アホヲタ元法学部生の日常

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民訴ガール第14話 全国大会のサバイバル 平成24年その2

民事訴訟法の論争

民事訴訟法の論争



模擬裁判全国大会は、一応東京で開催されることになっているが、地理的には都内ではない。法務省総合センター、旧司・予備試験の口述試験会場で行われる。会場には、全国の高校の応援団が集まって熱気に溢れている。その中でも、深い色のワンピースのセーラー服の少女達が集まった星海学園の応援団は異色を放っていた。


全国大会のレフェリーは、日弁連副会長、民事訴訟法学会長、そして、最高裁判事と、大御所が揃う。


「では、一回戦、星海学園対祥鳳高校! 先攻は祥鳳高校」


有名な民事訴訟法の教授がレフェリーとなって、開会を宣言する。


祥鳳高校は、東京の強豪男子校だ。層が厚く、出場者は三年生、しかも全員予備試験合格者をそろえている。


「予備試験受験生が司法試験合格しか考えていないわけでも、その勉強しかしていない訳でもないことを証明してみせましょう!」


スポーツ刈りの男子の声に、黒の学ランで固めた祥鳳高校側の応援団が湧く。

【事例(続き)】 第2回口頭弁論期日において,原告Xは,第2の請求原因として,被告Bではなくその代理人Cが署名代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加した。Bは,第2の請 求原因に係る請求原因事実のうち,保証契約の締結に先立ちBがCに対し同契約の締結について の代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実)を否認し,代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為)は知らないと述べた。
第3回口頭弁論期日において,Xは,第3の請求原因として,Xは,Cには保証契約を締結することについての代理権があるものと信じ,そのように信じたことについて正当な理由があるから,民法第110条の表見代理が成立する旨の主張を追加した。Bは,表見代理の成立の要件となる事実のうち,基本代理権の授与として主張されている事実は認め,その余の事実を否認した。
同期日の後,Xは,Cに対し,訴訟告知をし,その後,BもCに対して訴訟告知をしたが,C は,X及びBのいずれの側にも参加しなかった。裁判所は,審理の結果,表見代理が成立することを理由として,XのBに対する請求を認容する判決を言い渡し,同判決は確定した。
Bは,CがBから代理権を与えられていないにもかかわらず,Xとの間で保証契約を締結した ことによって訴訟1の確定判決において支払を命じられた金員を支払い,損害を被ったとして, Cに対し,不法行為に基づき損害賠償を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟2」という。)。
〔設問2〕
訴訟2においてBが,
1CがBのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと,
21の保証契約の締結に先立って,Cが同契約の締結についての代理権をBから授与されたことはなかったこと
,を主張した場合において,Cは,上記1又は2の各事実を否認することができるか。 Bが訴訟1においてした訴訟告知に基づく判決の効力を援用した場合において,Cの立場から考えられる法律上の主張とその当否を検討せよ。
【事例(続き)】 以下は,訴訟1の判決が確定した後に原告Xの訴訟代理人弁護士Lと司法修習生Pとの間でされた会話である。
弁護士L:今回は幸いにして勝訴することができましたが,私たちの依頼者Xとしては,仮にBに敗訴することがあったとしても,少なくともCの責任は問いたいところでした。そこ で,B及びCに対する各請求がいずれも棄却されるといういわゆる「両負け」を避ける ため,今回は訴訟告知をしましたが,民事訴訟法にはほかにも「両負け」を避けるため の制度があることを知っていますか。
修習生P:同時審判の申出がある共同訴訟でしょうか。 弁護士L:そうですね。良い機会ですから,今回の事件の事実関係の下で同時審判の申出がある
共同訴訟によったとすれば,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ,原告 が「両負け」を避けることができたのか,整理してみてください。例えば,以下の事案 ではどうなるでしょうか。
(事案)
XがB及びCを共同被告として訴えを提起し,Bに対しては有権代理を前提として保証債 務の履行を求め,Cに対しては民法第117条に基づく責任を追及する請求をし,同時審判 の申出をした。第一審においては,Cに対する代理権授与が認められないという理由で,B に対する請求を棄却し,Cに対する請求を認容する判決がされた。
〔設問3〕
同時審判の申出がある共同訴訟において,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ, 原告の「両負け」を避けることができるか。上記(事案)の第一審の判決に対し,1Cのみが控訴 し,Xは控訴しなかった場合と,2C及びXが控訴した場合とを比較し,控訴審における審判の範 囲との関係で論じなさい。
【資料】
金銭消費貸借契約書兼連帯保証契約書
住 所 ○○県○○市・・・(略) 貸主X印
住 所 ○○県○○市・・・(略) 借主A印
住 所 ○○県○○市・・・(略) 連帯保証人 B 印
1 本日,借主は,貸主から金三百萬円を次の約定で借入れ,受領した。
弁済期 平成○○年○月○日
利 息 年3パーセント(各月末払)
平成○○年○月○日
損害金 年10パーセント
2 借主が次の各号の一にでも該当したときは,借主は何らの催告を要しないで期限の利益を失い,元利金を一時に支払わなければならない。
(1) 第三者から仮差押え,仮処分又は強制執行を受けたとき
・・・・(略)

3 連帯保証人は,借主がこの契約によって負担する一切の債務について,借主と連帯して保証債務を負う。


「さあ、お答えを頂きましょう! Cは否認できるのか。」



「まず、第1訴訟でBはCに対して訴訟告知(民事訴訟法53条)をしているので、参加的効力が発生します(同法53条4項、46条1項)。」


志保ちゃんが指摘する。


「補助参加というのは、例えば保証人が債権者から訴えられた時に、主債務者も訴訟に参加して、『もう弁済した』等と主張して保証人を助けるということですね。ここで、保証人が負けた際に、主債務者に求償した場合に、また『もう弁済した』と言われてまたこの点について争わないといけないというのは不当です。一度参加をして争って敗訴した以上、その公平な責任分担*1として、前訴で確定された事項について争うことができなくなる。このような、主たる当事者が敗訴した場合において、補助参加人(被告知者)の法的地位の前提となる訴訟上の事項について生じる効力*2が参加的効力(民事訴訟法46条)です。このような趣旨であることから、既判力のように、判決主文に記載された事項に限られず、参加人(主債務者)と被参加人(保証人)との間の紛争解決に必要な事項*3、例えば、この事案なら主債務が発生し、消滅していないこと等について拘束力が及ぶと解されています。」


沙奈ちゃんが議論を展開する。


「それを前提とすると、BとCの関係はどうなる?」


柔道選手のようなガッチリした肉体の男が尋ねる。



判例は、主文中の判断の前提として判決理由中でなされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断にも及ぶ(最判昭和45年10月22日民集24巻11号1583頁)とするものの、そこには当然限界があるわ。訴訟告知により効果が生じるのは、参加をする機会が与えられたのにそれを尽くさなかったことにより生じた不利な判断を蒸し返すのは信義則に反するという趣旨によるわよね。そうならば、そのような告知がされた段階で予測可能な範囲*4、つまり、判決の主文を導きだすために必要な主要事実に係る認定及び法律判断について及ぶのであって、それ以外の傍論には及ばないと考えるのが相当ね(最判平成14年1月22日金判1645号49頁)。訴訟1では、表見代理が認定されたので、以下の表見代理の各主要事実が認定されたものと解されるわ*5。」




五月ちゃんがさらりと答える。

(1) XA間における貸金返還債務の発生原因事実,
(2) 代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為),
(3) (2) の際に、Xが、代理人Cに(2)の代理権があると信じたこと
(4) (3)につき正当な理由があること
(5) (2)の保証契約の締結に先立って,BがCに対し,賃貸借契約締結についての代理権を授与したこと
(6) (2) の保証契約が書面によること及び
(7) (1) の貸金返還債務の弁済期の到来


「第2訴訟でこれに反する事実をCが主張することはできません。だから、『CがBのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと』については、参加的効力が及びます。」

律子ちゃんが続ける。

「それでは、『保証契約の締結に先立って,Cが同契約の締結についての代理権をBから授与されたことはなかったこと』について、参加的効力は及ぶんでしょうか?」

眼鏡の男が尋ねる。


「この点は、代理権の不存在を表見代理の実体要件と見る見解もありますので*6、その見解によれば、この点についても参加的効力が及ぶことになります。しかし、通説・実務は、有権代理・表見代理・追認は全て代理の効果発生として等価値であり、代理権の不存在は実体要件ではないとします*7。」


「そうすると、保証契約の締結については、参加的効力が及ぶということですね?」


だめ押しをするかのように、スポーツ刈りの男が聞く。


「その手には乗らないわ。もう1つの視点は、本件では、参加的効力が認められる基礎があるかってことよね。本件では、有権代理ならば訴訟2でCが勝ち、無権代理であれば訴訟2でBが勝つという関係にあり、Bとは対立関係にあるところがその特殊性よ。このような対立関係にある場合には、補助参加が期待されておらず、参加的効力を及ぼすべきではないのではなくて*8?」


会長は、どうも一枚上手のようだ。



「訴訟告知をされて参加をしなかった。これは権利放棄であり、欠席判決と同様に扱うべきだろう。」


柔道選手のような男が唸り声を上げる。



憲法は裁判を受ける権利を定めています。それを逆から言うと、国民は応訴する義務を負います。だから、欠席判決もやむを得ないと思うんです。でも、訴訟告知については、その目的は補助参加の機会を与えるためのものです。そしてこの補助参加というのは、『当事者の一方を補助するため』の参加を(民事訴訟法42条)をするためのものです。」


沙奈ちゃんが議論を展開する。


「告知者と被告知者の間の利害が対立している本件では、Bは『無権代理だ』と主張し、Cが『有権代理だ』と主張することになるわね。こういう抵触行為をすることを目的として参加するのは、補助参加の本来の姿なのか、大いに疑問ね*9。 だから、BとCの間に利害が対立しているならば、参加的効力を及ぼしてはならないという議論には十分に説得力があります。」


五月ちゃんが議論を羽ばたかせる。



「ここまで。それでは、攻守を交代して下さい。」


レフェリーの一言で折り返し点に来たことがわかる。



「まずは、同時審判申出による共同訴訟とは何かについて、説明してもらおうかしら?」


五月ちゃんがジャブから入る。


「そもそも、講学上、被告の一人に対する請求(主位的請求)が認容されることを解除条件として、別の被告(予備的被告)についての審理及び判決を求める、主観的予備的併合が主張されていました*10。しかし、最高裁はこれを否定*11してしまった。でも、主観的予備的併合の必要性自体はなくならない。このような状況を踏まえ、その手続上の困難をできるだけ解消し、実体法の予定する救済形式をできるだけ訴訟手続上の反映するための立法上の工夫として設けられた制度が同時審判申出による共同訴訟です*12。」


スポーツ刈りが滔々と述べる。



「本当に主観的予備的併合は死んだ、のかしらね?」


五月ちゃんがにやりと笑う。


「ど、どういう意味だ?」


道家が顔を赤らめる。



「主観的予備的併合を禁止する最高裁の立場に批判的な学説があるばかりか、下級審でも、最近主観的予備的併合を認めたものがあります。例えば、東京地判平成24年1月13日は、解雇後の事業譲渡の事案で、労働者が、主位的に譲受先、予備的に元の勤務先に対して立てた請求を適法としています。これによって、両負けを防ごうとしています。」


志保ちゃんが説明する。





「でも、元の勤務先は被告ではあるが、自分についての判断がされるかは、譲渡先との間の訴訟の結果次第だ。こんな不安定な地位に立たせる訳にはいかないだろう。」


眼鏡が指摘する。


最高裁が主観的予備的併合を否定したのは主にこの点を根拠としているわ。でも、実はそんなに重要な問題ではないという学説の批判は根強く、下級審判決も一部は学説にシンパシーを感じているわね*13。ただ、立法は、主観的予備的併合の代わりに、当事者の申し出により、2人の被告との間の裁判を分離してはいけないとすることで、事実上『両負け』を防ごうとしている、これが同時審判申出による共同訴訟ね。じゃあ、控訴によってどうなるのかお聞きしましょうか。」


五月ちゃんが指摘する。


「まず、双方が控訴された場合には、併合されます(民事訴訟法41条3項)。でも、一方しか控訴されない場合が問題になります。この場合、共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条)により、Bとの関係での敗訴が確定し、Cとの関係だけが控訴の移審効と確定遮断効によって控訴審で争われるので、もし、控訴審が、代理権があったとしてCを勝たせると、『両負け』になりますね*14。」


スポーツ刈りが答える。


「それは、ひどいです。Xはどうすればよかったのですか?」


律子ちゃんが思った事を自然に口に出したようだ。


「対策は1つある。Xの方でBに対して控訴をしておいて、もしCが控訴しなかったら、Bへの控訴を取り下げる*15ってことだ*16。」


道家が野太い声を出す。


「自分で印紙代を払って訴訟を起こさないといけない、そんな結論でやむを得ないのかな。」


沙奈ちゃんも疑問を持ったようだ。


「この点は、客観的予備的併合の判例との整合性という観点から整理できるでしょう。客観的予備的併合は、複数の請求に順位を付け、第一次請求(主位的請求)が認容されることを解除条件として、第二次請求(予備的請求)について審理及び判決を求める併合形態です*17最判昭和58年3月22日*18は、主位的に立替金、予備的に不当利得金を請求した事案になります。第一審は、主位的請求を棄却し、予備的請求を認容しました。ポイントは、控訴したのが被告側だけで、原告側は控訴しなかった、つまり、不当利得でもなんでもお金がもらえればそれでいいと考えたのです。そうしたら、控訴審は、原告は控訴していないんだから、主位的請求は控訴審の判断の対象にはならず、予備的請求だけを判断するといって、不当利得はないからといって原告敗訴の判決を下しました。最高裁はこの控訴審の判断を是認したのです。結局、本件のXも、BでもCでもお金をもらえればいいと思って、Bに対する関係で控訴しなかったのですから、控訴審の判断の対象はCだけになっている以上、Cについて負けたら両負けというのは、ある意味しょうがないのではないでしょうか*19。」



スポーツ刈りがすらすらと述べる。

「ふ〜ん、皆様は、附帯控訴民事訴訟法293条)をご存知なくて? 昭和58年最判の事案は、原告は、雲行きが怪しくなったらば、控訴審の『口頭弁論の終結に至るまで』いつでも附帯控訴できたわ。昭和58年最判の事案の結論を正当化できるのは、漫然と附帯控訴を怠った原告の自己責任といえるからに過ぎないのではなくて。同時審判申出による共同訴訟制度では、あくまでも共同訴訟人独立の原則が残るから、Bとの関係で控訴をしなければ、この時点でBとの関係では判決が確定してしまい、後でCとの間で雲行きが怪しくなっても、Bに対する附帯控訴はできなくなってしまうわね。その意味で、同時審判申出による共同訴訟制度は、Xに対し両負けを避けるためには、印紙代が無駄になることを覚悟で自ら控訴することを義務付けているといえ、この点は、昭和58年最判からも正当化することができない、不十分な立法と言わざるを得ないのではないかしら*20*21



「勝者、星海!」


星海の応援団から黄色い歓喜の声が上がると共に、黒い学ランの集団から、低いうなり声が響く。



「先生、よろしいですか?」


勝利の興奮も醒めやらぬまま、僕のホテルの部屋に、ノックの音が響いた。

*1:伊藤638頁

*2:伊藤638頁

*3:藤田462頁

*4:河野正憲「民事訴訟法」748頁

*5:岡口基一要件事実マニュアル1」第4版194頁

*6:並木茂「要件事実論概説契約法」385頁等参照

*7:要件事実マニュアル1・199頁

*8:伊藤646頁

*9:重点講義下486頁

*10:リーガルクエスト532頁

*11:最判昭和43年3月8日民集22巻3号551頁

*12:河野702頁

*13:重点講義390頁参照

*14:重点講義402頁

*15:なお、民訴費用法9条3項1号により口頭弁論期日前に取り下げることで半額が帰ってくる

*16:重点講義402頁

*17:リーガルクエスト495頁

*18:判時1074号55頁

*19:竹下・青山・伊藤『研究会新民事訴訟法』67頁

*20:重点講義下402〜403頁参照

*21:もちろん、ここは見解が分かれているが、主観的予備的併合の論者の一部は、上訴の関係でも統一を試みており(重点講義下391頁)そのような論者からすれば、本文記載のような議論になるだろう。