アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

民訴ガール第4話「対決!弁論部」その2 平成19年その2

新民事訴訟法 第5版

新民事訴訟法 第5版

5.メロンが割れたら甘い夢
 後半は、判決によらない訴訟の終了の問題だ。

III 以下の問題は,前記IIの訴訟を前提としている。ただし,第2回口頭弁論期日が開かれる前であるものとして答えなさい。
Yは,第3回弁論準備手続期日が終了した後に,このまま訴訟を続けると業界の噂になって, 他の顧客との取引に支障が出かねないと考え,ある程度の譲歩をしてもよいので,何とか訴訟を終わらせてほしいと,K弁護士に相談した。そこで,K弁護士は,X側のJ弁護士に協議を申し 入れた。K弁護士は,J弁護士から,Xが「以前から欲しいと思っていたY所有の仏像乙を手に 入れることができるのであれば,訴訟にはこだわらない。」と述べているという話を聞かされたの で,そのことをYに伝えたところ,Yは「乙であれば手放してもよい。」とK弁護士に述べた。こ のことをJ弁護士に伝えると,J弁護士から,次のような提案があった。
「YがXの請求債権が存在することを認めた上で,乙を代物弁済としてXに譲渡するのであれ ば,訴訟については矛を収めることにする。その方法だが,(方法1)Yが1週間以内にXの自宅に乙を持参すれば,その場で訴えの取下げを合意する契約を結び,きちんとした契約書を作る。その方法が嫌であれば,(方法2)次回の口頭弁論期日にYが乙を持参して,法廷でXに手渡して くれれば,請求債権はそれで消滅したということで,その期日に請求の放棄の手続をとる。あるいは,(方法3)同じく法廷で乙を授受することを前提として,YがXの請求債権を認め,これが 代物弁済によって消滅したこと及びXとYの間に本件に関し一切の債権債務が存在しないことを 相互に確認する旨の訴訟上の和解をするということでも結構だ。」
〔設問3〕 K弁護士の立場で,1から3までのいずれの方法をXの側に求めるべきかにつき,訴訟法上の観点から論じなさい。ただし,訴訟費用の問題を論ずる必要はない。


「この問題を理解する上で必要な限りにおいて、判決によらない訴訟の終了について説明しておこう。民事訴訟は私権に関する紛争の公権的解決であり、私的自治が働くという話は、弁論主義のところでもしたよね。」


律子ちゃんにこっそり解説をする。


「弁論主義は、主張や証拠の収集、提出に関して当事者の意向を尊重するものでしたね。」


「そう。でも、そもそも、裁判をするかどうか、そしてどのような請求を立てるかという、いわゆる『訴訟物』のレベルでも私的自治を認めるべきであり、例えば当事者が訴訟を終了させたければ、わざわざ裁判所が判決を下す必要がない場合がある。これが、処分権主義で、この考えを踏まえて、請求の放棄・認諾、和解、訴えの取下げという制度ができているんだ。」


「それぞれの制度はどう違うんですか?」


「訴訟上の和解はわかりやすいんじゃないかな。実務上の利用例も多いし。訴訟上の和解は、訴訟の係属中に当事者が訴訟物に関するそれぞれの主張を譲歩した上で、期日において訴訟物に関する一定内容の実体法上の合意と、訴訟終了についての訴訟上の合意をなすことだね*1。お互いにこの条件であれば合意できるという点が見つかれば、もう訴訟を続ける意味がないよねということで、これは比較的分かりやすいんじゃないかな。ただ、訴訟外の和解(示談)と異なり、裁判所の関与を経ていることから、『確定判決と同一の効力』を持っている(民事訴訟法267条)ことに注意が必要だよ。」


「大きな裁判が和解で終了したというニュースが報道されることもありますね。」


「請求の放棄は原告が訴訟物たる権利関係の主張についてそれを維持する意思のないことを期日において裁判所に対して陳述する行為(民事訴訟法267条)、請求の認諾は被告が訴訟物たる権利関係に関する原告の主張を認める旨を期日において裁判所に対して陳述する行為(民事訴訟法267条)と定義されるね*2。簡単に言えば、請求の放棄は原告側の『敗訴宣言』、請求の認諾は被告側の『敗訴宣言』で、一方当事者が負けを認めているなら、判決を書く必要もなく、訴訟を終了させていいではないかという感じだね。条文上、『確定判決と同一の効力』があるとされている。」


「訴えの取下げはどうですか。」


「訴えの取下げ(民事訴訟法261条)は、請求についての審判要求を撤回する原告の意思表示*3であり、原告側のイニシアチブで訴訟を終了させる点では請求の放棄に似ているところがある。あくまでも、訴訟係属が遡及的に消滅するだけで、条文上『確定判決と同一の効力』はない。ただ、本案について終局判決がなされた後の取り下げには、再訴禁止効がある(262条2項)。」



「どうして、訴えの取下げと、請求の放棄という2つの制度があるんですか?」



律子ちゃんの鋭い質問。


「訴訟というのは、どんどん発展して展開していく訳だよね。最初に訴状が送達されると、訴訟係属といって、裁判所・原告・被告という三者の関係が形成される訳だけど、その段階では、被告の『この訴訟で紛争を解決したい』という利益はあまり高くない。この段階で、原告が『やっぱり訴状はなかったことにさせてください。てへぺろ☆』と言えば、被告としても訴訟をやめることができて嬉しいかもしれない。ところが、その後、反論の書面を出し、そのための証拠を収集・提出するという過程で、被告は相当の時間と費用を掛けることになるから、そういうコストをかけた後であれば、被告としては、原告に勝手に訴訟をやめられては困る訳で、この訴訟において紛争を解決したい。この、その訴訟における紛争解決に対する被告側の利益の保護の必要性の高さが訴訟の各段階で変わって来るという点が『確定判決と同一の効力』のある請求の放棄と、それがない訴えの取下げという2つの制度が存在する根拠だね。」


「そうすると、ある時点までは訴えの取下げを使い、その後は請求の認諾を使うということですか?」



「正確にいうと、被告が最初の準備書面を提出したり、弁論準備手続で申述したり、口頭弁論をするまでは、原告は被告の意向に関わらず単独で訴えの取下げができる。でも、それ以降は被告の同意が必要だ(民事訴訟法261条)。つまり、この段階以降は、原告が訴訟をやめたくなったら、訴えの取下げについて被告の同意を得る必要があり、被告が嫌だと言えば、訴訟を続けるか、和解ないし請求の放棄をするしかないということだね。おっと、戦いが始まるよ。」



6.今夜のお夢は苦い味
「弁護士として方法1をXの側に求めるべきかしら。」


会長が問いかける。


「訴えの取下げは、裁判所に対して行う訴訟行為です*4。方法1は、当事者間で、訴えの取下げについて合意しているところ、『訴えの取下げをすることの合意』は『訴えの取下げ』(民事訴訟法261条)とは異なります。合意に従い訴えが取り下げられれば通常わざわざこの『合意』の性質を論じる必要はありませんが、合意に反して訴えが取り下げられない場合に、この『合意』がどういう効果を持つかについて、学説は百花繚乱の様相を呈しており、大きく分けて8つあると言われています*5判例・通説は、この合意は、単なる私法上の契約にすぎないと考えるものの、両当事者がそのような合意をしていれば、訴訟を継続する必要がなく、訴えの利益なしとして訴え却下判決をするべきであると解しています*6。」



「そうすると、合意通り訴えが取り下げられても、訴えが取り下げられなくとも、訴えの取下げないし、訴え却下判決により、訴訟から解放されることから、K弁護士としてはこの方法を選択すべき、ということかしら?」


会長が挑発する。


「訴えが取下げられれば、訴訟係属は遡及的に消滅しますが、本案判決前の本件では再訴禁止効はありません。却下判決でも、本案についての既判力のある判断はなされません*7。訴訟判決ないしは訴えの取下による訴訟の終了という目的を達成することができるというメリットがあることは否定しませんが、既判力等はないというデメリットについて注意が必要と思われます。K弁護士としては、より紛争の終局的解決に資する方法を考えたいのではございませんか? 会長、方法2なんかいかがでしょうか。」志保ちゃんが攻勢に転じる。


7.お皿の上には猫の夢
「請求の放棄が調書に記載されると、『確定判決と同一の効果』(民事訴訟法267条)が生じるわ。この、『同一の効果』として、既判力が認められるか争いがあるけれど、現在有力な見解は、原則として既判力があるが、意思表示に無効事由があれば再審事由がなくとも既判力の排除を求めることができる(制限既判力説)という考えを取っているわ*8。この考えを取れば、方法2では、単に紛争を解決するだけではなく、その紛争についての蒸し返しを防ぐ効果があるとして、方法1よりも相対的に優れているということになるわね。」


「つまり、会長が弁護士Kの立場なら、この方法を勧めるってことでしょうか?」


「そこまでは言っていないわ。制限既判力説を取れば、もしも請求の放棄が錯誤に基づく等、意思表示の瑕疵があるものであれば、それを理由に既判力の排除を求めることができる。例えば、仏像である乙が偽物だったりとかすれば、錯誤無効の問題が生じて、完全な紛争の解決にはならないわよね。」


「制限既判力説一般に対する批判として、会長の指摘する点があるのは事実ですが、本件で何と何を比較しているのかという発想が薄いのではございませんか。そもそも方法1は訴えの取下げであって、『確定判決と同一の効果』がなく、方法2よりも紛争解決の点で劣ることは明らかであって、問題は方法3、つまり和解との比較です。ここで、請求の放棄では『主文』に当たるものが明確であるにも関わらず、和解の場合にはこれが不明確になる可能性があるという意味で、既判力を肯定しやすいのが請求の放棄、しにくいのが和解とも言えるでしょう。請求の放棄に和解以上の拘束力を認めることは難しく、和解と請求の放棄を比較する際に、『請求の放棄は制限既判力だから問題がある』という批判をすることが適当か疑問が残るところです。」


志保ちゃんが攻め込む。


「あ、あくまでも一般論ですわっ!」


口ごもる会長。


8.丸々太って召し上がれ
「最後は、方法3ね。訴訟上の和解は、調書に記載されることにより確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。その意味として、私は、制限既判力説を取ります。」


敵を追い込みすぎない。これが、鉄則だ。


「先ほど、和解では主文にあたる部分が不明確とか言っていたようだけど?」


会長が挑発する。



「これは和解調書の書き方の問題であって、主文に当たる部分が明確になるように調書を作成すべきというだけであって、本質的な問題ではないと解されます*9。」



「制限既判力説を取れば、和解でも、請求の放棄でもどちらも結果は同じということにはならない?」


会長が志保ちゃんを誘い込もうとする。


「その手には乗りませんわ。訴訟上の和解においては、訴訟物以外についても処分できる点にご注目下さいませ*10。今回は、『本件に関し一切の債権債務が存在しない』という条項が入ることで、訴訟物以外についても全ての債権債務を放棄し、争いを解決できるという点で、方法3は、方法2にないアドバンテージがあると言えるでしょう。」


「でも、『本件』って、問題となっている人形についての紛争だわ。人形に関する紛争は、和解でも、請求の放棄でも解決されたら、後はもう『本件に関』する紛争なんてないのではなくて。」


会長の最後の攻撃。


「例えば、アクリルケースの問題はいかがでしょうか。XがYに対してアクリルケースに関する後訴を起こした場合、アクリルケースの問題は前訴の訴訟物外の問題である以上、方法1はもちろん、方法2でも防げないというのが通常の理解となります。これに対し、方法3によって和解を行い、『本件に関し一切の債権債務が存在しない』という条項を入れておけば、直接の訴訟物ではないアクリルケースについても、その取引に付随する紛争として、『本件』に含まれると解され、後訴を封じることができるのです。」



さらりとかわす志保ちゃん。




「私の負けね。でも、私はそれでも学校代表になるわ。


会長の目に、執念の炎が燃えていた。

*1:伊藤455頁

*2:伊藤448頁

*3:伊藤440頁

*4:伊藤440頁

*5:重点講義下282頁以下の7つと「新堂説」。

*6:伊藤441頁

*7:なお、決定と既判力につき、リーガルクエスト418頁参照

*8:伊藤454〜455頁

*9:重点講義上787頁

*10:重点講義上777頁