アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

環境法ガール14 〜 おからと廃棄物の美味しい関係 平成20年第1問

おいしく食べてやせる&デトックス!  おからレシピ (食べてすこやかシリーズ)

おいしく食べてやせる&デトックス! おからレシピ (食べてすこやかシリーズ)


注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.放課後ティータイムには差し入れを
 研究室のドアを開けると、紅茶の香りが漂ってきた。


 「あ、先輩、今日は差し入れを持って来たんですよ〜」そういって、クッキーの箱を開けるさくらちゃん。



「クッキーなんだ。美味しそうにできてるね。」



「最近、美味しいものを食べ過ぎちゃったから、おからクッキーにしたんですよ。カロリー低めでヘルシーなんです。」嬉しそうな顔をするさくらちゃん。



「もう、デレデレしちゃって。私だって、クッキーくらい作れるんだから。」ぷいと横を向くかなめさん。



「さあ、紅茶ができましたよ。」と、トレイを運んで来たほむら先生。



「あら、おからクッキーね。おからは、食用として売買の対象にもなるけれど、残念ながら、発生する全量について食用の需要がある訳でもないから、産業廃棄物にもなるのよね。」


「そういえば、そういう問題が、ありました!」さくらちゃんが、問題を取り出す。


2.放課後ティータイムには過去問を

検察官は,以下の趣旨の公訴事実により,Aを起訴した。「Aは,B県に隣接するC県の知事の許可を得て産業廃棄物収集運搬処理及び最終処分の事業を営む者であるが,B県知事の許可を受けないで,業として,平成20年1月から3月までの間, 処分費用を無料とする一方で運搬費との名目により1回10万円を収受して,計200回にわた り,いずれもB県内にあるD外3名から処理の委託を受けた産業廃棄物である『おから』合計 2000トンを収集し,運搬した上で,B県にある自己の工場において,熱処理及び乾燥をして, 飼料及び肥料を製造し,もって無許可で産業廃棄物の収集,運搬,処分を業として行ったもので ある。」 Aの弁護人の主張としてはどのようなことが考えられるか。これに対する検察官の反論としてはどのようなことが考えられるか。それぞれについて,再生利用(リサイクル)との関係にも配慮し て答えよ。なお,「おから」は,国内において有料で(処理者に支払をして)処理が委託されている状況にあ るものの,全国で発生量の5%が食用として売買され,利用されているものとする。

「これは、戦力的には、弁護側を二人にするのがいいわね。かなめさんに検察官をやってもらいましょうか。」



「廃掃法14条1項、6項は産業廃棄物収集・運搬・処理につき『当該業を行おうとする区域』『を管轄する都道府県知事の許可』を要求します。Aは、C県知事から許可を得ていても、B県知事の許可を得ていないところ、Aは、B県内でおからの収集・運搬・処理を行っています。そして、最高裁判例*1は、産業廃棄物*2とは、『自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状况、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当』とした上で、おからを産業廃棄物に該当するとしています。本件でも、Aは、B県において無許可で産業廃棄物たるおからの収集・運搬・処理を行っているのですから、その内容が再生事業であったとしても、公訴事実記載の犯罪が成立します。」理路整然と答えるかなめさん。



「おからが廃棄物だってことは、勉強を始めたばかりの私でも知ってますよ。この問題は、弁護側の主張と検察官の主張を書けっていうけれど、弁護人が『おからは食用にもなるから廃棄物じゃない』と言って、検察官がかなめ先輩みたいなことを言って終わりじゃないんですか。」弁護人役を割り当てられたさくらちゃんは不満げだ。



ほむら先生が、僕たちを2人組にして弁護側に割り当てた以上は、何かあるはずだ。何か…。



「あ、判例は『本件おから』が廃棄物と言っているだけで、全てのおからが廃棄物だとは言っていないですよね。そうすると、Bが受託したおからは、廃棄物とは限らない、という理屈もあるかも」自信がないが、一応言ってみる。



「弁護人は、眼の前の依頼者を救うための論理を考えるのが仕事よ。問題は、その『理屈』が何かよね。」嬉しそうに笑うほむら先生。



「じゃあ、私から。もっぱら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの収集・運搬・処分については、許可が不要とされています(専ら物、廃掃法14条1項但書、6項但書)。判例は、その物の性質及び技術水準等に照らして再生利用されるのが通常である産業廃棄物をいうとするところ*3、Aは全量を再生利用しており、『再生利用されるのが通常である』専ら物です。」さくらちゃんが頭をひねる。



「短い最高裁判例は、原審や第一審までさかのぼる必要があります。おから決定の原審*4は、当該産業廃棄物について、排出、収集、保管、管理ないし加工、利用の過程が技術的及び経済的に有益な取引過程として社会において形成普及していることが必要とした上で、その具体的なおからがどうかではなく、『社会の取引の実状』を踏まえて判断しています。この判断は、本件の10年程前ではあるものの、5%が利用され、95%が利用されていないのであれば、同様に、専ら物ではありません。」あっさりとかなめさんに撃退される*5



「『廃棄物』の定義が不明確であることから構成要件の明確性に欠けるし、たとえ廃棄物であるとしてもリサイクルされている以上は可罰的違法性に欠けるってのはどうだろうか。」



一般廃棄物に関するものだけれど、廃棄物の収集運搬を業とすることという構成要件が明確性を欠くという主張は最高裁が否定しているわ*6。また、廃掃法14条6項の「処分」には再生が含まれる(廃掃法6条の2第1項括弧書参照)ところ、現在可罰的違法性が認められるのは極めて限られており、少なくとも、再生についても原則許可を要求した上で、専ら物等の限られた例外についてこれを免除しているという法の構造から見れば、これがその例外に該当するという主張に通る余地はありません。」厳しい切り返しのかなめさん。



「処理費用をもらっていないと言ったって、だめですよね…。」さくらちゃんもちょっと諦め気味だ。



最高裁判例の事案では、被告人は、豆腐製造業者から収集、運搬して処分していた本件おからについて処理料金を徴していたと認定されているところ、Aは、運搬料金という名目で、1回10万円の支払いを受けています。つまり、取引全体を見ると、Dらの排出業者が、Aにお金も払って物も持って行ってもらうという『逆有償』*7状態が成立しており、このような有価物でないからこそ、構造的に不法投棄等の問題が生じやすい訳です。最高裁判例の事案と同様に廃棄物性は優に認められます*8。」揺るがないかなめさん。



「この一見完璧な論理を崩すには、判例をはしごにするしかない。最高裁判例では勝てないなら、裁判例で戦うしかない。希望を捨てちゃだめだ。」さくらちゃんと目が合う。無言でうなづいて、判例データベースを操作する、さくらちゃん。



「裁判例が、ありました!」さくらちゃんが、うわずった声を上げる。



「水戸地判平成16年1月26日は、木屑を、処分費用をもらって受け入れて粉砕処理をした事案において、これを無罪としています。その理屈は、逆有償性を広い時間的スパンで捉えたところにあります。」



「要するに、この判決の事案では、被告人は、木屑を木材チップの材料として、このほぼすべてを木材チップとして加工していたんだよね。そして、被告人の会社に引き渡す際には、きちんと木材を選別した上で渡していたと認定されました。そして単に受け取り時における有償性のみならず、排出業者と受取側にとって、当該物に関連する一連の経済活動の中で価値や利益があると判断されているかを実質的に判断すべきとした上で、経済活動全体の流れに照らし、選別を経て被告人に引き渡された時点では、木材には取引価値が認められ、廃棄物ではないとしました。この事案の枠組みを使えば、Aは全量を飼料や肥料としているのであり、おからは再生用の材料なのですから、『一連の経済活動の中で価値や利益があると判断されている』と見るべきです*9。」さくらちゃんの助けを借りて、裁判例をはしごにした議論をする。




「その主張は通りません。この下級審判決に対しては学者は、『取引価値があるとまではいえない当該物について、安易に有用物性を認定した判断は疑問である』*10とか、『水戸地裁の立場は、おから事件の最高裁決定から若干逸脱しており(大塚直・法教316号39頁、317号74頁)、前掲東京高裁判決とも異なっていることから、主流ではない参考判決として位置づけるべき』と言われているのであり*11、こんな裁判例しか参照できていないところに、被告人の議論が負け筋であることが如実に現れています。」さくらちゃんの方を向いて勝ち誇ったように言うかなめさん。



「『前掲東京高裁判決』?あっ!」さくらちゃんが、何かに気づく。



「東京高判平成20年4月24日判タ1294号307頁、東京高判平成20年5月19日判タ1294号307頁は、取引価値の有無は重視しているものの、再生利用事業が確立し、継続して行われている場合には、廃掃法の規制を及ぼす必要がなく、利用目的という占有者の意思が産業廃棄物該当性を否定する事情になるとしています*12。結局、リサイクル促進こそが国是であるところ(循環基本法6条、7条、18条等参照)、リサイクルを促進する上では、廃掃法上の許可を広く求めることは適切ではなく、むしろ、再生利用が確立して不法投棄の危険性が低い場合には廃掃法上の規制を及ぼさないことが適切です。本件でも、Aは3ヶ月で200回、しかも量は計2000トンと反復継続して大量にリサイクルを行っており、再生利用事業が確立し、継続して行われている場合といえるので、産業廃棄物該当性を否定すべきです。」


「そもそも、Aは、産業廃棄物業の許可を得ており、『その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者』(14条5項2号イで準用される7条5項4号ト)ではない訳です。また、不法投棄のような廃掃法違反をすればせっかくの許可が取消されてしまうのですから、そんなことをするはずがないですよね。」さくらちゃんの議論に加勢する。



「どうも、かなめさんは、さくらさんに『塩』を送った結果になったようね。この事案は、基本的には弁護人は辛い立場であり、なかなか説得的な主張はできないけれども、相対的に強い主張としてはこんな感じの、裁判例の積み重ねを利用した主張になるかな。」おいしそうに、クッキーをつまみながら紅茶をすするほむら先生。



「私、さくらさんには負けませんからね。まず、飼料及び肥料を製造したというだけで、それが売れたとは限りません。おから事件の原審も、飼料や肥料にするにも、一定以上の質のものにすることが必要であり、そうでなければ、結局は使い物にならないとしています。商取引の実績がなければ、それをもって再生事業とはいえず、むしろ、フェロシルト事件のような偽装再生事業に近いと言えましょう*13。また、さくらさんの議論は、リサイクル促進にはリサイクル業者に廃掃法の許可を得させるべきではないということが前提のようですが、リサイクル業者にも産業廃棄物の処理等の許可を取得させて適正なリサイクルを図ることはむしろ望ましい方向性です*14。最後に、東京高判のうち、平成20年5月19日の方は、取引価値について、当該物について一般的に取引価格が形成されているかという、一般的な面を重視し、個別的な面をあまり重視しない方向性を打ち出していますが、これは、リサイクル偽装の廃棄物逃れを許さないという判断基準の客観化につながる適切な方向です。おからの95%については、産業廃棄物なのであって、一般に取引価格は形成されていないものであり、そのようなものについて、リサイクルをしたければ、正々堂々と、B県知事の許可を得てリサイクルをすべきです。」鬼気迫る勢いで語るかなめさん。



「食品の原料として流通しているような、安定的な有償の経済取引が行われているおからについては、最高裁判例を前提としても、流石に廃棄物とはならないと解されているわ*15。本件では、10トンあたり10万円と、B県内での運送であることを考えると単なる運送費としては高額な*16金銭をAがDらから受け取っていて、やはりこの点が有罪説のキモになりそうね。ただ、かなめさんの指摘するとおり、当初行政が客観説を打ち出していたところ、行政が主観面を考慮するようになり、その結果、香川県豊島の大量不法投棄事件のように、業者がリサイクルと主張して摘発できないまま事態が悪化するという悪影響が起こり、再度当事者の意思の客観化を図ろうとしているという行政の解釈の変遷*17は厳然たる事実であって、少なくとも、リサイクル偽装の廃棄物逃れを許さないような解釈を取るべきよね。」



「最初から辛い戦いだったけれど、先輩と一緒に協力して、頭をひねって考えて『戦える』ところまで持ってくるところ、とっても楽しかったです。これからも、先輩と二人三脚でやっていきたいな。」ぽっと顔を赤らめるさくらちゃん。



「ちょっと、そこ、何いい雰囲気になってるの?」



「かなめさん、紅茶にはリラクゼーション効果があるといわれているわ。ゆっくり気持ちを落ち着けて紅茶を飲むといいわよ。」ほむら先生はにっこりと微笑んだ。

まとめ
 仕事始め早々なんですが、「仕事とブログ更新の両立って難しいですね…。」とはいえ、できるところまで突っ走るつもりですので、どうぞよろしくお願い致します。

*1:最決平成11年3月10日刑集53巻3号339頁

*2:の前提となる「不要物」

*3:最決昭和56年1月27日判タ436号123頁、つまり、通達のいう4品目に限定する趣旨ではない。北村468頁参照。

*4:広島高岡山支判平成8年12月16日判時1603号154頁

*5:なお、再生利用認定制度(廃掃法15条の4の2)は、環境省告示におからがなく、適用されない。

*6:最決昭和60年2月22日刑集39巻1号23頁

*7:その意味についてはBasic230〜231頁参照

*8:北村455頁参照

*9:実務環境法講義151頁以下も参照

*10:北村455〜456頁

*11:Basic233頁

*12:Basic233頁

*13:酸化チタン製造工程から排出させる汚泥を土壌改良剤フェロシルトとしてこれを「販売」しつつ、業者に品質改良費用や運送費等の名目で支払っていたフェロシルト事件については、実務環境法講義153頁参照

*14:Basic233頁

*15:北村455頁

*16:10トントラックの運送費は、各社のホームページで検索すると出てくるが、10万円あれば、東京から名古屋等は余裕で行けそうである

*17:北村453頁、454頁、Basic220頁参照