アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

この中に1人いる妹と結婚できる!?ー法律的血縁説万歳!?

原作8巻までの重度のネタバレが含まれています。アニメ版は原作4巻相当ですので、アニメ版のみ視聴の方はご注意ください。

1.はじめに
「この中に1人、妹がいる!」は、田口一先生によるライトノベルであり、アニメ化もされた。 「なかいも」と略されることも多い。

主人公は、帝野グループの御曹司の帝野将悟。父親である帝野熊五郎が死亡し、遺言で将来の社長を嘱望される。1年間の特訓の後、私立深流院学園に編入し、そこで「生涯の伴侶となる女性をみつけて結婚する」ことが社長就任の条件となっている。ところが、深流院学園には将悟の異母妹が居るらしく、将悟との結婚を狙っている。いったい、妹は誰なのか!?

と言った感じのストーリーである。


さて、「なかいも」における妹との婚姻の可否について、過日フォロワー様*1からご質問をいただいたので、検討してみたい*2


実は、基本的にはアニメは原作4巻までに対応したストーリーであるところ、その後原作は8巻まで進んでいるので、ストーリーが違っているため、一応両方をカバーする形で論じたい。


なお、本エントリを書いた後、関係の説明が分かりにくいことに気づいた。ちょうど、超スーパーウルトラぱにーに(=゜ω゜)ノ日記様
最近読んだ本 この中に1人、妹がいる! 8 - 超スーパーウルトラぱにーに(=゜ω゜)ノ日記 しまむーのおへや
が、手書きの家系図を書いてらっしゃる(原作8巻段階準拠)ので、こちらの家系図を参照されることを強くお勧めする*3


2.小説版第8話で明らかになった「妹」
(1)認知をすれば結婚できない
まず、分かりやすい小説版の「妹」から。


「ふうちゃん」こと、鶴眞心乃枝は、熊五郎が認知をしていないだけで、戸籍上鷺宮真由希という正しい母親の名前が記載されている*4。その上で、家庭裁判所の許可を得て*5鶴眞夫妻が普通養子縁組という形で「育ての親」となった。


この場合、熊五郎が死亡してからまだ3年経過していないので、心乃枝が認知の訴えを起こせば*6、DNA鑑定等で親子関係を認めてもらい、正式に帝野家の一員となることができる。


ところが、心乃枝としては将悟と結婚したい。ここで、正式に認知されてしまえば、日本法上*7は結婚の余地はない*8

民法734条 直系血族又は3親等以内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない(後略)


ここでいう「3親等以内の傍系血族」というのは、いわゆる兄弟姉妹関係、伯叔父母/姪甥関係のことを示す*9。兄弟姉妹関係にある心乃枝と将悟は、この婚姻障害事由に該当するので、区役所に婚姻届を持っていても、「却下」で終わりだ。(なお、実は個人的にイチオシのヤンデレちゃん、宝生柚璃奈*10は、将悟のはとこ*11なので、結婚は問題がない。)



(2)認知をしなければ戸籍職員は分からない
ところで、実務上、戸籍職員に実質的審査権はない。要するに、二人が婚姻届を出しに来た場合、戸籍上から婚姻障害事由が明らかであれば、却下されてしまうが、戸籍からわからない事情を元に、例えばあれ、お二人なんか顔が似ていませんか? もしかして認知されていないけど異母兄妹だったりします?といった審査をすることはないのである。

実質的に近親婚禁止に抵触する者の婚姻届も、その親族関係が戸籍に表示されていないかぎり、たといその事実が顕著であっても、実質審査権を有しない戸籍事務担当者は届出の受理を拒否できないであろう。
青山道夫・有泉亨「新版注釈民法(21)」220頁


とはいえ、一度受理されても、婚姻の取消しという制度がある。

民法第744条  第七百三十一条から第七百三十六条までの規定に違反した婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、検察官は、当事者の一方が死亡した後は、これを請求することができない。


心乃枝と将悟が結婚することを快く思っていない帝野鹿野子*12が、734条違反を理由に取消を請求する可能性がある。


取消しを請求されたら、二人の婚姻は取消されるのか!?


(3)自然血縁説vs.法律的血縁説
ここで、この点については、古来より2つの見解が対立してきた*13


1つは、生物学的に関係があったらダメなものはダメ!という見解であり、これを自然血縁説という。結局、近親婚の禁止は(1)遺伝病等の可能性を減らすという優生学的配慮と、(2)性愛の秩序と親子の秩序を混同してはいけないという根拠があるところ*14生物学的血縁関係がある以上この根拠はあてはまるのであって、認知により法律上兄弟姉妹関係が生じているかは関係はないという議論である。


これに対し、もう1つの法律的血縁説は、ドグマ的にいえば、「認知」があってはじめて*15父子関係が成立するところ*16、認知前には*17兄弟姉妹関係はそもそも存在しないと議論する。そこで、認知がされない限り、生物学的兄弟姉妹間の婚姻も法律上有効に成立するのである。


もちろん、本件でいうと、 心乃枝と将悟の結婚が有効であるというのが法律的血縁説、取消しされるというのが自然血縁説である。


ここでは、どちらの見解を採用するべきか。判例はない*18ので、学説の集大成であるコンメンタール。「注釈民法」の見解を紹介したい。

親子間の婚姻禁止は、優生学的考量を一応除外すれば、親子関係とその間の婚姻関係の両立を認めることが家族秩序ひいては社会秩序の基礎を破壊するところに存在理由がある。たとえ、自然的血縁関係が存在するにしても、法律上の父子関係が存在しなければ、婚姻取消により守るべき親子秩序も存在しないということになろう。現行法の解釈としては、結局、法律的血縁説によらざるをえないと思われる
青山道夫・有泉亨「新版注釈民法(21)」216頁


このように考えれば、心乃枝と将悟の結婚は有効であり、取消し得ない*19



3.アニメ版の妹
さて、アニメ版の「妹」である神凪雅であるが、雅が妹の場合、いわゆる「藁の上からの養子」である。
要するに、戸籍上は、神凪一馬が父親と記載されているが、これが虚偽の可能性があるということである。


ここで、神凪一馬が前妻と婚姻中に雅が出生していると、特に、「嫡出否認」という制度の関係でも問題が生じる。


この点は、「コクリコ坂から」について、

コクリコ坂で学ぶ家族法〜婚姻障害とその除去 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

において論じているので参照されたいが、簡単に言えば、「本来は神凪一馬の娘であるという点は、神凪一馬が雅の出生を知ってから1年経過後は争えなくなる(有効に確定する)はずである。しかしながら、全くの他人である、帝野熊五郎の子をもらいうけて『自分の子』として届け出た場合には、このような届け出は無効であり、神凪一馬の子とはみなされない*20ということである。


さて、そうすると、法律的血縁説からは、現時点において(裁判を通じて確定する前の段階で)、どのような血縁関係とみなされるのかが重要である。


ここで、 神凪一馬の子でないことは、親子関係不存在確認の訴えで確認できるし、帝野熊五郎の不倫相手(生みの母)の子であることは、親子関係存在確認の訴えで確認できる*21。これらの点は、明白な誤りを正すとか、既に出産によって生じた事実を確認するということであり、これら親子関係存否確認の訴えという手続を利用するまでもない*22


問題は、熊五郎との関係だが、最判平成2年7月19日家月43巻4号33頁は、嫡出外の父子関係は認知の訴えのみで解決すべきであり、親子関係存在確認の訴えは利用できないとした。要するに、認知の判決が出るまでは、法律的には熊五郎の子ではないということである。


そこで、法律的には、「生みの母親の娘であり、神凪一馬を父親とする戸籍上の記載はおかしいが、認知されるまで父親は熊五郎とはいえない」となる。


そうすると、*23熊五郎との法律上の血縁関係にはないので、法律的血縁説を取る限り、雅と将悟の結婚も有効となる。

まとめ
法律的血縁説によれば、異父兄妹は婚姻できない*24が、異母兄妹は、認知されていなければ結婚できる
もちろん、道徳的・社会的な問題*25はあるが、法律的にいうと、「この中に1人いる妹とも結婚できる!」のだ。

*1:@Regnifalsus様

*2:大分遅くなりました

*3:実際、弁護士業務において、親族相続がからむ問題は、家系図を書いて研究するのが筋だという話を聞いたこともある。

*4:いわゆる「藁の上からの養子」ではない。

*5:民法798条

*6:民法797条

*7:スエーデン法については、拙著「アニメキャラが行列を作る法律相談所」の中で触れたので参照されたい。

*8:なお、民法734条が「両性の合意のみ」を結婚の要件とする憲法24条違反という議論はできなくもないですが、なかなか辛いところ。

*9:http://d.hatena.ne.jp/ronnor/20110820/1313832156

*10:檀埜那百合

*11:6親等

*12:親族

*13:青山道夫・有泉亨「新版注釈民法(21)」215頁以下参照。但し、ここでは「自分の娘(非嫡出子)を妻にできるか」という文脈であり、現代のアニオタの興味の対象である「兄弟姉妹間の結婚の可否」とはやや視点が違うことに留意が必要である。

*14:青山道夫・有泉亨「新版注釈民法(21)」212頁

*15:婚姻外の

*16:民法784条参照

*17:父子関係を前提とする

*18:もし判例をご存知の方はご教示いただきたい。

*19:遺産相続面でも、心乃枝が認知を受けるよりは、将悟と結婚してその財産を共有した方が得だ。

*20:のが原則

*21:二宮周平「認知制度は誰のためにあるのか」立命館法学310号304〜305頁

*22:橋本他「実務家族法講義(第2版)」167頁は、他の請求を判断する前提として、親子関係の存否を確認することもできるとしている。

*23:認知の訴えを経ない限り

*24:出産という事実により母子関係が確定

*25:要するに、社長となるにあたって、生物学的な異母妹と結婚することが社会からどうみられるか。