アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

「まほろまてぃっく」の刑法的考察〜みなわちゃんは誘拐事件の被害者か?


なお、本エントリには「まほろまてぃっく」のネタバレがありますので、まだみていない人はBlu-rayを買いましょう!


1.まほろまてぃっくとは
 異星人勢力「セイント」。地球を支配し、セイントと強く対立する「The KEEPER(管理者)」。融和を目指す地球人組織「ヴェスパー」。これら三者が鼎立し、抗争を繰り広げる世界。


 そんな世界において、ヴェスパーのアンドロイド*1V1046-R MAHOROこと安藤まほろさんが、主人公「優」のメイドとして、最後の1年を過ごす物語である。


2.みなわちゃんを誘拐してもいいんですか?
 まほろさんさんと優が釣りをしていると、管理者のところから逃亡してきた改造人間370が落ちてくる。管理者の追っ手が迫る中、まほろさんは管理者のマンイーターを瞬殺し、370を自宅に連れ帰り、「みなわちゃん」と呼んで一緒に生活する*2


これは、形式的には未成年者拐取罪(刑法224条)の要件に該当するだろう*3。日本の刑法では、保護監督者の同意なく、(実力ないしは欺罔・誘惑によって)未成年(14歳)であるみなわちゃんは*4を元々の生活環境から離脱させ、自分等の支配下に移すことは、未成年者拐取罪(刑法224条)として禁止されている。未成年者は成年者とは異なり、心身が未発達であり、特に誘拐を強く禁じなくてはならないものであるから、営利・わいせつ・結婚等の不法な目的がなくとも成立する。


3.改造されているよね?
もっとも、みなわちゃんはただの人間ではない。「管理者」によって大幅に改造されたサイボーグである。「機械のカラダ」はおおいなる萌えポイントであるが、法律的にもポイントにはならないであろうか?


 法律的にいうと、人体改造については、まほろさんさんの罪を否定する理由にはならない。なぜなら、改造の後も、みなわちゃんの生命は維持されているからである。義肢・義足をつけた人が誘拐や殺人から法的に保護されなければならないのは当たり前であるように、人体改造はみなわちゃんの法的権利には何ら影響しないのである。


4.みなわちゃんは同意してる?
 ここで、みなわちゃん自身は、管理者のところから離れ、優の家でまほろさんさんたちと生活をすることを望んでいる。このような、未成年者自身の同意がある場合でも、未成年者誘拐罪になるのだろうか

「自己の判断に従って適切な行動をなしうる年齢に達した未成年者による承諾があり,その承諾が瑕疵のない真意に基づくものであれば」拐取罪を構成しないと解する余地があるとされている*5


ここで、みなわちゃんとほぼ同年齢の13歳の少女について、13歳の少女と交際中の男性*6が、周囲に反対されたために、「駆け落ちしよう」といって少女の同意の下で駆け落ちした事案について、少女は、「実年齢以上の判断能力を兼ね備えていたものとは到底認められない」ところ、少女は「未だ若年で十分な判断能力を備えていなかった」とした事案がある(東京地判平成20年2月28日)。


これに対し、十分な判断力があるとされた事案は、18歳の事案である*7


13歳の年齢相当の判断力で「未だ若年で十分な判断能力を備えていなかった」とされるのであれば、1歳しか違わない14歳でも、判断能力なし、つまり、みなわちゃん本人がいくらまほろさんと一緒にいたくとも、その同意は何ら効力を及ぼさないだろう*8


5.まほろさんは「有罪」に?
 ただし、刑事裁判の手続きと裁判はどうしてもある程度の時間がかかる。いくら裁判員制度と公判前整理手続きで迅速化されるといっても、最低、逮捕されてから3ヶ月、争いのある事件では、半年以上はかかるだろう。だが、まほろさんさんにみなわちゃんを「誘拐」した時点*9でも「残された時間は限りなく少ない」のである。
 結局、まほろさんさんは、有罪になる前に動きを止めてしまい「公訴棄却」(刑事訴訟法339条4号)、つまり、実質的に審理しないまま手続が終了する可能性が高い。


まとめ
まほろさんさんが有罪の危機に瀕するのは、少年少女を保護するために、刑法が未成年に対する誘拐を厳しく処罰しているからである。
そのような処罰は、一面においては、将来の日本を担う若者の保護という意味で肯定できる部分がある。しかし、他面においては、文字通り読むと、18歳の大学生の駆け落ちでも有罪になりかねないという意味で、個人の自由への過剰な介入にもなりかねない。この2つのバランスを取った解釈論が重要であろう。

*1:アンドロイドが刑事責任を負うのかって? う〜ん、いい質問ですね。弊サークルの同人誌「これから契約の話をしよう」でこの点は詳述しております。

*2:まほろまてぃっく」第4巻第5話参照

*3:誘拐は欺罔・誘惑によるもの、略取は暴行又は脅迫による(山口各論第2版91頁)ところ、まほろさんは暴力によってみなわちゃんを管理者から引き離しており、正確には略取の方

*4:5巻32頁参照

*5:後述の東京地判平成20年2月28日。なお、学説については、山口各論2版93頁、西田各論6版78頁等参照。

*6:ああ、羨ましい...おっと、つい本音が。。。

*7:阪高判昭和62年9月18日判タ660号251頁は、満18歳に達した大学生ともなれば、自己の行動に対する意思決定の自由は、相当程度保護されるべきだとする。

*8:ここで、管理者は、実はみなわちゃんをまほろさんさんの身近に置いておくことを意図していた。すると、保護監督者の同意として免責されないかも問題となる。もっとも、検討すべきは、管理者が保護監督者なのかというそもそも論であろう。通常どおり、母親から生まれていれば、母親が保護監督者となる(父親については、親族法の色々な問題がからむので省略)ところ、みなわちゃんは、試験管ベイビー(本当の意味での)である。試験管から生まれていても、その遺伝子の「元」となっているという意味での父母はいるだろう。しかし、代理母に関する最高裁判例最判平成19年3月23日民集61巻2号619頁)を前提とする限り、いくら遺伝子が元となっていても、実際に生んでいない限り、母親とはいえない。そして、管理者は、試験管ベイビーの製造者、いわば、「医者」や「病院」の役割を果たしているだけであり、親権者にはならない。実質的にみても、14歳の少女をサイボーグに改造し、(敵アンドロイドである)まほろさんさんを捕獲させるための囮とするというような「管理者」が、親権者と同視できるような「保護監督者」とはいえないだろう。こう考えると、本件では、保護監督者が存在しない事案である。保護監督者が存在しないのだから、保護監督者の同意そのものを問題とする余地はなく、問題とすべきは、上述のとおり、「みなわちゃん」の「同意」が真意に基づく有効なものか、であろう。

*9:第7巻第6話