アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

お蔵出し第三弾! ローゼンメイデンの民法的考察〜下僕契約からの離脱の法理

Rozen Maiden 新装版 全7巻 完結セット (ヤングジャンプコミックス)

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当然のごとく、ネタバレを含みますので、未見の方はアニメorマンガで予習をしてください。なお、アニメ版の設定を前提としているところがあります。


1.ローゼンメイデンのストーリーそのものについては議論をしていない!?
 ローゼンメイデンについては、昔記事を書いたことがあり、一定程度話題になった。

看板作品の休載と錯誤〜ローゼンメイデン休載問題についての法的考察〜 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


 ただ、これは、あくまでも、「休載問題」という、外部的な側面を法的に考察したものであり、ローゼンメイデンの「ストーリー」そのものについて議論したことはない。それでは、ストーリーそのものについても法的に検討をしてみよう。


2.ラテン語の契約書に署名したのと一緒?
 主人公ジュンは、真紅に指示されるまま、「バラの指輪にかけて、真紅のローザミスティカを守る」と誓って左手の指輪にキスをすることで*1、形式的には、「契約」を結んでいる。しかし、ジュン自身は、そのことの意味がわかっていなかったようだ*2


 ここで、ジュン自身の契約内容に関する認識の程度がきわめて低いことに着目すれば、ラテン語で書かれた契約書を渡され、『ここにサインしてくださいね』といわれて、内容もわからないままサインをする」のと同じであろう。つまり、およそその意味を理解しないまま、形式的に意思表示に該当するような行為をしても、白紙に署名するのと同じで、意思表示自体が行われていないと解することが相当な場合がある。


 ただ、例えば、ネットサービスを使うときにみんなが「規約に合意する」をクリックする際、その規約の内容を全て理解している人はいないだろう。その際のユーザーの素朴な感覚は、「このサービスを利用したいが、やっちゃだめなことをやると不利益があるんだろうな」位ではなかろうか。それでも、基本的には契約は有効であり、*3白紙に署名した場合と同様にそもそも意思表示はなく無効だという議論は難しいことが多い。
 すると、ジュンは、わからないなりに「真紅を守ることを誓っている」という程度の認識はあり、これでも、契約成立に必要な程度を超えていると判断される可能性はあるだろう。




3.意思無能力?
 ジュンの場合は、「クマのブーさんに包丁を投げつけられて錯乱していた」*4。そこで、意思無能力はどうか。例えば、完全に判断能力を失った老人から、リフォームとか、金融商品の購入といった契約を取り付けるという消費者被害があるが、この場合には、そもそもその老人には、有効な契約を締結できるだけの判断能力はなく、契約は無効である。
 ただ、それでも、ジュンは、「真紅のしもべになる契約を結ぶ」程度は理解しており、それだけの理解力、判断力があったと考えられるので「判断能力がない」とまでは言えないだろう。


4.消費者契約?詐欺?強迫?
 次に真紅は、「契約を結ぶことで、心の中の世界に関わる結果、触れたくないジュン自身のトラウマに触れる」という重要な事実をジュンに教えずに、契約を結ばせたという点が問題となる。契約締結後の話になるが、ジュンは、ラプラスの魔にトラウマを見せられて、寝込む程のショックを受けた*5


 この契約が仮に「消費者契約」(消費者契約法2条3項)であれば、重要事実が告知されなかったとして、契約を取り消すことができる(消費者契約法4条参照)。ところが、消費者契約は、例えば、会社や個人事業主といった「事業者」と消費者の間の契約であり、「事業者」ではない真紅との契約は同法の対象外である*6。「通常の契約」であれば、それだけは契約を取り消すことができない。

  通常の契約では、重要事実を告知しないことが「だます意思をもって」行われた場合のみ詐欺として取り消せる。単なる(悪意のない)不告知では取り消せないのだ。この「だます意思(詐欺の故意)」の立証は困難であり、これによってジュンを救済することに困難性がある。


もうひとつ考えられるのは「強迫」であり、「相手方を畏怖させる(強くおびえさせる)行為」によって契約を結ばせれば、取り消すことができる(民法96条1項)。典型例は、「ヤのつく自由業」のお兄ちゃんが刺青や代紋をちらつかせて契約を結ばせた場合である。ジュンが契約をさせられた当時、彼は確かにめちゃくちゃおびえている。ただ、ジュンをおびえさせたのはクマのブーさんであって、真紅ではない。
 この点、第三者による強迫の場合でも取り消せると解されている*7強迫が「意思決定の自由を強く害する」ことから、無関係の人による強迫であっても、「仮におびえさせる行為がなければ契約をしなかった」という事態が明白な場合は、契約者を保護しようという考え方である。


それではジュンの結んだ契約は法的には取り消せる…のであろうか?ところがジュンは、ブーさんによる攻撃が終了した後も、真紅との契約関係を取り消そうとせず、むしろ、真紅との絆を深めている。民法125条は法定追認というものを定めている。追認というのは、「取り消せる」契約について、「この契約は有効でいいです」として、契約を有効に確定させる行為をいう。そして、民法125条は、いくつかの行為を行うと追認とみなされるとする。その1つが、「履行」、つまりジュンの場合で言えば、「しもべとしての職務を全うすること」である。ブーさんによる強迫状態が終了した後も、契約に従った行為を続けていれば、真紅が「この契約は有効」と信頼して当然であり、その後取消をすることはできないのである。ジュンは、「強迫」という考え方によって契約を取り消すことができない。


 そうすると、もう、ジュンは契約から解放される余地はないのだろうか?


5.未成年取消し!
 ところが、ジュンを法的に救済する決定打は存在する。
それは、未成年取り消し(民法第5条2項)である。中学2年のジュンは、未成年なので、その契約を取り消すことができるのである*8
ここで、取消の場合には、取消権者自身が、取消す気がなければそのまま契約は有効となる。そこで、ジュンとして、このままでいいのであれば、取消権を行使しないでもいいし、やっぱり解放されたければ、行使すればよい、そういう権利があるのだ*9


6.間接強制?
 契約の取り消しが可能ということの意味は、ジュンは、下僕契約からの「やっぱり真紅とはやっていけない」と思えば、契約を取り消すことができるのである。


 ただ、取り消すことができるといっても、ジュンはどのような手順で指輪を解除し、真紅の媒介としての立場を解消してもらえるのだろうか?


 真紅が応じない場合でも裁判所に訴え出て、契約取消に基づく原状回復を裁判所に命令してもらい、その債務名義をもって「強制執行」という手続きが可能である。要するに、ジュンは裁判所の公権力を使って指輪を解除し、真紅の媒介としての立場を解消するよう求めることができるのだ。


しかし、指輪を外すには、ドールが指輪にキスする行為がどうしても必要になる。流石に、公権力が、真紅に無理矢理指輪にキスをさせることはできないだろう。また、第三者が代わりにキスをする(代替執行)ことも無意味である。


このようなときに使われる手段が、「間接強制」という方法である。これは、債務者(真紅)が債権者(ジュン)に対し原状回復義務を履行しない場合には、債務者(真紅)は債権者(ジュン)に対し、解除に至るまで、一日につき金●●万円の割合による金員を支払え。といった判決をもらい、「下僕」としての拘束を解除するまで1日いくらといった形でお金を支払わせるものである。これは、お金を払わせるというプレッシャーによって、判決を履行させようというものである。


ただ、この間接強制には「穴」がある。つまり、真紅としては、どうしてもジュンとの関係を維持したければ、命令されたお金を払い続けることができるのだ。実際に、巨額の金額の支払いを続けた例もある*10



真紅の手持ちのドレス等は、非常に高価と思われる。ドレスや鞄を質入れすることで、間接強制の履行が可能かもしれない。真紅へアドバイスするとすれば、ジュンが関係を解消したいと思う原因を探り、お金を払うことで時間を稼いで、その間にジュンとの復縁を図るというのが1つの現実解だろう。

まとめ
日本の法律は、未成年者を保護しているので、ジュンと真紅の契約は取り消し可能である。しかし、簡単に関係が解消され、ローゼンメイデンの話が終わってしまうのでは、あまりにも惜しすぎる。日本法上、指輪にキスをすることの直接強制は不可能であり、そこに「話し合い」の余地が残されているのである。
ジュンと真紅のような極限状態での契約は、アニメ等ではまま見られるところであり、例えば、魔法少女まどか☆マギカのマミ先輩等の契約も、それに近いように思われる。本エントリの議論は、そういう場合についての議論の参考にもなるのではなかろうか。

*1:第1巻36頁参照

*2:第1巻36頁「誓う?何を?わからない わからないけど」参照

*3:消費者契約法等による修正が入るとしても

*4:第1巻35頁参照

*5:第2巻15頁参照

*6:魔法少女まどか☆マギカにおけるQBは、「宇宙のエネルギー回収業者」の営業マンとして、継続的に事業を行っているといえるが、これに対し、真紅は、自分自身の契約者を探しているだけで、継続性や事業性を見いだすことは困難であろう。

*7:最判平成10年5月26日民集52巻4号985頁の原審である大阪高判平成7年11月17日民集52巻4号1021頁参照。同判決は、第三者の強迫による意思表示の取り消しについて民法96条2項は類推されないとするところが重要であろう。

*8:法定追認は「追認できる状態」になってからでなければ効果が発生しないところ、まだ未成年のジュンが「履行」をしても追認にはならない

*9:なお、下僕契約が取り消されるのか否か心配な真紅は、ジュンの保護者に対し、「取り消すのか取り消さないのかはっきりしてくれ」と通告することができる、民法20条参照

*10:例えば、140回国会衆議院法務委員会7号平成9年5月14日の134番目の発言(http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/140/0080/14005140080007a.html)を引用しよう。「○保坂委員 社会民主党保坂展人です。きょうは、ごみの問題について伺ってみたいと思います。ごみというと、これは今日の本当に深刻な問題なわけですけれども、一方で、岐阜で昨年あった町長の襲撃事件というような、大変アンダーグラウンドな非常に怖い事件が解決をされていないということも思い起こします。実は、ごみといいましてもこの東京のごみについてなんです。先日、五月八日、日比谷公会堂で、三多摩の日の出町につくられている、私も三多摩の狛江というところに住んでいて、私の家から出るごみも含めてということで人ごとではないということでお聞きしたいと思いますけれども、そのごみ処分場、これが満杯になるということから二つ目のごみ処分場をつくらなければならないということをめぐって、日の出町在住の住民の方々、及び環境問題としてこの問題にかかわっておられる市民運動の方たちと、第二処分場をめぐって収用委員会が開かれて、その論戦の火ぶたが切られたわけなんです。その場で語られたこと、これは新聞等にも小さく出ているんですが、大変驚くべきことが語られたということをお話をしたいと思うのです。その驚くべきことというのは、若干背景説明をしなければいけないのですけれども、この第一処分場、つまり現在ある処分場の形というのは、谷にゴムシートを張って、そこにごみだとかプラスチックだとか灰を入れていくという形をとっているのですが、この処分場のシートが破れているのではないかという指摘があるわけですね。例えば、九三年五月の日本環境学会の調査だと、それぞれ高濃度の塩素イオンだとかDCP分解菌だとか、亜鉛だとかマンガンその他検出されているということで、これに関しての情報を、住民として生活環境にかかわる情報であるということで、この情報の開示を求めたいという、これを裁判所に求めるという訴えがあったわけですね。これが、東京地方裁判所の八王子支部で三月八日に仮処分決定ということで、これは、絵本作家で田島征三さんという方がいらっしゃいますが、その連れ合いの方で田島喜代恵さんという方が、その決定を受けて、裁判所の決定もあるのでその情報を見せていただきましょうということで行ったところ、これは開示ができないということになったわけです。そして、それらを受けて、間接強制という形で、では情報の開示をするようにという手続をとられて、裁判所がこういった指示をして、この処分組合に対して、一日十五万円を払いなさいという間接強制のいわば罰金といいますか、金額の支払いが始まったわけです。これがおととしの五月のことなのです。七月に、十五万円をずっと払い続けられているので、これでは足らないようだということで、百万円に増額したいという訴えを起こしたようですが、裁判所の方は三十万円が相当ということで、三十万円という支払いが始まったわけです。ここに新聞記事を持ってきましたけれども、東京新聞の二年前の七月十三日の夕刊ですが、罰金がついに一千万円を超したという記事がここにございます。現在はどうなっているかということなのですけれども、三月の上旬現在で一億九千万円を超えているという事実があるわけですね。つまり、一日三十万円ですから、一カ月で九百万円、一年という期間をはかれば大体一億と少しです。つまり、このままこの間接強制の支払いが続けられていけば、これは概算ですけれども、年末で二億五千万円、そして来年の春には三億円という巨額に及んでいくだろうというふうに思うのです。まず司法当局に伺いたいのですけれども、間接強制というのは一体どういう性格のお金なのか。東京新聞のこの記事を見ますと、強制金の支払いは住民の銀行口座にプールされている、処分組合は強制金の返還を求めることはできない、こういうふうに書いてあるのですが、そのとおりなのか。いわゆる供託金というようなものとは違って、間接強制というのは支払いきりのものなのかということも含めて答弁を願いたいと思います。」なお、リンク先では、当該質問に対する司法関係者の困惑した答弁が見られる。