アホヲタ元法学部生の日常

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米国における複製主体(著作権侵害主体)に関する判例の展開〜大島義則『自炊代行サービスの複製権侵害の判断枠組み』を読んで

情報ネットワーク・ローレビュー 第13巻第1号

情報ネットワーク・ローレビュー 第13巻第1号


 毎年楽しみにしている「情報ネットワーク・ローレビュー」の13巻が刊行された。どれも珠玉の論文ばかりだが、冒頭に掲載されている論文についてレビューしてみたい。



1.チャレンジングな論文
 自炊代行の著作権法上の問題については、既に東京地裁が2つの判決*1を下しているところであるが、控訴審で争われているようであり、学説上は異論もあることから、まだ決着はついていない。



 ここで、この問題についてのもっともわかりやすい論考としては、田村善之『自炊代行業者と著作権侵害の成否』*2がある。これを読んだ後は、控訴審判決が出る等の新たな動きが見られない限り、この問題について田村論文を超えるものは出ないのではないか」と思っていた。


ところが、この論点について新たな論文を書くという、大変「チャレンジング」な試みをされる方が現れた。それが、あの、『憲法ガール』『行政法ガール』の大島義則先生による「自炊代行サービスの複製権侵害の判断枠組み」である。


同論考は、複製主体と私的複製の成否という2つの論点があることから、自炊代行については、以下のような議論のフレームワークマトリックス)が存在するとして、これまでの議論を明快に整理する。

複製主体/私的複製の成否 私的複製肯定 私的複製否定
ユーザーの複製主体性肯定 小坂・金子説 宮下佳之説(?)
自炊代行業者の複製主体性肯定 田村善之説 東京地裁判決、島並良説
ユーザー及び自炊代行業者の複製主体性肯定 論者は不見当だが、理論的にはこのような見解を取ることも可能 横山久芳説


このような議論の整理を前提に、自炊代行業者の行為を私的複製として適法にするためには、著作権法30条1項の趣旨を再検討しながら、立案担当者の見解を「覆す」必要があるとし、自炊代行サービスの私的複製の可否を検討するためには、30条1項の趣旨を解明することが先決問題となると論じる。


非常に明快な論旨であり、読み進める毎に、これまで読んできた論考の内容が、頭の中ですっきりと整理されていく感じを覚え、大変面白かった。



 もっとも、同論考は、複製主体性について日本法に基づき素晴らしい考察をしているものの、残念ながら、アメリカの議論には触れられていない。ここで、米国では、Betamax事件以来、複製主体は非常に重要な問題となっており、Cablevisionにおいて注目すべき判断がされた後、本年6月25日にAereo判決が下されている。もちろん、アメリカと日本は法律が異なるので、アメリカで複製主体がどのように解されているかという議論を、直接日本に持ってくることはできないものの、考察に奥行きを出す上では、アメリカ法を踏まえた論述がなされた方がよりよかったように思われる。


2.米国の議論の概観
注意:このブログで何度も何度も書いておりますが、当方はアメリカ法の資格を持っていないただの素人ですので、この内容に依拠せず、必ず原文にあたるか、アメリカ法有資格者の方にご相談をされて下さい。


 そもそも、米国で複製主体の問題が論じられる時は、それが直接侵害(Direct infringement)か否かという問題として論じられることが多かった。そして、Netcom事件*3等の先例は、volitional conduct(意思的行為)が必要とする。


 よく使われる例としては、コピーサービスの事案がある。

ケース1 X社は、コピー屋を運営し、顧客Yから本を受け取ると、Xの従業員においてコピーを作成してYに渡し、報酬を得ている。


ケース2 X社は、セルフサービスコピー機を店舗内に置いている。顧客Yは、お金を払うとコピー機を使うことができ、Y自身が本のコピーを作成することができる。


そして、ケース1では、Xの従業員の意思的行為があり、Xが直接侵害をしている(Xが複製主体である)のに対し*4、ケース2では、直接侵害しているのはYであって、コピー機を置いているだけのXではないと言われる。



 古典的なBetamax事件、つまりいわゆるビデオ録画機を製造販売するSonyの行為が著作権侵害(のいわば共犯)となるかが問題となった事案においては、ビデオ録画機のユーザー自身がコピーを行っている*5ことを前提に、Sonyの寄与責任(contributory liability)等が否定された*6


 比較的最近のCablevision事件*7では、遠隔テレビ録画&視聴サービスを提供していた業者の行為が著作権侵害であるかが問題となった。この事案では、ケーブルテレビ等を運営する業者が、自社のケーブルテレビのユーザーに対し、追加的な便利機能として「自宅にHD録画機がなくても、業者のサーバーに録画しておいてあげる」という機能を追加したところ、権利者がこれを著作権侵害として訴えたのである。概ね、ユーザーが遠隔操作を行って、業者のサーバーに録画リクエストを送ると、それに従ってハードディスクにコンテンツが蓄積されるという仕組みであった。問題となったさまざまな論点のうちの1つの重要なものは、複製(copying)の主体が誰か*8であった*9


第二巡回控訴裁判所は、Cablevisionの遠隔テレビ録画&視聴サービスのユーザーの行為と、Betamax事件におけるビデオ録画機のユーザーの行為の間に区別はできないとして、複製主体をユーザーと見たのである*10。要するに、家の中でユーザーが操作する録画機と、家からユーザーが操作する録画機の間に違いがないと判断したのである*11。これは、一つの見方を取れば、アメリカのネットベンチャーに対し、ユーザーが操作する形での様々なインターネットサービスを適法に提供するための理論的根拠を与えた判決といえよう。


ところが、このCablevision判決の理屈が大幅に限定される可能性が出てきた。それは、本年6月25日にAereo事件について最高裁判決が下されてしまったからである*12。この事件をきちんと考察するなら多分1冊本が書けてしまうのだが、要するに、Aereoは、Cablevision事件における著作権侵害行為主体性の議論を前提とすると、普通の(=無線の)テレビのネット配信についても、ユーザーに操作をさせることで、著作権侵害を免れられるのではないかという発想でサービスを始めた。模式図としては、WSJのもの*13が分かりやすいと思われるが、要するに、Aereoは大量の小さなアンテナを準備した。そして、ユーザー毎にアンテナを割り当て、そのユーザーの指示に従って、ユーザーの見たいテレビ番組をインターネットを通じてユーザーへの配信等を行う。要するにCablevisionの論理を使えば、家にユーザーがアンテナを立てて視聴するのと、家からアンテナを操作して視聴するのは同じでしょ?と言いたい訳である。


法的に言うと、インターネットを通じて番組を流すことは、著作権者が持つ公の実演(public performance)権を侵害するのではないかが問題となっているところ、Aereoは、実演(perform)しているのはユーザーだと主張したのである*14



連邦最高裁の多数意見は、Aereoのサービスを違法とした。多数意見を書いたのは、有名なブライヤー(Breyer)判事であるが、*15このロジックを一言で言えば、

議会は、著作権法を改正して、ケーブルテレビによる配信が『公の実演』であって、これを行うには、著作権者の許可が必要であることを明確にした。




ケーブルテレビとAereoの違いは1点。ケーブルテレビは常に番組を流しているが、Aereoは、ユーザーのリクエストに応じて流す、この違いだけである。ここで、ケーブルテレビは、配信の権限を得ているが、Aereoはこれを得ていない。




どのタイミングで番組を配信するかというだけの違いが、著作権侵害の成否の判断において重要とは思われないので、やはりAereoはケーブルテレビと同様に、『実演』をしていると解すべきである。

このような議論により、Aereoに実演の主体性を認め、その行為を著作権侵害としたのである。



Aereo判決は出たばかりであり、今後学者の評釈がなされ、また、下級審裁判例が積み重なることで、その射程が明らかになる。この射程を広く解すれば、様々なウェブサービスにおいて、ユーザーがネットを通じて操作をしたとしても、著作権侵害行為の主体はユーザーではなく、ウェブサービス運営者ということになりかねない。もし、このように解釈されるとすると、今後のアメリカのインターネットベンチャーイノベーションに暗雲が漂いかねない。


もっとも、Aereo判決のロジックは、法の立法趣旨等から明確に禁止されている事項については、それについて「小細工」(大量の小さなアンテナを設置する等)を使って「法の抜け穴」を突いて回避しようとしてもダメだというようにも解釈することができ、もしもそのように解することができば、Aereo判決の射程は(そのような立法者が明確に禁止しようとした事項の潜脱の場合に限定されるという意味で)狭くなるだろう。



まとめ
自炊代行サービスについての大島義則『自炊代行サービスの複製権侵害の判断枠組み』は、大変チャレンジングで面白い論考だった。
もっとも、複製等著作権侵害の主体性を日本で議論する場合においても、これらのAereo判決に至る米国の議論を参照し、法制度の異なる日本の法解釈にどこまで導入可能かを探るという努力が望ましいのではないかと考えるが、それは高望みというべきものなのだろうか。

*1:サンドリーム事件(東京地判平成25年9月30日判時2212号86頁)及びユープランニング事件(東京地判平成25年10月30日裁判所ウェブサイト)

*2:http://www.westlawjapan.com/column-law/2014/140106/

*3:Religious Technology Center v. Netcom On-Line Communications Services, 907 F. Supp. 1361 (N.D. Cal. 1995).

*4:Princeton Univ. Press v. Mich. Document Servs., 99 F.3d 1381, 1384 (6th Cir. 1996) (en banc).参照

*5:つまりSonyにはDirect liabilityがない

*6:Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc. 464 U.S. 417

*7:Cartoon Network, LP v. CSC Holdings, Inc., 536 F.3d 121 (2d Cir. 2008)

*8:"The question is who made this copy?"というこの問題を、帰属(authorship)の問題だとして、第二巡回控訴裁判所は"authorship of the infringing conduct"と呼んでいる。

*9:そもそも一瞬しか複製されないのではないかといった問題については複製主体と無関係なので割愛する

*10:"We do not believe that an RS-DVR customer is sufficiently distinguishable from a VCR user to impose liability as a direct infringer on a different party for copies that are made automatically upon that customer’s command."

*11:http://lsr.nellco.org/cgi/viewcontent.cgi?article=1050&context=columbia_pllt

*12:American Broadcasting Companies v. Aereo (573 U.S. ___)

*13:http://online.wsj.com/articles/supreme-court-rules-against-aereo-sides-with-broadcasters-in-copyright-case-1403705891

*14:もう1つの重要な論点として、1対1の関係なのでpublicではないという主張もあったが、本稿とあまり関係がないので割愛する。

*15:少なくとも実演の主体に関する限り