アホヲタ元法学部生の日常

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刑訴ガール第3話〜絶対に交わらない二本の線〜平成23年設問1

刑事訴訟法入門 (法セミLAW CLASSシリーズ)

刑事訴訟法入門 (法セミLAW CLASSシリーズ)


昨日のうちにできていたのですが、一晩寝かせたところ、ストーリーとタイトルが変わることになりました。それでは、以下、第3話となります。



注:刑訴ガールは、架空の法科大学院を舞台にしたフィクションです。法科大学院に進学しても、刑訴ガールはいません。


それは、研究者教員と実務家教員が共同で教えるオムニバス授業の刑事実務演習の授業だった。今教壇で説明している研究者教員は、我らがロースクールのアイドル教員、ロビン先生。この間博士号を取って准教授として母校に就職したばかりの新人教員だ*1


「刑法198条1項は『検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。』としていますね。これを反対解釈し、逮捕又は勾留されていれば、取調べ要請に対し,出頭を拒み、取調べの途中で退去できないとする取調べ受忍義務肯定論があります。」やや棒読み気味の説明を一息ですると、眼鏡をクイっと上げる。童顔なのを気にして、眼鏡をかけてスーツを着込み、精一杯大人っぽい格好をしているけど、その目論見が全然うまくいっていないのがまたいいんだ、と同クラの鈴木が熱く語っていたのを聞いた事を思い出す。


「しかし、これに反対する学説も有力です。この見解からは、取調受忍義務の肯定は、黙秘権の侵害ではないかと論じられているところです。」滔々と続けるロビン先生。


「そのような学説は、畢竟独自の見解に過ぎず、判例・実務の取るところではない。諸君も最判平成11年3月24日民集53巻3号514頁は知っていると思う*2。」ロビン先生に野太い声で反論したのが、一緒に教壇に立つ、シェイカー先生。検察官として20年以上の経験を持つ、ベテラン客員教授だ。大柄で、背が高く、いかつい顔立ち。暴力係でヤクザの捜査をしていた時には警察官に「どっちがどっちか分からない」と言われたらしいが、それもむべなるかな。


「被疑者の取調べは、捜査手法として極めて有効である。まず、真に犯罪を犯した被疑者は、自白をすることで、初めて反省し、更生への第一歩を踏み出すことができる。しかし、自白をするのは大変辛いことである。だからこそ、我々取調官は、被疑者と心を通わせ、裸の自分をさらけ出して、お互いに信頼関係を形成し、何でも遠慮なく話ができる状況、いわばラポールを作り出すのである。このような信頼関係の下で、被疑者は進んで自白をする。日本には、答弁取引制度*3はないものの、自白事件では、被害者を証人として呼ばなくてよい等、負担の軽減につながり、その意味でも、自白には大きな意味がある。また、仮に被疑者が真実犯罪を犯していないなら、いつどこで何をしていたのかを包み隠さず話して欲しい。警察に命じて裏付け捜査をさせると、被疑者の弁解が本当だったということもある。その場合には、速やかに被疑者の身柄が解放される。もちろん、黙秘権はあるから、無理やり話をさせるということはないが、きちんと本当のことを話すことは、犯罪を犯している被疑者にとってもそうでない被疑者にとっても有益かつ重要であろう。」聞いていて、自然に腕が上がった。



「なんだね、君。」ベテラン検事の視線が突き刺さるが、我慢して立ち上がる。


最近だと、足利事件*4布川事件*5といった再審無罪の冤罪事件がありますが、こういう事件は、捜査機関が自白取得を過度に重視し、取調べ受忍義務を肯定する実務の下で、黙秘権を軽視したから起こったのではないでしょうか。捜査機関がこのようにして取得した自白に対し、裁判所が十分なチェック機能を働かせていないため、悲惨な冤罪事件が発生しているというのが、諸外国と比べて過度に高い日本の有罪率の「コインの裏側」なのではないでしょうか。


「君は、確か既習者だから、法学部で刑事訴訟法を勉強して来たはずだね。」両手を上げ、わざとらしく天を仰ぐシェイカー先生。周りの生徒の視線が辛いが、それでもシェイカー先生の目から、目線を外すつもりはない。


取調べ受忍義務を肯定することは、自白をする義務を肯定するものではない。取調べの場で黙秘をすることは残念なことではあるが、法的に言えば何ら差し支えない、という当たり前のことを、どこの法学部でも教えていてしかるべきはずだが。」わざとらしく、咳払いするシェイカー先生。



「冤罪は確かに重大な不幸であり、避けなければならないが、毎年150万件*6もの事件を扱っていることを考えれば「例外中の例外」に過ぎない。警察では、取調監察官制度を設けて不正な取調べを抑止しようと、自浄作用を働かせている。また、警察と検察という二段階のシステムがあり、万が一警察段階で違法捜査があっても、検察官という、警察官とは異なる準司法官が改めて事情を聴取することで、警察の捜査の違法をチェックできる。制度的に違法捜査や黙秘権侵害が可及的に起こらないよう担保されているのだから、取調べ受忍義務を負わせても、何ら黙秘権等被疑者の権利の侵害にはつながらないことは論を待たない。確立した最高裁判例である取調べ受忍義務を否定する学説は、198条1項但書の文言を曲解しているとしか評しようがなく、黙秘権等の権利に配慮している捜査の現実を看過した、象牙の塔の机上の空論とさえ言える。日本は世界一の人権先進国なのだよ、君。」目の端でロビン先生の顔から血の気が引いたのを捉えた。



「有罪率が高いというのは、検察官が訴追裁量(248条)を適切に行使して、有罪が取れるという確信が持てる場合にだけ起訴しているという意味だ。イギリスのように、ざっくり起訴して多くの人が無罪にというのでは、多くの無辜が刑事手続にかけられる。これは、無実の人に刑事裁判を遂行するという大きい負担を負わせると共に、『被告人』になったというスティグマを負わせるという誤った制度だ。まあ、諸君がロースクールを卒業して得る『法務博士』という学位もスティグマだという説もあるがな*7。」シェイカー先生としては、気の利いた冗談のつもりだったのだろうが、学生は誰も笑わなかった。


「えっと、じ、時間です、皆さん、シェイカー先生に感謝の拍手!」間髪入れず、ロビン先生が動く。パラパラという拍手の音の中、ロビン先生はシェイカー先生の手を引いて、そそくさと教室を去って行く。もうとっくに日は落ち、月が出てきた。クラス関係者の他は、月と、教室の窓に貼り付く少女だけが、この光景を見ていた。





...   ...   ...





...あれ、夢を見ていたのか? 自習室の机の上で、論文のコピーの上で寝ていたら、昔の授業のことを夢で見ていたらしい。入学当初はあんなこともあったけど、自分も丸くなったものだなぁ…。



「あら、絶望論文じゃない。」その声で振り向くと、ひまわりちゃんが、机の上の論文を取り上げていた。平野龍一「現行刑事訴訟法の診断」は、「我が国の刑事訴訟はかなり絶望的である」として、当時の刑事司法システムに対し否定的な診断を下したことで有名だ。


「しかも、『もう一つの診断』*8もある!」ひまわりちゃんの声のトーンがもう1つ高くなる。


この2つは、日本の従来型の刑事司法に対する2つの対立する見方がよく分かる論文だと、ロビン先生が薦めてくれたものだ。


「それで、あんたは、今の刑事司法について、どう診断するのよ?」


そんな高名な学者が真剣に議論していることについて簡単に答えが出せるレベルなら、今、必死こいて刑事訴訟法を勉強する必要はないと思うんだけど…。


「暫定的であっても、何らかのポジションを取る。これが実務家には必要よ。捜査弁護なんて特にそうよね。捜査は流動的で発展性があるのに、被疑者側は捜査情報がほとんど入ってこない。昨日最善だったアドバイスが、今日は最善ではなくなることもある。それでも、アンテナを張り巡らして毎日最善と考えるアドバイスをするのが弁護人の役目よ。」


「あらあら、それなら、まだロースクール生の私にも、診断する資格がありそうね。」今日のリサさんは、スーツ姿で決めている。検事になったら、こんな格好になるのだろうか。



「私は、シェイカー先生程綺麗には割り切れていないけど、日本の司法制度は全体としてはうまく機能していると思うわ。」



「未だに人質司法が続いているし、量刑もどんどん重くなっている。無罪を主張することの負担を考えて、泣く泣く自白に応じている被疑者も多いわ。日本の司法制度は、平野先生の指摘した「絶望」状態が、今日まで続いていて、ある面更に悪化しているわ。事件の被害者の方にだけ寄り添い、冤罪の被害者を見ていないからそういう検察の『綺麗事』が、出てくるのよ。両方に寄り添えないで、何が公益の代表者よ。」


「取調官の方が、一般的に弁護人よりも長く被疑者と話をしているのではなくて。特に国選で自白事件だと、めったに接見に来ない弁護人も多いわよね。検察官は、公益の代表者として、被害者の話だけではなく、被疑者の話に対しても謙虚に耳を傾けていると自負しているわ。また、少なからぬ裁判例は、もし弁護人が黙秘権行使をむやみに勧めず、事実をそのまま説明して弁解を捜査機関に伝えるようにアドバイスしていれば、このような長期の裁判にならずに済んだ等といって、弁護活動を批判しているのではなくて?」


「それは裁判所の余計なお世話よ。自白を強要する捜査機関から無実の被疑者を守ろうと、黙秘権という正当な権利を行使するようにアドバイスすることの何が悪いのよ! 裁判所は、検察官が公益の代表者であることを忘れて、一当事者に成り下がっていることを看過しがちだわ。捜査段階で弁解をしたら、捜査機関に弁解潰しをされるなんて、日常茶飯事なんだから、「最初から弁解してればよかったのに」なんて綺麗事を後づけで言われても、全く説得力はないわ。『取調べる者』と『取り調べられる者』という絶対的な立場の差がある中で、信頼関係だ、ラポールだ。そんなのがあると本気で思っているのは取調官だけよ。笑わせるわ。例えば、警察学校が講義で使っていた*9『被疑者取調べ要領』と言われる資料には、こう書いているわ。」

被疑者取調べ要領
(略)
3 粘りと執念を持って「絶対に落とす」という気迫が必要
調べ官の「絶対に落とす」という、自信と執念に満ちた気迫が必要である
4 調べ室に入ったら自供させるまで出るな
○ 被疑者の言うことが正しいのでないかという疑問を持ったり、調べが行き詰まると逃げたくなるが、その時に調べ室から出たら負けである。
○ お互いに苦しいのであるから、逃げたら絶対ダメである。
5 取調べ中は被疑者から目を離すな
○ 取調べは被疑者の目を見て調べよ。絶対に目を反らすな。
○相手をのんでかかれ、のまれたら負けである。
(略)
12 被疑者は、できる限り調べ室に出せ
○ 自供しないからと言って、留置場から出さなかったらよけい話さない。
どんな被疑者でも話をしている内に読めてくるし、被疑者も打ち解けてくるので出来る限り多く接すること。
○ 否認被疑者は朝から晩まで調べ室に出して調べよ。(被疑者を弱らせる意味もある)
○ 平素から強靱な気力、体力を養っておく必要がある
*10


「身柄拘束を取調べの手段として、なんとしてでも自白を獲得しようという捜査機関の執念が伝わってくるわね。そこには、被疑者の弁解を真摯に聞こうという姿勢はどこにもないわ。虚偽自白に至る心理を研究した浜田寿美男『自白の研究』にも、接見禁止で外界から隔絶される中、無実の被疑者が、『被疑者は犯人だから、自白して反省させるのが被疑者のためになる』と信じている、ある意味善意の捜査官との共同作業で虚偽自白に至る姿が描き出されているわ*11。取調べ受忍義務を負わせる判例・実務は、このような人権侵害の現状の追認と言うしかないわね。」


「あらあら、でも、ひまわりさんのご見解からは、平成11年最判をどう整理すればいいのかしら?」


「平成11年最判なんて、元最高裁判事さえも批判しているようなひどい判決*12よ。捜査機関が信頼に足りるならこの判決の評価も代わり得るけど、捜査機関がどんな違法捜査をしてでも自白を取ろうとしているのは公知の事実よ。私が今やっている案件で説明してあげるわ。」

【事例】
1平成22年5月1日,A女は,H県警察本部刑事部捜査第一課を訪れ,同課所属の司法警察員
Pに,「2か月前のことですが,午後8時ころ,結婚を前提に交際していたBと電話で話していると,Bから『甲が来たから,また,後で連絡する。』と言われて電話を切られたことがありました。甲は,Bの友人です。その3時間後,Bが私の携帯電話にメールを送信してきました。そのメールには,Bが甲及び乙と一緒に,甲の奥さんであるV女の死体を,『一本杉』のすぐ横に埋めたという内容が書かれていました。ちなみに,『一本杉』は,H県I市内にあるJ山の頂上付近にそびえ立っている有名な杉です。また,乙も,Bの友人です。私は,このメールを見て,怖くなったので,思わず,メールを消去しました。その後,私は,このことを警察に伝えるべきかどうか迷いましたが,Bとは結婚するつもりでしたので,結局,警察に伝えることができませんでした。しかし,昨日,Bとも完全に別れましたので,警察に伝えることに踏ん切りがつきました。Bが私にうそをつく理由は全くありません。ですから,Bが私にメールで伝えてきたことは間違いないはずです。よく調べてみてください。」などと言った。その後,司法警察員Pらは,直ちに,前記「一本杉」付近に赴き,その周辺の土を掘り返して死体の有無を確認したところ,女性の死体を発見した。そして,女性の死体と共に埋められていたバッグにV女の運転免許証が在中していたことなどから,女性の死体がV女の死体であることが判明した。
そこで,同月3日,司法警察員Pらは,Bから事情を聞くため,Bが独り暮らしをしているKマンション403号室に赴き,BにH県警察本部への任意同行を求めたところ,Bは,突然,司法警察員Pらを振り切ってKマンションの屋上に駆け上がり逃走を試みたが,同所から転落して死亡した。
2同日,司法警察員Pは,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,前記Kマンション403号室を捜索し,Bのパソコンを差し押さえた。
そして,同日,司法警察員Pは,H県警察本部において,差し押さえたBのパソコンに保存されていたメールの内容を確認したところ,A女とBとの間におけるメールの交信記録しか残っていなかったが,Bが甲及び乙からV女を殺害したことを聞いた状況や甲及び乙と一緒にV女の死体を遺棄した状況等を記載したA女宛てのメールが残っていた。そこで,司法警察員Pは,このメール[メール1]を印刷し,これを添付した捜査報告書【資料1】を作成した。また,司法警察員Pは,直ちに,[メール1]をA女に示したところ,A女は,「[メール1]には見覚えがあります。[メール1]は,Bが作成して私に送信したものに間違いありません。Bのパソコンは,B以外に使用することはありません。私がパソコンに触れようとしただけで,『触るな。』と激しく怒ったことがありますので,Bのパソコンを他人が使用することは,絶対にないと断言できます。」などと供述した。
3V女に対する殺人,死体遺棄の犯人として甲及び乙が浮上したことから,司法警察員Pらは,直ちに,甲及び乙の前歴及び前科を照会したところ,甲には,前歴及び前科がなかったものの,乙には,平成21年6月,窃盗(万引き)により,起訴猶予となった前歴1件があることが判明した。
また,司法警察員Pは,差し押さえたBのパソコンにつき,Bと甲との間におけるメールの交信記録,Bと乙との間におけるメールの交信記録が消去されているのではないかと考え,直ちに科学捜査研究所に,消去されたメールの復元・分析を嘱託した。
さらに,司法警察員Pらは,前記メールの復元・分析を進めている間に,甲及び乙が所在不明となることを避けるため,甲及び乙に対する尾行や張り込みを開始した。
4その一方,司法警察員Pは,V女に対する殺人,死体遺棄事件を解明するため,甲及び乙を逮捕したいと考えたものの,まだ,[メール1]だけでは,証拠が不十分であると判断し,V女に対する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪事実により甲及び乙を逮捕するため,部下に対し,甲及び乙がV女に対する殺人,死体遺棄事件以外に犯罪を犯していないかを調べさせた。その結果,乙については,V女に対する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪の嫌疑が見当たらなかったが,甲については,平成22年1月10日にI市内で発生したコンビニエンスストアLにおける強盗事件の2人組の犯人のうちの1名に酷似していることが判明した。そこで,同年5月10日,司法警察員Pは,コンビニエンスストアLに赴き,被害者である店員Wに対し,甲の写真を含む複数の写真を示して犯人が写った写真の有無を確認したところ,Wが甲の写真を選択して犯人の1人に間違いない旨を供述したことから,その旨の供述録取書を作成した。
その後,司法警察員Pは,この供述録取書等を疎明資料として,前記強盗の被疑事実で甲に係る逮捕状の発付を受け,同月11日,同逮捕状に基づき,甲を通常逮捕した【逮捕1】。そして,その際,司法警察員Pは,逮捕に伴う捜索を実施し,甲の携帯電話を発見したところ,前記強盗事件の共犯者を解明するには,甲の交遊関係を把握する必要があると考え,この携帯電話を差し押さえた。なお,この際,甲は,「差し押さえられた携帯電話については,私のものであり,私以外の他人が使用したことは一切ない。」などと供述した。
司法警察員Pは,直ちに,この携帯電話に保存されたメールの内容を確認したところ,Bと甲との間におけるメールの交信記録が残っており,その中には,BがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するものがあった。そこで,司法警察員Pは,同月12日,殺人,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,この携帯電話を差し押さえた。引き続き,司法警察員Pは,パソコンを利用して前記Bと甲との間におけるメール[メール2-1]及び[メール2-2]を印刷し,これらを添付した捜査報告書【資料2】を作成した。
甲は,同日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記強盗の被疑事実で勾留された。なお,甲は,前記強盗については,全く身に覚えがないなどと供述し,自己が犯人であることを否認した。
5同月13日,司法警察員Pの指示を受けた部下である司法警察員Qが,乙を尾行してその行動を確認していたところ,乙がH県I市内のスーパーMにおいて,500円相当の刺身パック1個を万引きしたのを現認し,乙が同店を出たところで,乙を呼び止めた。すると,乙が突然逃げ出したので,司法警察員Qと共に万引きを現認していた*13司法警察員Pは,直ちに,乙を追い掛けて現行犯逮捕した【逮捕2】。その後,乙は,司法警察員Qの取調べに対し,犯罪事実について黙秘した。そこで,司法警察員Pは,乙の万引きに関する動機や背景事情を解明するには,乙の家計簿やパソコンなど乙の生活状況が判明する証拠を収集するよりほかないと考え,同日,窃盗の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,乙が単身で居住する自宅を捜索し,乙のパソコン等を差し押さえた。
その後,司法警察員Pは,同日中に,H県警察本部内において,差し押さえた乙のパソコンに保存されたデータの内容を確認したところ,Bと乙との間におけるメールの交信記録が残っているのを発見した。そして,その中には,[メール2-1]及び[メール2-2]と同様のBがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するメールの交信記録が存在した。
乙は,同月14日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記窃盗の被疑事実で勾留された。
6甲に対する取調べは,司法警察員Pが担当し,乙に対する取調べは,司法警察員Qが担当していたところ,司法警察員P及びQは,いずれも,同月15日,甲及び乙に対し,「他に何かやっていないか。」などと余罪の有無について確認した。
すると,甲は,同日,「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を供述したため,司法警察員Pは,同日及び翌16日の2日間,V女が死亡した経緯やV女の死体を遺棄した経緯等を聴取した。これに対し,甲は,[メール1]の内容に沿う供述をしたものの,上申書及び供述録取書の作
成を拒否した。そのため,司法警察員Pは,同月17日から,連日,前記強盗事件に関連する事項を中心に聴取しながら,1日約30分間ずつ,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関する上申書及び供述録取書の作成に応じるように説得を続けた。しかし,結局,甲は,この説得に応じなかった。なお,司法警察員Pは,甲の前記供述を内容とする捜査報告書を作成しなかった。
一方,乙は,同月15日に余罪がない旨を供述したので,司法警察員Qは,以後,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関連する事項を一切聴取することがなかった。
7甲は,司法警察員Pによる取調べにおいて,前記強盗の犯人であることを一貫して否認した。同月21日,検察官は,甲を前記強盗の事実により公判請求するには証拠が足りないと判断し,甲を釈放した。
乙は,同月18日,司法警察員Qによる取調べにおいて,前記万引きの事実を認めた上,同月20日,弁護人を通じて被害を弁償した。そのため,同日,スーパーMの店長は,乙の処罰を望まない旨の上申書を検察官に提出した。そこで,検察官は,乙を勾留されている窃盗の事実により公判請求する必要はないと判断し,同月21日,乙を釈放した。

その一方で,同日中に,甲及び乙は,V女に対する殺人,死体遺棄の被疑事実で通常逮捕された【甲につき,逮捕3。乙につき,逮捕4。】。甲及び乙は,同月23日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記殺人,死体遺棄の被疑事実で勾留された。なお,甲及び乙は,殺人,死体遺棄の被疑事実による逮捕後,一切の質問に対して黙秘した。また,司法警察員Pは,殺人,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,甲及び乙の自宅を捜索したものの,殺人,死体遺棄事件に関連する差し押さえるべき物を発見できなかった。その後,検察官は,Bのパソコンにおけるメールの復元・分析の結果,Bのパソコンにも,甲の携帯電話及び乙のパソコンに残っていた前記各メールと同じメールが保存されていたことが判明したことなどを踏まえ,勾留延長後の同年6月11日,甲及び乙を,殺人,死体遺棄の事実により,H地方裁判所に公判請求した。
平成23年司法試験刑事系第2問*14

「あらあら、まさかひまわりさんは甲の逮捕1とそれに引続く勾留が違法だと思っていて?」



「もちろん違法よ! 逮捕1の被疑事実は軽い強盗罪という『別件』だけど、警察官の意図は、本当のところは重い殺人罪(と死体遺棄罪)のために逮捕・勾留することにあったわ。このような重い本丸の犯罪、いわば『本件』の捜査のため、軽い『別件』を利用して逮捕するんて典型的な別件逮捕よ! 令状主義(憲法33条)は、身柄拘束をするなら裁判官の令状審査を経ることで人権保障を図ってるところ、警察官は、本当は殺人罪(本件)で逮捕・勾留したいのに、あえてそれとは異なる強盗罪(別件)で令状審査を請求してる。結局、殺人罪(本件)について令状審査を経ずに、殺人罪のために逮捕・勾留しているのだから、令状主義違反よね。しかも、その後に殺人罪についての逮捕3とそれに引き続く勾留をしてしまっているのだから、同じ事件について2回逮捕・勾留することになって、人身の自由を守るため、法が厳格に逮捕・勾留期間を制限(203条以下、208条)していることを潜脱しているわ*15!だから、逮捕1とそれに引き続く勾留は一体として違法だし、逮捕3とそれに引き続く勾留も違法ね。」



「あらあら、どうせそういう内容の準抗告理由書を書いて、棄却されたのではなくて? ひまわりさんの見解はいわゆる『本件基準説』によっているようだけど、この見解は実務では取られておらず、昔の一部の下級審裁判例*16が取っているだけということは忘れてはいけないわね。そもそも、逮捕・勾留には事件単位の原則があるんだけど、その意味はわかるわよね。」突然振られてしまった。



逮捕・勾留は、逮捕状・勾留状記載の犯罪事実だけを基準として効力の有無が決せられ、令状記載の犯罪事実に限って逮捕・勾留の効果が及ぶという原則。



「うふふ、そのとおりね。事件単位の原則というのは、令状審査実務を考えればわかるわ。警察官が、仮に別件逮捕をしようと考えた場合に、『本当は重い本件で逮捕したかったのですが、証拠が無いので,軽微な別件で逮捕したいと思います。別件の逮捕状を下さい。』と言うかしら。」


そんな警察官、普通はいない。



「そうすると、令状審査をする裁判官としては、送られてくる逮捕状請求書や勾留請求書に添付されている資料・捜査記録だけから、逮捕・勾留の判断をすることになるわね。ここにはどの犯罪の嫌疑について書かれているの?」


もちろん、逮捕・勾留を請求している「別件」の方の嫌疑だろう。


「あらあら、もう分かったようね。事件単位の原則に基づき、令状審査をする裁判官は、令状を請求された『別件』について逮捕・勾留の要件が満たされているかについて審査をすべきであるところ、『別件』について逮捕・勾留の要件が満たされている以上は、逮捕・勾留を違法とする理由はないわ。本件基準説は、令状審査をする裁判官に対し、捜査機関の秘められた本件についての意図を察知して勾留を却下せよといっていることになると思うけど、裁判官にエスパーになれとでもおっしゃるのかしら*17? また、 ひまわりさんは強盗を『軽微』というけど、強盗罪は5年以上の有期懲役(刑法236条1項)という重罪であって、証拠も揃っている*18のだから、逮捕1と引き続く勾留は、逮捕・勾留の要件に欠けることはないわ。依頼者を守りたいのは分かるけど、常識と乖離した議論をしてはだめよ。」うふふ、と笑うリサさん。法廷でリサさんのような検察官に滔々と論じられたら、思わず信じてしまいそうだ。


「だから、さっきから黙秘権を侵害する捜査が日常的に行われているって言ってるでしょ! 軽微な別件で身柄を拘束して、その時間を使って取調べをしようと思っている場合、そういう権利侵害のおそれが特に強いわ。だから、仮に逮捕・勾留要件は具備していても、人権侵害の危険の大きさからこういう捜査の適法性は『政策的』観点から否定されるべきってこと*19。逮捕状・勾留状を発付するか否かについて、捜査機関が当初提出した書面だけで審査しなけばならないという規則はないのだから、裁判官が違和感を感じれば、『甲についての強盗罪の捜査が始まった経緯がいまいちよく分からないので、補充する資料を提出して下さい』とでも要請して、客観的証拠から捜査官の意図を認定することは可能だわ。」ひまわりちゃんも必死に防衛する。


「あらあら、私は黙秘権等を侵害する違法な取調べをやってもいいなんて一言も言っていないわよ。身柄拘束を受けた被疑者はもちろん取調べ受忍義務を負うんだけど、その義務は事件単位の原則に従って、逮捕・勾留された被疑事実だけに限られるという見解を取れば、いわゆる『別件』で逮捕・勾留されたのに、これとの関係で『余罪』に過ぎない『本件』について取調べ受忍義務を負わせて取調べをすれば、これは違法捜査になる可能性はあるわよ。もちろん、今回は、甲に対して強盗罪の情状とも関係し得る余罪の有無を問いただしたところ、甲が自発的に殺人罪について供述しただけだったし、毎日取り調べているのは強盗罪だけで、殺人罪について任意に上申書等の作成に応じないか、約30分程度説得を試みただけに過ぎないから、何にも問題はないけれどね。こういう実態からは、そもそも強盗罪での逮捕・勾留時に*20捜査機関として『本件』である殺人罪「取り調べる」目的が客観的に存在したかは疑問であって、仮に本件基準説をとった場合ですら適法になる事案かもしれないわ。」


局面現実に逮捕・勾留された罪名捜査をすることが意図された罪名
別件逮捕「別件」「本件」
余罪取調べ「本罪」*21「余罪」
平成23年設問1強盗罪殺人・死体遺棄



そういえば、この間のロビン先生の授業では、「実体喪失説」っていう見解と裁判例*22を紹介してもらったはずだけど、二人の見解とはどういう関係にあるのだろうか。



「あらあら、授業は受けっ放しではダメよ。忙しいのは分かるけど、きちんと復習しましょうね。この考えは、『新しい本件基準説』とも言われているものね。前提として、起訴前の勾留期間は、身柄を拘束した状態で、令状審査を経た事件(『別件』)について起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行うための期間だと位置づけるわ。そうすると、本来強盗罪について起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行うための期間なのに、もし、主にそれとは無関係な殺人罪の捜査に利用されているのであれば、起訴前の身柄拘束期間の趣旨に反することになる。そこで、(少なくとも身柄拘束の趣旨が潜脱されている期間における)身柄拘束が違法となり得るのよ。主にどちらの犯罪の捜査に使われているかの具体的な考慮要素は、基本的には多数の事項の総合判断*23になるわね*24。」


「ちょっと待ちなさい。これは、新しい『本件基準説』というけど、本物の本件基準説とは大違い*25。例えば、今回、警察官は『殺人,死体遺棄事件を解明する』というのだけど、自白重視の捜査機関が身柄を拘束して「解明」するといったら取調べで自白を取るということ以外あり得ないわ! こういう明らかに本件の取調べの意図がある事案でも、この新しい本件基準説という見解は、客観的な事実だけから身柄拘束が主としてどちらの犯罪に用いられているかを判断するから、捜査機関の意図を理由に勾留請求を却下することを否定しているわね*26。捜査機関がいかに違法な意図をもっていても、多分本件の客観状況からは『主として強盗罪の捜査のため用いられていた』となってしまう。捜査機関の悪どい意図を無視する新しい本件基準説は、少なくとも弁護人がここで主張すべき見解ではないわ。」


なるほど、こうやって考えるのか。



「甲だけではなくて、乙への逮捕2及びそれに引き続く勾留も違法だわ。また、逮捕で1日、勾留で8日間の身柄拘束は、殺人罪の捜査に向けられたものなのに、再度殺人罪で逮捕4及びそれに引き続き、満期まで勾留をしている。勾留だけを見ても、逮捕4に引き続いて*2712日を上回る勾留をすることは、法定の身柄拘束期間の潜脱として違法だわ。」ひまわりちゃんの矛先は逮捕2にも向かう。



「あらあら、乙に対して取調官が余罪があるか尋ねたところ、余罪がない旨を供述したので、以降は殺人(死体遺棄)罪に関連する事項を一切聴取することがなかった訳よね。違法な余罪取調べはないし、新しい本件基準説をとっても、客観的には身柄拘束期間は窃盗罪(別件)の捜査のために用いられているとしかいいようがないわ。そもそも身柄が拘束されたのは、警察官の目の前で犯罪を行ったからであって、殺人罪について取り調べるためではない以上、ひまわりさんの見解でも別件逮捕にはならないのではなくて?」一瞬で切り返す、リサさん。


「重大な問題は、わずか500円の万引きのような軽微な犯罪で逮捕し、13日に逮捕し、引き続き、勾留をすることで、14日から21日までの計8日間身柄を拘束したことよ。犯罪の存在・犯人の明白性は現認から認められ、逮捕との時間的接着性もあるけど(212条1項、213条)、こんな軽微な犯罪なんだから逃亡や罪証隠滅のおそれはなく、逮捕の必要性はない*28し、勾留についても罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(207条1項、60条1項柱書)はあるとしても、罪証隠滅(2号)も逃亡の虞れ(3号)もないのだから、勾留の理由はないし、こんな軽微な犯罪で身柄を拘束するのは明らか均衡を欠くのだから勾留の必要性もないわ*29*30



「万引きが比較的軽微なのは認めるけど、逮捕や勾留の要件を満たさないというのは独自の見解に過ぎないわよ。万引きだって、乙には同種前歴があり、捜査を進めてその他の事情と総合すれば、起訴価値があることは十分あり得る。最初から自白して事実を認めて示談でもしていれば、また話は別だけど、乙は逮捕時に逃亡を図っており、単身で身軽だから逃亡は簡単よね。しかも、黙秘して犯行を否認する姿勢を見せており、証拠隠滅のおそれもあるわ。」


黙秘したことを身柄拘束の根拠に使うのは、黙秘権の侵害よ。その場で逃亡しようとしたことと、逮捕されてもう観念した勾留の時点での逃亡の恐れは違う判断がされるべきだし、そもそも、警察官2名に現認されているのだから、証拠隠滅は不可能よ。まさか、乙が警察官を二人とも殺すおそれがあるとでもいう訳?


「証拠隠滅のために証人威迫をする被疑者・被告人は少なくないわ。また、犯罪事実そのものについて証拠隠滅をする現実的虞れがないとしても、重要な情状事実について証拠隠滅する可能性は消えていないわよね。私は、黙秘権行使そのものを不利に扱っていいと言っているのではなく、もし、自白をして示談等をすれば、それにより既に存在する逃亡・証拠隠滅のおそれを減殺できるのに、自白等をしないからそれが減殺できないということに過ぎないわ。このように解することは、黙秘権を保障した法の趣旨とは全く矛盾しないわ。」


二人の間には、根源的な所に対立点があって、お互いに折り合いを見つけるということはできないのだろう。その対立の根の深さに、自分が学んでいる「刑事訴訟法」という学問が、いわば底なし沼のように感じた。

まとめ
大島先生に頂戴した貴重なアドバイスを踏まえ、できるだけ解説にメリハリをつけると言う趣旨から、逮捕勾留の各要件のあてはめは確かに重要であるものの、より重要な別件逮捕・勾留に重点を置いて解説したつもりであるが、この目的が達成できたかは不明である。皆様からのツイッター、メール等でのコメントをお待ちしております。

*1:ご指摘を受け若干修正いたしました。

*2:「なお、所論は、憲法三八条一項が何人も自己に不利益な供述を強要されない旨を定めていることを根拠に、逮捕、勾留中の被疑者には捜査機関による取調べを受忍する義務はなく、刑訴法一九八条一項ただし書の規定は、それが逮捕、勾留中の被疑者に対し取調べ受忍義務を定めているとすると違憲であって、被疑者が望むならいつでも取調べを中断しなければならないから、被疑者の取調べは接見交通権の行使を制限する理由にはおよそならないという。しかし、身体の拘束を受けている被疑者に取調べのために出頭し、滞留する義務があると解することが、直ちに被疑者からその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うことを意味するものでないことは明らかであるから、この点についての所論は、前提を欠き、採用することができない。」

*3:plea bargaining。有罪と答弁する代わりに、軽い刑を得ようと検察側と被告人側が取引する制度。これにより、時間と負担の多いトライアル(公判)を省略できるものの、取引に応じずトライアルとなって有罪となった場合に極めて重い刑が科せられる(いわゆる「否認料」)等の弊害も指摘されているところである。ご指摘を受け加筆いたしました。

*4:栃木県足利市の幼児誘拐殺人事件について、虚偽自白を取られ、有罪となったが、その後にDNA再鑑定により冤罪が判明し、再審無罪となった事件。ご指摘を受け、加筆いたしました。

*5:茨城県で起こった強盗殺人事件について、虚偽自白を取られ、目撃証言ともあいまって2人の青年の無期懲役が確定したが、再審が開始され、目撃証言と自白の信用性が否定され、無罪となった事案。ご指摘を受け、加筆いたしました。

*6:平成23年の検察庁新規受理人員の総数は148万1,665人http://www.kensatsu.go.jp/hanzai_gaiyou/keihou.htm

*7:http://www.soumu.go.jp/main_content/000102515.pdf32頁参照

*8:土本武司「もう一つの診断」―わが刑事司法は“病的”か−

*9:しんぶん赤旗Webサイト平成25年2月4日「2006年に愛媛県警から流出した「被疑者取調べ要領(適正捜査専科生)」(2001年10月4日付)。警察庁は警察学校の講義用に作られた文書と認めています。」http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2013-02-04/2013020414_01_1.html参照

*10:http://www.news-pj.net/pdf/20060820-03.pdf

*11:なお、「人間はな、そんなに強いもんではないよ。細かな所はどうでもいい。キメ手などは出さんでもいい、ただし殺しを自供させてくれ、と被疑者をあてがわれれば、三人でも四人でも同じように自白させてみせるよ。今どきそんなことが、という顔をしているナ。何ならやってみるか。お前んとうは刑事の手の内を多少聞きかじっているから、少しはゆとりを見て、そう三日でいい。三日あったら、お前に殺人を自白させてやるよ。三日目の夜、お前は、やってもいない殺人を、泣きながらオレに自白するよ。」椎谷紀芳「自白ー冤罪はこうして作られる」171頁

*12:泉徳治「私の最高裁判所論」

*13:司法警察員Qと共に万引きを現認していた」は原文にはないものの、後で司法試験委員会が曖昧であったことについて謝罪をしており(http://www.moj.go.jp/content/000075091.pdf)、このストーリの中では、現認したということにしたものである。

*14:http://www.moj.go.jp/content/000073974.pdf

*15:緑「刑事訴訟法入門」116頁以下

*16:金沢地七尾支判昭和44年6月3日刑月1巻6号657頁、浦和地判平成2年10月12日判タ743号69頁

*17:緑「刑事訴訟法入門」116頁以下参照

*18:強盗は重罪で、通常逃亡・罪証隠滅のおそれがあるだろうし、勾留後は一貫して否認していることからも、逃亡・罪証隠滅のおそれは消えていない。嫌疑については、店員Wが複数の中から甲の写真を選択して犯人の1人に間違いないと供述している。

*19:緑「刑事訴訟法入門」118頁脚注3参照。「入門」というタイトルなのにここまでフォローされるとは凄いの一言です。

*20:個別の警察官の意図はともかく

*21:誤解を招くので本小説では意図的に利用を避けた

*22:東京地決平成12年11月13日

*23:例えば、1別件捜査の完了時期、2別件・本件の取調べ状況(取調べ時間の配分状況・比率)、3取調べの内容、4別件と本件の関連性、5本件供述の自発性、6取調べ以外の捜査状況、7別件逮捕・勾留を請求した捜査機関の意図、8別件発覚の経緯、9別件逮捕・勾留請求時の捜査状況、10別件逮捕・勾留の要件の程度、11別件・本件に関する捜査の重要性・重点の違い、12別件逮捕の執行経緯の総合考慮とする緑「刑事訴訟法入門」120頁参照

*24:2014年11月25日修正

*25:ご指摘頂いた通り、実態喪失説は、むしろ、本件基準説よりも別件基準説の方が近いという考えもあり得るのであり、受験生の誤解を招き易いかもしれない。

*26:緑「刑事訴訟法入門」120頁参照

*27:法定の上限である20日から8日を差し引いた

*28:阪高判昭和60年12月18日判時1201号93頁参照

*29:リークエ75頁参照

*30:なお、採点実感に「問題文に,各要件の検討に必要な具体的事実関係が与えられているにもかかわらず,これら について全く触れないまま,別件逮捕・勾留に関する抽象論を記述するだけで終わっ ているような答案が相当数見受けられた」とあることに留意が必要であろう。