1:といいながらも、規範がいい加減な上、今主流の、判例を「はしご」に、判例の事案(例えば10年以上前に国会で審議・廃案)と問題文の事案(例えば7年前に官庁への請願)を比較してあてはめるなんていう技法は誰もやっていなかった。

*2:実は、後述の3冊は、芦部憲法の考え方を完全に捨てているのではなく、いわば「再構築」したとも言い得ることに注意が必要

*3:長谷部教授が「ご本尊」(134頁)等と呼ばれていることからも、著者の年代が推測される。

*4:曽我部真裕他「憲法論点教室」63頁

*5:同様に、「27 当事者主張想定型の問題について」も、「主張できそうなものは全部主張するということでよいか?」「単純に審査基準を変えればいいのか?」といった司法試験の問題に齧り付いてく苦戦している人の聞きたい質問への回答が示されており、有益だろう。

*6:人権の享有主体性、平等、パブリック・フォーラム論その他

*7:「当該宗教的施設の性格、当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯、当該無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断」という規範を立てた。最判平成22年1月20日民集64巻1号1頁

*8:もちろん、いろんな理解をする人がいるから、結論はともかく、理由付けが大事だよね!

*9:純粋な宗教施設・行事の便宜のために公有地を提供する行為はまさに憲法89条前段が禁止しようとする中核部分に該当するがゆえ、目的効果基準の適用の可否が問われる以前の問題である

*10:問題とされているのが、従来のような1回限りの作為的行為か、極めて長期にわたる不作為的側面も有する継続的行為であるか

*11:地方公共団体等が宗教っぽい活動を行ったんじゃないの?という

*12:特権付与等

*13:もちろん、「いやいや、純粋な宗教施設ではなくて、世俗的要素たっぷりっすよ」という反論の余地は大きい訳ですが。

*14:当然、3つの種類があるので、これらの種類毎に存在する特殊性に配慮しないと点がつかない訳ですが。

*15:憲法20条3項の検討で考えるような考慮要素を使って

*16:曽我部真裕他「憲法論点教室」120頁

*17:憲法24年については、http://d.hatena.ne.jp/tower-of-babel/20120526/1338002115http://d.hatena.ne.jp/tower-of-babel/20120526/1338054111

*18:統治は、憲法訴訟論を除くと、法律の概念、権力分立論、条例との関係くらいしか入っていない。

*19:つまり、伝統的に重要と考えられてきた分野ということ。「消極的表現の自由」「政府言論」等は当然ない。

*20:政教分離以外

*21:参考になるものとして、青井未帆「憲法判断の対象と範囲について」(http://www.seijo-law.jp/pdf_slr/SLR-079-182.pdf)がある。

*22:平成18年過去問参照。

*23:平成18年過去問でいうと「逸失利益」と「回収費用」のどの部分について補償を認めるべきか