アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

刑訴ガール第8話〜夏だ、海だ、水着だ!〜司法試験刑訴平成21年設問2

新 刑事手続 II

新 刑事手続 II



注:刑訴ガールは、架空のロースクールを舞台にライトノベル調で司法試験を解説するプロジェクトです。ロースクールに進学しても、刑訴ガールはいません。


 降り注ぐ太陽。白く輝く砂浜。そして、どこまでも続く青い海と空。僕たち4人は、リサさんの別荘に設けられた、プライベートビーチに来ていた。



… …


 こんな旅行が企画されたのは、自習室での勉強に飽きて、ラウンジでコーヒーを飲んでいた時に遡る。気分転換に海か山にでも行きたいな、と小声で呟いた。


「うふふ、うちには山なら、避暑地の山荘があるし、海なら海辺の別荘があるけど、いらっしゃる?」隣を見ると、ロイヤルミルクティーを飲むリサさんがにこやかに微笑みかけている。


べ、別荘なんてものがあるんですか。リサさんは、やっぱりお嬢様なんですね。それじゃあ、お邪魔させてもらっても、いいですか。


「うふふ、大歓迎よ。海になさる? 山になさる?」リサさんと二人きりの別荘生活を夢見ていた時、突然その「夢」から現実に引き戻される。



あんたね、私の助手をたぶらかしているんじゃないわよ!」怒鳴り込むひまわりちゃん。


「あらあら、たぶらかすなんて人聞きが悪い。旅行のご相談をしていただけだわ。ひまわりさんも、もしよろしかったら、いらっしゃる? まあ、ひまわりさんがお忙しいなら、私たち二人きりで別荘にということで、私はよろしくてよ?」


「忙しい訳ないでしょう。ちょうど裁判員裁判が終わって時間ができたから、行くわよ。そうね、海よ、海にしましょう!


… …


とまあこんな感じで、バタバタと日程も決まり、僕たちは今、リサさんの別荘裏のビーチサイドに来ている。


白いワンピースの水着が眩しいリサさんは、ビーチパラソルの下で、ベンチに体を横たえている。


白い大きな「ひまわり」と書いたゼッケンを付けているスクール水着を着たひまわりちゃんは、リサさんの胸の大きさに威圧されたのか、つまらなそうに一人で黙々と泳いでいる。まだ旧スクール水着の学校って、珍しいなあ。


そして、僕に声を掛けてきたのが、ピンクのビキニ姿の女性で…。


「あら大変、先生、日焼け止め塗るのを忘れてきちゃった。一人じゃ塗れないから、塗るの手伝ってもらえる?」リサさんの隣のベンチに横たわって、日焼け止めのボトルを渡してくる。ロビン先生は、着やせするタイプだったのか。スーツの上からは全然分からなかった。


「あらあら、先生、抜け駆けはなしでしてよ。『高校生を含む3人が同じ屋根の下で寝るのは危険だから、指導教官による監督が必要だ』って名目でついてきたのに、監督じゃなくてプレーヤーをなさるのでは話が違い過ぎますわ。あら、そういえば、私も日焼け止めを塗るのが不十分だったので、お手伝いしてくださらない?」リサさんも対抗する。


まあまあ、二人とも、順番に塗ってあげるから、喧嘩しないで下さ…


「ちょっと目を離すと、すぐこうなんだから。」突然紺色のすばしっこいものが、僕と二人の間に、割り込んできた。


「そんなに塗って欲しいなら、ひまわりちゃんが塗ってあげるわ。」ひまわりちゃんは、手に日焼け止めをつけると、二人の体に乱雑に塗りたくる。特に二人の胸に対しては、「この脂肪、この脂肪の固まりが!」と恨めしそうに呟きながら、親の敵のような扱いだ。もしかして、物理的に潰す気か*1



「もういいわよ。十分塗れたから。じゃあ、みんなでビーチバレーでもしない?」ひまわりちゃんの「攻撃」から逃げ出し、ビーチの一角のビーチバレーコートに向かって歩き出すロビン先生。四人仲良く遊べることに、異存があるはずもない。


「やるからには勝つわ! 行くわよ〜。」最初は勝つ気まんまんのひまわりちゃん。なぜか、僕とひまわりちゃんのチームと、リサさんとロビン先生のチームが対戦することになった。



... ...


「なんでレシーブできないのよ!助手失格よ!」僕は、ロビン先生とリサさんの意外にも強いサーブに、ミスを連発していた。


ひまわりちゃんこそ、アタックだけは一流だけど、相手からのボールをレシーブして受け止めるのが苦手なくせに。


「うるさい、うるさい!」怒り狂ったひまわりちゃん、ボールを両手で持つと、僕に向かって力一杯蹴り上げた。


ボコン! と大きな音を立てて僕の頭を直撃したボールは、軌道を大きく変えて、明後日の方向に飛んで行った。


「早く拾ってきなさい!」ひまわりちゃんの罵声を浴びながら、僕は、プライベートビーチの境界を越えて飛んで行ったボールを追う。


「「私たちも行きますわ。」」リサさんとロビン先生は優しい。


「あんたたち、ひまわりを置いてけぼりにする気なの? 保護責任者遺棄罪で告訴するわ!」


ひまわりちゃんは、怒りでよく分からないことを叫びながら追いかけてきた。自分が、放置すれば健康及び生命に危険が生ずるであろう「老年、幼年、身体障害者又は疾病のために扶助を必要とする者*2」だという趣旨なのだろうか*3



……



ボールが転がった先は、M埠頭のはずれだった。埠頭の中心には、客船や漁船が多く連なっているが、ここには船も無い。そこに、1台の軽自動車が止まっており、助手席に人影が見えた。人影はピクリとも動かない。


まさか、し、死体か?


「何びびってるの? 検察修習で死体解剖の見学に行く時*4のことが思いやられるわねぇ。私の時は土左衛門だったから、あんたなんか、気絶しちゃうんじゃないしら。」憎まれ口を叩くひまわりちゃん。


よく見ると、助手席に置いてあったのは、男性の人形だった。


「今、甲野さんの弁護をしているのは、知っているわよね。検察側が実況見分調書を証拠申請してきたから、本当に実況見分調書どおりになるのか、弁護側でも実験しようと思ったのよ。『現場第一』よ。」


甲野太郎被告人の殺人・死体遺棄事件で問題となっている実況見分調書というのは、以下のようなものだ。

平成21年2月3日,甲の立会いの下,M埠頭において, 海中に転落した本件車両と同一型式の実験車両及びVと同じ重量の人形を用い,本件車両を海中 に転落させた状況を再現する実験を行った。なお,実験車両は,本件車両と同じオートマチック 仕様の軽自動車であり,現場は,岸壁に向かって約1度から2度の下り勾配になっていた。
Pらは,甲に対し,犯行当時と同じ方法で実験車両を海中に転落させるよう求めると,甲は, 本件車両を岸壁から約5メートル離れた地点に停車させたと説明してから,その地点に停車した 実験車両の助手席にある人形を両手で抱えて車外に持ち出した。甲は,その人形を運転席側ドア まで移動させてから車内の運転席に押し込み,その人形にシートベルトを締めた。そして,甲は, 運転席側ドアから車内に上半身を入れ,サイドブレーキを解除した上,セレクトレバーをドライブレンジにして運転席側ドアを閉めた。すると,同車両は,岸壁に向けて徐々に動き出し,前輪が岸壁から落ちたものの,車底部が岸壁にぶつかったため,その上で止まり,海中に転落しなか った。甲は,同車両の後方に移動し,後部バンパーを両手で持ち上げ,前方に重心を移動させる と,同車両が海中に転落して沈んでいった。その後,Pらが海中から同車両を引き上げ,その車底部を確認したところ,車底部の損傷箇所が同年1月17日に発見された本件車両と同じ位置に あった。
7 Pは,この実験結果につき,実況見分調書を作成した。同調書には,作成名義人であるPの署 名押印があるほか,実況見分の日時,場所及び立会人についての記載があり,実況見分の目的と して「死体遺棄の手段方法を明らかにして,証拠を保全するため」との記載がある。加えて,実 況見分の経過として,写真が添付され,その写真の下に甲の説明が記載されている。
具体的には,岸壁から約5メートル離れた地点に停止している実験車両を甲が指さしている場面の写真,甲が両手で抱えた人形を運転席に向けて引きずっている場面の写真,甲が運転席に上半身を入れて,サイドブレーキを解除し,セレクトレバーをドライブレンジにした場面の写真, 同車両の前輪が岸壁から落ちたものの車底部が岸壁にぶつかってその上で同車両が止まっている場面の写真,甲が同車両の後部バンパーを両手で持ち上げている場面の写真,同車両が岸壁から 海中に転落した場面の写真,同車両底部の損傷箇所の位置が分かる写真が添付されている。そし て,各写真の下に「私は,車をこのように停止させました。」,「私は,助手席の被害者をこのよう に運転席に移動させました。」,「私は,このようにサイドブレーキを解除してセレクトレバーをド ライブレンジにしました。」,「車は,このように岸壁の上で止まりました。」,「私は,このように 車の後部バンパーを持ち上げました。」,「車は,このように海に転落しました。」,「車の底には傷 が付いています。」との記載がある。
8 その後,同年2月9日,検察官は,被告人甲が乙と共謀の上,Vを殺害してその死体を遺棄し た旨の公訴事実で,甲を殺人罪及び死体遺棄罪により起訴した。被告人甲は,第一回公判期日に おいて,「自分は,殺人,死体遺棄の犯人ではない。」旨述べた。その後の証拠調べ手続において, 検察官が,前記実況見分調書につき,「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」とい う立証趣旨で証拠調べ請求したところ,弁護人は,その立証趣旨を「被告人が本件車両を海中に 沈めて死体遺棄したこと」であると考え,証拠とすることに不同意の意見を述べた。
【資料1】
供述調書
本籍,住居,職業,生年月日省略
甲野 太郎 上記の者に対する殺人,死体遺棄被疑事件につき,平成21年1月24日○○県□□警察署におい て,本職は,あらかじめ被疑者に対し,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げて取り調べたところ,任意次のとおり供述した。;
1 私は,平成21年1月13日午前2時ころ,V方前の道で,Vの首をロープで絞めて殺し,その死体を海に捨てましたが,私がそのようなことをしたのは,乙からVを殺すように頼まれたからでした。
2 私は,約2年前に,クリーニング店で働いており,その取引先に乙が経営していたT化粧品販売という会社があったため,乙と知り合いました。私は,次第に乙に惹かれるようになり,平成19 年12月ころから,乙と付き合うようになりました。乙の話では,乙にはVという夫がいるものの, 別居しているということでした。
3 平成20年11月中旬ころ,私は,乙から「Vに3000万円の生命保険を掛けている。Vが死 ねば約2000万円ある借金を返すことができる。報酬として300万円をあげるからVを殺し て。」と言われました。私は,最初,乙の冗談であると思いましたが,その後,乙と話をするたびに 何回も同じ話をされたので,乙が本気であることが分かりました。そのころ,私にも約300万円 の借金があったため,報酬の金が手に入ればその借金を返すことができると思い,Vを殺すことに 決めました。そこで,平成21年1月11日午後9時ころ,乙から私に電話があったとき,私は, 乙に「明日の夜,M埠頭で車の転落事故を装ってVを殺す。」と言うと,乙から「お願い。」と言わ れました。
4 1月12日の夜,私がV方前の道でVを待ち伏せしていると,翌日の午前2時ころ,酔っ払った 様子のVが歩いて帰ってきました。私は,Vを殺すため,その後ろから首にロープを巻き付け,思 い切りそのロープの端を両手で引っ張りました。Vは,手足をばたつかせましたが,しばらくする と,動かなくなりました。私が手をVの口に当てると,Vは,息をしていませんでした。
5 私は,Vの服のポケットから車の鍵を取り出し,その鍵でV方にあった軽自動車のドアを開け, Vの死体を助手席に乗せました。そして,私は,Vが運転中に誤って岸壁から転落したという事故 を装うため,その車を運転してM埠頭に向かいました。私は,午前3時過ぎころ,M埠頭の岸壁か ら少し離れたところに車を止め,助手席の死体を両手で抱えて車外に持ち出し,運転席側ドアまで 移動して,その死体を運転席に押し込み,その上半身にシートベルトを締めました。そして,私は, 運転席側ドアから車内に上半身を入れ,サイドブレーキを解除し,セレクトレバーをドライブレン ジにしてからそのドアを閉めました。すると,その車は,岸壁に向けて少しずつ動き出し,前輪が 岸壁から落ちたものの,車の底が岸壁にぶつかってしまい,車がその上で止まってしまいました。 そこで,私は,車の後ろに移動し,思い切り力を入れて後ろのバンパーを両手で持ち上げ,前方に 重心を移動させると,軽自動車であったため,車が少し動き,そのままザッブーンという大きな音 を立てて海の中に落ちました。私は,だれかに見られていないかとドキドキしながらすぐに走って 逃げました。
6 その後,私は,乙にVを殺したことを告げ,1月15日の夕方,乙と待ち合わせた喫茶店で,乙 から報酬の一部として現金30万円を受け取り,その翌日の夕方,同じ喫茶店で,乙から報酬の一 部として現金20万円を受け取りました。
甲野 太郎
以上のとおり録取して読み聞かせた上,閲覧させたところ,誤りのないことを申し立て,欄外に指印 した上,末尾に署名指印した。(欄外の指印省略)

指印
前同日 ○○県□□警察署
司法警察員 警部補


平成21年司法試験刑事系*5


注:読者の事案検討の便宜のため、最下部に、実況見分調書が問題となった、甲野太郎の殺人・死体遺棄事件の全容を資料として補足した。*6



「じゃあ、一通りやってみるから、あんた甲の役ね。」無茶ぶりするひまわりちゃん。


本物のVと同じという70キロの人形を両手で抱え、更に自動車を押して海に転落させるという苦行を味わったが、なんとか、実況見分調書どおりの態様で海中に転落することが確認できた*7


「うふふ。まさかひまわりちゃんは、この実況見分調書を不同意にするつもり?」早速挑発するリサさん。


原則不同意、っていう刑事訴訟法の大原則を理解していない裁判官と検察官のあまりの多さに頭が痛くなるわ。同意はあくまでも例外よ。」


「あらあら、でも、同意をしなくとも伝聞例外にあたるのではなくて? 簡単に分析してみてくださらない?」って、僕に振るのか。


「そうね、丁度この間この点に関する重要判例を授業で取り上げたばかりだから、大丈夫だって、先生信じてるわ!」プレッシャーを掛けるロビン先生。最近忙しくて復習できてなかったんだけどなあ。



まず、この実況見分調書は、Pが作成している書面として、知覚・記憶・表現・叙述という過程がある。また、甲が発言等の形でPとコミュニケーションしているので、その過程にも同様の過程がある。


「まあ、当然よね。それで、この2つの過程について、要証事実との関係で伝聞になるの? なるなら伝聞例外で治癒されるの?」


供述内容の真実性が問題となっている場合に伝聞証拠になるところ、まず、こういう実験をしましたといって調書を出している以上、Pの伝聞過程は、当然この記載内容の真実性がないと意味がないので、伝聞だ。しかし、321条3項によって伝聞例外となる。


「うふふ、それで良いのではなくて? 次の甲はどうなるのかしら。」


最決平成17年9月27日刑集59巻7号753頁は、「立証趣旨が『被害再現状況』、『犯行再現状況』とされていても、実質においては、再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になるものと解される」としている。要するに、要証事実を判断する際は、立証趣旨にこだわらず、実質を見るようにという趣旨だ。


「よく出来ているわね。これは、先生、期待しちゃうわ。」


そして、平成17年最決のとおり、実況見分調書は立証趣旨にこだわらず、再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になると解すべきところ、平成17年最決のとおり「このような内容の実況見分調書や写真撮影報告書等の証拠能力については、刑訴法326条の同意が得られない場合には、同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより、再現者の供述の録取部分及び写真については、再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の、被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。」よって、一種の供述録取書であるにも関わらず、322条1項の要件である署名押印を満たさないから少なくともその発言部分については、伝聞例外の要件を満たさず証拠能力がない。


「「「あちゃー」」」」女性陣が一気に落胆する*8


「これは、私の教え方が悪かったのね。平成17年最決は「実況見分調書は常に再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になると解すべき」なんていってないわ。平成17年最決の事案は、痴漢事案で、要するに無意識に触れたが、その後で被害者から指摘された後は身体に触れていないという否認事件*9だったわ。問題となったのは、男性被疑者が、警察署内で男性警察官を相手に犯行状況の再現を行った際の*10実況見分調書ね。」



「最決の事案を理解するには、証拠構造を理解しておく必要があるわ。被告人は捜査段階に自白したけど、公判で否認して被害者を証人尋問している。だから、主な有罪方向の直接証拠としては、捜査段階の自白と被害者の証言があるという構造よ。」



「うふふ。原審や原々審の判決文*11によれば、この2つのメインとなる証拠に対し、弁護人は、自白については任意性がない、信用性がないといって攻撃し、被害者証言も信用性がないといって攻撃したようね。裁判所は、自白の任意性を肯定した上で、自白及び被害者証言が信用できるとして一貫として有罪としているわね。ただ、主にその理由は内容の自然さ、合理性、動機、双方の主要部分での合致等であって、犯行の物理的可能性等は問題とされていないようね。」


「リサさんとひまわりさんが指摘したように、こういう状況では、当事者の設定する立証趣旨*12はともあれ、『(実況見分時に)こういう実演/供述がなされたこと』自体には何の意味はなくて、その実況見分調書に証拠としての意味があるとすれば『(犯行時に)こういう行為(=犯行)をしていたこと』だけよね。そうすると、まさに自白調書を実況見分調書というタイトルの書面上に録取しただけということになるわ。だから、『被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要がある』とされているのよ。」


なるほど、でも、そうすると、今回も、弁護人の指摘するとおり、「被告人が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこと」と考えるのはだめなのかな。そうすれば、同法322条1項所定の要件を満たす必要があることになるのではないかな。



「あんたね、結論がいくらよくても、過程がダメだと0点よ。検察官は『被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと』を立証趣旨として、物理的可能性を要証事実とすることを主張している。そして、例えば、現場の物理環境において被告人が自白するような態様の犯行が可能であったかを実験した際の記録としての写真等を、その結果を証明するために用いる場合には、『(実況見分時に)こういう実演/供述がなされたこと』に意味があるとして、非伝聞になるわ *13。」


「うふふ。今回は、甲野さんが公判で否認する供述をしているわ。この否認供述の信用性が否定できなければ、『合理的疑い』が残るとして無罪になるのではなくて? 今回の事案における検察官が冒頭陳述で描いた『絵』は、男性である被害者を抱えて移動させたり、軽自動車を押して海に突き落とすというかなり体力が要りそうで、元気が取り柄の大学生でも大変な犯行であるところ、物理的可能性が示されれば、現実に甲野さんが同様の軽自動車を用いて犯行を行うことができたという意味で、否認供述の信用性を弾劾する一要素になるのではないかしら*14。」


「後は、『そもそも検察の主張する方法では検察の主張通りになり得ない』という主張*15に対する反論にもなるわね。いくら海に向かって下りこう配といっても1、2度とほぼ平坦だし、地面も摩擦抵抗が大きそうね。もしかすると甲の供述する位置からだと、ギアをドライブに入れても車は動き出さないんじゃないかとか、逆に、ドライブに入れればすっと車が走り出して、車の底が岸壁にぶつかることはないんじゃないか。そういう疑問を持ったから、ひまわりさんはこうやって再現実験をしているのよ。こういう意味で物理的可能性が問題となっている場合には、写真はまさに、実況見分時に車をその通り動かすことができたことを示すものとして、非伝聞になるわね。」


「うふふ、もちろん、実務上は立証趣旨と要証事実が結果的に一致することが多い*16から、調査官解説も『当事者が設定した立証趣旨をそのまま前提にするとおよそ証拠としては無意味になるというような例外的な場合に、実質的な要証事実を考慮する必要があるという趣旨と解される』として*17、原則は当事者の立証趣旨が要証事実になるわね。本件も、検察官の主張するとおりの要証事実を認定すればいいのよ。」


「リサさん、それは言い過ぎよ。特にあんたが受ける司法試験では、受験生の要証事実に対する理解を試すため、必ずしも立証趣旨どおりの要証事実になる訳ではないから、立証趣旨=要証事実なんて浅い理解で論文を書いたら大きく間違うわよ。」


そうすると、写真については、非伝聞で問題なし、と。供述はどうかな。


「うふふ、写真だけだと、例えば甲野さんが男の人形を抱いている姿とか、車内の様子が写っているだけよ。これだけだと何の事だかさっぱりわからないわよね。だから、この写真が、「*18甲野太郎の体力からして、助手席から運転席まで70キロの男性を抱いて移動させられることを示す写真です」「*19その実験当時に行った動作は、サイドブレーキを『解除』するという動作だということを示す写真です」という、写真の意味を伝える上では、甲の説明は不可欠よ。あくまでも、実況見分事項を明確にしただけの指示説明に過ぎないから、『実況見分時』にこのような説明をしたことが大事であって、犯行時何をしたのかは問題になっていないわ。これも非伝聞ね。」


「あら、私は納得してないわ。供述部分は実質的にみて、犯行当時本件車両を海中に沈めて死体遺棄したことを立証しようとしているわ。だって、例えば、『私は,助手席の被害者をこのよう に運転席に移動させました。』と言っているでしょ。もし、実況見分時のことを指摘する趣旨なら『私は、助手席の(被害者に見立てた)人形をこのように運転席に移動させました。』と言えばいいはずで、指示説明の範囲を超えているわ。」


ひまわりさんは、細かい表現にこだわりすぎではなくて? 調査官解説が、立証趣旨と異なる要証事実の認定はあくまでも例外的な場合に過ぎないとした点を看過されているわ。」


「この辺りは微妙なところで、多分この点がそのまま争われれば、表現がちょっとミスリーディングだったというだけで、なお趣旨は実況見分時の指示説明だと言われてしまう可能性があるけれど*20、例えば、弁護人が写真に関連性があって正確に録取されたこと自体を争わないのであれば、実況見分調書の写真だけを同意書証として証拠採用した上で、被告人質問の際に、被告人に写真を見せて実況見分時のことを確認する等、実務的な工夫をすることもあるわね。」


寄せては引く波。潮騒を聞きながら、僕たちは、海辺で刑事訴訟法の話題で盛り上がりながら、夜を明かした。


参考:甲野太郎殺人・死体遺棄被告事件の全容
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。なお,【資料1】の供述内容は信用できるものとし,【資料2】の捜索差押許可状は適法に発付されたものとする。
【事 例】
1 警察は,平成21年1月17日,軽自動車(以下「本件車両」という。)がM埠頭の海中に沈ん
でいるとの通報を受け,海中から本件車両を引き上げたところ,その運転席からシートベルトを した状態のVの死体が発見された。司法解剖の結果,Vの死因は溺死ではなく,頸部圧迫による 窒息死であると判明した。警察が捜査すると,埠頭付近に設置された防犯カメラに本件車両を運 転している甲野太郎(以下「甲」という。)と助手席にいるVの姿が写っており,その日時が同年 1月13日午前3時5分であった。同年1月19日,警察が甲を取り調べると,甲は,Vの頸部 をロープで絞めて殺害し,死体を海中に捨てた旨供述したことから,警察は,同日,甲を殺人罪 及び死体遺棄罪で逮捕した。勾留後の取調べで,甲は,Vの別居中の妻である乙野花子(以下「乙」 という。)から依頼されてVを殺害したなどと供述したため,司法警察員警部補Pは,その供述を 調書に録取し,【資料1】の供述調書(本問題集8ページ参照)を作成した。
2 警察は,前記供述調書等を疎明資料として,殺人,死体遺棄の犯罪事実で,捜索すべき場所を T化粧品販売株式会社(以下「T社」という。)事務所とする捜索差押許可状の発付を請求し,裁 判官から【資料2】の捜索差押許可状(本問題集9ページ参照)の発付を受けた。なお,同事務 所では,T社の代表取締役である乙のほか,A及びBら7名が従業員として働いている。
Pは,5名の部下とともに,同年1月26日午前9時,同事務所に赴き,同事務所にいたBと 応対した。乙及びAらは不在であり,Pは,Bを介して乙に連絡を取ろうとしたが,連絡を取る ことができなかったため,同日午前9時15分,Bに前記捜索差押許可状を示して捜索を開始し た。Pらが同事務所内を捜索したところ,電話台の上の壁にあるフックにカレンダーが掛けられ ており,そのカレンダーを外すと,そのコンクリートの壁にボールペンで書かれた文字を消した 跡があった。Pらがその跡をよく見ると,「1/12△フトウ」となっており,「1/12」と「フトウ」 という文字までは読み取ることができたが,「△」の一文字分については読み取ることができなか った。そこで,Pらは,壁から約30センチメートル離れた位置から,その記載部分を写真撮影 した[写真1]。
3 同事務所内には,事務机等のほかに引き出し部分が5段あるレターケースがあり,Pらがその レターケースを捜索すると,その3段目の引き出し内に預金通帳2冊,パスポート1通,名刺 10枚,印鑑2個,はがき3枚が入っていた。Pが,Bに対し,その引き出しの使用者を尋ねた ところ,Bは,「だれが使っているのか分かりません。」と答えた。そこで,Pらがその預金通帳 2冊を取り出して確認すると,1冊目はX銀行の普通預金の通帳で,その名義人はAとなってい て,取引期間が平成20年6月6日からであり,現在も使われているものであった。2冊目はY 銀行の普通預金の通帳で,その名義人はAとなっていて,取引期間が平成20年10月10日か らであり,現在も使われているものであった。X銀行の預金口座には,不定期の入出金が多数回 あり,その通帳の平成21年1月14日の取引日欄に,カードによる現金30万円の出金が印字 されていて,その部分の右横に「→T.K」と鉛筆で書き込まれていたが,そのほかのページには 書き込みがなかった。また,Y銀行の預金口座には,T社からの入金が定期的にあり,電気代や 水道代などが定期的に出金されているほか,カードによる不定期の現金出金が多数回あった。そ の通帳には書き込みはなかった。次に,Pらがその引き出し内にあるパスポートなどを取り出し, それらの内容を確認すると,パスポートの名義が「乙野花子」で,名刺10枚は「乙野花子」と 印刷されており,はがき3枚のあて名は「乙野花子」となっていた。印鑑2個は,いずれも「A」 と刻印されていて,X銀行及びY銀行への届出印と似ていた。Pらは,その引き出し内にあった ものをいずれも元の位置に戻した上,その引き出し内を写真撮影した。
4 引き続き,Pらは,X銀行の預金通帳を事務机の上に置き,それを写真撮影しようとすると, Bは,「それはAさんの通帳なので写真を撮らないでください。」と述べ,その写真撮影に抗議し た。しかし,Pらは,「捜査に必要である。」と答え,その場で,その表紙及び印字されているす べてのページを写真撮影した[写真2]。さらに,Pらは,Y銀行の預金通帳を事務机の上に置き, 同様に,その表紙及び印字されているすべてのページを写真撮影した[写真3]。なお,Pらは, X銀行の預金通帳を差し押さえたが,Y銀行の預金通帳は差し押さえなかった。
5 次に,Pらは,パスポート,名刺,はがき及び印鑑を事務机の上に置き,パスポートの名義の 記載があるページを開いた上,そのページ,名刺10枚,はがき3枚のあて名部分及び印鑑2個 の刻印部分を順次写真撮影した[写真4]。なお,Pらは,そのパスポート,名刺,はがき及び印鑑をいずれも差し押さえず,捜索差押えを終了した。
6 その後,捜査を継続していたPらは,平成21年2月3日,甲の立会いの下,M埠頭において, 海中に転落した本件車両と同一型式の実験車両及びVと同じ重量の人形を用い,本件車両を海中 に転落させた状況を再現する実験を行った。なお,実験車両は,本件車両と同じオートマチック 仕様の軽自動車であり,現場は,岸壁に向かって約1度から2度の下り勾配になっていた。
Pらは,甲に対し,犯行当時と同じ方法で実験車両を海中に転落させるよう求めると,甲は, 本件車両を岸壁から約5メートル離れた地点に停車させたと説明してから,その地点に停車した 実験車両の助手席にある人形を両手で抱えて車外に持ち出した。甲は,その人形を運転席側ドア まで移動させてから車内の運転席に押し込み,その人形にシートベルトを締めた。そして,甲は, 運転席側ドアから車内に上半身を入れ,サイドブレーキを解除した上,セレクトレバーをドライ ブレンジにして運転席側ドアを閉めた。すると,同車両は,岸壁に向けて徐々に動き出し,前輪 が岸壁から落ちたものの,車底部が岸壁にぶつかったため,その上で止まり,海中に転落しなか った。甲は,同車両の後方に移動し,後部バンパーを両手で持ち上げ,前方に重心を移動させる と,同車両が海中に転落して沈んでいった。その後,Pらが海中から同車両を引き上げ,その車 底部を確認したところ,車底部の損傷箇所が同年1月17日に発見された本件車両と同じ位置に あった。
7 Pは,この実験結果につき,実況見分調書を作成した。同調書には,作成名義人であるPの署名押印があるほか,実況見分の日時,場所及び立会人についての記載があり,実況見分の目的と して「死体遺棄の手段方法を明らかにして,証拠を保全するため」との記載がある。加えて,実況見分の経過として,写真が添付され,その写真の下に甲の説明が記載されている。
具体的には,岸壁から約5メートル離れた地点に停止している実験車両を甲が指さしている場 面の写真,甲が両手で抱えた人形を運転席に向けて引きずっている場面の写真,甲が運転席に上半身を入れて,サイドブレーキを解除し,セレクトレバーをドライブレンジにした場面の写真, 同車両の前輪が岸壁から落ちたものの車底部が岸壁にぶつかってその上で同車両が止まっている 場面の写真,甲が同車両の後部バンパーを両手で持ち上げている場面の写真,同車両が岸壁から 海中に転落した場面の写真,同車両底部の損傷箇所の位置が分かる写真が添付されている。そし て,各写真の下に「私は,車をこのように停止させました。」,「私は,助手席の被害者をこのよう に運転席に移動させました。」,「私は,このようにサイドブレーキを解除してセレクトレバーをド ライブレンジにしました。」,「車は,このように岸壁の上で止まりました。」,「私は,このように 車の後部バンパーを持ち上げました。」,「車は,このように海に転落しました。」,「車の底には傷 が付いています。」との記載がある。
8 その後,同年2月9日,検察官は,被告人甲が乙と共謀の上,Vを殺害してその死体を遺棄し た旨の公訴事実で,甲を殺人罪及び死体遺棄罪により起訴した。被告人甲は,第一回公判期日に おいて,「自分は,殺人,死体遺棄の犯人ではない。」旨述べた。その後の証拠調べ手続において, 検察官が,前記実況見分調書につき,「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」とい う立証趣旨で証拠調べ請求したところ,弁護人は,その立証趣旨を「被告人が本件車両を海中に 沈めて死体遺棄したこと」であると考え,証拠とすることに不同意の意見を述べた。

まとめ
 なんとか週末中に21年までいくことができた。
 細かい論点を省いているところがあるが、省くべきではない等ご指摘をいただければありがたい。

*1:物理的に潰した場合の賠償額については、刑裁サイ太「大嘘判例八百選」24頁以下参照。

*2:刑法218条

*3:なお、状況によっては、14歳でも保護責任者遺棄罪の客体にはなり得る。東京地判昭和63年10月26日判例タイムズ690号245頁

*4:大規模庁では必ずしも全員が行けるとは限りません

*5:http://www.moj.go.jp/content/000006456.pdf

*6:ご指摘を受け補足しました。

*7:車は後で、リサさん家のスタッフが引き上げ、傷の位置を確認しました。

*8:採点実感の「本件では正に検察官が設定した立証趣旨が意味を持つ場合であるのに, 何らの説明もなく検察官の立証趣旨に拘束される必要がない,あるいは検察官の立証趣旨には意味がないとだけ断じ,最高裁判所判例の見解が前提としていた事案とは異なるにもかかわらず,刑事訴訟法第321条第3項所定の要件を満たすだけでなく, 同法第322条第1項所定の要件をも満たす必要があるとした答案が多数あった。法律家は常に結論に至る理由を示し説明しなければならない。このような答案について, あえて厳しい評価をすれば,事案分析能力・思考能力の不備・欠如を露呈するものと言わざるを得ない。」参照

*9:阪高判平成17年3月2日刑集59巻7号775頁

*10:もう1つ被害状況再現も問題となった

*11:大阪簡判平成16年10月1日刑集59巻7号759頁

*12:刑事訴訟規則189条1項。ご指摘を受け補足させていただきました。

*13:リークエ384頁参照

*14:ご指摘を受け、補訂させて頂きました

*15:が訴訟においてなされれば

*16:古江258頁参照

*17:芦澤平成17年度346頁

*18:甲野太郎は人形と一緒にM埠頭を旅行してますという写真(http://www.geocities.jp/mlhead11/odekake_index.htm参照)ではなくて

*19:Vの軽自動車は新車でピカピカですということを意味する写真ではなくて

*20:なお、出題趣旨は「供述しているような犯行態様が現場の客観的な環境との関係で物理的に可能であるか否かが正に問題になる事案であるとの理解が可能」とする。