アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

二次創作小説「魔法科大学院の劣等生」


注:本エントリは、私が大好きで、
「魔法科高校の劣等生」の憲法学的考察〜一科生・二科生の差別は違憲? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
でも憲法的分析を行った、佐島勤先生の大人気ライトノベル魔法科高校の劣等生の二次創作小説(SS)です。

のツイートに触発されて、ここまで書いてみました。






「納得できません。何故お兄様が補欠なのですか?適性試験の成績はトップだったじゃありませんか!」
「まだ言っているのか...。法科大学院なんだから、適性試験よりも、法律科目が優先されるのは当然じゃないか。俺の法律科目の能力は深雪もよく知っているだろ?自分じゃあ、二科生徒とはいえよくここに受かったものだと、驚いているんだけどね」
厳しい口調で食って掛かる女子生徒を、なんとか宥めようとする男子生徒。
妹の方は人目を惹かずにはおかない、十人が十人、百人が百人認めるに違いない可憐な美少女。
一方で兄の方は、ピンと伸びた背筋と鋭い目つき以外、取り立てて言い及ぶところのない平凡な容姿をしている。


法律。
元々、それは、日蔭の存在だった。
二割司法という言葉が使われることがある。法の光は世の二割にしか及んでおらず、八割は、被害者による泣き寝入り、有力者(場合によっては暴力団、事件屋等)の仲介による私的解決等で、法律とは関係のない世界で裏で処理されているという意味である。
法の光を、あまねく世の中に届けよう、この試みが結実したのは、何時のことだったのか。
確認できる記録は、2001年のことだ。
司法改革審議会の意見書により、法律が日なたに出ていくマスタープランが描かれた。
法律が表舞台に姿を見せると共に、「法律」を使うものたちが表舞台に姿を見せた。
無論、才能は必要だ。だが、高い適性を有する者のみがプロフェショナルと呼ばれるレベルまで熟達できる、という意味では、芸術分野、科学分野の技能と同じ。
核兵器すらねじ伏せうる(国際司法裁判所1996年7月8日勧告的意見参照)強力な法律家は、国家にとって兵器であり力そのものだ
従来の法律家養成制度では、この新しい理念に基づく、新時代の法曹の大量養成はできないとして、法科大学院の設立が決定された。


国立第一法科大学院
毎年国立司法研修所へ最も多くの卒業生を送っている、高等法学教育機関として知られている。
それは同時に、優秀な法律家を最も多く輩出しているエリート校ということでもある。
法学教育は高等教育であり、教育機会の均等は適用されない。
徹底した才能主義。
残酷までの実力主義
それが、法学の世界。
入学の時点から既に優等生と劣等生が存在し、同じ新入生であっても、平等ではない。例え、血を分けた兄妹であっても。



この学校の定員は一学年二百名。そのうち成績の優秀な者は一科生として入学するが、そうでない残りの100名が、第二科所属の生徒として入学する。緑色のブレザーの左胸に八枚花弁を持つエンブレムを付けることが許される一科生はブルームといわれ、それを持たない二科生徒はウィードと呼ばれる。



法科大学院自体が、競争に晒されている。それは、卒業生の司法試験合格率の形でも現れるが、現有最大の競争相手は予備試験である。
法科大学院は法曹養成の手段に過ぎない。
法科大学院を経由しなくとも、一定の法解釈技術を習得できている者は、法科大学院での教育を受ける必要はないとして、そのまま司法試験の受験が可能となる。
法科大学院修了相当レベルの習得を認定する予備試験は、誰でも受験することができる。学部生でも、法科大学院在籍者でも。
つまり、法科大学院が、付加価値を与えることができなければ、若い優秀な法学部生は予備試験を受けて法科大学院をバイパスするということになる。
もう一つの現象は、法科大学院、特に国立第一法科大学院のような、「定評のあるロースクール」の優秀層が、腕試しに予備試験を受けて合格し、ロースクールを退学するという現象である。
平均して一クラスから10人前後が退学する状況では、何ら対策を立てなければ、国立第一法科大学院卒の司法試験受験者の合格率まで下がってしまう。

そこで、一科生の退学をあらかじめ予測し、その穴埋め要因として二科生をはじめから採用するのだ。
二科生は、自ら勉強し、一科生としての指導についていけるだけの実力を養成しておく必要がある。
そして、試験合格発表のある9月に一科生が退学し、自分に「お呼び」がかかるその日をひたすら待ち続ける。
二科生を「ウィード」と呼ぶことは、建前としては禁止されている。
だがそれは半ば公然たる蔑称として、二科生自身の中にも定着している。二科生自身が、自分たちをスペア部品でしかないと認識している。


四階の廊下の突き当たりにある目的地を目指す深雪。その隣には、重そうな足取りの兄、達也もいる。
見た目は他の教室と同じ合板の引き戸だが、中央に埋め込まれた「学生自治会室」のプレートが異彩を放っていた。
招かれたのは深雪で、達也はそのオマケだ。
正面奥の席に座るのは学生自治会会長の真由美。
「当大学の学生自治会は伝統的に、会長に権限が集約されています。三権分立のモデルでいえば、アメリカ型の大統領制と言えるかもしれません。会長は選挙で選ばれますが、ほかの役員は会長が選任します。これは毎年の恒例なのですが、新入生総代を務めた一年生には学生自治会の役員になってもらっています。
コホン...深雪さん、私は貴女が学生自治会に入ってくださることを希望します」


一呼吸、深雪は手元に目を落とし、達也へと振り向いて、眼差しで問い掛けた。
達也は、小さく頷いた。
「会長は、兄の入試の成績をご存じですか? 成績優秀者、有能な人材を学生自治会に迎え入れるのなら、わたしよりも兄の方が相応しいと思います」
「おいっ、み...」
達也が言い終わる前に、深雪が自分の言葉をかぶせる。
「わたしを学生自治会に加えていただけるというお話については、とても光栄に思います。喜んで末席に加わらせていただきたいと存じますが、兄も一緒にというわけには参りませんでしょうか。」
「残念ながら、それはできません。自治会の役員は、第一科の学生から選ばれます。これは不文律ではなく、規則です。この規則は、改正のためには、学生自治会総会での3分の2以上による決議が必要とされているということから、硬性憲法の一種と解され、一科生と二科生がほぼ同数の現状では制度改正は事実上不可能です。」


「ちょっといいか。確か、第一科の縛りがあるのは、副会長、書記、会計だけだよな?」
風紀委員長の摩利がおもむろに手を挙げる。
「そうね。役員は会長、副会長、書記、会計で構成されると決められているから」
「つまり、風紀委員の学生自治会枠に、二科の生徒を選んでも規定違反にならないわけだ」
「摩利、貴女...」
真由美が大きく目を見開く。
「ナイスよ!」
「はぁ?」
真由美の予想外な歓声に、思わず、達也の口から間の抜けた声が漏れてしまった
「そうよ、風紀委員なら問題無いじゃない。摩利、学生自治会は、達也君を風紀委員に指名します」
いきなり過ぎる展開に動転した、その次の瞬間。


「その一年生を風紀委員に任命するのは反対です」
副会長の服部が意見を述べる。
「過去、ウィードを風紀委員に任命した例はありません」
服部の反論に含まれた蔑称に、摩利は軽く、眉を吊り上げて見せた。
「それは禁止用語だぞ、服部副会長。風紀委員会による摘発対象だ。委員長である私の前で堂々と使用するとは、いい度胸だな」
摩利の叱責とも警告とも、その両方とも取れるセリフに、服部は怯んだ様子を見せなかった。
「取り繕っても仕方がないでしょう。全校生徒の三分の一以上がその言葉を使っている。私のみを摘発するならば、平等原則、比例原則との関係で非難を免れられないでしょう。ブルームとウィードの区別は、大学制度に組み込まれた、大学が認めるものです。ブルームとウィードには、区別を根拠づけるだけの実力差があります。風紀委員は、ルールに従わない学生を実力で取り締まる役職だ。実力に劣るウィードには務まらない。」
「僭越ですが副会長、兄は確かに法律科目の成績が芳しくありませんが、それは法律試験の評価方法に兄の力が適合していないだけのことなのです。実践ならば、兄は誰にも負けません。」
確信に満ちた言葉に、摩利が軽く目を見開いた。
「法律家は、事象をあるがあまに、冷静に、論理的に認識できなければなりません。身内に対する贔屓は、一般人ならばやむを得ないでしょうが、法律家を目指す者は身贔屓に目を曇らせることのないように心がけなさい。」
親身に教え諭す服部の口調に、含みは感じられない。
「お言葉ですが、わたしは目を曇らせてなどいません!お兄様の本当のお力を以てすればーー」
「深雪」
冷静さを完全に失いかけていた深雪の前に手がかざされる。
言葉と手ぶりで妹を止めた達也が、服部の正面に移動した。


「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか。」
「なに...?」
全員の視線が集まる中、服部の身体がブルブルと震え始めた。
「思い上がるなよ、補欠の分際で!」
「あるがまま、の法律実務のスキルは、戦ってみなければわからないと思いますが。
別に風紀委員になりたいわけじゃないんですが...妹の目が曇っていないと証明するためならば、やむを得ません」
独り言のような呟きだった。
それが服部には余計に、挑発的に聞こえた。
「......いいだろう。身の程を弁えることの必要性をたっぷり教えてやる」
抑制された口調が逆に、憤怒の深さを物語っていた。
すかさず、真由美が口を挿んだ。
「私は学生自治会長の権限により、二年B組服部刑部と一年E組司馬達也の模擬戦を、正式な試合として認めます」


まとめ
漫画・アニメ+ゲーム+キャラクター商品の三位一体戦略で、法学部と法科大学院のブームを作るという戦略の具体例として、
魔法科高校の劣等生」とのコラボをするとしたらという想定のイメージとして、上記のような同人小説を書いてみた。
他にも、法科大学院生が、小学校で児童ポルノ法違反の誘惑と戦いながら法教育にまい進する「ローキューブ」や、
昔渋谷のあの坂を登って伊藤塾に通っていた仲間たちのその後を描く「あの日登った坂の名を僕達はまだ知らない」
等が考えられるだろう。ぜひ、法科大学院協会、ないしは文部科学省の皆様におかれましては前向きにご検討いただくようお願いいたしたいところである。