
- 作者: ローレンス・レッシグ,Lawrence Lessig,山形浩生
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2007/12/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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注:1月17日に補足があります。本エントリの一番下をご覧下さい!
法務系アドベントカレンダーのCeongSu先生(@CeongSu)の企画である、「海外法関連ウェブサイトおススメ30選+おまけ(by 独断と偏見)
海外法関連ウェブサイトおススメ30選+おまけ(by 独断と偏見) | 日々、リーガルプラクティス。
は、私が知らないサイトを含む多くのサイトをリストアップして下さり、大変有益な企画であった。
では、私も何かできないか、と思って考えてみたのが「情報法関係海外文献」だが、集めてみたことで、改めて明らかになってしまったのが、
「自分の読んだ情報法の文献がどれだけ狭いか」
という悲しい現実であった。
とはいえ、私なりに好きな文献を10+αアップすることにより、他の、より幅広く文献をお読みの方からのご批判を含めたご紹介を頂ければという趣旨で、恥ずかしながらアップさせて頂きたい。
1 John Perry Barlow, A Declaration of the Independence of Cyberspace
A Declaration of the Independence of Cyberspace | Electronic Frontier Foundation
情報法に関する古典であり、情報法を考える際のスタートラインとも言えるのがこの、A Declaration of the Independence of Cyberspace (サイバースペース独立宣言)である。経緯としては、約20年前、インターネット黎明期(Windows 95の時代)の1996年にCDA (Communications Decency Act)と言われる法律により、インターネットへの規制が始まろうとしていた。このような規制に対する反対を叫んだのがEFF(電子フロンティア財団)の共同設立者の一人でもあるBarlowであり、その文章は、当時の雰囲気を色濃く示唆するとともに、その後の規制の歴史を知る20年後の現代人の一人として感慨深い。とはいえ、個人的に最も重要だと思うのは、その「厨二感」である。
Governments of the Industrial World, you weary giants of flesh and steel, I come from Cyberspace, the new home of Mind. On behalf of the future, I ask you of the past to leave us alone. You are not welcome among us. You have no sovereignty where we gather.(仮訳:産業世界の政府ども、おまえらは肉と鋼鉄でできた弱りきった巨人だ。私は精神の新しい住処であるサイバースペースから来た。未来に代わって、過去であるおまえらに要求する。我々を放っておけ。おまえらは我々に歓迎されていない。おまえらは、我々の集う場所に主権をもたない。)
という冒頭の一節だけでも雰囲気は伝わるのではなかろうか*1。
邦訳もいくつかある*2が、ぜひ原文をお読み頂きたい。
2 Lawrence Lessig, The New Chicago School
http://www.jstor.org/stable/pdfplus/10.1086/468039.pdf?acceptTC=true
最初に紹介する文献をこれにすべきか、それともサイバースペース独立宣言にすべきか悩んだ位の重要文献が、LessigのThe New Chicago Schoolである。情報法を勉強していなくても、規制には、法(Law)だけではなく、市場(Market)、規範(Norms)、アーキテクチャ(Architecture)の4種類があるという話くらいは聞いた事があるのではなかろうか。このような、現在の情報法における思考の基本フレームワークを確立したという意味で、極めて画期的な論文である*3。
なお、Lessigは極めて多数の有益な論文・著書があり、これ以外にも CODE VERSION 2.0*4等は秀逸である。
当ブログでも、書評として、
日本の政治問題に対しても示唆的? 〜「Republic, Lost(仮訳:失われた共和国)」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
を書いたことがある。
3 James Grimmelmann, INTERNET LAW: CASES AND PROBLEMS
(アメリカの)インターネット法については、有名な事件名等は皆様も聞いた事があるのではないかと思われるが、各分野についての判例の到達点を知ることは容易ではない。弁護士が具体的な事案を受任した場合や、学者がある特定の問題について研究をするのであれば、LexisNexisやWestLawを利用した判例リサーチを行うのだろうが、もっと手軽に勉強する方法としては、アメリカのケースブックの利用が考えられる。本書は、ケースブックの1つだが、その特徴は「無料公開(ただ、30ドルの寄付をお願いしている)」であることと「毎年改訂が入っている」ことの2つである。2014年7月時点でのアメリカ・サイバーローの判例の到達点を手軽に知るには、本書がオススメである。
4 Cass R. Sunstein, Republic.com 2.0
http://press.princeton.edu/titles/8468.html
邦訳が「インターネットは民主主義の敵か」

- 作者: キャスサンスティーン,Cass Sunstein,石川幸憲
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 2003/11/01
- メディア: 単行本
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ということで、初版は既に邦訳で読まれている方も多いと思われる、Cass Sunsteinの古典的名著の第二版。(2007年刊だが、なぜか二版の方は邦訳が出ていない。)
同書が出版された当時”some time in the future(仮訳:将来のどこかの時点)”の話だった、”Without any difficulty, you are able to see exactly what you want to see, no more and no less.(仮訳:何の苦労もなく、あなたは、まさに見たいもの、それだけを見ることができる。)"という世界が、Twitter*5等で実現しつつある現在、同書の意義はますます高まっていると言えるだろう。
5 Jonathan Zittrain, The Future of the Internet ; And How To Stop It
Download :: Future of the Internet – And how to stop it.
ハヤカワから邦訳が出ている

- 作者: ジョナサン・ジットレイン,井口耕二
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/06/25
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が、脚注が含まれる英語版はCC BY NC SAであり、無料でダウンロードをしてすぐに読むことができる。
今読むと例が古いと感じるところもあるだろうが、未だに「脱獄」しない限り自由にアプリ等をインストールできないiPhoneのようなエコシステムは根強く、また、「クリーンなインターネットを」といった動きも根強い。その意味では、本書の重要性は未だに消えていないと言えるだろう。
Zittrainは、同書以外にも Internet Points of Control *6や、A History of Online Gatekeeping*7等、多くの重要な論文・書籍を執筆している。
6 William Fisher, Promises to Keep: Technology, Law, and the Future of Entertainment
Promises to Keep
インターネット世界の知財法のあり方について分析をし、提案をする本はいくつかあるが、個人的な趣味でこれを推したい。特に第6章(無料公開されている)は、著作物が公共財である事に着想を得て、インターネットを通じたファイル交換について、現在の著作権による独占システムを変革し、自由にファイル交換をさせた上で、視聴数に応じた政府(税金)による補償をするシステムを提案している。知財法のあり方としては革命的であり、ここでも厨二的匂いを感じるのは私だけだろうか。現在のアメリカでは、spotify等の定額視聴ビジネスが、ファイル交換を大幅に弱体化させたと理解しているが、この問題については、このような知財法的なアプローチもあり得るのかと、目を見開かされた*8。
Fisherは、他にThe Implications for Law of User Innovation*9等の面白い論文も書いている。
7 Yochai Benkler, The Wealth of Networks
Yochai Benkler
いわゆるUGC (User Generated Contents)*10論もいくつか出ているのですが、私の個人的な趣味でこちらを推したい。UGCがどのような構造で発達するのか等の分析に定評がある一冊。CC BY NC SAで全章を無料ダウンロードできる。
なお、Benklerの比較的最近の著書であるYochai Benkler, The Penguin and the Leviathan: How Cooperation Triumphs over Self-Interestは和訳されている

- 作者: ヨハイ・ベンクラー,山形浩生
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2013/03/08
- メディア: 単行本
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ので、手軽にBenklerの世界に触れるという意味ではこちらから入るのもアリではなかろうか。
8 Tim Wu, Network Neutrality, Broadband Discrimination
Network Neutrality, Broadband Discrimination by Tim Wu :: SSRN
Network Neutrality系で一冊というと悩みますが、これも個人的趣味でこちらを。実証研究部分もありますが、キモは4章(167頁以下、SSRNのファイルだと27頁以下)で、ブロードバンドの利用に対する規制についての許される理由と許されない理由を整理している。この論文が、後にFCC Open Internet Order 2010等の実践につながったとも言われるところ*11。
Wuの著書としては、Goldsmithとの共著のWho Controls the Internet?も有名。Barlowのサイバースペース独立宣言と対比すると、より深く理解できると思われる。
9 Christian Peukert他, Piracy and Movie Revenues: Evidence from Megaupload: A Tale of the Long Tail?
「海賊版はコンテンツホルダーに害を与える」という常識が本当なのかを実証分析により検証した論文。ものすごく荒く要約すれば、Megauploadという、映画等の海賊版アップロードサイトが閉鎖されたことによって、全体的にみて映画館の収入は増えなかった、むしろ中くらいの人気の作品では収入が減ってしまったというもの。超有名作品については海賊版アップロードサイトが閉鎖されたことによって利益を得ているので、この論文の分析だけで、海賊版規制は無駄という結論にはならないものの、こういう研究にもう少し焦点が当たるべきだろう。
10 Natalia Cianfaglione, Hollywood Online: Fan Fiction, Copyright, and the Internet
Hollywood Online: Fan Fiction, Copyright, and the Internet by Natalia Cianfaglione :: SSRN
最後は一人の同人作家(QB被害者対策弁護団「これからの契約の話をしよう」等)として、完全に趣味に走らせて頂きました(笑)。アメリカの「同人ワールド」と、著作権法との相克を論じた論文。日本では、著作権と同人の問題については、よく「黙認」とか「放置」とか「お目こぼし」等といわれる*12状況だが、アメリカではどうなのかを知りたい場合は本論文がオススメ。
本論文以外に同じテーマの論文をご存知の方は、ぜひご教示下さい!*13
おまけ James Boyle, A Politics of Intellectual Property: Environmentalism For the Net?
A Politics Of Intellectual Property: Environmentalism for the Net? by James Boyle
これも古典ですが、情報法ではなく情報法「政策」なので、「おまけ」に入れました。”Right now, there is an easily described tendency in the world of intellectual property; rights are expanding by the moment, unchecked by public scrutiny or sophisticated analysis.(仮訳:現在の知財界の傾向を簡単に説明すれば、公衆による精査や洗練された分析による確認を経ないまま、権利はさしあたり拡大を続けている。)という状況は、古くはSonny Bono Copyright Term Extension Act、新しくはAaron’s Law*14と、概ね変わっていないと言ってよいだろう。環境法に着想を得たキャンペーンの必要性を訴えるこの論文は今でも意味のあると思われる。
まとめ
CeongSu先生にインスパイアされ、本当に「独断と偏見」で海外情報法の論文・著作を10本+1本選んでみた。
こういう作業を行うと、いかに自分が偏った論文しか読んでいないか*15が改めて分かり、お恥ずかしい次第である。
皆様には、ぜひ、コメント欄、twitter(@ahowota)又はメール(ronnor1あっとgmail.com)で「この書籍・論文が入っていないのはおかしい」「この著者ならこの書籍・論文だろう」等とのご指摘を賜りたい。
補足:Fumi Kudohさん(@inflorescencia)が補足ブログ記事を作成して下さりました。非常に有益なものであり、皆様、ぜひご参照下さい。
「情報法関連オススメ海外文献10選+おまけ」のコメンタリ - postcinnamon age
補足(1/17):成原先生(@satoshinr)に、ツイッターで、
Johnson & Post, Law and Borders:The Rise of Law in Cyberspace
Law and Borders - the Rise of Law in Cyberspace by David R. Johnson, David G. Post :: SSRN
Frank H. Easterbrook, .Cyberspace and the Law of the Horse
https://www.law.upenn.edu/fac/pwagner/law619/f2001/week15/easterbrook.pdf
と、これに対するLessig, The Law of the Horse: What Cyberlaw Might Teach
http://cyber.law.harvard.edu/works/lessig/LNC_Q_D2.PDF
Joel R. Reidenberg, Lex Informatica
http://ir.lawnet.fordham.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1041&context=faculty_scholarship
をオススメ頂きました。確かにいずれも古典的な重要文献(特に Law and Borders)であり、多くの読者の方にとって非常に参考になると思い、成原先生の許可を得て補足させて頂きます。
*1:なお、サイバースペース独立宣言に関する秀逸な評釈は「ポストモダンな日々。」の2009年6月11日の記事であるが、現在プライベートモードになってしまっているのが残念である。
*2:http://museum.scenecritique.com/lib/defcon0/1st.htm、http://www.asyura2.com/2003/dispute6/msg/284.html等
*3:昔はLessig.org(誤記をご指摘頂きました、工藤さん(@inflorescencia )ありがとうございます。)からダウンロードできたが、今はjstorで購入しなければならないようである。
*4:http://codev2.cc/、翔泳社の翻訳が出ている。CODE VERSION2.0
*5:好きな人だけをフォローし、嫌いな人はアンフォロー、ブロックすれば良い世界。
*6:http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=388860
*7:http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=905862、邦訳は成原慧・酒井麻千子・生貝直人・工藤郁子(訳) 「オンライン上のゲートキーピングの歴史(1)」知的財産法政策学研究28号(2010年3月)117頁以下。多元分散型統御を目指す新世代法政策学:知的財産法政策学研究28号
*8:本エントリ脱稿後、コンテンツ産業は「産業」なのか - 雑記帳の存在を知った。「実現できるかどうかは別としても、思考実験の道具の一つとして使うのならこんなに面白いものも珍しい。たとえそこにトンデモ論に突っ走ってしまう危険性があるとしても。」という感想は、私が「厨二的匂い」と称したものの内容を見事に言い当てている。
*9:http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1601484
*10:マリみてファンだと、同人サークルを思い浮かべるかもしれませんが、そちらではないです。
*11:その後訴訟が起って〜という経緯は取りあえずhttp://www.fcc.gov/openinternetをご参照下さい。
*12:これらの言葉の間の微妙な違い等についてはここではあえて論じません。
*13:こう書いたら、早速工藤さん(@inflorescencia )から、Copyright and Comics in Japan: Does Law Explain Why All the Cartoons My Kid Watches are Japanese Imports? by Salil K. Mehra :: SSRNのご紹介を受けた。ありがとうございます!
*14:Aaronの自殺がスポットライトを当てた現行知財法・インターネット法の問題点、という意味です。念のため。
*15:Lessigが好きなので、「Lessigのお友達の論文・著作を読んでみました!」感がバレバレ。。。