アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

ポケモンGOの法的分析〜ポケモンHOの研究

マルチラテラル民法

マルチラテラル民法


1.はじめに


 ポケモンと法律、この2つに関係性を見いだせない人も少なくないだろう。

 しかし、約15年前、この関係を見い出した法学者がいた。

民法は、ポケモンワールド。百数十のポケモンの名前や性質・得意技などを覚えたように、民法ワールドに潜む、できるだけ多くの概念や制度をゲットし、その制度理解や解釈技法に習熟することによって、民法マスターへの道をめざそう。君のピカチュー(ママ)は何かな?」
松本恒雄他『マルチラテラル民法』v頁


 民法学者も認めるように、ポケモンは、法律と密接な関わりを持っている。



 ここで、大ヒット中のポケモンGOについては、既に実用的な側面から、法的分析が展開されている。



 例えば、町村泰貴教授の「ポケモンGOと法的問題」



ポケモンGOと法的問題: Matimulog


は、人の動きをコントロールできるといった側面等から様々な法的問題を検討している。



 また、橋詰先生の「Pokémon Goの利用規約を分析してみた」


元企業法務マンサバイバル : Pokémon Goの利用規約を分析してみた


は、法務パーソンらしい観点から、利用規約を分析されている。



このように充実しているこれまでの法的考察において唯一足りないのは、非実用的な法的分析である。つまり、ポケモンの世界に対して現実の法律を適用するとどうなるかをギリギリまで詰めて考える、いわば「ゲーム世界の出来事の法的分析」は、これまであまりされてこなかった。


筆者は、これまでも、アニメやゲームの法的分析ということで、例えば艦これについて


艦隊これくしょん法学(艦これ法)研究序説〜艦娘被害対策弁護団設立宣言 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


といった分析をしてきた。また、ポケモンGOについては、ツイッター(@ahowota)上で、 #ポケモンHO というタグで若干の検討を進めてきた。そこで、現段階までのテンタティブな見解を簡単にまとめたい



2.ポケモンの捕獲に関する問題
 そもそも、ポケモンの捕獲は自由なのだろうか。


 ここで、鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)第8条柱書は「鳥獣及び鳥類の卵は、捕獲等又は採取等(採取又は損傷をいう。以下同じ。)をしてはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。」として「鳥獣」の捕獲等を原則として禁止する。


 つまり、ポケモンが「鳥獣」であれば、捕獲は禁止されるのである。*1


 さて、鳥獣保護法第2条1項は「この法律において「鳥獣」とは、鳥類又は哺乳類に属する野生動物をいう。」と鳥獣を定義する。


 そしてポケモンには、多くの種類があるところ、その中には、「鳥類又は哺乳類に属する」ものとそうではないものがあるだろう。


 例えば、コラッタ、ポッポ、オニスズメ等は「鳥獣」と言わざるを得ない反面、ナゾノクサコイキングは違うといった形で、鳥獣該当性はポケモンの種類毎に個別具体的に判断されるだろう。



 ポケモンを見つけたらすぐにモンスターボールを投げるのではなく、それが「鳥類又は哺乳類に属する」かを検討してから捕まえるべきである!


3.ポケストップにおけるアイテム等の取得
 ポケストップでは、様々なアイテム等を取得できるが、これはどのように判断すべきだろうか。


 もしこれが誰のものでもないことが確定していれば、無主物の先占により、そのポケモントレーナーが所有権を取得する(民法239条1項「所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。」)。
 ただ、本当に誰のものでもないのだろうか。


 この辺りは、微妙なところがあるところ、もし本当は誰かのものであれば、それを自分のものにしてしまう行為は占有離脱物横領罪という犯罪になってしまう(刑法254条「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」)。


 そのリスクを取れないということであれば、なすべきことは、遺失物の拾得に準じた手続を取ることである。


 つまり、遺失物法第4条に従い、これを警察署長に提出しなければならないだろう。その後、公告後3ヶ月以内に所有者が判明しない場合にはじめてトレーナーのものとなる(民法240条)。


4.ゲットしたモンスターを博士に送る
 ゲットしたモンスターは、ウィロー博士に送ると、「アメ」が届く。


 この「博士に送る」行為がどのような法的意味を持つのかは、なかなか難しいところである。


 1つの説は、交換契約説であり、アメとポケモンを交換(民法586条)しているという見解である。これは一見自然なように思われる。



 しかし、アメはどこから来るのかという問題がある。ポケモンを捕まえる元からポケモンが持っていることもあること、当該ポケモンの種類に対応したアメがあること等に鑑みると、2つ目の説として、ポケモンからアメが出て来るのではないかという仮説が成り立つ。それがポケモンに苦痛を与えて体内から吐き出させている*2のか、それとも、ポケモンの体を煮詰める等の加工をすることで生産しているのか*3等は分からないものの、この場合には、準委任契約(民法656条)ないしは請負契約(民法632条)に基づく加工がなされたといえるだろう。原則として加工後に生じたアメも元のトレーナーの所有物である(民法246条)。


 なお、博士がアメを作るにあたり食品衛生法52条1項の許可を得ているかも問題であろう。


5.ゲットしたモンスターでのバトル
 ゲットしたモンスターでバトルを繰り広げるのは、決闘罪決闘罪ニ関スル件参照)にはならないとしても、「愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた」(動物愛護法44条1項)として、刑罰を科される恐れがある。ここでいう「愛護動物」は「牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる」(動物愛護法44条4項1号)または「前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの」(動物愛護法44条4項2号)である。闘犬については、伝統行事として社会的に認容されているならば禁止されないと考えられているようであるが、流石にポケモンのバトルは伝統行事とは言えないだろう。


 さらに、各地では、動物の戦いを規制する条例を設けているところもある。東京都であれば闘犬・闘鶏・闘牛取締条例が「犬、鶏、牛その他の動物を互に闘わせてはならない。」(闘犬・闘鶏・闘牛取締条例1条)としており、動物ポケモン全般におけるバトルが禁止されている


まとめ
 コンプライアンスを重視する遵法精神溢れるポケモントレーナーは、
ポケモンをゲットする前にポケモンの種類を確認し、
ポケストップで獲得したアイテムについて遺失物法所定の手続を取り、
・バトルをする際にも、ほ乳類、鳥類、爬虫類を避ける

等の措置を講じることになるだろう。



これは一見煩瑣だが、今や弁護士が手に手にスマホを持ってイノシシ狩りならぬポケモンGOに興じる時代である。
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今後は、法クラポケモントレーナーポケモンGOにおけるコンプライアンスの徹底を先導することを期待したいところである。


いずれにせよ、ポケモンGOの法的考察は始まったばかりである。今後も皆様にご指導を賜りながら、考察を進化(ママ)させて行きたいところである。よろしくお願いしたい。

*1:なお、弓矢を射掛けたが、当たらなかった場合でも弓矢による捕獲とする最高裁判例最判平成8年2月8日刑集50巻2号221頁)によれば、モンスターボールの投擲が下手で、ポケモンを発見したのにHITさせられず、捕まえることに失敗した場合であっても、鳥獣保護法によって原則として禁止される「捕獲」行為に該当するだろう。

*2:https://twitter.com/terayasan/status/757208653736792066参照

*3:この場合、ポケモンの種類によっては化製場等に関する法律の許可を得る必要があるかもしれない。