アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

環境ガール5 審議会で大活躍!? 〜平成23年第1問設問1

自治体環境行政法 第6版【新版発売!!】

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注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.審議会に引っ張りだこ?
「今日のゼミは、審議会の準備を手伝ってもらうわよ。」開口一番、ほむら先生が、高らかに宣言した。


「審議会って、もう先生は法制審の委員をされているんですか?」驚くかなめさん。


「残念ながら、私のような『駆け出し准教授』は、政府の法制審議会の委員のではないわ。でも、こういう地方の大学だと、地方公共団体の審議会・委員会関係のお仕事が回ってくるわ。特に、私の場合、一人で『女性枠』と『学者枠』を満たすことができるから便利みたいで、よくお鉢が回ってくるのよ*1。来週、A県の環境審議会産業廃棄物部会があって、5年に1度の『産業廃棄物処理施設の設置に係る手続に関する条例』の見直しに関する答申をすることになっているから、一緒に検討しましょう!」こういって、ほむら先生は僕たちに資料を渡してくれた。

以下の文章を読んで,各設問に答えよ。
A県は,平成10年に,「産業廃棄物処理施設の設置に係る手続に関する条例」を制定し,これを施行した。その中では,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)の下で許可対象になる産業廃棄物最終処分場に関し,これを計画する事業者に対して,同法に基づく申請の前に,次の諸事項が義務付けられていた。
1 事業計画書の地元市町村への送付
2 地元住民を対象とする説明会の開催
3 地元市町村及び地元住民から提出される意見書の受領
4 意見書に対する見解書の公表
5 見解書に対する再意見書の受領と再見解書の公表
6 これらを踏まえた事業者主催の討論会の開催
7 以上の手続の状況の知事への報告
A県B町において産業廃棄物最終処分場(安定型)を計画しているC社(A県知事から産業廃棄物処理業の許可を得ている。)は,廃棄物処理法に基づく許可申請を目指し,前記A県条例に基づいて,B町や地元住民に対して真摯に対応した。その結果,地下水汚染を懸念する一部の地元住民からは,合意を得られなかったものの,やり取りを通じて,B町及び大多数の地元住民の了解を取り付けることができた。そこで,廃棄物処理法に基づいて許可申請をしたところ,平成11年にA県知事から産業廃棄物最終処分場の設置許可を取得できた。

〔設問1〕
廃棄物処理法の平成9年改正においては,「住民参加を取り入れた」と評される規定が導入されている。その背景事情と必要性については,改正法案の前提となった審議会の報告書において,【資料】のように説明されていた。それにもかかわらず,改正法制定後の平成10年にA県が上記条例を制定したことには,どのような事情があると考えられるか。A県の立場に立って,複数の視点から,
1改正法の限界,
2条例手続の必要性について論ぜよ。
なお,いわゆる地方分権改革及び条例の適法性については,考慮しないこととする。


【資 料】厚生省生活環境審議会廃棄物処理部会産業廃棄物専門委員会『今後の産業廃棄物対策の基 本的方向について』(平成8年9月)
「最終処分場等産業廃棄物処理施設の設置に当たっては都道府県知事の許可を受けることとなっているが,現行の廃棄物処理法上,技術上の基準に適合していることと最終処分場について災害防止のための計画が定められていることが要件となっているものの,直接,住民等とのかかわり合い に係る規定は設けられていないことから,要綱等においてこれを補完する対応がなされているとこ ろである。施設の円滑な設置を進めていくためには,施設の設置に伴う地域の生活環境への影響に 十分に配慮し,悪影響を及ぼさないものであることについて住民の十分な理解を得ていくことは重 要であり,法律上,施設の設置の許可に至る手続の中に,住民等の理解を得ていくための仕組みを 設けることが必要である。このため,施設を設置しようとする者は施設の立地に伴う生活環境への 影響を調査し,その結果を都道府県が事業計画と併せて公告・縦覧に付すとともに,関係住民や市 町村の意見を聴取する等の手続を法令で明確に定めるべきである。その際,専門家により審査する機関を設けるなどにより,事業の内容や生活環境への影響を客観的に審査できる仕組みを導入すべきである。」


2.ミニアセスメント導入の経緯
「これは、ミニアセスメントの話ですね。」と、かなめさん。



「アセスメントって、環境影響評価法の話ですか?」とりあえず、話に加わってみる。



「いいえ、廃掃法の生活環境影響調査制度のことよ。廃掃法は、平成9年改正によって、廃棄物処理施設の設置が周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査をすることを義務付けた(廃掃法15条3項)のだけど、これは、環境影響評価法のもとでの環境アセスメントほどの充実した内容ではないために、ミニ・アセスメントと呼ばれるのよ*2」優しく解説してくれるほむら先生。


「資料にもあるとおり、平成9年改正前から、地方自治体が要綱等で生活環境への影響を最少化し、住民の十分な理解を得ていくための手続を定めていたけれど、平成9年改正によって、これを生活環境影響調査の形で廃掃法の中で法制化したんですね。」



「かなめさんの要約はポイントを突いているけど、環境法は、現実にある問題意識を反映しながら改正に改正が積み重なってきたわ。廃掃法なんて、口が悪い先生は『需要に応えて計画性のない増改築をした温泉旅館』なんて呼んでいるわよ*3。だからこそ、環境法を理解するには、各制度を法政策の発展の中に位置付けて理解することが重要よ*4。だから、この経緯をより深く理解するために、衆議院*5厚生委員会の議事録を見てみましょうか。」ほむら先生が、資料を見せてくれる。

国民の皆さんの不安や不信感の高まりが、近年、最終処分場等の廃棄物処理施設をめぐりまして、地域住民の反対運動が激しさを増している要因の一つとなっているものというふうに認識いたしております。
(中略)
今御説明を申し上げましたような不安あるいは不信感というものがあるわけでございますが、それを払拭いたしますために、今回の改正案におきましては、廃棄物処理施設に対します住民の不安感の解消に資するために、施設の設置手続といたしまして、生活環境影響調査の実施あるいは申請書等の告示縦覧、住民や市町村長の意見聴取、それから、設置許可に当たりましての専門家の意見聴取等を盛り込みますとともに、許可の要件といたしまして、従来の一律的な基準に加えまして、新たに地域の生活環境への適正な配慮というものを求めることとしておりまして、これによりまして、住民の意見を適切に踏まえつつ、地域の生活環境の保全にきめ細かく配慮した施設の確保を図っているところでございます。
第140回国会衆議院厚生委員会会議録32号(平成9年6月4日)(小野昭雄・厚生労働省生活衛生局長答弁)

「そうか、平成9年改正の背景として、処理場に対する地域の不信感、不安感からの反対運動の高まりというのがあったのか。」



「そうよ。その不信感、不安感は、これまで各都道府県が要綱等を定め、周辺住民の同意を得るように指導することで対応してきたんだけど、この点についても答弁がされているわ。」

 これまで、廃棄物処理法におきましては、住民等の意見を適切に反映させる手続が定められていなかったために、各都道府県におきまして、これらを補完するために、要綱等によりまして独自の設置手続が定められてきたという経緯がございます。
 今回の改正案におきましては、施設の設置手続につきまして、都道府県の要綱等の目的、内容、限界といったものも十分踏まえながら、必要なものについて共通のルールとして法律に明確に定めることとしたものでございます。
 廃棄物が広域的に処理されているという実態を踏まえますと、今後は、基本的には、今回の改正に基づいて全国統一的なルールによって実施されることが望ましいと考えております。


(中略)


従来、法律に基づきまして設置許可の手続がきちんと定められていなかったということがあったわけでございますので、都道府県ごとに要綱なりなんなりをつくりまして地域の皆さんの御意見を聞く。これはいろいろなやり方がございますし、都道府県によりましてもばらばらな部分もございますけれども、要綱等で対応してきた。それがまた、要綱というのは法律事項ではございませんから、その要綱で定めた手続についていろいろトラブルも多いということがございましたので、地方公共団体の担当者の方々の御意見も十分お伺いをした上で今回のような手続を定めたものでございます。(中略)
それで、今回、住民同意ということは求めておりませんが、従来の要綱上の住民同意が目指していたものは、今回の手続を経ることによって、その目指していたものは達成できるのではないかと私どもとしては考えております
第140回国会衆議院厚生委員会会議録32号(平成9年6月4日)(小野昭雄・厚生労働省生活衛生局長答弁)


「なるほど、これまでの要綱による手続を法律が必要かつ十分に吸収し、ミニアセスメントという全国統一的ルールでやっていくということが示された訳ですね。」かなめさんは、資料の要点を見抜くのがうまい。



「どうして、要綱じゃだめなのかな。」と疑問を指摘してみる。



「要綱は、特定の政策の実現のために、行政指導等の非権力的手法を用いて私人の行動をコントロールするにあたっての、議会の議決を経ず行政きりで決定された一律的な内部的ガイドラインのことをいうわ*6。条例は議会を通す必要があるから、議会対策や条例審査等の手続が必要で、時間もかかる訳。要綱でやれば、『早い・易い・ウマい』*7ということで、自治体の現場としては、要綱を使ってインフォーマルにやりたい訳よ。」微笑むほむら先生。


「その言い方だと、まるでどこかのファーストフードみたいですね。」



「あと、もう一点は、多分条例という形でやってしまうと違法なので、要綱を元にした行政指導という形にするということもあるわね*8。」


「ほむら先生がおっしゃっているのは、周辺住民の同意ですよね。財産権(憲法29条)を制約する方法として、処分場を作りたければ周辺住民の何割以上の同意を取り付けないといけないという仕組みを正面から条例で作ってしまえば、周辺住民は同意するもしないも自由*9なので、設置者に不可能を強いることになり、憲法上の疑義が生じます*10!」かなめさんは憲法も得意だ。確か21年の過去問じゃなかったっけかな。



「条例でやるのが憲法違反なら、要綱でも憲法違反なんじゃないかな。」とツッコミを入れてみる。



「うふふ、地方自治体側に言わせれば、そこが『要綱行政』の妙味なのよね。建前としては、あくまでも事業者の方に『任意』に周辺住民同意を取得してもらっているというだけだから、違法違憲の批判を回避できる。でも、実際には、行政とトラブルを起こして得な事はないと言って事業者はこの要綱に従ってくれるから政策目的も実現できるって訳ね*11。環境法の政策立案等では環境庁等中央官庁の果たす役割は大きいけれど、法システムと現実世界とがぶつかりあう最前線、第一線に経っているのは、何と言っても自治体職員よね*12。環境法を学ぶ時は、結論としてこれに賛成しないとしても、こういう現実の必要性から生じた実務的対応についてもきちんと理解しておくことが大事よ。」


「もし、事業者が要綱に従わないといったらどうなるんですか?」



許可申請の条件として同意書(協定書)を持って来なさいという要綱が比較的多かったけど、単なる行政指導なんだから、その条件を満たしていなくとも、許可申請がされた以上は、行手法7条に従って遅滞なく審査を開始すべきであり、行政指導に協力しないとの明確な意思表示がされた後も指導を継続して審査を行わないことは違法だわ*13。」


「それでも、実際には、訴訟まで起こす事業者は少なく、トラブルを回避するため、事実上要綱に従って来た訳ですよね。このように、要綱によって事実上の義務を課すことについては、法治主義の観点から問題があると批判されていますよね *14。」


「そのとおりよ。平成9年時の答弁で『要綱というのは法律事項ではございませんから、その要綱で定めた手続についていろいろトラブルも多いということがございました』という答弁があったのも、こういう要綱行政の問題を踏まえての答弁といえるかもしれないわ。」




3.ミニアセスメントの限界
「えっと、国会答弁を見る限り、廃掃法の平成9年改正で、要綱行政は一掃され、廃掃法に基づく全国一律の対応になったはずですよね。それなのに、A県が平成10年に条例を制定したのはいったいどうしてなんですか。」二人の議論を聞いているうちに湧いて来た、疑問。


「いい視点ね。こうやって常日頃から疑問を持っておくのが大事よ。まず、ミニアセスメントは、条文上、どういう手続になっているのかしら。」


「まず、事業者側で許可申請前に地域の生活環境への影響を調査し、その後で許可申請をします。その後に、政令で定める施設の場合には、関係市町村からの意見聴取、告示縦覧と関係住民からの意見書の提出、専門的知識を有する者の意見聴取等が行われます。その結果を踏まえ、地域の生活環境に適正な配慮が行われているかどうかについて審査をして、許可をするという仕組みです。*15


「そうね。実務上、許可申請の段階では、既に施設の内容が決まってしまっている訳だけど、告示縦覧されるのは許可申請後で、色々と施設の内容等について動かせる申請前の事業者の調査の段階では何の情報も住民に与えられないという、タイミングの遅さが批判されているわ*16。」


「たしか、住民参加手続についても、意見書を出すだけで、直接事業者と相対して議論を述べる等、処理施設に対する住民の不安を解消する手続がないという、手続内容の問題も指摘されていましたよね*17。」かなめさんも同調する。


「そもそも、許可の実体要件も、計画が地域の生活環境に適正な配慮が行われていること(15条の2第1項2号)であって、事業者が地域の生活環境に配慮して住民に対し誠実に対応したか、じゃないんだよなぁ。」


「そう、こういう限界があるからこそ、A県としては、平成9年改正後も、住民の不安を払拭し、生活環境を保全するための方法を補完的に定める必要があり、法治主義の観点等に鑑みて要綱ではなく条例という形を取ったということね。」


「なるほど、だからこそ、条例では、廃掃法に基づく許可申請前の、まだ計画が完全には固まっていない段階で説明会の開催、意見書と見解書の往復、討論会の開催等を要請することで、タイミングを前倒しにして、住民が直接事業者と対話をする場を設け、住民の不安解消に役立てようとしたってことか。」


地方分権改革後は、廃掃法上A県に委ねられているほとんどの事務が法定受託事務となった訳だけど(廃掃法24条の4)、これは都道府県の事務である以上、憲法94条に基づいて条例制定権の対象になりますね *18。」かなめさんは、*19地方分権改革や、条例の適法性についても思い至っている。



「二人とも、良くできているじゃない。じゃあ、これを前提に、最近の具体的な事例を踏まえた、『産業廃棄物処理施設の設置に係る手続に関する条例』の見直しについて検討しましょう!」


今日もまた、環境法ゼミは、時間割上の時間を大幅にオーバーして続いたのだった。

まとめ
 あけまして、おめでとうございます。
 平成が26年になるとともに、環境法ガールも平成23年に入りました。
 本年の目標は、毎日コツコツと1日1作法学ガール新作をアップすることで、5月までの150日で150本をアップし、全過去問を解説し終わることです。

*1:なお、「『理論しか知らない研究者』は、比較優位のなかで、弁護士との競争に破れて行くだろう」とする北村602頁参照

*2:北村473頁

*3:北村469頁

*4:北村33〜34頁参照

*5:北村474頁はこれを「参議院」としているが、「衆議院」の誤り。

*6:自治体環境行政法47頁

*7:自治体環境行政法50頁

*8:自治体環境行政法54頁

*9:不合理に同意を拒んではならないという法規範はない

*10:自治体環境行政法226頁、なお、条例と要綱で住民同意を求める法的仕組みを作ったことを、憲法94条との関係で有効とした名古屋高判平成15年4月16日参照

*11:自治体環境行政法54頁、225頁

*12:自治体環境行政法1頁

*13:北村513頁、大阪高判平成16年5月28日判時1901号28頁

*14:自治体環境行政法54条頁、なお、地方自治法14条2項参照。

*15:Basic242頁の図参照

*16:北村475頁

*17:北村475頁

*18:北村510頁

*19:平成23年の問題では「考慮しない」とされた