アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

刑訴ガール第2話〜喫茶店での作戦会議〜平成24年設問2

和光だより 刑事弁護教官奮闘記

和光だより 刑事弁護教官奮闘記

ありがたいことに、刑訴ガール第1話を多くの方にとりあげて頂いた。ここで、尊敬するバベル先生が

と、憲法ガールは1話をわずか3、4時間で書き、しかも、1ヶ月で完結させたという驚愕のツイートをされていた。既に、平成18年から平成24年まで新司刑訴過去問の検討自体は済ませており、あとは「書くだけ」の段階である。本当に3、4時間で書けるのかなぁ、と思って書き始めたところ、実際には2倍以上かかってしまい、自分の実力不足を痛感させられたところである。


追記:野田先生をはじめとする皆様にアドバイスを頂き、改訂をさせていただいた。なお、斎藤司先生のレジュメが優れており、私のつたない説明よりも、これを読んだ方がずっと分かり易いかもしれないことにご留意下さい*1


注:以下は、司法試験刑事訴訟法を題材に、架空の法科大学院を舞台としたフィクションです。法科大学院に行っても、刑訴ガールはいません。



2.刑訴ガール第2話〜喫茶店での作戦会議〜平成24年設問2
法科大学院の授業は、予習→出席→復習の繰り返しだ。しかも、「授業と受験の距離」が遠い科目も少なくないから、迫り来る司法試験に向けてきちんと受験対策もしなければいけない。だから、朝から晩まで自習室に籠って勉強することになる。


窓辺の席に座り、明日の刑訴の授業に向けて、指定された判例を読む。その合間に、一瞬外の景色を見ると...あれ? 何かおかしい。今度は、窓を直視する。そこには...。


さあ、助手一号、弁護団会議よ、下りて来なさい!


と怒鳴りつけるひまわりちゃんの姿が。って、ここ4階なんですけど、スカート姿でどうやって登ったんだろう...*2



僕の通うロースクールの近くには、個人経営の喫茶店がいくつかあって、美味しいコーヒーやケーキを出してくれる。法科大学院棟を出ると、ひまわりちゃんは、僕の手を引っ張って、喫茶店に向けてズンズン歩き出す。僕たちを凝視する他の人の目線が痛い...。制服姿の女子高生が、10近くも年が離れたさえない大学院生を引っ張ってるのだから、そりゃあ変な意味で注目されるわな*3


「はいそこ、文句言わない!」思わず心の声が外に漏れたらしく、ひまわりちゃんの叱咤の声が響く。


茶店で、僕は、コーヒーにティラミスを頼む。ここのティラミスは、あまり甘くないのがいい。ひまわりちゃんは、苺のショートケーキに、格好つけてコーヒーを頼んだけど、苦いものが苦手らしく、ドボドボとミルクと砂糖を入れてる。だったら、最初からカフェオレを頼めばいいのに


覚せい剤密売の件、覚えているわよね。」唐突に切り出す、ひまわりちゃん。


それはもちろん。


「ついさっき、判決が出たんだけど、懲役6年、罰金150万円になったわ。」と、できたてほやほやの判決書を広げる。

平成23年12月8日宣告
平成23年(特わ)第◯◯◯◯号
判決


主文
被告人を懲役6年及び罰金150万円に処する。
未決勾留日数中10日*4をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5,000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
H地方検察庁で保管中の覚せい剤2袋(平成23年領第○号符号1及び平成23年領第×号符号1)を没収する。


理由
(犯罪事実)
被告人は
第1 丙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成23年10月5日,H県I市J町○丁目△番地T株式会社社長室において,覚せい剤で ある塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し
第2 丙及び乙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,同日,同所において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末200グラムを所持し
たものである。
(以下略)*5


それは長いのか、短いのか...。


「6年という数字だけを見ると長そうだけど、比較的軽い刑よ*6。そもそも、自己使用目的ではなく営利目的で、所持していた300グラムという量も多かったから、ある程度の刑になるのはやむを得ないわね。そして、違法捜査の主張が難しいってことになったので、公訴事実を認めて情状を徹底的に争ったわ。」


自白事件は、争いがない事件だと思っていたけど...。


「ある弁護人の先生は『自白事件は情状に関する否認事件』とおっしゃっていたわ。情状についてまで検察側と意見が一致することはほとんどないし、示談や再就職先の存在といった良情状は、弁護活動によって作り上げるもの。今回の情状弁護のポイントは、どこにあると思う?」


甲が、丙の指示に従うだけの従属的な存在だった、ということ。

「そうそう、そこに帰着するわね。覚せい剤密売を含む営利目的の犯罪は、ヒト・モノ・カネ、つまり、共犯関係、覚せい剤等の対象物の流通経路、そして収益の行方がポイントになるわ。甲らが、自ら客を探して誰に売るかを決めているから、流石に営利性自体を争うのは難しい。でも、営利行為への関与度合いが低いということはいえるわよね。丙が適切と思う量の覚せい剤を甲らに10日だけ「貸し」、10日が経過すると有無を言わせず丙に戻させているわ。だから、甲は、仕入れについての決定権がなく、覚せい剤の管理について実質的な役割を果たしていない。また、価格は丙の指示する価格でしか売ってはいけず、甲らには価格決定権がなかった。そして、アジトや電話回線の維持や、受け渡しや電話番をする仲間への報酬*7等、多くの費用がかかるところ、その費用を含む販売手数料として得られたのは売上のたった10%に過ぎず、これでは費用を賄うのがやっとで、残り90%を丙に送金しないといけないことから、結局利益のほとんどは丙が持って行ってしまっていたということが大事ね*8。こういう事実を、宅配伝票や銀行口座のお金の動き等の客観証拠から立証したわ。」


なるほど、こうやって弁護をするのか。


「裁判所は、概ね弁護側のケースセオリーどおりの認定をしてくれたんだけど、ポイントはこれから、控訴をするかどうかね。もう少し詳しく経緯を説明するから、ちょっと考えてみなさい!」

4 その後,司法警察員Kら及び事件の送致を受けたH地方検察庁検察官Pが所要の捜査を行った。 甲及び乙は,事実関係を認め,密売をするために覚せい剤をT株式会社社長室で所持していたこと,甲宛ての覚せい剤は甲1人で密売するためのもの,乙宛ての覚せい剤は甲と乙が2人で密売するためのものであることなどを述べた。一方で,甲及び乙は,各覚せい剤について,密売組織の元締である丙から送られたもので,10日間の期限内に売り切れなかった分は丙に送り返さなければならなかったこと,覚せい剤の売上金は,その9割を丙に送金しなければならず,自分たちの取り分は合わせて1割だけであったことなどを述べた。また,甲宛ての宅配便荷物内に入っていた覚せい剤は100グラム,乙宛ての宅配便荷物内に入っていた覚せい剤は200グラムであった。 同月26日,検察官Pは,甲について,営利の目的で,単独で,覚せい剤100グラムを所持した事実(公訴事実の第1事実),及び,営利の目的で,乙と共謀して,覚せい剤200グラムを所持した事実(公訴事実の第2事実)で,H地方裁判所に起訴した(甲に対する公訴事実は【資料1】のとおり)。また,検察官Pは,乙についても,営利の目的で,甲と共謀して,覚せい剤200グラムを所持した事実で,H地方裁判所に起訴し,甲及び乙は,別々に審理されることとなった。なお,検察官Pは,甲及び乙を起訴するに当たり,両名について,丙との間の共謀の成否を念 頭に置いて捜査し,丙が実在する人物であることは確認できたものの,最終的には,丙及びその周辺者が所在不明であり,これらの者に対する取調べを実施できなかったことなどから,甲及び 乙と,丙との間の共謀については立証できないと判断した。


5 同年11月24日に開かれた甲に対する第1回公判期日で,甲及びその弁護人Bは,被告事件についての陳述において,公訴事実記載の客観的事実自体はこれを認めたが,弁護人Bは,覚せい剤は,密売組織の元締である丙の手足として,その支配下で甲らが販売を行うことになってい たもので,公訴事実の第1事実及び第2事実いずれについても,丙との共謀が成立することを主張し,その旨の事実を認定すべきであるとの意見を述べた。引き続き,検察官Pは冒頭陳述を行い,甲らが丙から覚せい剤を宅配便荷物により交付されたことについて言及したものの,それ以上,甲らと丙との関係には言及しなかった。


証拠調べの結果,裁判所は,公訴事実について,
1甲らが,営利の目的で,同日同所において,各分量の覚せい剤を所持した事実自体は認められる,
2各覚せい剤の所持が,丙との共謀に基づくものである可能性はあるものの,共謀の存否はいずれとも確定できない,
3仮に甲らと丙との間に共謀があるとした場合,甲らは従属的立場にあることになるから,甲らと丙との間に共謀がない場合よりは犯情が軽くなる,と考えた。


論告・弁論を経て,裁判所は,同年12月8日に開かれた公判期日において,【資料1】の公訴事実に対し,格別の手続的な手当てを講じないまま,弁護人Bの主張どおり,【資料2】の罪 となるべき事実を認定し,甲に有罪判決を宣告した。


【資料1】
被告人は
第1 営利の目的で,みだりに,平成23年10月5日,H県I市J町 ○丁目△番地T株式会社社長室において,覚せい剤である塩酸フェ ニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し
第2 (以下,省略)
たものである。


【資料2】
被告人は
第1 丙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成23年10月5日,H県I市J町○丁目△番地T株式会社社長室において,覚せい剤で ある塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し

第2 (以下,省略)
たものである。


司法試験平成24年刑事系*9


う〜ん、刑が量刑相場から見て、特に重くないということなら、被告人の強い希望でもない限り、控訴する必要はないのかなぁ。


「あらあら、まさか、この判決が適法だと思っていて?」隣の席に、いつのまにか白いフリフリのドレスを着たリサさんが座っていた。ロイヤルミルクティーを優雅に飲み干すと、ふふっと、微笑む。食べているのはフルーツタルトだろうか。



「何見とれてるのよ! 控訴をするのかしないのか、理由を付けて述べなさい!」ひまわりちゃん、リサさんがいるとなると急に焦り出す。なぜなのだろう。


う〜ん、控訴理由があって、原判決を破棄(397条1項)してくれるなら控訴する意味があるってことだから、控訴理由を探すってことかな。


「考え方の枠組みは分かったけど、具体的に原判決のどの点が問題なのよ?」


う〜んと...。問題点がパッと思いつかない。


「あらあら、こういう時は、公訴事実と認定事実を比較してみれば、そこにヒントがあるわ。公訴事実は何かしら。」


被告人は
第1 営利の目的で,みだりに,平成23年10月5日,H県I市J町○丁目△番地T株式会社社長室において,覚せい剤で ある塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し
第2 乙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,同日,同所において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末200グラムを所持し
たものである。


「それでは、認定事実はどうなっていて?」


被告人は
第1 丙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成23年10月5日,H県I市J町○丁目△番地T株式会社社長室において,覚せい剤で ある塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し
第2 丙及び乙と共謀の上,営利の目的で,みだりに,同日,同所において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末200グラムを所持し
たものである。

そうか!*10



「そのとおりよ。公訴事実になかった丙との共謀が付け加わっているという問題ね。」うふふ、と笑うリサさんに、思わず見とれてしまう。



「リサさん、ヒントあげ過ぎよ。もう少し自分で考えさせなさい! ひまわりはリサさんと違ってスパルタで行くわよ!丙との共謀を付け加えたというのは、何の問題? 」


う〜んと、罪となるべき事実の認定の問題かなぁ。


「そういう捉え方もできるわね。裁判所は、どういう場合に有罪判決を下せるの?」


被告事件について犯罪の証明があったとき(333条1項)


「今回、裁判所は『各覚せい剤の所持が,丙との共謀に基づくものである可能性はあるものの,共謀の存否はいずれとも確定できない』という心証に至ったんだけど、その意味は?」


甲の犯行が丙との共謀に基づくのか否かについて、合理的疑いを容れない証明がなされていないということ。



「そう、「罪となるべき事実」の記載は、その事実が特定の構成要件に該当することを判定するに足りる程度に具体的に記載しなければならない*11ところ、共謀共同正犯の『共謀』は、厳格な証明の対象*12なのだけど、共謀の存否につき、合理的疑いを容れない証明がなされていない場合に、裁判所は、どういう判決を下すの? あんたが裁判官だったらどうするのよ?」



そんなことを言われても...。甲の単独犯かもしれないし、甲と丙の共謀共同正犯かもしれないんだよなぁ...。



「あらあら、単独か共犯か分からないからといっても、少なくとも『甲らが,営利の目的で,同日同所において,各分量の覚せい剤を所持した事実自体は認められる』のだから、無罪という結論はありえないわよね*13。そうすると、裁判官にとって取れる選択肢は、(1)『単独で又は丙と共謀の上』という形で択一的認定をする(例えば東京高判平成4年10月14日高刑集45巻3号66頁)、(2)『疑わしきは被告人の利益に』の原則(利益原則)に従い、被告人に有利な方(単独犯or共謀共同正犯)について(一義的に)認定する(例えば札幌高判平成5年10月26日判タ865号291頁)、そして、(3)共謀の事実が証明されていない以上、これを認定できないしその必要もないとして単独犯(実行正犯)として(一義的に)認定する(例えば東京高判平成10年6月8日判タ987号301頁)という3つの選択肢がありそうね。この3つのうち、どれが良さそうに見えて?」


う〜ん、どれも良さそうに見えて迷ってしまうなぁ...。



「迷ってばかりいるからダメなのよ。ガツンと選んじゃいなさいよ!」


「あらあら、焦らせても、選ばれるのがひまわりさんの意図する方とは限らなくてよ。」うふふと笑うリサさんの視線が、ひまわりちゃんの目を鋭く射抜く。


それ、ど、どういう意味よ?」落ち着かないひまわりちゃん。


「あらあら、言葉通りの意味よ。」うふふ、と笑うリサさん。


「ま、まあいいわ。原判決はどういう判断をしている訳?」なんか、ひまわりちゃんの機嫌が悪そうなのは、どうしてなのだろうか


裁判所は、共謀共同正犯と認定しているから、2番目の見解に立ち、『仮に甲らと丙との間に共謀があるとした場合,甲らは従属的立場にあることになるから,甲らと丙との間に共謀がない場合よりは犯情が軽くなる』という観点から、利益原則により被告人に有利な共謀共同正犯について一義的に認定したってことか。


「じゃあ、この判断は、正しい判断だったの? それとも間違った判断だったの?」


う〜ん...。



「あらあら、この点そのものではないけれど、参考になる最高裁の先例があるところよ。共謀共同正犯にはいろいろな類型がある*14けれど、本件のように、被告人が実行行為の全部を一人で行っていて、被告人の行為だけで犯罪構成要件のすべてを満たしている場合には、他に共謀者が存在するのかどうかは犯罪の成否を左右しないわよね*15。だから、たとえ証拠上、共謀共同正犯であることが(合理的な疑いを容れない程度に)証明できた場合であっても、共謀共同正犯の存否を認定する必要はなく、検察官の設定した訴因どおり単独犯として認定することが許されるとされたわ(最決平成21年7月21日刑集63巻6号762頁)*16。有力な学説は、この先例を前提に、3番目の見解をとっているわね。つまり、訴追裁量を有する検察官が単独犯として起訴しており、そのとおり認定できる以上、罪責の認定としては単独犯として認定すべきとするわ*17。」


でも、そうすると、せっかくひまわりちゃんが頑張って共謀を主張・立証したのにそれが無意味になるのでは。


「何いってんの! 共謀を認定しない限り丙の存在を甲に有利な情状として考慮することは許されないなんてことある訳ないじゃない。共謀は量刑事情として考慮すればいいのよ*18。」



そうすると、原判決は単独犯として「罪となるべき事実」を認定すべきところを、共謀共同正犯として丙との共謀を加えた事実認定をした点に、「事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らか(382条)」として、控訴理由があるということか。



「まあ、いいわね。でも、もう1つ控訴理由が考えられるわよ。判決に至る訴訟手続という観点ではどうなの?」


訴訟手続ってことは、何か手続上すべきことをしなかったり、してはならないことをしたってことかなぁ...。


「裁判所は、札幌高裁と同じ、2番目の見解を取って、利益原則の観点から、共謀を認めるという心証を固めた訳よね。その当否自体については既に検討したところだけど、もし共謀を認めたいなら、裁判所としてやるべきことがあったのではなくて?」



う〜んと、訴因変更かな。


「そう。訴因変更の問題には、大きく訴因変更の可否、訴因変更の要否、訴因変更命令等があるけど、そのうちどの問題になるの。」


えっと、確か、可否というのは、検察官が訴因を変更しよう*19と思った場合に、それが「できるか」「していいか」という問題で、確か公訴事実の同一性を害しない限度で許される(312条1項)のだった*20。そして、要否というのは、どういう場合に訴因を変更する必要があるか、つまり、訴因と(何らかの)違いがある事実を認定する場合に、訴因変更という正式な手続を経る必要があるのか、経ずにそのままの訴因で、違う事実を認定しちゃっていいのかという問題だった*21。そうすると、今回は、訴因変更手続を経なかった事案だから、手続上訴因変更をしないでもよかったのかという「要否」の問題か。


「まあいいでしょう。訴因変更をしないでいい場合は何?」


えっと、確か、抽象的防御説と、具体的防御説が対立していて、最高裁は審判対象画定説を取ったと言われていて...。



「あらあら、抽象的なキーワードだけで議論しても、具体的な事案を解決できるようにはならないわよ。きちんとそれぞれの概念がどういうものなのかを具体的に理解しないといけないわね。刑事裁判の審判の対象は訴因だと言われているところ、訴因は、裁判所が他の犯罪事実と区別できるよう審判対象を明確にし(識別機能)、被告人・弁護人の防御の対象を明確にする(防御機能)ことで、被告人・弁護人に防御のターゲットを把握させるという2つの機能を営んでいるわね*22。そうすると、確かに、当初の起訴状に記載された訴因と、証明された事実との間で齟齬が生じれば、審判対象の観点からも、防御機能の観点からも一般的には訴因変更が必要ということになりそうよね。だけど、どんな些細なズレがあっても訴因変更手続を経ないといけないのは煩瑣だと思わなくって。だから、当初の訴因と『実質的に異なる事実』が認定されるなら、訴因変更が必要と一般に解されているわ*23。」



ここまで、抽象的防御説という言葉も、具体的防御説という言葉も全く出てこないのだけど、それでいいのだろうか。



「あらあら、学説の貼ったラベルを暗記することよりも、学説がラベルを貼ろうとしている対象が何かを理解する方が重要ではなくて。どういう場合が『実質的に異なる事実』なのかについて、具体的な防御状況を考慮して判断しようという見解は、一般に具体的防御説と呼ばれていて、具体的な防御状況を考慮せずに一般的・類型的な防御への不利益を考えて判断しようという見解は、一般に抽象的防御説と呼ばれていているわ*24。」


なるほど、そうすると、最高裁の見解はどう考えるといいのだろう。


「最決平成13年4月11日刑集55巻3号127頁は、第三者と共同で犯罪を行ったが、実行したのは被告人だという訴因であったところ、裁判所が、実行犯は被告人かもしれないし、共犯者かもしれないし、その両名かもしれないという事実を認定した事案で、こういう判断を示したわ。」

訴因と認定事実とを対比すると、前記のとおり、犯行の態様と結果に実質的な差異がない上、共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく、そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。そもそも、殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから、訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ、実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。
最決平成13年4月11日刑集55巻3号127頁

「ちょっと、待ちなさいよ!二人だけで進めないの! こいつは、ひまわりの助手なんだから、質問していいのはひまわりちゃんだけなの! 平成13年最決は、訴因と認定事実が異なる場合を大きく2つに類型化してるけど、何と何?」


それが明示されていないと「訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠ける」ような、審判対象画定の見地から訴因変更を必要する事実と、そうでない事実。


「訴因には、識別機能、つまり審判対象を画定する機能があるから、識別機能の観点から、審判対象画定に必要な事項が変動する場合(第1類型)には、訴因変更が必要*25。そういう事実じゃない場合(第2類型)に、訴因変更が必要とされるのは、被告人の防御にとって重要で、かつ、検察官が訴因において明示した事項の場合。そして、仮に被告人の防御にとって重要で、かつ、検察官が訴因において明示した事項の場合であっても、被告人の防御の具体的な状況等審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものでなく、かつ、判決で認定される事実が訴因と比べて被告人にとって不利と言えなければ、訴因変更は不要になるわ*26。」



第1類型 審判対象画定に必要な事項が変動する場合常に訴因変更が必要
第2類型 審判対象画定に必要な事項が変動しない場合 原則:被告人の防御にとって重要で、かつ、検察官が訴因において明示した事項が変動する場合に訴因変更が必要
例外:上記の場合でも、被告人の防御の具体的な状況等審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものでなく、かつ、判決で認定される事実が訴因と比べて被告人にとって不利と言えなければ、訴因変更は不要



「あらあら、抽象的規範を並べるだけではなく、その意味を具体的に説明しないと、わかりにくいのではなくて。例えば、平成13年最決は、この事案において誰が実行犯なのかという事実は、審判対象画定に必要な事項ではないから、第2類型だとした上で、検察官が訴因において実行行為者を明示したことから、実行行為者が誰かという問題は被告人の防御にとって重要で、かつ、検察官が訴因において明示した事項が変動する場合に該当するとしたわ。そうすると、原則的には訴因変更が必要なんだけど、具体的な事案では、被告人の方が、自分が実行行為者ではないと主張していて、誰が実行行為者か明示しない判決はこの被告人の主張を一部受け容れたものなのだから、被告人に不意打ちを与えるものでなく、かつ、判決で認定される事実が訴因と比べて被告人にとって不利と言えないという例外に該当し、訴因変更は不要としたのね。」



なるほど。そういう事案なんだ。でも、本件とはかなり違っている気が。


「あらあら、いいことに気づいたわね*27共謀が厳格な証明の対象となる、『罪となるべき事実』だとすると、平成13年最決の枠組みから、本件の帰結はどうなって?」


本件は、単独犯と共同正犯とでは、そもそも構成要件が異なるところ、共謀はそれを画すものである*28し、平成13年最決も「共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく」と、共謀した共犯者の範囲が変われば第1類型になる可能性を示唆している。これらに鑑みれば、第1類型ということができるだろう。審判対象画定に必要な事項である共謀を(利益原則の観点からであっても)認定する以上は、(少なくとも)訴因変更の手続を経よ、こういうことか*29



「あんたの考えだと、訴因変更の手続を経なかったこと自体が違法だってことになっちゃわない? そもそも訴因変更は、検察官が申し出るものよ*30。」


そうか、訴因変更命令(312条2項)か! 訴因を心証に合わせろと命令をする訳か。確かに、検察官に訴因変更を命じて、心証どおりの訴因に変更させれば、この問題はなくなるなぁ。


「あらあら、実務的には、訴因変更命令は、あまり使われていないわね。まずは、求釈明(規則208条)によって事実上訴因変更を促すことになるわね。訴因変更命令に形成効はない*31のだから、検察が頑として訴因を変更しないのなら、裁判所としては、原則通り、罪となるべき事実において、甲の単独犯として認定することになりそうね。」



そうすると、求釈明(規則208条)等で訴因変更を促す措置を講じないことが、「訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである(379条)」ということか*32


「もっとも、利益原則は、合理的な疑いが残ったら、ある事実を『認定してはいけない』という規範であり、共謀につき合理的な疑いが残る本件で利益原則を理由に(本来合理的疑いを容れない証明がない限り認定してはいけないはずの)共謀を認めることはできないという見解もあるわね。この考えからは、仮に検察官が共謀共同正犯へと訴因を変更したとしても、共謀について合理的な疑いが残る以上、だからといって共謀を認める判決を下してはならないことに変わりはないということには注意が必要だわ*33。この点は、訴因変更の欠如及び訴因変更を促す措置の欠如という訴訟手続の違法が、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法なのかという、379条の要件と関係するから、もしかすると、379条の要件は満たされないとなるかもしれないわね*34。」うふふっ、と笑うリサさん*35


なるほど、一見簡単そうな事案でも、その裏で検討すべきことは「深い」なあ。


「さて、2つないし1つの控訴理由があるということは分かったけど、これって、どうしても共謀を認定したいなら正しい手続を踏みなさい、踏まないなら、量刑のところだけで考慮しなさいって、ことよね。」



まあ、そうなるわな。



そうすると、もし、原判決の量刑に問題はなかったとすれば、控訴審裁判所としては、原判決を破棄して、同じ刑を言い渡すだけで終わりにならない? 控訴する意味は、あるのかしら?」ニヤリと笑うひまわりちゃんに、小悪魔的な何かを感じる。


う〜ん、もしかして、こんなにいろいろ考えたけど、控訴する意味はやっぱりなかったというオチになるのか?



「あらあら、ひまわりちゃんも意地悪ね。量刑って、慣れないと本刑、例えば『懲役6年』という部分に注目しがちだけど、本刑以外にも重要なものがあるのよ。」


それ以外の重要なもの?


「こんなにヒントもらっても、分かんないの? ほら、ここ。」ひまわりちゃんが指差した先には、判決の

未決勾留日数中10日をその懲役刑に算入する。


との記載があった。なるほど、そういうことか。


「やっと分かったのね。まったく、ニブいんだから。刑事訴訟法495条2項2号は、被告人控訴の場合、原判決が破棄されれば、上訴申立後の未決勾留の日数が全部本刑に算入されるとしているわ。控訴審で争える期間はだんだん短くなっていて、多分数ヶ月くらいにしかならないけれど、その間、無罪を推定される未決収容者として、受刑者よりも多くの自由を享受できるわ。未決勾留期間全部が本刑に算入されるという意味は*36その期間を全て『お勤め』したとみなしてもらえるのだから、被告人にとって利益よね。判決を書く裁判官もヒトなのだから、原判決にミスがあることはままあるわ。そして、その場合、ミス是正の手続のため必要な期間の身柄拘束は、被告人に不利益には扱われない。判決をもらったり、控訴審の事件を受任したら刑裁修習でもらった白表紙をひっくり返して、原判決の1項目1項目をミスがないかチェックするのは常識*37。甲さんには、控訴審の期間に服役を伝える手紙を書いたり、身辺整理をしたりと、ゆっくりと服役の準備をしてもらえそうね。」


今回、僕たちの弁護団は、そういう意味での「勝利」を獲得したことになる。ひまわりちゃんが、珍しく、にこにこと笑ってる。


さあ、控訴趣意書を起案しなさい! 期限は明日朝まで*38。ほら、ちゃっちゃとやる!」ひまわりちゃんの上機嫌そうな声が響く。



いつもは嫌な起案も、今日だけは楽しくできそうな気がする。

まとめ
ということで、平成24年刑訴完結編です。なんとか、「法学ガールシリーズ」の名を汚さぬよう、全力で頑張って行く次第ですので、よろしくお願いします。

*1:http://www.geocities.jp/tsukasaviola/13keisosemi.html

*2:競技上の外壁をよじ登って屋上に故なく侵入したとして建造物侵入罪の成立を認めた福岡高那覇支判平成7年10月26日判タ901号266頁参照

*3:「はい、そうです。ツンデレな女の子にぐいぐい引っ張られるところに萌えを感じるだけじゃダメで、引っ張られる主人公をちゃんと追体験できるような心持ちで 読んだりとか、女の子目線で考えてみるとか、その場におかれたら自分がどう振る舞うかとか、そういう幅があるんじゃないかな、って。」参照http://kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp/entry/2013/06/03/232123

*4:研修所方式

*5:ご指摘を受け、修正しました。ありがとうございます。

*6:参考となる量刑資料として、小森「もう一歩踏み込んだ薬物事件の弁護術」付録CDの東京地判平成20年3月24日は、454グラムの覚せい剤営利所持に、150グラムの大麻鋭利所持、覚せい剤自己使用がついて懲役6年罰金150万円とする。ただし、この事案はかなり軽い量刑であり、たとえば、わずか150グラムあまりの営利所持(+3.7グラムの自己使用分の所持)で懲役6年罰金100万円とした例(横浜地判平成20年3月27日)もあることに留意が必要である。

*7:代表取締役社長の甲以外に数名の従業員が同事務所で働いている」

*8:営利行為への関与度合いに関するファクターと具体的事例については、小森「もう一歩踏み込んだ薬物事件の弁護術」313頁〜316頁が詳しい。

*9:http://www.moj.go.jp/content/000098337.pdf

*10:ご指摘を受け反映させていただきました。

*11:最決昭和24年2月10日刑集3巻2号155頁

*12:最判昭和33年5月28日刑集12巻8号1718頁

*13:本文ではこうあっさりと書いてしまいましたが、ご指摘を受け補足しますと、単独犯と共謀共同正犯が別個の構成要件だとすると、単独犯という認定もできないし共同正犯という認定もできない以上、無罪としなければならないのではないかという問題は残っています。

*14:例えば、本件と異なり、被告人Aは実行行為に関与しておらず、Bと共謀して、Bが実行行為を担当したという場合、まさに「共謀」がAの責任を基礎付ける上で不可欠の要素である。そこで、このような類型では、本件と異なる考慮を行うべきことになるだろう。池田・前田316頁参照。

*15:岩崎邦生「単独犯の訴因で起訴された被告人に共謀共同正犯者が存在するとしても、訴因どおりに犯罪事実を認定することが許されるか」ジュリスト1447号98頁は、「共同正犯の不成立」「が単独犯の成立要件となるのかという実体法上の問題」と「訴因の認定」の問題では、前者が「論理的には先行」するとした上で、「被告人1人の行為により単独犯の犯罪構成要件の全てが満たされた場合には、仮に共同正犯の規定が存在しないとしても単独犯の規定により処罰されるのであるから、共同正犯の規定を適用する要件が満たされた場合であっても、なお単独犯の成立を認めることができると思われる。」とし「問題は」「検察官が単独犯、共同正犯のいずれで起訴するかという、訴追裁量の問題となる(そして、裁量の逸脱とされる事態はあまり想定し難い)としている。

*16:ご指摘を踏まえ若干加筆しました

*17:リークエ446頁。池田・前田316頁参照。

*18:岩崎邦生「単独犯の訴因で起訴された被告人に共謀共同正犯者が存在するとしても、訴因どおりに犯罪事実を認定することが許されるか」ジュリスト1447号99頁も「他の共謀共同正犯者の存在を認定する必要はなく、あとは量刑事情として、その重要性、必要性に応じて、他の関与者の存否やその程度を審理、判断すれば足りることにな」るとする。

*19:または、裁判官が訴因を変更させよう、312条2項参照。

*20:百家争鳴のわかりにくい訴因変更の可否の問題であるが、その中では比較的わかりやすい記述として、緑「刑事訴訟法入門」238頁〜247頁

*21:池田・前田303頁参照

*22:緑「刑事訴訟法入門」180頁。なお、そのどちらを重視するかで見解が分かれている。

*23:緑「刑事訴訟法入門」226頁〜229頁

*24:緑「刑事訴訟法入門」229〜230頁

*25:これが、いわゆる抽象的防御説と同一かについては、古江「事例演習刑事訴訟法」160頁と、緑「刑事訴訟法入門」233頁を参照。

*26:緑「刑事訴訟法入門」232〜233頁

*27:受験生はこの点を看過した方が多かったらしい。採点実感参照http://www.moj.go.jp/content/000105102.pdf

*28:とはいえ、この「構成要件が異なる」というのが、修正された構成要件なのか、まったく別物なのかについては議論があるところである。

*29:ご指摘を受け、加筆・修正いたしました。

*30:312条1項。「検察官の請求があるときは」

*31:最判昭和40年4月28日刑集19巻3号270頁

*32:なお、このように第1類型に該当すると考えると、緑「刑事訴訟法入門」232頁の考え方によれば、正しい手続きをしないまま行った判決は、不告不理原則違反(刑訴378条3号)の絶対的控訴理由に該当することになるだろう。

*33:なお、検察官が共謀を訴因として明示し、かつ、共謀を合理的疑いを容れずに認定できなかった場合に、『単独で又は丙と共謀の上』という択一的認定ができる/すべきという議論も理論上はあり得る(このように考えても、平成13年最決とは事案が異なるから、同最決とは矛盾しないだろう)。しかし、単独犯と共謀共同正犯の間の違いを重視すれば、異なった構成要件に該当する事実の択一的認定であり、両者に関する構成要件該当事実はいずれも証明されていない以上、合成された構成要件を作り出して処罰するに等しく罪刑法定主義違反の疑いがあるとの批判もあるところである。

*34:要するに、「もしXをしていれば、判決Yを適法にできたのだから、Xは判決に影響を及ぼす!」と言おうとしているところ、「Xをしていても、依然として判決Yは違法だ」ということなら、Xをしてもしなくても結果は同じで、Xは判決に影響を及ぼさないのではないかということ。

*35:ご指摘をうけ、若干加筆いたしました

*36:控訴審における

*37:控訴審研修における講師の先生の言葉。

*38:なお、控訴趣意書提出期限は、控訴後に控訴裁判所が控訴趣意書差出期間を指定(通知が届いてから21日以上の定められた期間)するので(376条、規則236条)、実際には、控訴提起期間中に控訴趣意書を起案する必要はない。ただし、控訴理由の検討後、控訴趣意書提出期限までは時間があるので、途中で何を書くべきか忘れないよう、控訴理由検討メモ等を「数ヶ月後の当職」のために作っておくといいだろう。