刑訴ガール第5話〜「現場第一」は刑事弁護の合い言葉〜平成22年刑事訴訟法設問1
- 作者: 安冨潔
- 出版社/メーカー: 三省堂
- 発売日: 2013/06/08
- メディア: 単行本
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注:刑訴ガールは、司法試験過去問をライトノベルで解説するプロジェクトです。舞台は架空の法科大学院であり、ロースクールに行っても、刑訴ガールはいません。
机の上に山の様に積み上がる刑事謄写記録。大きく厚い記録の壁に阻まれて、机の向かいの僕の席からは、後ろにいる、「主」の姿は見えない。ただ、そこに人がいることは、記録をめくる音と、鉛筆で何かを書き込む音、そして、時折聞こえるため息からは明らかだ。
「ほら、行くわよ!」何の前触れもなく、ガタガタと音がして、立ち上がる気配がする。完全に立ち上がっても、ここから見えるのはひまわりちゃんの頭頂部からツインテールの結び目のところまでということが、記録の量を物語る。
えっと、行くって、どこに?
「現場よ!当たり前じゃない。ほら、きちんとついてくる!」ひまわりちゃんがあっという間に事務所を出て行ってしまうので、一人残された僕も、あわてて鞄を持って追いかける。
現場って、もしかして、今やってる拳銃譲渡の件の被疑者の組事務所、ですか?
「そうだけど? なんか文句ある?」嫌だなぁという気持ちが顔に出てしまっていたらしく、ひまわりちゃんに気づかれてしまった。
そ、そんな、文句って訳じゃないんですけど…。
「あのね、私たち刑事弁護人は、いわゆるヤクザやテロリストと疑われている人といった、普通の人が嫌だと思う人の弁護だってしなくちゃいけないの。もちろん、厚労省の事務次官になる村木厚子さんのような、『普通の人』も冤罪の被害者になるけれど、『市民に嫌われている人』が冤罪の被害者になることも多いわ。『悪人に人権なし』という人もいるけど、起訴されている犯罪を犯したのか、という意味での『悪人』かどうかは、公正な裁判手続で明らかにすべきよ。弁護人がその主張を代弁しなかったら、誰が代弁してくれるの?」
確かに、弁護人しかいなそうだなぁ…。
「私の師匠はこう言っていたわ。『他の人が誰も弁護をせず、必要的弁護人の要件を満たさず刑事手続を行えないというのであれば、私はヒトラーでも弁護する。』あなたには、ヒトラーの弁護をする覚悟がある?」
ひまわりちゃんにお説教をされているうちに、あるアパートの前に到着した。外見は普通の古ぼけたアパートだが、なぜか、真新しい監視カメラが不自然な程大量に設置されている。
「ここよ。」ひまわりちゃんの声が、心なしか緊張を帯びる。
組事務所なら、大きな「A組事務所」って看板があって、代紋が飾られているものだと思っていたんだけど。
「テレビドラマの見過ぎよ。もちろん、まだそういう旧来の組事務所も残ってはいるけれど、暴力団に対する締め付けが厳しくなってからは、看板や代紋を外したところも少なくないわね。まあ対抗組織のカチコミを警戒して監視カメラがこんなに設置されてるから、組事務所だってのはバレバレだけど。」
アパートの前を通る公道に、ごみ集積場があり、ひまわりちゃんは、アパートの入り口との距離や位置関係をしきりに気にしている。
「これだけ遠いとなぁ…。」とつぶやいた後、ハッと気づいたように、ごみ集積場の写真を撮り出す。
どこにでもありそうな、平凡なごみ集積場の写真を撮って、何か意味はあるのだろうか?
「この重要性が分からないなんて、まったく、修行が足りないわね。さあ、次の現場に行くわよ。」また、一人で歩き出すひまわりちゃん。
また、現場、現場かぁ…。
「あら、もう弱音?刑事弁護人の基本は『現場』よ。今はストリートビューもあるから、下見には使えるけど、やっぱり現場に行かないと、本当のところは分からないわね。」
そんなに現場が大事なんだ。
「そりゃそうよ。考えてもみなさい。例えば、捜査の違法性を争おうという場合、結局何をするの?」
捜査官を証人尋問するってこと?
「そう。捜査官よりも多くの事実を知らないでいて、どうやって反対尋問で弾劾できるの?現場は、情報収集の基本だわ。女子トイレで起こった事件で、現場に行こうとして不審者に間違えられた男の弁護人もいる位だわ。」
そこまでやらないといけないのか…。
「ローファーは1ヶ月位で履き潰してるわ。このローファーももう寿命ね。この位歩いてるのは、刑事弁護人と家裁調査官くらいじゃないかしら。その対極は、最高裁裁判官だそうだけど*1。」と言ってゴッソリ削れた靴底を見せてくれる。一瞬、ローファーではなく、カモシカのようなその脚に目を取られたのは内緒だ。
アパートからそう歩かないうちに、もう1つの現場である、マンションに着いた。塀で囲まれた敷地内に比較的低層の建物がそびえていて、その周りを囲むように駐車場と緑地、そして、倉庫がある。
「次はここね。ついてきなさい!」ひまわりちゃんは、僕の手をつかんで、マンションの敷地内に進み、無施錠の扉を開け、暗い倉庫の中に入っていく。
さっきまで、手をつないでなかったけど、今手をつないでるのは、もしかして、暗くて狭いところが怖いとか?
「ち、ち、違うわよ! こ、怖くなんかないわ。」口ではそう言っているが、僕の後ろに隠れて腰に手を回してるってことは、図星だな。ひまわりちゃんにも苦手なものがあるのか。
「もう、行くわよ!」僕を出口の方に向かって押し出す格好になったひまわりちゃんは、倉庫の外の光のある場所に出ると、ほっとしたような表情を見せた。
「あらあら、二人で肝試し、お楽みのようね。進展はあって?」倉庫の近くの緑地で作業をしていたジャージ姿の女性が突然振り向いた。
リサさん、そんな格好で何をやってるんですか?
「うふふ、今日はごみ集積所を回る日なのだから、その場にふさわしい格好にしなきゃいけないわよね。」
暑い中そんな暑苦しいコスプレをわざわざしなくてもいい気もするのだけど。
「あらあら、そう言うってことは、こちらの方がお好みと理解してよろしくて?」リサさんはスルスルとジャージを脱ぐと、体操服とブルマ姿になる。こ、これは、一度は絶滅したと言われるちょうちんブルマの復元か? 凝ってるなぁ。
脱ぐように言ったつもりはないんだけど...まあ、リサさんはブルマ姿も映えるので、嫌いではないのだけれど。
「リサさん、ひまわり達は大事な現場の検証をしているんですから、邪魔しないでいただけますか? 」
「あら、デートじゃなかったのね。でも、せっかく現場に来ても、有罪率99.99%では、無駄足になってしまわないかしら?」その服装だけではなく、言動でも挑発を仕掛けるリサさん。
「ひまわりちゃんが弁護人になったからには、絶対に、無駄足にはしないわ。違法捜査があったことは、今日の現場検証でよく分かったわ。リサさんも事件の中身が分かれば納得するはずよ!」僕たちは、なぜか、緑地のベンチで捜査の違法性の検討会を始めることになった。
1 暴力団A組は,けん銃を組織的に密売することによって多額の利益を得ていたが,同組では,発覚を恐れ一般人には販売せず,暴力団に属する者に対してのみ,電話連絡等を通じて取引の交渉をし,取引成立後,宅配等によりけん銃を引き渡すという慎重な方法が採られていた。司法警察員Pらは,A組による組織的な密売ルートを解明すべく内偵捜査を続けていたが,A組幹部の甲がけん銃密売の責任者であるとの情報や,甲からの指示を受けた組員らが,取引成立後,組事務所とは別の場所に保管するけん銃を顧客に発送するなどの方法によりけん銃を譲渡しているとの情報を把握したものの,顧客が暴力団関係者のみであることから,甲らを検挙する証拠を入手できずにいた。平成21年6月1日,Pらは,甲らによるけん銃密売に関する証拠を入手するため,A組の組事務所であるアパート前路上で張り込んでいたところ,甲が同アパート前公道上にあったごみ集積所にごみ袋を置いたのを現認した。そこで,Pらは,同ごみ袋を警察署に持ち帰り,その内容物を確認したところ,「5/20 1丁→N.H 150」などと日付,アルファベットのイニシャル及び数字が記載された複数のメモ片を発見したため,この裁断されていたメモ片を復元した[捜査(1)]。
さらに,同月2日,Pらは,甲が入居しているマンション前路上で張り込んでいたところ,甲が同マンション専用のごみ集積所にごみ袋を置いたのを現認した。なお,同ごみ集積所は,同マンション敷地内にあるが,居住部分の建物棟とは少し離れた場所の倉庫内にあり,その出入口は施錠されておらず,誰でも出入りすることが可能な場所にあった。そこで,Pらは,同集積所に立ち入り,同所において,同ごみ袋内を確認したところ,「5/22 1丁→T.K 150」などと記載された同様のメモ片を発見したため,このメモ片を持ち帰り復元した[捜査(2)]。Pらが復元した各メモ片の内容を確認したところ,甲らが,同年5月中に,10名に対して, 代金総額2250万円で合計15丁のけん銃を密売したのではないかとの嫌疑が濃厚になった。
(中略)
Pらは,甲によるけん銃譲渡の被疑事実について,裁判官から捜索差押許可状の発付を得た上で,発見したけん銃2丁及び携帯電話1台を押収した。さらに,Pらは,押収した乙の携帯電話の発信歴や着信歴を確認したが,すべて消去されていたため,直ちに科学捜査研究所で,消去されたデータの復元・分析を図った[捜査(3)]。
平成22年司法試験刑事系第2問より*2
「あらあら、3つの捜査は、みな『復元』を含んでいるみたいだけども、まさか復元をしたこと自体が違法捜査だとでもおっしゃるつもりかしら?」
「ここはポイントではないから、あっさりいきましょう。刑事訴訟法111条2項は『押収物』について『必要な処分』ができることを規定しているから、前提となる押収が適法なら222条1項で準用される111条2項の『必要な処分』といえるかの解釈問題ね。」
えっと、111条2項がとあるなら、わざわざ222条1項を使う意味はあるのかな。
「あらあら、刑事訴訟法の構造について復習が必要みたいね。刑事訴訟法は、第1編で裁判所が主体となる手続を規定し、第2編第1章では、第1編を準用する形で、捜査機関が主体となる手続を規定ているわ。99条には『裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押えることができる』とあるわよね。これを222条1項で、捜査機関の捜査に準用しているのよ。」
「旧法はドイツ法に倣って公判を中心に組み立てたのよ。戦後の改正の際にもこの条文構造が引き継がれたけど、実際には差押え等は捜査機関が行うことが圧倒的に多いわね。」
なるほど。捜査3はそれでいいと思うけど、捜査1と捜査2は『領置(221条)』なんなけど、『押収』なのかなぁ。
「あらあら、この問題は、憲法35条の『押収』と刑訴法の『押収』の違いにも関係してくるわね。憲法35条の『押収』に、領置は入っていて?」
どうなんだろう…。
「ロースクール生は入ってないことを知ってて当たり前でしょ? 入ってたら、憲法35条違反。令状なしで領置なんかできないわよ!」
「うふふ、領置は、遺留物や任意提出物の占有を取得する処分よ。取得過程は強制的ではないから、令状は不要と解されているわね。」
そうか、そうすると、刑事訴訟法上の「押収」でもないような気がするんだけど。
「あんた、222条1項の条文読んだ事ないでしょ? 条文読まないロースクール生に、存在意義はないわ。」
何もそこまで言わなくても。
「あらあら、111条を準用する条文の、222条1項は『前条の規定によつてする押収』と規定しているわね。221条が領置だから、刑訴法は、領置は『押収』に含まれることを想定しているわよ。」
う〜ん、「押収」というとなんか強制的なニュアンスを感じるんだけどなぁ。
「あんた、まさかまだ刑事実務を分かってないの? 刑事実務を知らないで許されるのは、学部生までよ!一度領置されたものを後で『返して』って言える?」
言えなさそうだけど。
「うふふ、領置は、占有取得時は任意だけれど,一度占有を取得したらその占有を強制的に継続できるするのね。だから、令状は不要だけど、刑訴法上では、『押収』として、差押えと類似した規律に服するわ。」
そういうことか。
「じゃあ、具体的な『必要な処分』の解釈ね。押収物に関する必要な処分については、信書の開封、金庫の開錠、未現像フィルムの現像、ビデオテープの再生確認、携帯電話のメモリーなどの電磁的記録媒体の内容確認などが挙げられる*3。」
「必要」なら、なんでも無限定にできるのだろうか。
「あらあら、『必要』ならどのような処分も許される訳ではないわ。捜査比例の原則に従い必要性と相当性の両方がない処分は認められないわね*4。」
「裁断されたメモを押収しても、それを復元することが許されなければ押収の意味がない。手段も、メモ片を並べ替えただけと思われるから、ここに新たなプライバシー侵害を生じさせたとはいえず、相当と言わざるを得ないわね。」
「うふふ、珍しくひまわりちゃんと意見が一致したわね。」
「でも、捜査3は、プライバシーを守ろうとして消した発着信歴を復元ている訳よね。確かに復元の必要性はあるけれども、新たなプライバシー侵害が生じるし、復元手法も単なる並べ替えとは同視できないから、必要な処分にあたらないわ。」
「あらあら、捜査3の前に、裁判官が令状審査を行って、携帯の差押えを許可しているのをお忘れでなくて? 裁判官は、発着信歴が差押えによって捜査機関に明らかになることもやむを得ないとして令状を発付してるのよ。捜査3も、消去によって可視性がなくなったデータを可視性があるだけ状態にするだけなのだから、その意味で、当初の令状審査で予定されていたプライバシー侵害が行われたというだけよ*5。これを『必要な処分』の枠組みで検討するなら、相当性があるということではなくて?」
「もしそうだとしても、重要なポイントは、捜査1と捜査2の領置過程よ。」
「あらあら、拳銃密売という密行性の高い犯罪だから、ゴミの捜査は必要性が高いし、回収される前に占有を取得する必要性もある。ゴミが『遺留した物』だということは、判例があるのではなくて?」
確か、最決平成20年4月15日刑集62巻5号1398頁が、捜査機関がゴミ集積場のゴミ袋を回収した事案で、意図せず落とした物だけではなく、意図的に捨てたものも『遺留した物』だと述べていたはず。
「うふふ、この判例からは、今回のようなゴミ集積場のゴミ袋を回収する行為も遺留物の領置として、適法になるわね。」
「リサさんにしては甘過ぎる分析ね。そんな安易な判例の理解に基づいて捜査権を行使して欲しくないわ。まず、捜査2について言うと、ゴミ集積場がある場所は、明らかに私有地よね。平成20年最決は、公道上のゴミ集積場について述べているものだから、捜査2は射程外よ。」
なるほど、判例の結論だけを覚えるのではなく、その結論が導かれた事案の事実関係をきちんと理解しておく必要があるなあ。
「あらあら、仮にそうだとしても、ゴミ集積場に捨てたということは所有権、管理権を放棄したとみても良いのではなくて?」
「最高裁が『公道上』のゴミ集積場のゴミについて領置を認めたのは、自宅敷地から離れた公道上にまで持って行った場合には、一般に所有権・管理権を放棄する意思が認められることにあるわ。住んでいるマンションの建物から少ししか離れていない倉庫なら、一度捨てても、回収が来るまでは、やっぱりやめたと戻すこともできる。まだ所有権・管理権は放棄されていないわ。学者の先生も、マンションの共用部分の廊下や、自宅前路上に置かれていて被疑者の所有又は管理が及んでいるゴミは領置できないとしているわ*6。」
「あらあら、所有権・管理権の認定は争いがありそうだけど、そもそも、捨てたゴミに、実質的保護に値するプライバシーなんてあるのかしら?」
「燃えるゴミを捨てた時、人は、そのゴミがそのまま燃やされる、と期待するわ。ゴミの中には、クレジットカードの明細や、レシートとか、かなりプライバシーの中核に近いものも含まれているけど、こういうものを第三者が勝手に見てもいいという趣旨で捨てる人はいないわ。あくまでも、そのまま燃やされるから捨てるのであって、そこに法律上保護に値するプライバシーはまだあるわ。」
「あらあら、クレジットカードの明細やレシートは、シュレッダーに掛けている人もいるわよね。プライバシーの中核なら、シュレッダーに掛けて自衛すればいいのではなくて?」
「引っかかったわね。今回、甲は、メモをバラバラに裁断しているわ。その意味は、メモが甲にとってプライバシー上極めて重要だから、出来る限りの自衛的措置を取ったということよ。」
「あらあら、でも、具体的事情を見ると、ゴミ集積場の出入口は施錠されておらず、誰でも出入りすることが可能な場所なのではなくて?」
「ゴミ袋が置かれた場所マンションの敷地内にある倉庫内だけど、マンションの敷地内ってことは、正当な理由なく立ち入れば住居侵入罪よ。守衛はいないけど、住民等、正当な権利者のみが立ち入ることが法的にも求められているわ。」
なるほど、住居侵入罪で刑事的にも守られている、という解釈か。確か、憲法で、ビラ配りのためにマンション敷地に侵入した人が住居侵入罪に問われていたなぁ。
「うふふ、もし、ひまわりさんの言う通りだとしても、捜査1と捜査2を両方とも違法としない限り、何ら被告人の有罪/無罪には響かないわよね。だって、捜査1で見つけたメモ片だけでもけん銃を密売の濃厚な嫌疑を認められるのだから、捜査2が仮に違法でも、その後の捜査とは因果関係はないわ。そして、捜査1は、ひまわりさんもお認めのとおり、最決平成20年がそのまま当てはまる、つまり、適法なのではなくて。」自信たっぷりに決め台詞を吐くリサさん。
これは、リサさんの勝ちだな。捜査2がなくても、捜査1で拳銃密売の濃厚な嫌疑を裏付けるだけのメモが見つかっているところ、リサさんの誘導もあって、ひまわりちゃんは、最決の射程が公道上のゴミ集積場に及ぶと認めさせられている。
「どんなに絶望的な状況でも、決して諦めないのが、不屈の弁護人魂よ。組事務所から結構離れた公道上のゴミ集積場を見た時は、客観的な勝ち目はゼロだと思った。それでも、諦めずに現場を探した結果は、これよ。」こう言って、デジカメを取り出し、写真を僕とリサさんに見せる。
「このゴミ集積場は、□□市が管理しています。勝手にゴミを持ち出すことを禁じます。 □□市長!」
このゴミ集積場は、□□市が管理しています。勝手にゴミを持ち出すことを禁じます。 □□市長?
二人の声が呼応する。
「リサさんも、ようやく分かったようね。自治体の中には、ゴミ集積場の管理権が自治体にあると解釈しているところがあるわ。□□市もその1つよ。つまり、Pらが領得したゴミは、甲がゴミ集積場に置いた瞬間に、□□市の管理するものになっている。第三者が管理をしているものを、勝手に領置してはいけないわ。自治体職員の立ち会いを得て実況見分し、職員から任意提出を受けるべきよ*7。」
「あらあら、ひまわりちゃんも、たまにはなかなか説得的な議論をするのね。」
「天才弁護士ひまわりちゃんを見くびり過ぎよ。この後、いろいろ捜査が積み重なっているから、『無罪』にまでなるかは、違法性がどこまで承継されるか、及び違法の重大性が認められるかにもよるところだけど、そこは、あんた、助手として、きちんと調べておきなさいね!」
捜査1及び2の違法という、大きな「発見」は、あくまでも、ひまわりちゃんが現場第一という刑事弁護の基本を忘れずに、足で歩いた成果だ。特に、現場に行かずに書面だけで判断するならば、捜査1のゴミ集積場が□□市の管理下にあるなんて、思いつかないのは当たり前だ。
ひまわりちゃんの、底がボロボロのローファー。弁護士になったら、靴底がすぐボロボロになる位頻繁に現場に行こう。こう思った。
まとめ
領置と必要な処分(令状の効力)というマニアックな問題をどうストーリーにするのか苦しみましたが、たまたま改訂されたので買った安富「刑事訴訟法」第2版が領置についても詳しい「辞書」だったので、なんとか形になりました。今後もよろしくお願いします。