アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

民訴ガール第12話「夏合宿は遊園地で民事訴訟法の勉強?」その2 平成23年その2

民事訴訟法

民事訴訟法

「次のアトラクションは、全員が楽しめるのがよさそうですね。メリーゴーランドに行きませんか?」


志保ちゃんの提案で、みんなでメリーゴーランドの列に並ぶ。



メリーゴーランドに入り、大きな馬車に5人で乗る。メリーゴーランドが回りだすのにつれ、周りの乗り物が、上下に、左右に、僕たちの馬車と違う方向に動き出す。


「メリーゴーランドといえば、共同訴訟に関するメリーゴーランド論というのが有名だよね。原告が被告に請求を定立することを矢印としてとらえると、伝統的通説は、共同訴訟もやはり単独訴訟の集まりとして、『各当事者間で矢印がどこに向いているのかを考えよう』という方向性だった。ただ、メリーゴーランドのように、『色々な方向を向いてもいいんじゃないか』、これがこの学説の面白いところだね *1。」


「じゃあ、メリーゴーランドついでに、後発的共同訴訟の本問について検討してみましょうか。」


志保ちゃんも乗ってきた。

【事例1(続き)】 F銀行は,Aの言わばメインバンクであり,Aに対して医療機器の購入資金や医院の運転資金などを貸し付けてきた。現在,Fは,Aに対して2500万円の貸付金残高を有している。訴訟 1が第一審に係属していることを知ったFがその進行状況を調査したところ,BがBA間の消費 貸借契約締結の事実(1の事実)やAの無資力の事実(5の事実)の立証に難渋している,との 情報が得られた。そこで,Fは,Aに甲土地の所有権登記名義を得させるために,自らも訴訟1 に関与することはできないかと,弁護士Sに相談した。Sは,Bの原告適格が否定される可能性 があることを考慮すると,補助参加ではなく当事者として参加することを検討しなければならな いと考えたが,どのような参加の方法が適当であるかについては,結論に至らなかった。
〔設問2〕 Fが訴訟1に参加する方法として,独立当事者参加と共同訴訟参加のそれぞれについ て,認められるかどうかを検討しなさい。ただし,民事訴訟法第47条第1項前段の詐害防止参 加を検討する必要はない。
【事例2】 Kは,乙土地上の丙建物に居住している。Kの配偶者は既に死亡しているが,KにはLとMの2人の嫡出子があり,共に成人している。このうち,Lは,Kと同居しているが,遠く離れた地 方に居住するMは,進路についてKと対立したため,KやLとほとんど没交渉となっている。 乙土地の所有権登記名義はKの旧友であるNにあり,丙建物の所有権登記名義はKにある。
Nは,Kを被告として,平成22年9月2日,乙土地の所有権に基づき,丙建物を収去して, 乙土地をNに明け渡すことを請求して,訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟2」という。)。 なお,訴訟2において,NにもKにも訴訟代理人はいない。
平成22年10月12日に開かれた第1回口頭弁論期日において,次の事項については,Nと Kとの間で争いがなかった。
・ 乙土地をNがもと所有していたこと。

・ Kが,丙建物を所有して,乙土地を占有していること。

・ 平成10年5月頃,Nが,Kに対して,期間を定めないで,乙土地を,資材置場とし
て,無償で貸し渡したこと。

・ 平成22年9月8日,Nが,Kに対して,乙土地の使用貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと。
同期日において,Kは,平成17年12月頃,NとKとの間で乙土地の贈与契約が締結されたと主張し,Nは,これを否認した。さらに,Kは,KとNとの間で乙土地をKが所有することの 確認を求める中間確認の訴えを提起した。
平成22年10月16日,Kは交通事故により死亡し,LとMがKを共同相続し,それぞれに ついて相続放棄をすることができる期間が経過した。平成23年3月7日,NがLとMを相手方 として受継の申立てをし,同年4月11日,受継の決定がされた。平成23年5月10日に開かれた第2回口頭弁論期日において,Lは争う意思を明確にした が,Mは「本訴請求を認諾し,中間確認請求を放棄する。」旨の陳述をした。
以下は,第2回口頭弁論期日終了後の裁判官Tと司法修習生Uとの会話である。 T:今日の期日で,Mは本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄をしましたね。 U:はい。しかし,Lは認諾も放棄もせず,Nと争うつもりのようですね。
T:Lがそのような態度をとっている場合に,Mのした認諾と放棄がどのように扱われるべきかは,一考を要する問題です。この問題をあなたに考えてもらうことにしましょう。 なお,LとMが本訴被告の地位と中間確認の訴えの原告の地位を相続により承継したこと によって,本訴請求と中間確認請求がどうなるかについては議論のあるところですが,当然 承継の効果として当事者の訴訟行為を経ずに,本訴請求の趣旨は「L及びMは,丙建物を収 去して,乙土地をNに明け渡せ。」に,中間確認請求の趣旨は「L及びMとNとの間で,乙土 地をL及びMが共有することを確認する。」に,それぞれ変更される,という見解を前提としてください。 このような本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄の陳述をMだけがした場合に,この陳述
がどのように扱われるべきか,考えてみてください。その際には,判例がある場合にはそれを踏まえる必要がありますが,それに無批判に従うことはせずに,本件での結果の妥当性な どを考えて,あなたの意見をまとめてください。
〔設問3〕 あなたが司法修習生Uであるとして,裁判官Tから与えられた課題に答えなさい。

「じゃあ、設問2からはじめますわ。律子ちゃん、どう考えるのかな?」

五月ちゃんも、やっと調子が出て来たようだ。

「えっと、BはAの債権者として、債権者代位権に基づき、法定訴訟担当として、原告として、AのCに対する甲土地の所有権に基づく甲土地の移転登記請求権に基づきCを訴えているってことですよね。Fは、Aの債権者であり、Bが債権者代位訴訟を提起していなければ、自らも債権者代位権に基づき、法定訴訟担当として、原告として、AのCに対する甲土地の所有権に基づく甲土地の移転登記請求権に基づきCを訴えることができる立場にいました。」

律子ちゃんも大分力がついてきた。

「『Bが債権者代位訴訟を提起していなければ』というのがポイントね。問題の指示により、検討するのは、共同訴訟参加ね。これは、類似必要的共同訴訟が異時的に提訴された場合なんだけど、分かる、沙奈?」

五月ちゃんが沙奈ちゃんに聞く。


「な、何を言っているのかにゃ〜?」

猫化する沙奈ちゃん。


「前に、合一的確定が必要な訴訟については、必要的共同訴訟ということで、特別な審理が適用されるという話が出たよね。ここで、必要的共同訴訟には2つある。1つは固有必要的共同訴訟で、訴訟の開始時点から全当事者がそろっていなければならず、一人でも欠ければ却下される。もう1つは、例えば原告であれば、一人で訴訟を起こすこともできるけど、2人が訴訟を起こすなら、固有必要的共同訴訟と同様に特別な審理をしないといけないというもので、これを類似必要的共同訴訟というよ。例を出してあげようか。」

事例1 甲社の総会決議が違法だとして、甲社の株主乙と丙が取消の訴えを提起した。

沙奈ちゃんが「人間」に戻れるように、少し優しく噛み砕く。

「えっと、乙との関係では、総会決議は取消されるけど、丙との関係では決議は有効というのはおかしいので、必要的共同訴訟だと思います。」


律子ちゃんが即答する。


「うん、よくできているね。会社の組織に関する訴えに係る請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有する(会社法838条)から、合一確定が要請されるね。じゃあ、これは類似必要的共同訴訟かな、それとも、固有必要的共同訴訟かな?」


「あ、これが類似必要的共同訴訟訴訟なんですね。乙だけでも訴訟を起こすことができるから。」


沙奈ちゃんの調子が戻って来た。

「そして、もしも、乙が先に訴訟を起こした後、期間内に丙が訴訟を提起したのであれば、丙は甲乙間の訴訟に原告として参加することになります。このような参加を共同訴訟参加と言います。」

志保ちゃんが補足する。


「じゃあ、この問題で考えるべきは、共同訴訟参加と、もう1つは何、沙奈?」


「え、独立当事者参加?」


沙奈ちゃんの発言に一同がずっこける。


「問題文には『民事訴訟法第47条第1項前段の詐害防止参加を検討する必要はない』とあります。独立当事者参加には、詐害防止参加、つまり、自分に権利はないけれども、訴訟の結果によって権利が害されるとして参加するものもありますが、もう1つ、自分に権利があると主張して参加する、権利主張参加があります。」

志保ちゃんが整理する。


「この、2つの違いがわかりにくいなぁ…。」


沙奈ちゃんがぼやく。

事例1 Yの債権者Zは、Yの土地を差し押さえ、そこから債権の回収をしようと狙っていた。ところが、XがYに対し登記移転請求訴訟を提起したところ、Yは期日を欠席して、積極的に応訴をしようとしない*2
事例2 甲土地の登記上の所有者はQであるが、Rは、甲土地はRのものだと思っている。PはQを被告に、当該土地の所有者はPだと主張して、登記移転請求訴訟を提起した*3


「こんな事例はどうかしら?」


五月ちゃんが助け舟を出す。



「事例1と事例2を比較してみると、事例2のRが、自分に所有権があると思っているのに対し、事例1のZとしては、自分には土地の所有権があると思っているのではないですよね。そっか、事例2が権利主張参加、事例1が詐害防止参加ですね*4!」


沙奈ちゃんが気づく。


「そのとおりです。権利主張参加の場合は、概ね、その要件は、第三者が訴訟の目的たる権利関係の全部または一部が自己の権利と主張する場合*5と解されていますが、詐害防止参加については、その要件について諸説があって混沌としていることに注意が必要です*6。」


志保ちゃんが補足する。

「権利主張参加を検討するので、その要件である、第三者が訴訟の目的たる権利関係の全部または一部が自己の権利と主張する場合の意義が問題となるけど、要するに、訴訟物たる権利と第三者自らが主張する権利とが法律上両立しえない関係にある場合だわ*7。」


即答する五月ちゃん。


「五月先輩! どうして非両立が要件なんですか?」


律子ちゃんの素朴な疑問。


「それは、わざわざ他人間の訴訟に当事者として介入をさせる以上、一定以上の利害関係が必要ということではないかしら。例えば、既判力は原則として当事者にしか及ばないから(民事訴訟法115条1項)事例2では、PQ間の判決の既判力はRには及ばないわ。でも、Pが裁判所のお墨付きを得たことが、自分こそ所有者だというRの主張にとって裁判外、裁判上で不利益に作用するわよね*8。そういう不利益がある場合にはじめて、他人間の訴訟に当事者として介入をさせる必要があるのよ。」


五月ちゃんが即答する。


「具体例には、最判平成6年9月29日*9があります。この事案では、事例2と類似している事案で、QがPとRに二重譲渡した事案なのですが、Rが先に仮登記を得ていたという特殊性がありました。」


「か、仮登記ってなんでしょうか?」


律子ちゃんが尋ねる。


「〜です。仮登記を先に得ておけば、後で本登記の承諾請求(不動産登記法105条)をすることで、登記を得る事ができる。これを順位保全効といいます。Pが仮にQに勝っても、Rは、Qに対し、本登記の承諾請求訴訟を提起することで、自らへの登記がなされ、裁判外・裁判上の不利益はないという特殊性がありました。その意味で、PのQに対する『移転登記請求』と、RのQに対する『仮登記の本登記請求』は論理的に両立するので、非両立とはいえず、独立当事者参加をすることはできないとされたのです*10。」


「既に存在する訴訟で争われている請求と、独立当事者参加を希望する当事者の請求が矛盾するかを考えるんですよね。あれ、Bが訴える場合でも、Fが訴える場合でも、訴訟物はAのCに対する甲土地の所有権に基づく甲土地の移転登記請求権ですよね。BもFもAにはCに対する権利があるんだといっていて…、なんか矛盾はしなそうなんですが。」


沙奈ちゃんが指摘する。



「これは、民法についてまず考えてみたらどうかな。実体法上、債権者代位権が行使されると、どういう法的効果を生むかから議論を展開してみたら。」



少し顧問らしいコメントをしてみる。


債権者代位権が行使されると、債務者の当該権利に対する管理処分権が失われる、ということをおっしゃっているのですね*11。」


志保ちゃんが一瞬で返してくる。



「どういう意味ですか…?」


議論についていけていない律子ちゃん。


「もし、BもFも当事者適格がある、つまり、Bが提訴した後も依然としてFが訴訟を提起することができるとしようか。そうすると、その訴訟はどういう審理が行われるべきだろうか。」


律子ちゃんにも分かるように噛んで含めるように説明する。


「審理、ですか? 確か、通常共同訴訟と必要的共同訴訟で審理に適用される原則が違うはず。えっと、二人ともAの同じ権利を行使するのだから、Bとの関係とFとの関係で矛盾する結論を導くことはできない。」


沙奈ちゃんが議論を積み上げる。


「そうか、法定訴訟担当の場合、判決の効力は被担当者にも及ぶんでした(民事訴訟法115条1項2号)。もしもBの訴訟で、B勝訴、Fの訴訟でF敗訴だとすると、Aに矛盾する2つの効力が及び得るという意味で、矛盾した結果になります。そこで、合一確定が要請されるとして必要的共同訴訟になります。」


律子ちゃんがひらめく。


「そうだね。だから、このように考えれば、Fのすべき訴訟参加の態様は共同訴訟参加になるよ。でも、果たして実体法の解釈として、このように考えるべきなのかな。」


「先生も、もったいぶった言い方をしないで、ストレートにおっしゃればいいのに。民法上、一人の債権者が債務者の持つ権利について債権者代位権を行使した時点で、債務者自身もその権利についての管理処分権を行使できなくなると解されているわ。だから、Bが行使してしまえば、Aも管理処分権を行使できません。Aに管理処分権がない状態で、Aの管理処分権を前提としたFの債権者代位権行使もできないと考えるのが素直でしょう。その意味で、Fは共同訴訟参加をすることはできないと考えるべきです。」


五月ちゃんが一気に説明する。


「じゃあ、Bの債権者たる資格を争いたいFはどうすればいいのでしょうか?」


律子ちゃんが心配そうに言う。


「Fの救済ができなくなるということではないよ。そもそも、Bの原告適格が否定される可能性がある場合には、Fは、Bには訴訟担当をする資格はないといってこの訴訟に参加をしていく必要性があるよね。参考になるのは、最判昭和48年4月24日民集27巻3号598頁かな。この事案は、債務者、つまりAが、自称債権者Bは債権者ではないとして独立当事者参加するのを許したものなんだ。債務者A自身が代位債権者Bの当事者適格を争う限りでは独立当事者参加できるなら、この問題でも、Fが代位債権者Bの当事者適格を争う限りでは独立当事者参加できると解するのが相当じゃないかな。こういう、ある意味不思議な関係も、共同訴訟のメリーゴーランド論を理解すると少し納得できるかもしれないね。


僕の言葉に律子ちゃんがうなずく。


「先生、この場合は、『訴訟物の非両立』ではなくて、『当事者適格の非両立』になりませんこと? 本当に権利主張型の独立当事者参加ができるんですか?」

五月ちゃんは非常に鋭い指摘をする。


「普通の独立当事者参加では、全ての請求について本案判決が下されます。これに対し、最判昭和48年4月24日の事案では、代位債権者(B)に当事者適格があれば*12、参加者(A)の訴えを却下し、逆に参加者(A)に当事者適格があれば*13、代位債権者(B)の訴えを却下せよといっています。その意味で、これは判例によって認められた特殊な独立当事者参加と解すべきでしょう*14。」


志保ちゃんが加勢してくれる。

「志保ちゃんが分かりやすく説明してくれているね。こういう、実体法的にどうなるかという視点を持っておくと、理解が進むね。設問3も同じだよ。」

「こ、これって、共有と必要的共同訴訟の問題じゃないですか、これ一番苦手なんです。」



頭を抱える沙奈ちゃん。


「大丈夫だよ。ただの民法の問題だから。まずは、当然承継前だけど、これは、NがKに対して建物収去土地明け渡しを求め、Kは逆に中間確認訴訟として、乙土地Kが所有するという点の確認を求めたというだけの単純な事案だよ。ところが、建物の所有者のKが死亡したことから、Kの子ども2人のLとMが当然に承継したのよ*15。そして、本訴請求であるNのLとMに対する乙土地の所有権に基つづく丙建物収去乙土地明渡請求に加え、乙土地をL及びMが共有するという中間確認訴訟が係属しているということになるわ。」

「この2つの訴えについて、共同訴訟人の一人のした放棄や認諾の効果を問う本問は、これが通常共同訴訟か、それとも、必要的共同訴訟かという問題なんですよね。」



律子ちゃんが恐る恐る尋ねる。


「そのとおりです。共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条)の働く通常共同訴訟なら、認諾や放棄も本人の自由ということになりますけれども、『一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる』(民事訴訟法40条1項)必要的共同訴訟では、一人だけの行う認諾や放棄は無効ということになります。」


志保ちゃんが整理する。

「えっと、実体法の問題って、どういうことなんだろう…。なんか良くわからないんだけど…。」



まだ理解できていない沙奈ちゃん。


「じゃあ、ABCの3人が共有していた1件の建物をDに売却するって事案を考えてみたらどうかな。ここでABCの負う建物の引渡し債務は民法上どのように考えられる。」

不可分債務です!


律子ちゃんが即答する。

「そうだね。複数の者が分割不可能(不可分)な給付を目的とする債務を負うことが不可分債務だ。この場合、建物の3分の1を引き渡しても意味がないから、性質上不可分だね。さて、Dは誰に対して何といえるのかな?」

「確か、各不可分債務者は債務の全部について履行する義務を負い、債権者は各不可分債務者に対して同時または順次に全部または一部の履行を請求することができる(民法430条によって準用される民法432条)っていっていたような…。」


沙奈ちゃんが記憶を喚起する。


「そう、Dは全員に対して全部引き渡せということもできるけど、例えば、Aだけに引き渡せということもできるということだよ。」


「そうすると、本訴請求も不可分債務ですから、Mだけに引き渡せと言えます。そこで、通常共同訴訟と解し、Mのした認諾を有効と解していい、こういうことをおっしゃりたいんですね。」



志保ちゃんが、僕の意図を見抜く。


「そうすると、次の中間確認の訴えも、民法で考えればいい訳ですか? つまり、共有関係の確認ですから、そういう共有権を処分できるのは誰かってことでしょうか?」



律子ちゃんが思いつく。


「良く理解できているね。保存行為に基づく行為であれば、各共有者に単独で当事者適格が認められる(民法252条但書)けれど、共有権そのものは、共同でしか処分ができないから、共有者全員でしか訴え、訴えられることができない、固有必要的共同訴訟になる*16。だから、Mのした請求の放棄は無効だ。」


「あれ、そうすると、中間確認の訴えについては、請求の放棄とは関係なくそのまま訴訟が続く訳ですから、LとMが勝つという事はあり得ますよね。でも、建物収去明渡し訴訟ではMの認諾は有効なんですよね。つまり、Lが乙土地の所有者だけど、建物は収去して明け渡さないといけないということになりそうです。それはどう考えればいいんですか。」


沙奈ちゃんがいい疑問を投げかける。


「先生、民事訴訟は確かに実体法を実現するための手続ですが、訴訟法の観点でも考えるべきではありませんか。広く固有必要的共同訴訟を認めるというのは、被告側が共有の場合、『全共有者を訴えないと訴え却下』になってしまい、むしろ実体法が実現されなくなってしまいかねませんわ。」


五月ちゃんが指摘する。

「でも、共有者が誰かって、登記を見れば一発じゃないのかな…。」


律子ちゃんが突っ込む。


「登記簿は正確じゃありません。日本法は公信の原則を採用していないので、登記と権利関係は必ずしも一致しません。例えば、2代前位から相続登記をしていないという事例では、兄弟が多ければ相続で10人以上の共有になっている事案もあり、全員を探し当てるのは一苦労です。そこで、判例は、共有者が被告の場合は固有必要的共同訴訟ではないと解する傾向にあります*17。」



志保ちゃんが解説する。


「みんな通常共同訴訟だとすると、Mの関係では明渡が必要だが、Lとの関係では明渡が必要ないなんてことになりませんか?実体法上の矛盾はどう考えればいいんですか?」


律子ちゃんが疑問を投げかける。

最高裁*18、実際に建物収去土地明け渡しの強制執行をする場面では、Lについても勝訴判決(債務名義)を得ていなければならないので、執行段階で解決できると考えているようです。」


志保ちゃんが解説する。

「要するに、Mが積極的にLを排除して明け渡してくれるならばそれでいいけれども、Lが明け渡しを拒絶すれば、KはLに対して明け渡しを認める判決を持ってくるまで明け渡しはできないってことね。中間確認でLが勝つ場合、この判断は本案の先決的な権利関係についての判断なので、通常は、本案判決もLの明け渡し義務はないということになるでしょうから、結局Mに対する債務名義は空手形になるということね。」


五月ちゃんが微笑む。

「まあそういうことだね。ただ、訴訟法上の考察を重視して、通常共同訴訟を認める考えに対しては、通常共同訴訟として、Mを訴え、その後Lを訴えるということを認めてしまうと、Mに勝っても、次のLに対する訴訟で負ければ、Mとの間の訴訟が無駄になり、かえって無駄な手続を産むだけという指摘が可能だ*19。そうすると、仮に訴訟法上の考慮をするにせよ、本当に通常共同訴訟にした方がいいのかについては、よく考えてみる必要があるね。」

僕の発言にみんながうなずく。ふと気がつくと、既にメリーゴーランドは止まっていて、降りていないのは僕たちだけだ。

「じゃあ、次行きましょう!」


律子ちゃんと沙奈ちゃんが僕の腕を取って駆け出す。僕達は、日が暮れるまで、遊園地で、民事訴訟の問題を解いた。

*1:民事訴訟法の論争241頁〜243頁

*2:最判昭和42年2月23日民集21巻1号169頁参照。但し、判例の事案は所有権移転登記抹消請求。

*3:藤田468頁参照

*4:リーガルクエスト565頁参照

*5:伊藤650頁

*6:伊藤549頁

*7:伊藤650頁

*8:重点講義下489〜490頁

*9:判タ867号175頁

*10:重点講義下499〜500頁

*11:重点講義下552頁参照

*12:つまり、Bに債権があれば

*13:つまり、Bに債権がなければ

*14:重点講義553頁

*15:民事訴訟法124条参照

*16:伊藤622頁、最判昭和46年10月7日民集25巻7号885頁

*17:伊藤623頁参照

*18:最判昭和43年3月15日民集22巻3号607頁

*19:重点講義下328頁参照