アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

環境法ガール3 アニメを見ながら判例研究?! 〜平成24年第2問設問1

プレップ環境法〈第2版〉 (プレップシリーズ)

プレップ環境法〈第2版〉 (プレップシリーズ)


注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.アニメで判例研究!?


「今日は、判例研究にしましょう。」


 ある日の環境法ゼミ。ほむら先生はそう言うと、部屋を暗くし、スクリーンを下ろす。ゼミ生2人という小規模ゼミだから、フレキシブルな進行もできる。


「ポーニョ ポーニョ ポニョ さかなの子♪」


 スピーカーから響き渡る大音響。まあ、著作権法38条1項が非営利の上演を許しているから、これ自体は適法な訳だが*1

「さて、今日の判決は、差止判決なんだけど、訴訟法的な面は今日は置いておいて、実体的な側面を検討しましょう。」特徴的なエンドロールが終わると、ほむら先生は当然のごとく話を進める。


「つまり、公有水面埋立法4条に基づく知事の許可の合理性について検討する、という訳ですね。」何の違和感もなく話を続けるかなめさん。


「えっと、ちょっと待って下さいね。今日の映画と関係する判例って…。」


「「え、鞆の浦埋立免許差止め事件*2でしょ?」」二人の声がこだまする。あ、そういうことね。


宮崎駿監督が、『崖の上のポニョ』の構想を得るにあたって、鞆の浦に長期滞在したことから、宮崎ファンの『聖地訪問』の舞台にもなってるのよ。」と力説するほむら先生。


「そういえば、平成24年の司法試験過去問はこの判決の実体面とも関わりますよね。」こういって、かなめさんは、過去問を取り出した。

A県B町は,瀬戸内海に面した湾内に位置し,古くから海上交通の要衝として栄えた港町である。海岸には,中世からの港湾設備群や壮麗な神社等の歴史的建造物が並び,それらが良好な状態で保存されている。同じ湾内の,B町の対岸側にあるA県C町からは,B町海岸の歴史的建造物があたかも海に浮かんでいるように見えるため,C町からの景観は名勝として知られ,C町住民は,その特徴的な歴史的景観を日常的に遠望していた。
A県は,事業者として,県内の他地域における幹線道路の慢性的な交通渋滞を緩和するため,上 記湾内の公有水面を埋め立て,埋立地に新たな地上式の県道(以下「計画道路」という。)を設置する事業(以下「本件事業」という。)を計画した。計画道路は,C町を通る予定である。本件事業による湾の埋立てにより,B町の歴史的建造物が並ぶ海岸地先海面も埋め立てられることとなっ た。本件事業の計画に際し,埋立工事を行わず,別地区にトンネルを掘削する代替案も検討されたが,代替案では,幹線道路の交通混雑解消の効果が,埋立工事を行う場合の約70%であるとして, 採用されなかった。
なお,A県は,政府が瀬戸内海環境保全特別措置法第3条第1項に基づき策定した「瀬戸内海環境保全基本計画」に基づいて,「瀬戸内海環境保全に関するA県計画」を策定しており,これには, 「瀬戸内海の自然景観と一体をなしている史跡,名勝,天然記念物等については,その指定,管理等に係る制度の適正な運用等によりできるだけ良好な状態で保全するよう努めるものとする。」と の規定がある。
A県は,A県知事に対し,公有水面埋立法第4条第1項に基づき埋立免許を申請し,A県知事は, A県に対し,公有水面の埋立免許を付与した。その後,本件事業による埋立工事が竣工した結果, C町からは,B町の歴史的建造物が海に浮かんでいるようには見えなくなり,特徴的な歴史的景観が損なわれた。
〔設問1〕
C町に住むXは,長年,B町の歴史的建造物の見える景観を日常的に楽しんでいたが,本件事業による埋立てにより,特徴的な歴史的景観が損なわれ,精神的苦痛を感じているため,訴訟を 提起して,損害の賠償を受けたいと考えている。

(1) Xは,誰に対してどのような請求ができるか。
(2) 当該訴訟において予想される争点について,Xがどのような主張をすべきかを,予想される 被告側の反論にも言及しつつ,論ぜよ。
【資 料】
○ 公有水面埋立法(大正10年4月9日法律第57号)(抄)
第2条 埋立ヲ為サムトスル者ハ都道府県知事ノ免許ヲ受クヘシ

2,3 (略)

第4条 都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲ為スコトヲ得ズ

一 国土利用上適正且合理的ナルコト

二 其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト

三 埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト

埋立地ノ用途ニ照シ公共施設ノ配置及規模ガ適正ナルコト
五,六 (略)
2,3 (略)
○ 瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年10月2日法律第110号)(抄) (目的)
第1条 この法律は,瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を推進するための瀬戸内海の環境 の保全に関する計画の策定等に関し必要な事項を定めるとともに,特定施設の設置の規制,富栄 養化による被害の発生の防止,自然海浜保全等に関し特別の措置を講ずることにより,瀬戸内 海の環境の保全を図ることを目的とする。 (瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき計画)
第3条 政府は,瀬戸内海が,わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地と して,また,国民にとつて貴重な漁業資源の宝庫として,その恵沢を国民がひとしく享受し,後 代の国民に継承すべきものであることにかんがみ,瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を 推進するため,瀬戸内海の水質の保全,自然景観の保全等に関し,瀬戸内海の環境の保全に関す る基本となるべき計画(以下この章において「基本計画」という。)を策定しなければならない。
2,3 (略)
(瀬戸内海の環境の保全に関する府県計画)
第4条 関係府県知事は,基本計画に基づき,当該府県の区域において瀬戸内海の環境の保全に関 し実施すべき施策について,瀬戸内海の環境の保全に関する府県計画(以下この章において「府 県計画」という。)を定めるものとする。
2~5 (略)
(埋立て等についての特別の配慮)
第13条 関係府県知事は,瀬戸内海における公有水面埋立法(大正10年法律第57号)第2条 第1項の免許又は同法第42条第1項の承認については,第3条第1項の瀬戸内海の特殊性につ き十分配慮しなければならない。
2 (略)

2.景観利益とその保護
「平成24年の問題は、A県*3に対する事後的な国家賠償請求(国家賠償法1条)*4ね。」


「紛争の態様は違うけれども、景観利益に鑑みて、行政処分が違法か、ないしは、処分*5が国賠法上違法な行為かという問題に帰着するところは同じですね。」とかなめさん。


「景観利益といえば、国立のマンションの事件ですね。」女性陣二人のやりとりだけにならないよう、あわてて発言する。


「そう、国立のマンションに関しては様々な判決があるわ。例えば、市村判決*6といわれる判決は有名だけど、これはいわゆる国立景観訴訟最高裁判決の第一審*7ではないという辺りがトリビアね! 結局国立市民の負けだったけど、景観利益についての議論がかなり進展したわ。『国立は景観を失って、景観利益を得た』とも評されているわ*8。」サービス精神旺盛なほむら先生。


「国立景観訴訟最高裁判決*9は、景観利益を定義しているわ。」


良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(以下「景観利益」という。)は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。

もっとも、この景観利益の内容は、景観の性質、態様等によって異なり得るものであるし、社会の変化に伴って変化する可能性のあるものでもあるところ、現時点においては、私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず、景観利益を超えて「景観権」という権利性を有するものを認めることはできない。
 


「えっと、利益であって権利じゃないって、どういうことですかね? 不法行為でいうと、権利が侵害される必要はなく、法律上保護される利益が侵害されればいいはずなんだけど、ここでいう、環境利益だけど、環境権でないっていう議論は、実務上どんな意味をもつんだろう。」



「いい疑問ね。要するに、違法性の判断の段階でより厳重な、利益衡量のスクルーティニーに服するってことよ!」多分語感が格好いいってことで、横文字を使ってるな、ほむら先生。



最高裁は、こういっています。」フォローに入るかなめさん。

ところで、民法上の不法行為は、私法上の権利が侵害された場合だけではなく、法律上保護される利益が侵害された場合にも成立し得るものである(民法709条)が、本件におけるように建物の建築が第三者に対する関係において景観利益の違法な侵害となるかどうかは、被侵害利益である景観利益の性質と内容、当該景観の所在地の地域環境、侵害行為の態様、程度、侵害の経過等を総合的に考察して判断すべきである。そして、景観利益は、これが侵害された場合に被侵害者の生活妨害や健康被害を生じさせるという性質のものではないこと、景観利益の保護は、一方において当該地域における土地・建物の財産権に制限を加えることとなり、その範囲・内容等をめぐって周辺の住民相互間や財産権者との間で意見の対立が生ずることも予想されるのであるから、景観利益の保護とこれに伴う財産権等の規制は、第一次的には、民主的手続により定められた行政法規や当該地域の条例等によってなされることが予定されているものということができることなどからすれば、ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには、少なくとも、その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められると解するのが相当である。

「なるほど、景観利益に対する違法な侵害があったかについては、景観利益の性質と内容、当該景観の所在地の地域環境、侵害行為の態様、程度、侵害の経過等を総合考慮して判断すべきところ、景観利益の保護をどの程度行うべきかは、裁判所ではなく議会が決めるべきなので、法律等の違反がない限り、景観利益に対する違法な侵害を認めることはできない、こういうことか*10。」

「結局、国立景観訴訟最高裁判決は、建築確認を得て着工した時点では、まだ条例等による規制がなかったことを理由に不法行為の成立を否定したわ。」かなめさんが要約する。


3.鞆の浦埋立免許差止め事件の判断構造
鞆の浦埋立免許差止め事件では、不法行為ではなく、行政処分の違法性の判断の中で景観利益が考慮されているわ。ここでも、法律の『枠組み』が重要になるから押さえておく必要があるわね!」いや、わざとらしく人差し指を振らなくてもいいですって、ほむら先生。


「問題となった法的仕組みは、公有水面埋立法に関するものです。知事が埋め立てについて免許(同法2条)を与えるところ、その要件は、『国土利用上適正且合理的』(同法4条1項1号)である必要があり、ここに羈束裁量が認められます。この裁量がどのように制限・制約されるかを考えるに、瀬戸内法13条は、公有水面埋立法上の免許につき、後代の国民に継承すべき瀬戸内海の美しい景観(同法3条)という特殊性への十分な配慮を定め、また、同法3条及び4条により、政府と知事が計画を定めるべきことを定めています。広島地裁は、政府と知事が定めた計画が鞆の浦*11の景勝の保護対策推進を定めていると指摘した上で、法令は、『文化的、歴史的価値のある鞆の浦の景観をできるだけ良好な状態で保全することを、国土利用上の行政目的としている』とし、公有水面埋立法の許可にあたっては、景観への影響と事業の必要性及び公共性の高さとを比較衡量の上、瀬戸内海の良好な景観をできるだけ保全するという瀬戸内法の趣旨を踏まえつつ、合理的に判断すべきで、この判断が不合理であれば免許は裁量権を逸脱した違法行為に該当すると判示しています。」長大で理解に時間がかかる判決のポイントがかなめさんの手によってすらすらとまとめられる。


「そもそも、国立景観訴訟最高裁判決のいうように、景観利益は一般には強い利益ではないから、単純に景観利益と事業の必要性及び公共性の高さを比較してしまうと、負けてしまうことが多いけれど、瀬戸内法をいわばテコとして、比較衡量において景観利益を十分に考慮して判断すべきことを定めているというのが特徴ね。」ほむら先生がポイントを解説する。


「このような判断枠組みを前提に、本件事業により、鞆の景観は大きく様変わりし、その全体としての美しさが損なわれるのはもちろん、それが醸し出す文化的、歴史的価値もまた大きく低減し、瀬戸内法等が公益として保護しようとしている景観を侵害するものといえるから、これについての政策判断は慎重になされるべきであり、その拠り所とした調査及び検討が不十分なものであったり、その判断内容が不合理なものである場合には、本件埋立免許は、合理性を欠く違法なものとなると判示したわ。そして、例えば、交通渋滞緩和を理由とする本件事業の必要性の根拠として知事が依拠した調査結果が、交通量を時間単位で把握していない不十分なものである等、不合理なものであること等を指摘して、知事の公有水面埋立法上の免許が裁量権を逸脱した違法なものとしているわ。」


「被告側は、渋滞回避以外にも、被告側は小型船だまりの整備、フェリーふ頭の新設、防災整備、下水道整備等、ありとあらゆる本件事業の必要性を主張して、公有水面埋立法に基づく免許は合理的だと主張したけれども、広島地裁はそれを1つ1つ退け、被告をリングサイドに追い詰めて行ったわ。」


4.『裁判所のなすべき判断』が求められていない理由
「じゃあ、平成24年の問題を検討しましょうか。こちらは、一応国賠だから、枠組みは、国立景観訴訟最高裁判決の方になりそうね。」ほむら先生が話題を変える。


「えっと、でも、結局、国立景観訴訟最高裁判決の枠組みでも、景観利益に対する違法な侵害があったかの判断において行政法違反等が必要なところ、その法律違反って、知事が行った公有水面埋立法上の行政処分(免許)が違法だというものじゃないんですか?」あまり自信がないが、一応指摘してみる。


「うふふ、国賠だから、当然には不法行為についての判断は適用されないし、そもそも、国立景観訴訟最高裁判決に反対するというのもアリだけど、1つの方法としては、こういうルートもありえるわね。そうすると、具体的にはどうなるのかしら。」ほむら先生が微笑む。



国家賠償法1条の要件は、(1)国又は公共団体、(2)公務員、(3)公権力の行使、(4)故意・過失、(5)違法性、(6)損害・因果関係*12です。(1)A県という地方公共団体の(2)公務員である知事が、(3)行政処分という公権力の行使をしているので、(1)〜(3)の要件は特に問題はありません。」かなめさんが議論を整理する。


「問題は(4)以下ですが、(4)違法性、つまり、景観利益に対する違法な侵害があったかの判断をするための、法令違反の有無のところでは、原告は、鞆の浦埋立免許差止め事件判決を参考に、B町の歴史的建造物が海に浮かんでいるように見える景観は名勝として知られていること、『瀬戸内海環境保全に関するA県計画』では『名勝』『については,その指定,管理等に係る制度の適正な運用等によりできるだけ良好な状態で保全するよう努めるものとする。』と規定していること、ところが、本件事業により特徴的な歴史的景観が損なわれたこと等を指摘し、法令は、文化的、歴史的価値のあるB町の景観をできるだけ良好な状態で保全することを、国土利用上の行政目的としているとして、A県知事は、景観利益を十分に考慮して判断すべきであるところ、そのような配慮を怠っており、裁量を逸脱した違法があることから、国立景観訴訟最高裁判決を前提としても、景観利益に対する違法な侵害があったと主張するんじゃないかな。後は、(5)このような裁量違反に少なくとも過失があり、それにより、(6)景観を楽しんでいた原告に、因果関係ある精神的損害が発生した、こういう感じかな。」かなめさんに整理してもらった、鞆の浦埋立免許差止め事件判決を本件にあてはめるとこんな感じだろう。


「でも、被告はそう簡単に『はい』とは言わないわよね。かなめさん、『悪魔の代弁人』として、被告の立場からこの主張に反論してくれるかな。」ほむら先生は、議論の盛り上げ方を知っている*13


「まず最初に、国立景観訴訟の最高裁判決が、景観利益の享有主体を『良好な景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者』に限定しているところが指摘できます。特に、鞆の浦埋立免許差止め事件判決では、原告適格の判断ながらも、景観利益を理由とした原告適格保持者を鞆町居住者に限定していることが参考になるでしょう*14。B町ならともかく、C町は、『近接する地域』とは言えません。」かなめさんの鋭い指摘。


「でも、そもそも、B町からは、歴史的建築物自体は見えるけど、それが『B町海岸の歴史的建造物があたかも海に浮かんでいるように見える』訳ではないですよね。瀬戸内法上の保護の理由は、B町の景観が『名勝』とされることである点に帰するところ、対岸である『C町からの景観』こそが『名勝として知られ』ている訳です。そして、その『C町住民は,その特徴的な歴史的景観を日常的に遠望していた』のですから、C町民である原告は『良好な景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者』に該当します。」


鞆の浦埋立免許差止め事件判決を活用した反論に対し、問題文をうまく使って再反論しているわね。かなめさんの反論は、景観利益を主張できる主体の点だけかしら。」



「いえ、まだあります。A県知事は、景観利益を無視している訳ではありません。鞆の浦埋立免許差止め事件判決で、その拠り所とした調査及び検討が不十分なものであったり、その判断内容が不合理なものである場合には、本件埋立免許は、合理性を欠く違法なものとなるとしていることは、逆に言えば、知事の調査検討が十分で、判断内容が合理的であれば、適法ってことです。本件では、慢性的な交通渋滞を緩和するという重要な公益上の必要性に鑑み、本件事業が企画されました。そして、湾の埋め立て案だけではなく、トンネル掘削の代替案も検討されたものの、交通混雑解消効果が約70%に過ぎないとしてより交通混雑解消効果が高い湾の埋め立て案を採用した訳です。その意味で、十分な調査検討をした上で、合理的判断をした適法なものと言えます。」


「う〜ん、この点は難しいけれど、鞆の浦埋立免許差止め事件判決が『(埋め立て案の、迂回トンネル案に比べた)優位性の程度は、鞆の景観の保全を犠牲にしてまでもしなければならないものであるかについては、大きな疑問が残る』といっているところを参考にすると、本件でも、埋め立て案の優位性は約30%に過ぎず、これがB町の歴史的景観を犠牲にする程のものではないという点が指摘できるかな。」


「うふふ、二人とも、いい議論にたどり着いているわね、そして、これが、憲法なんかと違って、本問では、『裁判官』の立場の判断を求められていない理由ね。」謎の微笑みを浮かべるほむら先生。


「『裁判官』の立場の判断を求められていない理由、ですか?」



「あ、そうか。30%がB町の歴史的景観を犠牲にする程のものかという点についての考慮要素等がなく、仮に『裁判官』の立場の判断をするとすれば、『素の価値判断』をするしかなくなってしまうってことですね。」何かに気づいたかのような顔をするかなめさん。


星野英一先生もおっしゃっていたわ。『利益考量や価値判断の面においては、法律家に特に権威があるのではない。(略)利益考量・価値判断については、法律家といえども、一市民として、または一人間としての資格においてすることしかできない。』*15だからこそ、法令等に基づく枠付けのある比較考量ができる要素があるならまだしも、その要素が問題文にない本件では、裁判官としての判断が求められていないと言う事ができるかもしれないわね。」


「そうすると、この事案では、原告が勝てるかどうかは、問題文外の事情によるという感じですかね。」


「そうね。でも、国賠請求をしているこの段階ではもう、宗介の住んでいた町と同じで、B町の海岸は水没して、歴史的建造物が海上に浮かび上がるような景観は消滅してしまっているわ。ここに、国家賠償と比較した際の、鞆の浦埋立免許差止め事件のような、事前差し止めの優位性ね。」ポニョのストーリーとつなげるほむら先生。



「訴訟手法の選択って大事なんですね。環境法は実体法だけではなく、救済法についてももっと勉強しなきゃいけませんね!」


「そうよ、実務家は、実体法と手続法の双方に習熟してはじめて依頼者の権利、特に環境事件では、かけがえのない地球環境を守ることができるわ!ぽにょと宗介のように、実体法と手続法が手と手を取り合って協力する必要がある訳ね。おててはいいな つないじゃお♪」


その日は、ほむら先生の希望で、3人でカラオケに行った。3人がそれぞれ何を歌ったかは「秘密」ということで。

まとめ
 環境法ガールは、約4回で司法試験1年分を説明するというペースなので、1回分はさくっと書けるはずなのですが、実はあんまりさくっと書けておらず、逆に、「ネタ」が32個(8年×4回)必要という事実に頭を抱えております。事実上、「仕組み解釈で解く行政法各論(環境法編)」みたいになっているのはお約束ということで。

*1:「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」岡村久道「著作権法」新訂版244、256頁参照。

*2:広島地判平成21年10月1日判例時報2060号3頁

*3:A県知事ではない。「公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」(国家賠償法1条)参照。

*4:A県知事の処分又はA県の埋立工事は、「公権力の行使」であるところ、「公権力の行使という概念は、国賠法1条と民法不法行為法の適用領域を分ける分水嶺」(阿部行政法解釈学II432頁)であり、普通の民法709条を使うのは難しいだろう。

*5:又は工事

*6:東京地判平成13年12月4日判時1791号3頁

*7:東京地判決平成14年12月18日判時1829号36頁

*8:実務環境法講義232頁

*9:最判平成18年3月30日民集60巻3号948頁

*10:権利と法的利益の相違につき環境法BASIC43頁のコラムも参照

*11:鞆公園

*12:塩野II302頁以下

*13:<悪魔の代弁人>と前置きすることの効果 - カフェパウゼをあなたと参照

*14:鞆町は比較的狭い範囲で成り立っている行政区画であり、その中心に本件湾が存在すること(〔証拠略〕)からすれば、鞆町に居住している者は、鞆の景観による恵沢を日常的に享受している者であると推認されるから、本件埋立免許の差止めを求めるについて、行訴法所定の法律上の利益を有する者であるといえる。しかし、鞆町に居住していない者は、上記景観による恵沢を日常的に享受するものとまではいい難いから、本件埋立免許の差止めを求めるについて、行訴法所定の法律上の利益を有する者とはいえない。

*15:星野英一民法論集第1巻」7頁