アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

環境ガール22パートB 「評価」は永遠の課題〜平成25年第2問

魔法少女まどか☆マギカ 佐倉杏子 (1/8スケール PVC製塗装済み完成品)

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注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


完結を期に、法学ガールまとめを更新しましたので、ご参照下さい。




「う〜ん…、あれ?」なんか変な感じがする。「え、え?」状況が良くわからない。自分の身体が何か柔らかいものの上に乗ってる??


「先輩、気づいたんですね。よかった。」振り向いたのは、さくらちゃん。まだサンタの帽子をかぶっている。


「いったい、どうなっているの?」


「先輩が突然倒れちゃったから、心配で。あの部屋に残す訳にもいかないですから、私がかついで来たんですよ。」


「ありがとう、本当にごめん。あの時とはちょうど反対だね。」そういいながら、さくらちゃんの背中から下りる。


そこは、風力発電所が予定されていたこともある、僕たちの町の近くの丘だった。辺りは真っ暗で、湾の対岸の光が明るく輝いている。


風力発電所が沖合になってよかったですね。環境影響評価制度のお陰ですかね。」


「現行の環境影響評価制度では、環境に優しくなるような微調整はできても、陸上風力発電所を建築するかどうかといった判断の段階でのアセスメントはまだ導入されていないから、陸上から洋上に変えて場所も大きく移動するような変更を促す効果は弱いね。むしろ、洋上風力発電の買い取り価格が上昇することが決まって、採算が取れるという判断があったんだろうね。」


「環境影響評価制度って、まだまだ不十分なんですね。」


「環境影響評価制度について、もう一度、一緒に検討してみようか。」

環境影響評価について,以下の設問に答えよ。
〔設問1〕
A県は,同県B市に3000メートルの滑走路を持つ本件空港を設置する事業(環境影響評価 法の第一種事業に当たる。)を計画し,2003年,B市内のC岳の北側陸上案を採用すること を決めた。A県は,2005年,本件空港設置事業について環境影響評価法に基づく環境影響評価手続を開始した。この環境影響評価手続の中では,C岳の北側陸上案しか対象とされず,複数案は検討されていなかった。本件空港予定地周辺の海域には種々の希少なさんご礁が形成されて いた。
2008年,A県は,本件空港の許可権者である国土交通大臣宛てに環境影響評価書(以下「本 件評価書」という。)を送付し,国土交通大臣は,環境大臣宛てにその写しを送付して意見を求 めた。国土交通大臣は,環境大臣の意見の内容を勘案した上でA県に対して,本件評価書についての環境保全の見地からの意見を書面により述べた。その後,A県は,本件評価書について補正 を行い,国土交通大臣に対し,補正後の環境影響評価書(以下「本件補正書」という。)を送付 し,国土交通大臣は,環境大臣宛てにその写しを送付した。A県は,環境影響評価書を作成した 旨その他の事項を公告するとともに,本件評価書等を所定の期間,縦覧に供した。
国土交通大臣の本件評価書についての環境保全の見地からの意見の中では,本件事業実施区域への降雨及び流入水が海域に浸出する場合の水質及び水量並びにそれによるさんご礁への影響に ついて把握し,その結果を評価書に記載することが求められていたが,本件補正書の中では答え られていない。
その後,A県は,本件空港の設置の許可の申請をし,2009年,国土交通大臣は,本件空港 の設置を許可する旨の処分を行った。
これに対し,本件空港予定地の敷地の一部の土地を所有するDは,A県が実施した環境影響評価手続に問題があったとして許可の取消訴訟を提起したいと考えている。Dはどのような主張をすることが考えられるか。
〔設問2〕
複数案の検討に関して,2011年に改正された環境影響評価法及びその後に改正された「基本的事項」(環境省告示)(【資料1】参照)ではどのように扱われているか。その趣旨はどこに あるか。
〔設問3〕
【資料2】は,2008年に制定された生物多様性基本法の規定である。
(1) 2011年の環境影響評価法の改正によって導入された仕組みは,生物多様性基本法第25条とどのような関係にあるか。
(2) 生物多様性基本法が想定する環境影響評価の仕組みは,環境基本法においてどのように位置付けることができるか。
【資料1】 環境影響評価法第3条の2第3項,第3条の7第2項,第11条第4項,第12条第2項及び第38条の2第2項の規定による主務大臣が定めるべき指針並びに同法第4条第9項の規定による主務大 臣及び国土交通大臣が定めるべき基準に関する基本的事項(環境庁告示第87号(平成9年12月1 2日)。最終改正:平成24年4月2日環境省告示第63号)(抜粋)
第一 計画段階配慮事項等選定指針に関する基本的事項
一 一般的事項

(1) 第一種事業に係る計画段階配慮事項の選定並びに調査,予測及び評価は,法第3条の2第3項の規定に基づき,計画段階配慮事項等選定指針の定めるところにより行われるものである。

(2) 計画段階配慮事項の範囲は,別表(略)に掲げる環境要素の区分及び影響要因の区分に従うものとする。

(3) 計画段階配慮事項の検討に当たっては,第一種事業に係る位置・規模又は建造物等の構造・配置に関する適切な複数案(以下「位置等に関する複数案」という。)を設定することを基本とし,位置等に関する複数案を設定しない場合は,その理由を明らかにするものとする。
(4) 計画段階配慮事項の調査,予測及び評価は,設定された複数案及び選定された計画段階配慮事項(以下「選定事項」という。)ごとに行うものとする。(以下略)
【資料2】 生物多様性基本法(平成20年6月6日法律第58号)(抜粋)
(事業計画の立案の段階等での生物の多様性に係る環境影響評価の推進)
第25条 国は,生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており,一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることから,生物の多様性に影響を及ぼす事業の実施に先立 つ早い段階での配慮が重要であることにかんがみ,生物の多様性に影響を及ぼすおそれのある事業 を行う事業者等が,その事業に関する計画の立案の段階からその事業の実施までの段階において, その事業に係る生物の多様性に及ぼす影響の調査,予測又は評価を行い,その結果に基づき,その 事業に係る生物の多様性の保全について適正に配慮することを推進するため,事業の特性を踏まえ つつ,必要な措置を講ずるものとする。


「取消し訴訟の中で、環境影響評価手続に問題があったという主張をするんですか。」


「そうみたいだね。その場合に原告がどう主張するかが問われている。どう考えればいいのかな。」


「『この環境影響評価手続の中では,C岳の北側陸上案しか対象とされず,複数案は検討されていなかった。』とか、なんか怪しくないですか。」


「いい視点だね。こういう、問題文にある『怪しい』記述をきっかけに、基礎知識を使って論じて行くのは、いい論じ方だよ。」


「環境影響評価手続における複数案の必要性については、確か、明文規定がないと聞いています*1。」


「そうだね、そうすると、明文規定はなく、手続上の瑕疵にはあたらないと結論づけていい訳?」


「えっと、14条1項7号ロが『環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)』としいて、これは代替案がある場合にはその検討状況も含むと解されています*2。この点は評価書でも再検討すべきとされています(21条1項柱書の「準備書の記載事項」参照。)。そうすると、実質的に複数案検討が要請されており、少なくとも代替案が存在しないことが明白以外には、これを怠ったことは手続的瑕疵というべきです*3。」



「3条の2第1項は?」


「先輩、ほむら先生みたいなこと言わないでください。同項は『一又は二以上の当該事業の実施が想定される区域』としており、実質的に、代替案検討の義務付けと言われます*4。でも、これは平成23年改正で入ったもので、問題文の時期の後ですよね。」


「よく問題文を読み込んでいるね*5問題文に時間の記載があったら注意が必要だよ。」



「次の瑕疵の候補は『国土交通大臣の本件評価書についての環境保全の見地からの意見の中では,本件事業実施区域への降雨及び流入水が海域に浸出する場合の水質及び水量並びにそれによるさんご礁への影響に ついて把握し,その結果を評価書に記載することが求められていたが,本件補正書の中では答えられていない。』ですかね。」


「評価書に対する許可権者の意見(24条)に対し、補正書での回答をしないことは、手続的瑕疵になるのだろうか。」


「確か、25条で『再検討』はしなければいけないけれど、この意見に基づき対応を求めるのは行政指導に過ぎず*6、その部分について事業者が補正を要しないならそれでよいのであって、後は横断条項(33条)に基づき許可権者が判断するんじゃないですかね。」


「結論は両様あり得るから、きちんと理由をつける事が必要だよね。25条1項の『当該事項の修正を必要とすると認めるとき』という文言に即して論じてはどうかな。」


「事業者の義務を規定しているから、『認める』の主語は事業者ですよね。要するに事業者が『修正が必要であると判断する場合』ってことではないですか。つまり、事業者が不要だと思えば直さなくていい、ってことですよね。」


「これが裁判例の議論だね*7。でも、この結論は絶対ではなくて、許認可権限者が『環境保全の見地から』補正が必要として述べた意見であり、これを無視するというのでは、環境影響評価を左右する重要な環境情報が収集されていない重大な手続瑕疵だという議論もあり得ないではないよ。」


「理由付けが大事なんですね。あとは、手続的瑕疵ですから、最高裁判所は、聴聞手続の瑕疵が結果に影響を及ぼす可能性がある場合にのみ、処分の違法をもたらすとしていますが*8、本件は、複数案を検討しておらず、複数案を検討すれば、こちらの方が良いということになって結果に影響を及ぼす可能性があるので、これに準じて考えるとしても違法であることに問題はありません。これで終わりでしょうか。」


「そもそも訴訟では環境評価そのものを争っているのではなくて、設置許可処分を争っているんじゃないかな。」


「あ、そうか。設置許可処分に環境評価の『違法』がどう承継されるかということを考えないといけないんですね。」



「原告からすれば、国土交通大臣が許可をするに当たっては、環境保全に適正な配慮をした審査を行わなければならない(33条1項)ことから、この配慮義務違反の違法があったと論じるんだと思います。」


「じゃあ、被告からすれば?」


「えっと、あ、裁量です。裁量があると言います。」


「そうだね。環境保全に適正な配慮をした審査を実施すべきところ、国土交通大臣が代替案の検討のない違法な評価書を看過し、そのまま処分を出してしまったことにつき、裁量の逸脱濫用があるという議論をしないとだめだね。」


「はい。」


「じゃあ、第2問に移ろうか。」


「これは、先ほどの改正点ですね。実質的に複数案を義務付けたんですよね。」


「この点については、『法的に厳密な議論をすれば、改正後もなお複数案の検討が義務付けられている訳ではない』という議論もあるんだけど*9。」


「どうしてですか?」


「ここは、色々な考えがあり得るところだけど、告示一(3)に『位置等に関する複数案を設定しない場合は,その理由を明らかにするものとする』とあるのはヒントになるね。」


「そうか、理由を明らかにすれば、複数案を設定しなくていいんですね。」


「もちろん、告示レベルの話だから、告示の有無にかかわらず法律が複数案検討を義務付けていると解することはできるけど、この点に気づいてフォローする必要があるよね。」

「そうだったんですね。資料があればきちんと読み込まないといけないんですね。」


「資料はヒントの宝庫だからね。ところで、この改正の趣旨は何かな?」


「確か、平成23年改正で、環境影響評価の目的が合理的な意思決定へとシフトしたという話を聞いた事があります。」


「そのとおり、計画段階のような早い段階で複数案を検討することによって、合理的な意思決定という環境影響評価の目的に資することだね。」


「最後の問題は簡単ですよ。だって、資料に『計画の立案の段階から』とあるんですから。」


「そうだね。その意味は?」


「つまり、生物多様性基本法25条は、環境影響評価法より未然防止ないし予防的な観点から踏み込んだ記載をしていて、『そもそも陸上型風力発電所を建設するのか』という実施の決定段階についても射程を拡げているんです*10。」


「そう、実質的に戦略的環境影響評価を指向しているね*11。ただ、その意味で、異なっているという点は重要だけれども、改正の時期にも気をつけて。」


「あ、生物多様性基本法は平成20年に規定されました。」


「そう、だから、配慮書制度自体は不完全ではあるけど、生物多様性基本法のこの規定は、平成23年改正で配慮書制度が入るきっかけになっているよね。」


「なるほど、後は、環境基本法との関係ですか。」


「そうだね。この仕組みはどのように位置づけられるのだろうか。」


「たしか、環境基本法20条が『事業の実施に当たり』としている以上、戦略的環境影響評価を指向する生物多様性基本法25条はこれを超えていると評価できるのではないでしょうか。ただ、環境基本法19条の環境配慮義務の具体化として、環境基本法20条とは別に生物多様性基本法25条が規定されたと整理すれば明快です*12。」


「もちろん、これは1つの整理であって、生物多様性基本法25条は、あくまでも環境基本法20条のレベルでの早期のアセスメントを求めているにすぎないとの見解もあり得るから、これは絶対的見解ではないけど*13、全体的に、さくらちゃん、法解釈論も政策論もよくできているね。大学の学問に正解がなくて苦しんでいた頃からは見違えるようだよ。」



「うふふ、ご『評価』頂きうれしいです。私も今年予備試験受かったんですよ*14。」


「僕たちが同時に受かるなんて、びっくりしたよ。合格者が350人を超えたからかな。」


「そういえば、私、まだ、先輩から合格祝いもらってませんよ。」


「何が欲しいの。」


「先輩が欲しいです。」真剣な目で見つめるさくらちゃん。


「だめだよ。」答えは1つだ。


「ど、どうしてですか。先輩の私に対する評価は、かなめ先輩やほむら先生よりも低いってことですか。」泣きそうな顔をするさくらちゃん。


「僕の、さくらちゃんへの気持ちは、『合格祝い』なんていうような軽いものじゃないからね。15年越しの約束、今、果たさせてもらうよ。」


子どもの頃以来、15年ぶりにさくらちゃんを抱き寄せた僕を、夜景の光が照らしていた。

まとめ
ということで、パラレルワールドエンディングでした。パートAとパートBは独立しておりますので、それぞれ違う世界としてお楽しみ下さい。これで、環境法ガールは終わりです。ご愛読、ありがとうございました!

*1:北村343頁参照

*2:北村320頁

*3:「本法は『複数案』の検討について法律上は義務付けておらず、『基本的事項』でそれを実質的には要請する規定をおいている。法律の明文ではっきりと義務付けるべきであったといえよう」という大塚274頁、「代替案が存在しないことが明白であるなら別であるが、そうでない限り検討は義務的と解すべきである」とする北村320頁参照。ただし、「改正前の本法では、複数案の検討は準備書及び評価書の作成にあたって法的な義務付けはなされておらず、ただ、事業者も環境負荷をできる限り回避、低減するよう勤めなければならないと言う努力義務はある(3条)と考えられた」とするBasic109頁参照

*4:北村315頁、なお、後述参照

*5:「問題文がいつの時点の事件かを明確にしていることを無視して,2011年改正後の環境影響評価法の適用を前提として答案を作成しているものが散見された。重大な誤りである。」との採点実感参照

*6:北村322頁

*7:東京高判平成24年10月26日訟月59巻6号1607頁、なお、25条1項の解釈については原審である東京地判平成23年6月9日訟月59巻6号1482頁が「法は、当該事業について免許等を行う者は、必要に応じ、評価書について環境の保全の見地からの意見を書面により述べることができると規定し(24条)、事業者は、同条の「意見が述べられたときはこれを勘案し、評価書の記載事項に検討を加え、当該事項の修正を必要とすると認めるとき」に、各号の修正区分に応じた措置を採ることとすると規定する(25条1項)。この規定からも明らかなとおり、免許等を行う者の意見(24条意見)が述べられた場合、事業者は、その意見を勘案し、まず評価書の記載事項に検討を加え当該事項の修正を必要とするかどうかを判断すること、修正が必要であると判断する場合に評価法に規定する措置を講じることを要求しているのであって、評価法に規定する措置を講じるかどうかの判断は事業者に委ねられている。評価法は、24条意見について、その指摘に従ってそれに沿う措置を必ず講じるよう求めているものではなく、例えば免許等を行う者が環境保全措置等として必要と考えて指摘した事項であっても、事業者による検討の結果、その指摘に係る事項の修正を必要と考えないという判断を許容するものであるから、免許等を行う者が考えるところの評価書の不備・不足等が修正・補完されていないからといって、事業者が24条意見に対応したといえないということになるわけではない(すなわち、24条意見に対応したといえるか否かは、評価書の不備・不足等が修正・補完されているか否かという観点からみなければならないことになるわけではない。)。」とする。

*8:塩野I320頁

*9:Basic109頁

*10:北村318頁

*11:北村318頁

*12:北村316、317頁

*13:「同法第19条については,それが生物多様性基本法第25条とともに戦略的環境アセスメントについて規定しているとする答案と,同法第25条はあくまでも環境基本法第20条のレベルでの早期のアセスメントを求めているにすぎないとする答案とに分かれたが,この点については両方の考え方が認められる。」という採点実感参照

*14:予備試験の最終合格者の最低年齢が19歳だといったツッコミはしないでください。あくまでもフィクションです。