アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

環境法ガール8 ライバル出現!ティータイムの大騒動その1 〜平成22年第1問設問1

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.波瀾万丈ティータイム
「あ、先輩、お久しぶりです!」


 ほむら先生の研究室に入ると、「先客」が手を振っていた。



「あ、さくらちゃん。」と、僕が言うと、ほむら先生とかなめさんの視線が、僕に集まる。


「そちらの、さくら、さんとは、どのようなご関係で?」かなめさんの言葉がどことなく刺々しい。



「えっと、近所に住んでた幼馴染だよ。しばらく見ないうちに大きくなったね。」



「あら、二人は知り合いだったのね?」目を丸くするほむら先生。



「学部1年のさくらと申します。よろしくお願いします。」色素が薄く、光の加減によっては桜色にも見えるまっすぐな長髪が特徴的な少女がお辞儀をする。



法科大学院2年のかなめです。よろしくね。」笑顔で挨拶をするかなめさんの表情の奥にわずかにぎこちないものを感じる



「さくらちゃんは、どうしてここに?」



「大学の法学部に進学して、ほむら先生の行政法を取っていたんですけど、コメントシートを書いたら、ほむら先生に研究室に来るよう誘われて。」




「コメントシートでこの間の鋭い質問をしたのもさくらさんなのよね。」こう言って、ほむら先生は、さくらさんの新しいコメントシートを取り出す。

各論点について、文理解釈・拡張解釈・類推解釈・反対解釈をすること自体はできるんです。でも、どの解釈を採用すべきかがどこにも書いてないんです! 判例は一見妥当に見えるけど、判例を批判する評釈を読むと本当に妥当かがもう分からなくなるんです!*1

「あ、これは僕も学部生の頃思っていたな。結局、大学の学問に『正解』はないって話に帰着するよね*2。」



「これから、期末テストだから、授業でも言うつもりだったけど、法学には大きく分けて2つのパートがあるの。基本と応用といってもいいかしらね。基本というのは法律を学ぶ人みんなが思考の前提として共有しているもの。応用というのは、議論の説得性のパート。基本は、応用の前提になるもので、例外はあるけど*3条文、定義、基本原理、制度趣旨、確定判例とかが具体例ね。これは、学部生のみんなにはまず理解して欲しいことだわ。そして、これを理解していることを前提に、応用として議論の説得性が問題となるわ。」


「例えば、行政のやった『変な事』に文句をつけたい事案があるとする。この場合に、例えば『原告がかわいそうだから、これも『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』(行政事件訴訟法3条2項)に含めて、取消訴訟で争わせるべきだ』みたいな議論をしてはいけないってことですかね。」かなめさんが例を出す。



「でも、青写真判決が判例変更されて、取消訴訟の間口が広くなったって、勉強したんですが。」髪の毛と同じで、発言もストレートなさくらちゃん。



「もちろん、そういう判例を使って、『判例の枠組み』に本事例を乗せて、『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』(行政事件訴訟法3条2項)なんだという議論は、説得的な議論になり得るよ。でも、処分性についての基本的な理解が欠けたまま、救済のために処分性を拡張しようなんて言ってみても議論の説得力がないでしょ。きちんとした説得的議論をするためには、基本をしっかりと理解しておくことが大事ってことだよ。」さくらちゃんにもわかるよう、できるだけ優しく説明する。


「もちろん、勉強が進んで、例えば学者になれば基本的な判例を疑ってみるとか、そういう方法で『新たな研究の切り口』を見つけることもできるけど、基本的にさくらさんのような学部生にはこのようなことは期待していないわ。」ほむら先生も補足する。



「授業で学ぶ内容の中には、議論の前提として押さえておくべき基本の部分があって、ここについては、『正解』がある。でも、それ以外の応用の部分は、こういう考えも説得的、ああいう考えも説得的という『相対的』なものに過ぎないから、まさに『正解』がない世界。反対説に配慮しながら、自分の考えを取るべき理由を述べれば、それが評価されるんだよね。」自分の学部時代の悩みを思い出しながら説明する。



「なるほど、先輩の説明で、少し分かった気がします!」僕には素直なさくらちゃん。


「せっかくだから、放課後ティータイム恒例の環境法の検討会にしちゃいましょうか。具体的な問題を解いた方がわかりやすいわ。」ほむら先生が提案する。

使用済み物品については,循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)の下に,容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(平成7年法律第112号。以下「容器 包装リサイクル法」という。)等の個別リサイクル法が制定されている。これに関して,以下の各設 問に答えよ。
〔設問1〕
循環型社会形成推進基本法第11条,第18条では,使用済み物品に関する共通の「考え方」 が示されている。

(1) この「考え方」は容器包装リサイクル法のどのような仕組みに反映されているか。

(2) 上記(1)で述べた容器包装リサイクル法の仕組みは,循環型社会形成推進基本法に照らして十分なものとなっているか。上記の「考え方」を簡潔に示した上,理由を付して答えよ。

2.リサイクル制度の基本原理

「うぅ、難しいです…」苦し気な声を出すさくらちゃん。



「まあ、新司法試験の問題なんだから、1年生にとって難しいのはしょうがないわよ。別にこれで単位をあげるかを決める訳じゃないんだから、気楽に、お菓子でもつまみながら頭の体操をしてみましょう。」こう言っておまんじゅうと紅茶を出すほむら先生。


「和菓子と、紅茶ですか?」目を丸くするさくらちゃん。


ダージリンのストレートは、和菓子にも合うのよ。騙されたと思って試してご覧なさい。」微笑むほむら先生。




「意外と美味しいですね! 食わず嫌いではなくて、試してみる事が大事ですね。」さくらちゃんが評価する。



「この問題も食わず嫌いはだめ。試しに解いて見ないといけないわよ。」ほむら先生が優しく話を本題に戻す。



「こういう問題が出た時、どう着手したらいいか、『解き方の道筋』が分からないんです。」さくらちゃんの悩みは、法学の勉強を始めた人共通の悩みだろう。



「とりあえず、条文から初めてみたらどうかな。今回は、循環基本法の11条と18条が挙げられているよね。」

循環型社会形成推進基本法11条2項 製品、容器等の製造、販売等を行う事業者は、基本原則にのっとり、その事業活動を行うに際しては、当該製品、容器等の耐久性の向上及び修理の実施体制の充実その他の当該製品、容器等が廃棄物等となることを抑制するために必要な措置を講ずるとともに、当該製品、容器等の設計の工夫及び材質又は成分の表示その他の当該製品、容器等が循環資源となったものについて適正に循環的な利用が行われることを促進し、及びその適正な処分が困難とならないようにするために必要な措置を講ずる責務を有する。
18条3項 国は、製品、容器等が循環資源となった場合におけるその循環的な利用が適正かつ円滑に行われることを促進するため、当該循環資源の処分の技術上の困難性、循環的な利用の可能性等を勘案し、国、地方公共団体、事業者及び国民がそれぞれ適切に役割を分担することが必要であり、かつ、当該製品、容器等に係る設計及び原材料の選択、当該製品、容器等が循環資源となったものの収集等の観点からその事業者の果たすべき役割が循環型社会の形成を推進する上で重要であると認められるものについて、当該製品、容器等の製造、販売等を行う事業者が、当該製品、容器等が循環資源となったものの引取りを行い、若しくは当該引取りに係る循環資源の引渡しを行い、又は当該引取りに係る循環資源について適正に循環的な利用を行うよう、必要な措置を講ずるものとする。


「な、長いですね。これはいったいどういう事を意味するのですか?」さくらちゃんの頭にクエスチョンマークが飛び交う。



条文の背景には基本原理があることが多いから、その背景となる基本原理を理解すると、その条文の意味がわかるようになるわ。今回の基本原理は何かしら、かなめさん。」



拡大生産者責任(EPR)です。」即答するかなめさん。




「元々、汚染や廃棄物について責任を負うのは、直接の汚染者や廃棄者だという発想だったのよ。これを汚染者支払原則(PPP)と呼んでいるわ。でも、実際には、その直接の汚染者の後ろにいる間接的汚染者の方がより安価に環境負荷を低減できるかもしれない(最安価費用回避可能者)。そこで、生産者に対し環境負荷発生についての責任を問おうという考えが広まって来たわ。*4



「例えばさ、製品の材質やデザインによって、リサイクルのしやすさが変わったりするよね。最終的にゴミにする『ボタンを押す』のは消費者*5だけど、消費者自身は、材質やデザインを決められる立場にある訳ではない。それなら、むしろ、事業者に責任を負わせた方が、それならということで、リサイクルがしやすい製品の材質やデザイン(環境配慮設計(DfE))を作る動機付け(インセンティブ)が与えられ、環境に対してより優しくなるよねって発想なんだよ。」僕の言葉に、コクコクとうなずくさくらちゃん。



「循環基本法11条2項は製品、容器等の製造、販売等を行う事業者に対して環境負荷を軽減させるための必要な措置を講じる責務を負わせ、18条で、国に対しそれを実現するための適切な法制度を取ることを求めています。」


「じゃあ、国は循環基本法18条の義務を守っているんですか?」さくらちゃんが疑問を口にする。



「循環基本法18条3項は、立法が必要な場合は、(1)国、地方公共団体、事業者及び国民の役割分担の必要性があり、(2)事業者の役割が重要と認められ、(3)処分が技術的に困難で、循環的利用の可能性がある場合だとしているよね。容器包装って、最終的には消費者が一般ゴミとして捨てる訳でしょ。一般ゴミは地方公共団体が税金で処理する訳。だから、容器包装業者は、環境のことを考えずに適当なものを作って売って、その処理は税金でやってもらうという、いわばフリーライダーとしてただ乗りをしていたんだ。そうすると、まさに役割分担が必要な事案だし、事業者が積極的に排出抑制をすることで排出を減らせるし、リサイクルしやすい設計やデザインにすることで、循環利用の可能性がある。そういう意味で、容器包装リサイクルは,ちょうどこういう要件にあてはまっているよね *6。」ここは、昔勉強したことがある。


「ただ、時系列の点は留意が必要ね。容器包装リサイクル法が制定されたのは平成7年で、平成12年の循環基本法制定の前なのよ。でも、そもそも平成5年にできた環境基本法の段階から拡大生産者責任の考えはあって*7、これが最初に具体化されたのがこの容器包装リサイクル法になるわ*8。」ほむら先生が補足する。



3.容器包装リサイクル法の理想と現実
「容器包装リサイクル法に具現化された、拡大生産者責任(EPR)としては、端的に言えば、特定事業者に再商品化の実施義務(容器包装リサイクル法11条、13条)を課して負担を負わせているという部分がメインです。また、平成18年の法改正では、特定事業者が指定法人を通じて一定の資金を市町村に拠出する仕組みが導入された点も指摘できます(同法第10条の2)。」



「かなめさんの指摘は非常に端的ね。実は、再商品化の部分は極めて難解で、『おそらく環境法最悪の構造』*9となっているんだけれども、法律の定める所定の量について指定法人と再商品化契約を結び委託料金を払う(14条)ことで義務を果たしたとみなされているわ。お金を払わないといけないなら、排出を抑制しようというインセンティブが働くわね*10。」


「特定事業者って、なんですか?」基本的なところに切り込むさくらさん。


「『特定』なんちゃらといったら、その『なんちゃら』の一部を表すとおもえばいいよ。特定電子メールといえば、電子メールのうちの宣伝メールを指すとか*11。今回も、容器の製造利用業者と、包装の利用業者が特定事業者となっているんだ*12。」



「あれ、包装の製造業者はどうですか。」さくらちゃんの素朴な疑問?



「入っていないのよ。だから、例えば包装を利用するスーパーは対象だけど、包装の製造業者は対象外なの。これに対しては拡大生産者責任の考えから疑問が呈されているわね*13」ほむら先生は残念そうだ。


拡大生産者責任の考えと、現実の容器包装リサイクル法の制度の間に齟齬があるっていうのはこのことですか?」


「それ以外にもあります。一番は、容器包装廃棄物の分別収集という一番費用がかかる部分*14が市町村の責任になっていることです(10条)。そこで、事業者に十分なインセンティブが働いていないといわれています。もちろん、10条の2の改正で、市町村のリサイクルへの寄与に応じて指定法人から還元を受けられるようになったけれど、これも不十分です。」かなめさんが重要なものから指摘する。


「その他に、『スソ切り』といって、小規模企業を外しているため、必ずしも全ての企業が拡大生産者責任を負う訳ではないとか*15、実際には、再商品化義務不履行の業者の把握が難しく、指定法人と契約を締結していない業者(フリーライダー)がある*16とかもあるかな。」



「この点については、ライフ事件*17が重要ね。要するに、特定容器利用業者が、(1)利用業者が製造業者よりも負担が重い、(2)多くの中小企業が適用除外される、(3)原料素材メーカーの負担がない、(4)指定法人と契約を結ばないフリーライダーが多い等として、容器包装リサイクル法の制度が拡大生産者責任を果たしておらず、憲法14条にも反すると主張して、既に支払った委託料金等の賠償を求めたのよ。」



「結局、裁判所はどう判断したんですか?」



「国の立法裁量を広く認めて合憲(合法)とした訳だけど、この訴訟で提起された問題意識は、法政策を考える上でとても重要ね。」



「この設問1では、基本と応用っていう話に関して、基本原理と法律の具体的な規定の関係が分かったんじゃないかな。基本原理は条文を理解する上で重要だし、現在の法制度が、十分にその基本原理を実現しているかという、立法論、法政策論の関係でも重要なんだ。この基本の理解が、具体的な議論をしていく前提になるんだね。」



「そうなんですね。先輩から、基本と応用の関係についてもう少しお話をお聞きしたいです!」さくらちゃんの頬が少し上気している。


「そうしたら、もう一杯お茶を入れるから、引き続き、設問2の検討に入りましょうか。」ほむら先生はお茶を入れに行った。


(その2につづく)

まとめ
 基本原理と具体的な法制度の関係については、環境法では、単に「この条文はこの基本原理の具体化である」に留まらず、「基本原理の観点から、この条文でいいのか?」という法政策的なところまで検討するのが環境法の面白い所だと思います。新キャラ(元々予定していた訳ですが)の登場で波乱の幕開けになった放課後ティータイム、その2をお楽しみに!

*1:数学ガールから、法学ガールへ〜「文系にとっての最強の萌え」は?! - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*2:この問題についての一つの秀逸な解答として「答えは一つじゃないんですか?」勉強と研究、そして専門教育とは参照

*3:例えば、定義についていえば、伝聞証拠とはか伝聞の定義の段階で深刻な争いが生じている

*4:例えば北村61〜67頁

*5:北村63頁参照

*6:北村522頁参照

*7:8条2項参照、北村522頁

*8:北村522頁

*9:北村531頁

*10:北村531頁

*11:特定電子メールの送信の適正化等に関する法律参照

*12:北村526頁

*13:北村527頁

*14:北村530頁によるとリサイクルコストの60%以上

*15:2条11項、北村527頁

*16:北村536頁

*17:東京地判平成20年5月21日判タ1279号122頁