アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

民訴ガール第5話 「ミスコンテストで民事訴訟法?」その1〜平成20年その1

民事訴訟法 (LEGAL QUEST)

民事訴訟法 (LEGAL QUEST)

1.会長の策略

「私の負けね。でも、私はそれでも学校代表になるわ。」


会長の目に、執念の炎が燃えていた。


「会長、負けたのですから、私たちは正々堂々と負けを認めるべきではないでしょうか。」


沙奈ちゃんが、会長をたしなめる。


「みんそ部はいま2人で、部としての存続要件を満たしていない、つまり、模擬裁判の大会に参加できないじゃない。生徒会長をしている五月(いつき)と申しますわ。みんそ部に入部させてくださいませ。


会長が、志保ちゃんに入部を申し出る。


「よろしいですわ。みんそ部の部長の志保です、ふつつかものですが、よろしくお願い致します。」


志保ちゃんに今日初めて笑顔が戻る。


「わ、私も入部します!」


あわてて入部を宣言する沙奈ちゃん。


こうして、みんそ部は部としての要件を満たした



2.会長の奇襲
「「「みんそ部全員でミスコンテストに参加する?」」」


法学科研究室に、3人の上ずった声がシンクロする。

「そうよ、これから模擬裁判の大会に出たら、交通費やら宿泊費やら、かなりのお金がかかるんだけど、生徒会長の権限でみんそ部にだけ予算を多く配分したら、これこそ権限濫用よね。だから、生徒全員に納得してもらう必要があるのよ。全校生徒に向けて、みんそ部を宣伝する上で、ミスコンなんて一番いい方法じゃない!」


なんだかわからない理屈だけど、なんだか説得されてしまう。そんな「勢い」みたいなものが、五月ちゃんの演説にはある。


「ミス星海は、どのように決まるのかな。」


律子ちゃんからのもっともな質問。


「学園祭前に内部予選があるから、特設サイト上に『外面と内面の美』を示す動画をアップして、上位4名が学園祭本戦に進出できるわ。学園祭本戦では、水着審査があって、その後に知性の審査をして、総合点でミスが決まるわ。」


「その予選動画はどうやって撮るのでしょうか? アイドルのイメージビデオのように、南の島で水着姿で撮影でもするのでしょうか?」


沙奈ちゃんも質問する。


「外面の美は、内面からにじみ出る美しさで大丈夫よ。四人で討論会を開催して、その姿を撮影した動画をアップすれば、それだけでみんそ部の宣伝にもなって、一石二鳥よ。」


「えっと、カメラマンは、まさかと思うけど…。」


会長が僕の方を向いている。



「先生、私たちの事、可愛く撮ってくださいね。」


突然、キャラを変えて、僕の目を見つめてお願いする五月ちゃんの奇襲作戦に、首を縦に振るしかなかった。



3.会長の号令
 法学科研究室に常備してあるビデオカメラを構える。えっと、弁護士は、例えば株主総会取消訴訟の提起が予想される総会の様子をビデオ撮影する、痴漢冤罪事件で再現動画を撮影する*1等、臨機応変にビデオを撮影できるよう、ビデオカメラを常に手元に置いておく必要なのである。け、決してやましい理由では…。といったことを考えていると、五月ちゃんが号令をかける。


「撮影開始よ!」


注:会社法の問題を読まなくても意味が通じるように適宜加筆している。
1. 甲社の個人株主であるJは,平成19年6月28日に行われた甲社の定時株主総会に出席し,同社が損失を出したこと等を理由として、取締役Aの解任議案に賛成票を投じたが、解任議案は否決された。Aの行動に憤りを覚えたJ は,法学部出身でもあり,役員の解任の訴えの制度を知っていたので,この際,訴えを提起し てAを解任しようと考えた(Jは,会社法第854条第1項に規定する議決権又は株式の保有 の要件を満たしている。)。そこで,Jは,弁護士を訴訟代理人に選任することなく,訴状を自ら作成し,同年7月9日,甲社の本店所在地を管轄するP地方裁判所に,Aだけを被告として取締役の解任の訴えを提起した。P地方裁判所は,直ちにこの訴状の副本をAに送達し,Aは同月13日にこれを受領した。

2. 会社法の解説書を読み直していたJは,会社法第855条を見落としていたことに気付いたので,同月17日,P地方裁判所に,被告として甲社を追加する旨の申立書を提出した。P地 方裁判所は,直ちに,訴状と申立書の双方の副本を甲社に,申立書の副本をAに,それぞれ送達し,甲社もAも同月20日にこれを受領した。
3. 同月30日,「原告Jの平成19年7月17日付けの申立ては主観的追加的併合の申立てに該当するところ,主観的追加的併合についてはこれを否定する最高裁判例があるから,甲社を被 告として追加する原告Jの申立ては許されない。」との記載のある甲社の答弁書がJのもとに送 られてきた。
(甲社が答弁書で引用した最高裁判所の判決)
「甲が,乙を被告として提起した訴訟(以下「旧訴訟」という。)の係属後に丙を被告とする請求を旧訴訟に追加して1個の判決を得ようとする場合は,甲は,丙に対する別訴(以下 「新訴」という。)を提起したうえで,法132条の規定による口頭弁論の併合を裁判所に促し,併合につき裁判所の判断を受けるべきであり,仮に新旧両訴訟の目的たる権利又は義務 につき法59条所定の共同訴訟の要件が具備する場合であつても,新訴が法132条の適用 をまたずに当然に旧訴訟に併合されるとの効果を認めることはできないというべきである。 けだし,かかる併合を認める明文の規定がないのみでなく,これを認めた場合でも,新訴に つき旧訴訟の訴訟状態を当然に利用することができるかどうかについては問題があり,必ず しも訴訟経済に適うものでもなく,かえつて訴訟を複雑化させるという弊害も予想され,ま た,軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれもあり,新訴の提起の時期いかんによつては訴訟 の遅延を招きやすいことなどを勘案すれば,所論のいう追加的併合を認めるのは相当ではな いからである。」(最高裁判所昭和62年7月17日第三小法廷判決・最高裁判所民事判例集第41巻第5号1402頁)

※ 引用文中の「法132条」,「法59条」は,それぞれ,現行民事訴訟法第152条,第38条に相当する旧民事訴訟法の規定である。

4. この甲社の答弁書を読んで驚いたJは,知人から紹介を受けた海野弁護士に相談をし,海野弁護士はJから訴訟委任を受けた。
〔設問3〕 海野弁護士は,Jの訴訟代理人として,甲社の主張に対して,どのように反論すべきか,論じなさい。


「質問です! 主観的追加的併合ってなんでしょうか?」


律子ちゃんが早速質問を投げかける。


民事訴訟法学において『主観的』というのは『既判力の主観的範囲』などというように、当事者に関することという意味です。主観的追加的併合は、二当事者間の訴訟係属を前提として、第三者に新たに共同訴訟人としての地位を取得させる手続のことをいいます(伊藤627頁)。」


さらりと答える志保ちゃん。


「要するに、訴えた時は原告一人、被告一人の単純な訴訟だったけれど、事後的に被告を追加する等して共同訴訟にするということね。」


五月ちゃんが分かりやすい言葉でフォローする*2


「要するに、原告は一人の被告を相手に訴訟を起こしたんだけど、被告をもう一人追加したくなったってことだよね。併合後に通常共同訴訟になる事案なら、別訴として第三者を訴えることもできるはず(第1話参照)。別訴を提起した後で、裁判所に弁論の併合(民事訴訟法152条)すれば、原告がやりたいことが実現できるのではないですか。当事者が全員揃っていることが必要な必要的共同訴訟なら、一度取り下げて再度提訴してもいいですし。」


沙奈ちゃんがある意味もっともな質問をする。


「資料として引用されている最高裁判例は、『別訴(以下 「新訴」という。)を提起したうえで,法132条(注:現行法152条)の規定による口頭弁論の併合を裁判所に促し,併合につき裁判所の判断を受けるべき』と判示していますが、その趣旨は、まさに今沙奈さんがおっしゃったとおりのことだと思われます。ただ、今回の原告について、再訴を提起できるのか、時系列表を書いて具体的に考えてみてはいかがでしょうか。」


志保ちゃんの優しく教え諭すような口調。


「えっと、こんな感じでしょうか。」


律子ちゃんが丸っこい字で黒板に時系列表を書く。

平成19年6月28日 総会
同年7月9日     Aを提訴
同月17日      甲社を提訴
同月30日      答弁書


「えっと、時系列表を見ても、全然わからないんですけど….。」


戸惑いを隠せない沙奈ちゃん。


実体法から考えてみたら? 問題文にある会社法855条や、その周りの条文は確認した?」


実体法と手続法が「違う」こともあるが、実体法の理解が手続法の問題を説くヒントになることもある。五月ちゃんの指摘は、まさに、実体法から手続法にアプローチするという後者のお誘いだ。


会社法855条って、役員解任の訴えを起こすなら、会社と役員双方を被告にせよということで、これは、固有必要的共同訴訟を定めている規定ですよね…。あ、ありました。854条で、提訴期間は30日です!



うれしそうな律子ちゃん。


答弁書が届いた時には既に30日の提訴期間は既に過ぎてたから、主観的追加的併合が認められないと、Jにとっては大変なことになるわね。」


五月ちゃんがまとめる。


「はい、はい、はい!! 固有必要的共同訴訟で被告が足りないことから、訴えは却下され、再訴をしようにも提訴期間の30日を過ぎているから却下されます!


沙奈ちゃんのツインテールが踊る。



「つまり、八方ふさがりですね。」



律子ちゃんが冷静につぶやく。



「クライアントが危機的な状況にあることは、良くわかりました。でも、もし、私たちがJの代理人なら、最高裁判決があるからといって諦めてしまうのでしょうか? 尻尾を巻いて逃げてしまうのでしょうか?


志保ちゃんの一言一言が重い。


「私、諦めません。」


律子ちゃんが力強く宣言する。


「私も、諦めません。」



沙奈ちゃんも応じる。


「じゃあ、諦めないとして具体的にどういう主張をするの?」


「まず、判例がおかしいといいます。結局、私と志保ちゃんのみんそ部に会長と沙奈ちゃんを迎え入れるようなものですよね。最高裁は、弊害があると指摘しますが、その弊害は、訴訟の複雑化の可能性、濫訴の可能性、訴訟の混乱といった抽象的なものにすぎません。もし、そのような弊害が現実に生じたのであれば、その段階で弁論の分離(民事訴訟法152条1項)をすれば良いのであって、一般に主観的追加的併合を禁止する理由にはなりません。」


律子ちゃんが、最高裁の判決文に即して反論する。


「学説は民事訴訟38条の要件が満たされる限りで、主観的追加的併合を許容していいとして昭和62年最判に対して一般に批判的だわ*3。第三者の利益は弁論の分離によって守ればいいという立場ね*4。」


「私は、この事案は判例にあてはまらないといいます。そもそも、最高裁が指摘する問題点って、本件と関係ないように思うんですよね。訴訟提起のタイミングが1週間遅れただけで、事実上何も始まっていないのだから、『旧訴訟の訴訟状態』は新訴訟の訴訟状態と事実上何も変わらないし、『訴訟の遅延』もないよね。しかも、この事案は、最高裁判決の事案と違って、固有必要的共同訴訟だから、誰が当事者となるべきかについて会社法が明確に決めている以上、後で適切な当事者になるよう追加したところで、軽率な提訴ないし濫訴が増えるとはいえないし、法が予定した状態になるよう是正するだけなのだから、訴訟の複雑化の問題もないんじゃないかな。」


沙奈ちゃんが畳み掛ける。


「二人とも、よくできているわ。少なくとも本件のような必要的共同訴訟については、追加的併合を認めることの必要性が弊害を上回ると議論されているわ*5。また、平成19年7月9日の申出書を会社に対する訴状とみて、別訴が提起されたが、これを裁判所は併合し、併合によって被告の選択に関する瑕疵は治癒されたものとみるべきという主張も可能かもしれないわね*6。」


「他にも、訴状の訂正という方法で瑕疵を治癒できないかといった発想もあり得ますが、既に送達が終わり、第1回口頭弁論で陳述してしまった後ですから、この段階で自由な訴状の訂正を認める議論をするのはやや難易度が高いのではないかと思われます。」


「この問題についてのみんそ部内での議論はこんな感じだけど、この影像をご覧の皆さんはどう思いますか? それでは、みんそ部の志保ちゃん、沙奈ちゃん、律子ちゃん、そして私、五月を、よろしくね〜。」


五月ちゃんが、アイドル風にキラッをしたところをアップに収めて、カメラはフェードアウトする。

*1:知り合いの先生は、奥様に協力して頂いて、依頼者の供述バージョンと、「被害者」の供述バージョンを完全に再現し、「被害者」の供述のとおりに痴漢行為をすることができないことを証明する動画を作成されていましたね。

*2:なお、文献によっては、共同訴訟参加(民事訴訟法52条)や承継人に対する訴訟引受(民事訴訟法50、51条)を含む広義の意味で「主観的追加的併合」という言葉を使うものもあるが、この問題では、『主観的追加的併合についてはこれを否定する最高裁判例がある』といっており、原告の意思で、明文もないのに訴訟係属後に第三者を当事者として引き込むことの可否を問題とするべきであろう。

*3:重点講義下417頁

*4:伊藤630頁

*5:重点講義下417頁

*6:伊藤629〜630頁の「固有必要的共同訴訟において欠落していた共同被告に対する請求を追加して併合審理を求める場合などが、原告の意思による主観的追加併合の例として考えられる(略)固有必要的共同訴訟の場合には、訴えの適法性を維持することについての原告の利益が第三者の利益に優越すると考えられるから、裁判所は弁論の併合を認めるべきである。」はこのような方向性を指向するものとも読める。