アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

民訴ガール第1話 いつも両手にJKを 〜平成18年その1

重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版

重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版

1.高度に発達した法律は魔法と見分けがつかない


  JS, JC, JK。クラシックが好きな人にとっては、バッハ家が産んだ天才達の名前であろう。しかし、法クラは違う。法クラがJSといえば、『受験新報』*1、JCといえば、『実務知的財産法講義』又は『実務詳説著作権訴訟』、そして、JKと言えば、何と言っても『重点講義民事訴訟法(上)(下)』である。


 『重点講義民事訴訟法』は、元々は法学教室という学生向けの法律雑誌への連載をまとめたものである。しかし、学生向けのはずが高度な理論が展開されており、分厚い本は改訂の度に膨張を続ける。そんな本だから、サクっと読んで終わりのはずがない。受験生時代から、民訴が好きだった僕は、いつも両手にJKを持って、暇があれば参照していた。


 「さて、どう考えるべきか。」「新堂説でよいのではなかろうか。」「読者諸氏もぜひ読むべきである。」独特の言い回しに、読んでいくうちに、まるで、高橋教授が耳元で語りかけてくるような錯覚を受ける。公法系と刑事系で大失敗をしてしまったのに、もう後が無い5回目の受験で最下位の1500番に滑り込み、なんとか合格できたのは、重点講義のお陰、と感謝している*2



20××年*3、司法改革によって、法の光が世の隅々まで行き届いた社会地方公共団体、病院、図書館、そして学校にまで弁護士がいるのが当たり前の時代*4。若手弁護士は、みな「ニーズ」に応えようと、必ずしも採算の取れる訳ではない案件を、無償奉仕に近い形で大量にこなしている。


 僕は、ロースクールを出て、司法試験に合格し、司法修習を終えた。僕のような5回目合格の修習生は、基本的には弁護士になるなら即独するしかないのだが、学部の頃に無理して高校の教員免許を取っていたこともあって、4月から、弁護士登録をすると共に、ここ、星海学園高等部に、法学の教師として赴任することができた。もちろん、ロースクール奨学金と貸与金計1000万円以上*5を返済しなければならない以上、どこか就職先をみつけないと、人々のお役に立つ前に文字通り成仏*6してしまうという経済的理由もある。でも、僕には、ここで叶えたい、夢があるんだ


2.可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみることである


 はっ!法学科研究室で重点講義を読んでいたら、いつの間にか時間を忘れてしまった。星海学園高等部の法学担当の講師は僕一人。だから、法学科研究室とその本達を一人で独占できる。でも、その代わり、法学科研究室は旧校舎の一角という辺鄙な場所だ。先々代かその前の先生が本を持ち込みすぎたために、移転しようにも移転できなかったという噂もある。


 キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪


 もう、予鈴が鳴りだしている。初授業から遅刻では、格好がつかない。僕は、慌てて1年3組の教室に駆け込み、扉を開ける。どこからともなく漂う甘酸っぱい香りの中で、36人のセーラー服の女子高生の目線が一斉に僕の方に集まる。


 自己紹介を済ませると、早速初めての授業に入る。何しろ、法学部生時代に教育実習をやったきり、教育現場からは10年近く離れていた。10歳以上年下の少女達を教えるなんて、不可能に近いが、この高校唯一の法学の教員。まずはできるところまでやってみるしかない。


現代日本法化社会である。このご時世、法律知識は全国民必須の常識だ。小学校高学年で法学基礎、中学校で憲民刑の上三法、そして、高校で商法訴訟法等の下三法を勉強する。


「皆さんは、既に中学校で、民法の勉強をして来たと思います。今日から1年間、僕と一緒に民事訴訟法を勉強していくことになります。これまで、民法等の実体法の授業があったと思うけど、民法上代金や損害賠償を請求できるとなっても、相手が支払いをしなければ、『民法上権利がある』といってみたところで、ただの絵に描いた餅です。そこで、私人間の紛争を国家が関与して解決する民事訴訟制度が作られました。民事訴訟法は、この民事訴訟の手続を定めた手続法になります。今日は、民事訴訟法の入門ということで、大事なことを3つ勉強してもらいます。」


こう言って黒板に大きな文字を書く。

・具体的な民事訴訟のイメージ
・原理原則の深い理解
・対立する価値への配慮

「この3つ以外にも『実体法と手続法の緊張関係』なんてものもあるけど、まずはこの3つをきちんと理解すれば大丈夫です。」



「先生!」


元気よく手を上げたのはショートカットの少女。


「はい。僕はまだみんなの名前を覚えられていないから、発言する時は自分の名前を言ってもらえるかな。」


「はい、律子(りつこ)です。」


「律子ちゃん、質問は?」


民事訴訟の経験もない私たちは、どうすれば具体的イメージが分かるんですか?」


「いい質問だね。まあ、未成年者は法定代理人を通じてしか訴訟行為ができない絶対的訴訟無能力者民事訴訟28条、31条)ではあるけど、傍聴はできるから、裁判傍聴は1つの方法だね。その他、この教室でも、裁判のイメージをつかめるように、具体的に説明していこうと思う。」


こう言って、黒板に図を書く。

訴えの提起→送達→口頭弁論(→弁論準備)→証人尋問等→判決


民事訴訟は、まず、原告が、訴状という紙に、裁判所に何をして欲しいか(請求の趣旨)と、その根拠(請求の原因)を書いて提出し、訴えを提起する。裁判所は、被告に訴状を送達して、訴状に対する被告の回答(答弁書)を提出し、裁判所に来るように伝える。裁判所では、第一回は口頭弁論といって公開の法廷で双方の主張を聞くことが多いけど、その後は、弁論準備といって、裁判所と当事者だけがいるところで、胸襟を開いて議論して何が本当の争点なのかを整理していくことが多い。このプロセスで残った争点については、証人を公開の法廷で原被告双方が尋問して、その結果を踏まえて、裁判所が判決を下す。大まかに言えば、民事訴訟はこういう流れで行われる。」



すっと手を上げたのは、黒く長い髪が印象的な日本人形風の少女。



「志保(しほ)と申します。『原理原則の深い理解』や『対立する価値への配慮』が分かり易いような例はありますでしょうか。」



「これを説明するために、今日は司法試験の過去問を持って来たんだ。だけど、過去問を学ぶ前に、前提として、多数当事者訴訟について話をしようと思う。」


「当事者が一人いるだけでも難しそうなのに、多数当事者訴訟なんて…。」


律子が不満顔を浮かべる。



「もちろん、司法試験レベルということであれば、『教科書に載っている類型全部』を押さえないといけないけど、まずは、以下の類型を押さえるといいんじゃないかな。」
といって、黒板に書く。

最初から複数
・通常共同訴訟
・固有必要的共同訴訟
・類似必要的共同訴訟
訴訟開始後の複数
・補助参加
・独立当事者参加(詐害防止参加、権利主張参加)
・共同訴訟参加


「今日は、そのうちの、通常共同訴訟について話をしよう。通常共同訴訟に適用される原理・原則は分かりますか?」


共同訴訟人独立の原則民事訴訟法39条)でしょうか?」


即答する志保ちゃん。


「そのとおりだね。『共同訴訟人独立の原則』はどういう意味かな。」


「通常共同訴訟について共同訴訟人の一人の訴訟行為、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為、及び共同訴訟人の一人について生じた事項は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさないという原則です*7。」


「えっと、具体的に言うとどういうことですか。あ、沙奈です。」


沙奈ちゃんは、ツインテールの女の子。志保ちゃんの簡潔な回答が、よく分からなかったようだ。


「例えば、原告が、2人の被告に対して損害賠償を請求した場合に、一方の被告だけが『和解をしたい』と言って単独で原告と和解してしまってもいい。この場合、残った被告は、原告と訴訟を続けることになるよね。また、例えば、負けた被告のうち、一人だけが上訴して、もう一人が上訴しなくてもいい。上訴しない方の被告との関係では判決が確定するね。」


「どうして、共同訴訟人同士でバラバラになってもいいのかなぁ?」


律子ちゃんが疑問を口にする。


「通常共同訴訟の要件は民事訴訟法38条に規定されていて*8権利義務共通*9同一の事実上・法律上の原*10権利義務が同種で同種の原因の3つがあるけど、特に最後の権利義務が同種で同種の原因は非常に広いから、例えば、家主が数件の借家人に対して賃料請求をする場合でもいい*11。借家人が賃料を払わない原因は、全員共通の原因であることは実務上多くなく、むしろ個別の原因があることが多いんじゃないかな。まさに、バラバラの訴訟がたまたま一緒に審理されているだけだ*12。そうすると、それぞれの被告が他の共同被告の行動に影響されずに訴訟活動をする*13ことができるべきなんじゃないかな。」


「先生、そんなバラバラの訴訟を一緒に審理することにどういう意味があるんですか?」


沙奈ちゃんの質問は鋭い。


「この理由としては、訴訟経済という利益があるね。共通の期日で、一緒に審理をして1つの判決書で判断するのだから、当事者側及び裁判所側のコストが安くなるということ。例えば、債権者が保証人のいる債権について弁済を求める訴訟があったとして、弁済が争点となっていたとしよう。2つの訴訟を別々にするのであれば、弁済の状況について、債務者との訴訟でも、保証人との訴訟でも別々に証人尋問とかをする必要があるよね。これは無駄じゃないかな。一緒に審理することで、証人尋問が一回になれば、裁判所と当事者の負担が減るよね。じゃあ、これを前提に、司法試験の問題を考えてみよう。」

注:民法の問題に関する部分を知らなくても解答できるように若干冒頭部分を改変している。
1. ABが機械部品売買基本契約を結び、YがBの債務を保証する保証契約を結んでいたところ、XはAに3600万円を貸し、AB間の売買代金債権を譲渡担保に取った。Aが支払をしないので、Xが、保証人Yに対して保証債務支払を請求した訴訟においてYは、Aが売買代金債権をZに二重に譲渡し,Bは,Zに対して,その債務を弁済したと主張した。これに対し,Xは,Yが主張する事実を否認した。また,Xは,AからXへの債権譲渡に関する文書を証拠として提出した。Yは,AからZへの債権譲渡に関する文書及びBからZへの金銭支払を示すBの出金伝票を証拠として提出し, A及びBの各担当社員の証人尋問の申出をした。
裁判所は,X及びYが提出した上記各文書を取り調べ,A及びBの各担当社員を証人として尋問する旨の決定をして,争点整理が終了した。
その後実施されたA及びBの各担当社員に対する証人尋問において,両名は,AのBに対す る債権がX及びZに二重に譲渡された旨を証言し,さらに,Bの担当社員は,BがZにその債 務を弁済した旨をも証言した。
2. 上記証人尋問終了後,Xは,Zに対し,BのZに対する弁済が有効にされたことを前提とする不当利得の返還を求める訴えを提起した。これに対し,Zは,BのZに対する弁済の事実を否認し,Bから金銭の交付を受けたことはないと主張して争った。そこで,Xは,BのZに対する弁済の事実について統一的な判断を得たいとして,裁判所に対し,Yに対する訴訟とZに対する訴訟について,口頭弁論の併合を求めた。
3. K修習生は,XY間の訴訟及びXZ間の訴訟を担当するJ裁判官から,Xが提出した口頭弁論の併合を求める書面を渡されて,以下のような会話をした。
J裁判官: Kさん,Xは,Yに対する訴訟とZに対する訴訟の口頭弁論を併合すれば,両方の訴訟で,Bの弁済の事実について統一的な判断が得られるとしていますが,その理由は分かりますか。
K修習生: 口頭弁論の併合により,事実上,訴訟進行も一様となり,共同訴訟人間でも,いわゆる証拠共通の原則が認められているので,判断の統一をかなり期待することができ るとされているからです。
J裁判官: そうですね。ところで,民事訴訟法第39条が定めている,いわゆる共同訴訟人独立の原則は,どのような考え方を基礎にしているものか分かりますか。
良い機会なので,1共同訴訟人独立の原則と共同訴訟人間の証拠共通の原則が,それぞれどのような考え方に基づくものか整理して報告してください。その上で,2仮にXのYに対する訴訟とZに対する訴訟とを併合して審理したとして,共同訴訟人間の証拠共通の原則が働くとの見解を採った場合に,どのような問題点があるか,また, その問題点についてどのように考えるべきかを検討して報告してください。
〔設問2〕 あなたがK修習生であるとして,J裁判官の前記12の質問に対してどのような報告 をすべきかを述べなさい。なお,解答に当たっては,後記III以下の事実は考慮しないこと。


共同訴訟人間の証拠共通の原則ってなんですか? 共同訴訟人は独立なはずなのに、共通ってどういうことなんですか?」


沙奈ちゃんのツインテールが激しく動く。



「例えば、こういう事例を考えてみてはどうかな。」

事例 債権者である甲は、主債務者乙と、保証人丙に対し貸金返還請求訴訟を起こした。乙も丙も弁済を主張し、乙が領収書を提出した。ところが、丙はこの領収書を証拠として援用するとは言わない。


「もしも、丙自身がこの領収書を(自分の訴訟における)証拠として援用するとの意思を明らかにしたのであれば、甲乙間の訴訟との関係だけではなく、甲丙間の訴訟においても、領収書を用いることができます。しかし、援用をしない場合において、裁判所が、領収書を甲丙間の訴訟において証拠として用いることができないとすれば、1通の判決において、主債務については弁済により消滅したとして請求を棄却し、保証債務については、弁済があったとの証明がないとして請求を認容するという矛盾した事実認定を強いられます。認定事実となる歴史的事実は1つしかない以上、自由かつ合理的に証拠資料を判断して心証を形成できるはず(自由心証主義民事訴訟247条)の裁判官が矛盾した事実認定を強いられるべきではありませんから、援用をしない丙との関係でも、領収書を証拠として使用できると解すべきです*14。この、共同訴訟人の一人が提出した証拠は、援用の有無にかかわらず、他の共同訴訟人についても証拠として裁判所の事実認定の資料とすることができるという原則*15を、共同訴訟人間の証拠共通といい、確立した判例・通説です*16。」


志保ちゃんがすらすらと答える。


判例、通説が証拠共通を認める背景には、せっかく訴訟経済のために併合審理を可能としたんだから、統一的な事実認定を可能とすることでその効用を高めようという発想があるんじゃないかな*17。問題は、本件において、口頭弁論を併合してしまうと何が起こるかだね。」


「本件で、弁論を併合すると、通常共同訴訟訴訟になる、つまり、共同訴訟人間の証拠共通が働くってことですよね。あ、そうすると、例えば、『Zに弁済した』というBの従業員の証言も、Zの関係で証拠として使えることになってしまいます。」


律子ちゃんが、1つ1つ、ステップを追って考えている。


「よく考えているね。このBの従業員の証言はZに取って不利なのは間違いないね。でも、XY間の訴訟の全部の証拠について証拠共通が働くのであれば、その中には不利な証拠だけではなく有利な証拠もあるかもしれない。不利な証拠についてもZの関係で使えるということが、どうして不当といえるのかな。」


ちょっと難しい質問を投げかけてみる。


「訴訟経済と同様に、場合によってはそれ以上に重要な『手続保障』を守るためと思われます。Bの証言の際、Zは反対尋問をする機会を与えられていませんでした。そのような反論の機会もないまま提出された証拠について、証拠共通が認められてそれに基づく事実認定をされるべきではないということでしょうか*18。」


「志保ちゃんのいうとおり、裁判は、私人間の紛争を国家が関与して解決する手続であり、裁判を受ける権利の観点からは、手続保障が守られないといけない、同時に、国民の税金を使って裁判をする以上、訴訟経済も大事だ。民事訴訟の問題を考える上では、そういう異なる価値を考えながら、各事案をどう解決すべきか考えて行くのがいいんじゃないかな。」


「そうすると、本件のように共同訴訟人間の利害対立がある事案では、手続保障のため、Zに証拠調べに関与する機会が与えられていなければ、Zの援用がない限り、Zに対する証拠としては使えない、つまり、証拠共通は適用されないと考えるべきだということですね*19!」


沙奈ちゃんのツインテールが踊る。


「そういう見解もあるけど、証拠共通を認めないと、自由心証主義との関係で不合理な結果を生む可能性がある*20、もう少し具体的に言うと、Yとの関係では、Bは弁済したが、Zとの関係ではBは弁済していないという事実認定を裁判官が強いられる可能性があることに留意が必要だね。」


「これ、まさに『こちらを立てればあちらが立たず』じゃないですか。解決方法はないんでしょうか?」


律子ちゃんが、頭を抱える。


民事訴訟法152条2項は、『裁判所は、当事者を異にする事件について口頭弁論の併合を命じた場合において、その前に尋問をした証人について、尋問の機会がなかった当事者が尋問の申出をしたときは、その尋問をしなければならない。』としていますので、ZがBの証人尋問を申し出た時には、再度尋問をすることによって、弊害を除去できるのではないでしょうか。」


志保ちゃんが1つの解決策を提示する。


「そうだね。民事訴訟法と理論は、過去の実務経験を踏まえて、色々な事態に対応できるように精緻化が進んでいるよ。また、出金伝票等の書証については、民事訴訟法152条2項では対応できないけど、併合後に信用性を争うこともできるし、Bが作ったのであれば再尋問の中で、どういう趣旨の証拠か等を確認できるよね。そのような弊害がどうしても除去できそうもなければ、そもそも併合をしない(「できる」(民事訴訟法152条1項))、併合を命じた後であれば、口頭弁論の分離(民事訴訟法152条1項)をすることで、2つの訴訟で別々に争ってもらうしかないということではないかな。」



 キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪



「じゃあ、チャイムも鳴った事だし、また来週!」


教室の外に出てドアを閉めると、ホッと一息つく。初めての授業の緊張が、今になって出て来たらしく、身体がガチガチになっている。



バタバタになりながらも、一つの事をやり遂げたという達成感と共に、法学科研究室に戻った。



3.高名だが年配の法学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違っている。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違いない。*21


伝説は、「その者蒼き衣を纏いて金色の野に降りたつべし。失われし大地との絆を結び、ついに人々を清浄の地に導かん。」と伝えている。金色の旧版の基礎の上に降り立った、蒼きの衣を纏うJK第2版は、新堂説との絆を結び、「新堂説でよいのではなかろうか」と読者を導く*22




 法学科研究室。狭い研究室なのに、本がうずたかく積まれていて、いっそう狭く感じる。でも、僕一人だけなので、十分な広さだ。


トントンとノックの音がする。


「どうぞ、入って。」



「失礼します。」そういって、志保ちゃんが入って来た。



「あれ、今日はどうしたの?」


「今日はお願いがあって参りました。私の姉が作った部活の、『みんそ部』は、今年の春の卒業生が卒業したことで、部員がいなくなってしまって、休部状態になりました。顧問をされていた法学の先生も、退官されてしまって。私は、もともと、あまり、みんそ部の活動には興味を持っていなかったんです。でも、今日の先生の講義では、『眠素』といわれる民事訴訟法の講義なのに、全然眠くなりませんでした。原理原則や対立する価値といったツールを使って民事訴訟法を具体的に解き明かしていく講義を拝聴して、もう一度『みんそ部』を再興したいと思ったんです。先生、顧問になって頂けませんか。」


「それはいいけど、みんそ部って何をするの?」


民事訴訟の模擬裁判が主要な活動内容です。後は法律相談をしたり、小学校や中学校に法教育活動に行くこともあります。スローガンは『社会の隅々まで法の光を届ける』でした。」


「面白そうだけど、部員は、志保ちゃん一人なのかな。」


「えっと…」うつむく志保ちゃん。



「志保ちゃん!」急にドアが開いて、ショートカットの女の子が研究室に突入する。



「さっき、志保ちゃんに、突然『みんそ部に入って』と言われて、最初は良くわからなかったけど、でも、やっぱり、私も志保ちゃんみたいに、法律ができるようになりたい。だから、私もみんそ部に入る!」律子がまくしたてる。


「今の所二人ですが、仮入部期間終了までにもう少し増やすつもりです。」志保ちゃんが胸を張って僕の質問に答える。


「よし、分かった。君たちの役に立つ仕事をできるなら、それは嬉しいよ。みんそ部の顧問に就任しよう!」


「「ありがとうございます!」」



「いつも両手にJKを」。こうして、いつも両手にいる女子高生のお役に立てるよう仕事をする、奇妙な学園生活が始まった。高名だが年配の法学者の例の発言は「僕」にとっては正しいようで、どうやら飢え死にをせずに人に感謝される人生を送れそうである。

「民訴ガール」とは、司法試験民事訴訟法過去問を小説形式で解説するプロジェクトです。
難解な民事訴訟を、気楽に、ウェブ小説でも読む感覚で勉強できればと思っております。
第1話の原型は1年くらい前には既にできていたのですが、その後長期に渡り寝かせておりました。
しかし、もうすぐ今年の司法試験でもありますので、なんとかしなければと、GWを使って執筆いたします*23
「これはオリジナル作品ではなくて、『巻頭言 成仏』の二次創作だろう」って? えっと、そういわれると反論の余地はございません。
毎日1本を更新していきますので、どうぞよろしくお願い致します。

*1:最近の大島義則「合憲限定解釈のハイブリッド」がオススメである。「受験新報」平成26年6月号

*2:本人が司法試験対策のためには読み込む必要がないと言っていたという情報もある。

*3:公式設定では流石に近未来を考えております。

*4:http://www.houterasu.or.jp/cont/100180471.pdf参照

*5:http://t-m-lawyer.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-aeef.html参照

*6:http://ci.nii.ac.jp/naid/40007223080参照

*7:伊藤眞「民事訴訟法」第4版(以下「伊藤」と略する)610頁

*8:以下の例は、藤田広美「講義 民事訴訟」第3版(以下「講義」)440頁参照

*9:例えば、連帯債務者への支払い請求や、数人に対する同一物の所有権確認

*10:例えば、同一事故に基づき複数の被害者が損害賠償を請求する場合や、債権者が主債務者と保証人を共同被告とする場合

*11:その他の例としては、数通の手形の各振出人への手形金請求、同種の売買契約に基づく数人の買主に対する売買代金請求

*12:重点講義下366頁参照

*13:「それぞれの原告が他の共同原告の行動に影響されずに訴訟活動をする」という場合もあることに注意

*14:伊藤611〜612頁、講義441頁

*15:伊藤611頁

*16:5/2修正いたしました。ありがとうございます。

*17:講義441頁参照

*18:手続保障に対する配慮をもって証拠共通の許容性を基礎付ける見解については、講義442頁参照

*19:伊藤612頁

*20:伊藤612頁

*21:5/1 誤記を修正しました。ありがとうございます。

*22:読者の皆様、「20XX年になってもなぜ未だ2版なのか」という疑問はとりあえず忘れてください。設定では、一流法律事務所において、潤沢な研究資金の提供を受けながら、元気に民事訴訟法の研究と司法改革の理念の唱導を続けられております。

*23:というか、今の生活スタイルだと、正月休みとかGWとかしか、執筆の時間が取れないのが申し訳ないです..。