アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

ウィザード・バリスターズ〜弁魔士セシルの刑事訴訟法的検討〜多様性社会と適正手続



当然ですが、本エントリはアニメ『ウィザード・バリスターズ〜弁魔士セシル第1話』のネタバレを含みますので、予めご了承下さい。


1.異質な者との共存
 銃弾を跳ね返し、一撃で電車の屋根を破壊し、ヘリコプターを墜落させる。どうあがいても、人間が太刀打ちできるはずがない。もし、あなたの隣人が、そんな「異質の者」だったとしたら?


 2018年東京。人間と魔術使い(ウィザード)が入り交じって生きる社会。犯罪を犯した魔術使いは、魔禁法に基づき、特別法廷で裁かれる。被告人の人(?)権を守るのは、弁魔士。新人弁魔士、須藤聖知(セシル)の活躍を描くのが、新アニメ、ウィザード・バリスターズ〜弁魔士セシルである。第一話が放映されると、法律&アニメの融合に、アニメ版憲法ガールのイメージはこんな感じではないか?等と、法クラ(法学クラスタ)の一部で話題となった。


憲法ガール

憲法ガール




 社会の大多数を占める人間。魔法使いは少数派に過ぎない。しかし、人間は、魔術使いの前では無力である。魔術を悪用して犯罪を犯す魔術使いもいる。魔術使いを恐れる人間は、魔術使いを「ウド」と呼び、小日向さんのように、ウドであることを理由に差別される魔術使いもいる。


 魔法の使用を禁じ、違反に対し死刑を含む厳罰を課す魔禁法は、人数的に多数を占めるものの圧倒的に弱い人間が、魔術使いと共生するために必要な「ツール」なのだろう。


 以下、ウィザード・バリスターズの世界における刑事手続における個別の問題を検討し、そこに共通する背景を探りたい。


2.死刑判決即時執行?
 日本では、第一審で死刑判決が下っても、すぐに執行される訳ではない。まず、三審制度による裁判が保障されているから、高等裁判所への控訴、最高裁判所への上告が可能である。


 しかも、裁判所の判決が確定した後、実際に死刑が執行されるまでは、法務大臣が命令(刑事訴訟法475条1項)することが必要である。この命令は6ヶ月以内とされているが、再審請求等を行っている間は執行されないことから、実際の執行までは数年以上かかり、時には十年以上かかることも稀ではない。迅速な執行がされない実務に対する批判もあるが、死刑が確定した後再審で無罪となった事案として、免田事件、財田川事件、島田事件、松山事件等があり、もし、これらの事案で迅速な執行命令がされていたらという点についても想いを馳せることが必要であろう。


 ウィザード・バリスターズの世界では、少なくとも、魔術使いに対する関係では、第一審で死刑判決が下されると、そのまま法廷で死刑を執行できるようである。もちろん、セシルの母のように、事案によっては、死刑執行までに時間がかかることもあるのだろうが、魔術をもってしても一度死んだ人の命を戻すことはできないと思われるところ*1、第一審判決が誤っていた場合に、控訴や上告、そして再審で是正することができないというウィザード・バリスターズの世界は、誤判が起こった場合に取り返しのつかないことになりかねない



3.秘密接見権が保障されていない
 法律知識がないと、さらっと見逃してしまいそうなシーンに、セシルが小日向さん(銀行強盗を殺しちゃった元銀行員)と接見する姿がある。接見質には、ガラスの壁があり、そこを通じて被疑者と弁護士が話をする。



 「そうそう、接見ってこんな感じだよね。」



と思った方、第2話以降はもっと注意してみて欲しい。存在してはいけない人がいるのである。


それが警察官(留置担当)である。


 実は、普通の人が、友だちや家族が捕まったということで(ないし同作品の取材の目的で)警察署で接見をすると、まさにウィザード・バリスターズのような感じになる*2のだが、警官が弁護士(弁魔士)との接見の内容を聞いているというのはゆゆしき事態である。


刑事訴訟法は、弁護士(弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者)との秘密(接見)交通権を保障している。

刑事訴訟法39条1項 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。


刑事訴訟法39条1項が禁止する「立会人」こそが、ウィザード・バリスターズで出て来たあの警察官なのだ。


そもそも、なぜ、秘密交通権が保障されているのだろうか。憲法34条は、被疑者に対して弁護人から実質的な援助を受ける権利を保障している*3。警察等の捜査機関が非常に強大な権限を持っている。身柄を拘束され、孤独な被疑者が自分を防御するためには、自分一人で戦うのでは全く不十分である。弁護士・弁魔士の援助が必要なのだ。そして、その実質的な援助のための不可欠の前提が秘密交通権なのだ*4最高裁判所も、被疑者と弁護人の接見交通権が憲法の保障に由来する」とする*5


 この点を、ウィザード・バリスターズの例に引き直して検討してみよう。セシルが、きちんと小日向さんを弁護するためには、小日向さんと話をする際には、小日向さんにありのままを話してもらう必要があるし、逆に、ありのままの話をする必要がある。遠藤さんが支店長に遠慮して口を開けなかったように、立会人がそこにいることで、ありのままに話すことができなくなる。特に、その立会人は、警官という、いわば「相手方」である*6。もし、接見中に、遠藤さんが味方になってくれそうだという話をすると、それを聞いた警察が、遠藤さんのところに言って、証言をしないように説得するかもしれない*7


 秘密交通権が認められず、弁魔士が十分な援助ができない世界。それが、2018年の東京なのだ。


4.「特設軍法会議」に類似?
 適正手続が保障されていない刑事裁判。日本の近代史上これに類似したものとすれば、旧第日本帝国軍の特設軍法会議が挙げられる*8

 常設軍法会議は、戦時等に設けられるものであり、作戦実施中の法廷闘争は望ましくないといった考えから、訴訟の遅延を防ぎ、迅速な裁判を図ることの要請が強く、一審制で弁護人は付されず(陸軍軍法会議法93条、370条、海軍軍法会議法93条、372条参照)、特に第二次世界大戦末期には、死刑判決直後の執行もあったようである。常設軍法会議で弁護人が付されなかったという意味では、弁魔士がつくウィザード・バリスターズの世界の方が「マシ」ということだろうが、実効的な弁護ができなければ、弁護人が付されないのも同じである。


 常設軍法会議制度を参考に、ウィザード・バリスターズの世界で、適正手続がねじ曲げられている理由を推測すると、(事件によって不安に陥った)魔術使いと共に生きる人間の安心感、平穏感を早期に回復するためであろう。


 現代の刑事訴訟の原則は「10人の罪人を逃しても、1人の無辜を処罰することなかれ」*9。無実の人を処罰、ましてや死刑に処してしまうことは絶対に許されない。ただ、裁判官は神でも何でもなく、証拠から過去に何があったのかを判断をする「人間」に過ぎない*10。すると、そのような現実を前提に無実の人の処罰を回避するためには、「証拠が足りないけど怪しい」「確定的ではないけど正当防衛なんじゃないのかな」という人がいる場合には、「疑わしきは被告人の利益に」の原則を適用して、良くわからないなら「無罪」とする必要がある。当然、その不可避的副作用として、「悪徳」*11魔術使いが防御活動を十全に行うことができれば、証拠不十分にして裁判官を煙に撒き、「無罪」となってしまう(「10人の罪人を逃」す)可能性がある。しかも、その法廷闘争には、数年、場合によっては、数十年かかることもあり、いつまでも「未解決」の状態が続くことになる。


 ウィザード・バリスターズの世界(2018年の東京)では、魔術使いに適正手続を保障しないことにより、「1人の無辜を処罰しても、10人の罪人を逃すことなかれ」へと刑事訴訟の原則をシフトさせ、それによって、「悪徳」魔術使いを迅速に社会から排除し、社会秩序を維持しようとしているとも言えよう。


 このような刑事訴訟の原則の変更は、人間が持つ、「異質の者」である魔術使いへの恐怖感によるものと推測され、その恐怖感自体は理解できないものではない。もし、この世界において、魔禁法をはじめとする法律が多数決の論理で決まっているのであれば、多数を占める人間がこのような適正手続抑圧に賛成したことが容易に想像できる*12。しかし、(セシルが信じるところによれば)セシルの母親のように、無実の罪で死刑判決を受ける魔術使いも出て来ているのであり、その「犠牲」も重大である。そもそも、このような「排除の論理」が適用される社会が、人魔「共存」の形態として健全と言えるのかというのは、重大な問題だろう。

まとめ
 ウィザード・バリスターズは、法律&アニメの融合という試みであるだけではなく、多様性社会(特にそこにマジョリティとマイノリティがいる場合)において、適正手続が抑圧されがちであるという傾向およびそこに潜む問題をえぐり出している。均質性が除々に減少し、多様化傾向にある現代日本社会。ウィザード・バリスターズは、こんな日本社会のあるべき適正手続の姿につき、重要な視点を提供してくれる、貴重なアニメである。なお個人的には、ナナジーニィの、17歳弁魔士のペット兼マッサージ師といった立ち位置が羨ましいところである。

*1:ここの世界設定は良くわからないが、少なくとも、小日向さんの被害者である魔術使いを見る限りそのようである。

*2:ただ、私の経験では、多くの警察署において接見室はあんなに広々としていないので、もっと被疑者と警察官の距離が近いことが多いと思われる。

*3:宇藤・松田・堀江「刑事訴訟法(リーガルクエスト)」171頁

*4:前掲書176頁

*5:最判平成11年3月24日民集53巻3号514頁

*6:やや専門的な話をすると、留置担当と刑事担当は分かれているという反論も考えられる。しかし、これは「建前」の話に過ぎない。新人弁護士が毎日接見していたら、取調べで警察官(これは刑事担当)が「お前の弁護士、毎日来てるらしいな。仕事がなくて暇なんだろう。そんな奴に頼んで大丈夫か」というようなことを言われるといった事例があるように、実際には「同僚」同士、情報は伝わる。

*7:これを警察の立場からすれば、「証人候補者に事実を確認しに行くだけであって、もし、そこで、正当防衛がはっきりすれば早期に釈放されるんだから、弁護側にとっても悪いことではないでしょう。」となるだろう。ただ、その「事実」が警察の想定と異なる場合に、警察の想定通りの事実と「すりあわせ」たり、(面倒くさいことになる等として)「協力をさせないようにする」ということは(全てのケースで起こっているとまでは言わないが)現実に存在する。

*8:軍法会議でも、平時における常設軍法会議は上訴権や弁護人を付せる点等の特徴があったことに留意が必要である(陸軍軍法会議法421条以下、367条以下、海軍軍法会議法420条以下、369条以下参照)。

*9:ここは、木谷・石井論争が有名ですね。

*10:「あの裁判官、魔術使いじゃねぇ?」っていうツッコミ禁止。

*11:適正な手続で悪徳であることが認定されていない以上、常にカッコ付きであることに注意

*12:なお、魔術使いも「自分は犯罪を犯さないから」ということで、法による魔術使いと人間との融和を願って賛成した可能性があるが、この、自分だけは犯罪をしないという発想は一番危険な発想である。