アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

お蔵出し第5弾! マリア様がみてるの刑法的考察2〜福沢祐巳誘拐事件で柏木優は有罪?



1.マリみてお蔵出し第2弾

お蔵出し第4弾! マリア様がみてるの刑法的考察1〜バレンタインデートのカードを抜き取った鵜沢美冬の罪は? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

バレンタインデートのカードを抜き取った鵜沢美冬の罪に引き続き、もう1つのマリみて史上の重要犯罪事件について検討したい。それが、福沢祐巳誘拐事件である。





推理小説同好会のメンバーは憤慨した。弱小同好会で、メンバーが少ないため、新たに部に昇格したアニメーション同好会に部室が奪われ、予算はなくなり、文化祭で割り当てられたスペースは、教室半分である。

「絶対、部に再昇格する!」

この目的を達成するため、推理小説同好会は生徒会に対してあることを持ちかける。

「文化祭期間中に推理小説同好会が生徒会のメンバーをギャフンといわせたら生徒会役員全員が入部する」

という賭けである。推理小説同好会は、同人誌に「生徒会長が誘拐される」という筋書きの小説を書き、生徒会長を誘拐することにした。

機会を狙っていると、何たる幸運か! 生徒会長の福沢祐麒がメンバーの前に現れた。すかさず、4人がかりでダンボール箱に押し込むと、推理小説同好会のアジトまで連行した。ところが、箱を開けてみると、中にいたのは、どちらもたぬき顔ではあるものの、祐麒ではなく、その姉、祐巳だったのである。*1





2.推理小説同好会の4人の罪責

この推理小説同好会の4人は略取・誘拐*2という重要な判例がある。 

これは、ある反社会的な団体の幹部が警護を担当する「スワット」と称するボディーガードを引き連れて上京したところ、警察がスワットの身体検査をし、5丁の拳銃を発見した。そこで、スワットを引き連れた「幹部」が拳銃所持の共同正犯になるかが問題となった。





共同正犯というのは、「犯罪を共同して行ったのであれば、すべての人の行為が一連の行為と見て、その責任を全員が負う」というものである。この事件において団体幹部は、自分では拳銃を持っていなかったが、「共同して」拳銃を持っていたとなれば、拳銃所持の責任を負うことになる。





この事件のポイントは、体幹部は、「拳銃をもってガードせよ」と指示したことは一度もなかったところである。指示もしていないし、自分が拳銃をもっていたわけでもない。それにもかかわらず、最高裁は、団体幹部を有罪とした。





最高裁は、組幹部はスワットの拳銃所持について、大雑把とはいえ「間違いなくもっている」と認識しており、スワット側も組幹部の意向を知っていた。このような状況の下、明示の指示はなくとも、暗黙のうちに「心を通じ合わせていた(意思の連絡があった)」として、「共同して犯罪を行った」としたのである。



ここで、この判決については、そういう反社会的団体のような、日頃から犯罪を繰り返している人たちの間の特殊な関係に鑑みて行われた特殊な認定に過ぎず、これを一般化してはいけないという評もされているところである。そこで、この判決の存在を前提に、慎重にその「射程」(どのような事案であれば、この判決と同様の議論をしてもいいのか)について検討すべきであろう。



まず、OBとして部活に深くかかわっていて同人誌は読んでいるはずの柏木にとって、「生徒会長誘拐」という計画自体は知っていたはずである。柏木にとって、同好会の部員が誘拐を計画しているだろうという大雑把な認識は持ちえたのではないか。つまり柏木優は、スワット事件判決を使える(射程内)であれば、今回の福沢祐巳誘拐事件において共謀正犯ではないかとも考えられるのである。

 ここで、福沢祐巳誘拐事件において特筆されるべきは、柏木優は過去に福沢祐麒を誘拐して小笠原家に連行する*3等、誘拐の常習犯であった。その点からは、誘拐の常習犯を頂点とする団体において行われた誘拐事案として、スワット事件と同様の判断をすることもあり得なくはない。

ただ、スワット事件で問題となった反社会団体は、「よい部下は上役に言われなくとも上役の意図を実現する」という「ツーカー」の関係があったと言えるだろう。だからこそ、部下と幹部の間に「暗黙のうちに心を通じ合わせていた」という関係であるという認定につながった。一般に花寺学園における部の組織規律統制は高そうだが、推理小説同好会の柏木と部下の関係が、反社会団体における程度までツーカーの関係にあったのか、というと少し微妙であろう。

その意味で、柏木が有罪になる可能性はあるものの、必ず有罪になるとまでは言えないという感じになるだろうか。



まとめ

共同正犯認定が比較的緩やかである日本においては、柏木優が共同正犯になるという「可能性」はあるが、なるかどうかは名言できないという、あまり「涼風さつさつ」っぽくない、すっきりしない結論になってしまった。


日本法が、比較的緩やかに共同正犯を認めることについては、「後ろにいる本当の悪玉を処罰できる」という肯定的な側面があるが同時に「処罰範囲が過度に広がってしまう可能性がある」という否定的評価もあることを考えながら、スワット事件の射程を考えていくべきであろう。福沢祐巳誘拐事件における柏木優の罪責の認定の難しさは、まさに、この2つのバランスを取ることの難しさを示しているといえるのではなかろうか。

*1:涼風さつさつ」180頁以下

*2:法的には、「略取」が正しい。つまり、略取は人を暴行強迫により実力支配下に入れること、誘拐はそれ以外の誘惑等による場合である)&監禁罪で有罪なのであろうか?  ここで、4人は完全に「人違い」をしており、もしも祐巳と知っていれば犯行を行わなかったのだから、無罪ではないかが問題となる。 この点は、裁判所の判例も、法学研究者の学説も一致して有罪としている。被害者が祐麒祐巳かは重要ではないのである。誘拐罪は「人を」誘拐したものが有罪となるという書き方をしている以上、重要なのは、「人を誘拐しようとして誘拐した」という1点であり、4人は人を誘拐しようとして人を誘拐している以上、有罪に変わりない。 3.柏木優の罪責 一番の問題は、推理小説同好会のOBで、キャンディーを配っていた柏木優の罪である。 「犯行当時はキャンディーを配っていて犯行に直接関与せず、誘拐を指示したこともない」。こんな柏木優が責任を負うことがあるのだろうか? ここで、スワット事件判決((最決平成15年5月1日刑集57巻5号507頁

*3:ロサ・カニーナ192頁