アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第3回法務の役割?

スキルアップのための 企業法務のセオリー (ビジネスセオリー 1)

スキルアップのための 企業法務のセオリー (ビジネスセオリー 1)

1.はじめに
 書き始めてから気付いたのですが、この連載、「時間軸がほぼ現実と一緒のストーリー展開」なのですね。その意味は、連載を休むと「真夏に真冬の話を書く」という非常にお寒いことになるということですので、できる限りオンタイムに書いていきたいと存じます。
 そもそも次何を書くかを全く考えていない*1「行き当たりばったり連載」ですが、第3回は「法務の役割」です。


ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第1回 自分が「即戦力」ではないことを理解する - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第2回依頼・相談を受ける際の対応 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第3回法務の役割? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第4回今すべき仕事は何か? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第5回ボールを持たない - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常



2.ストーリーパート


登場人物

僕(山田太郎)  1年目のインハウス。修習が終わってそのまま入社したばかり。

井上摩耶先輩   5年目の先輩インハウス。美人だが性格がキツい。

大越課長     我ら法務課の課長。



 12月に入社した後、あっという間に正月休みを経て1月になり、「人事・総務部門の新年会兼忘年会以降入社の新入社員歓迎会」というよく分からないイベントが開催された。そんなに頻繁に新しい社員が入社する訳でもないので、定例の飲み会の際に歓迎会を兼ねてしまえ、ということなのだろう。一次会(歓迎されるはずの僕もきっちり4000円を拠出させられた)が終わった後、井上先輩に近くのバーまで連れ出された。


「キミも入社してもうひと月。法務の仕事にも、もう慣れたかね?」


ウイスキー・ロックのグラスを唇に当てながらそう聞く井上先輩の顔には「ノー」という回答を期待しているかのように、いたずらっぽい笑みが浮かんでいた。


「いえいえ、まだまだ分からないことばかりです。パソコンに向かって契約書を直したりする仕事だと思ってたら、いろんな人とお話をする仕事が多くてビックリしました。」


こういう場所に慣れていないので、とりあえず頼んだハイボールを飲みながら、実感をそのまま口にする。


「法務の主な仕事としては、今やってもらっている契約書チェックのような、トラブルを未然に防ぐための予防法務と、トラブル発生後に迅速かつ円滑な解決を図る臨床法務がある。この他に、法務的観点を経営戦略・事業戦略に活かす戦略法務もあるけれども、うちの会社じゃあまりそういう仕事はないし、あってもキミみたいな1年目が担当することはあまりないだろう。」


うんうん、と頷きながら井上先輩は満足そうに言葉を紡ぐ。


「そして、臨床法務でも予防法務でも、重要なのは事業部門の人とのコミュニケーションだ。それは、なぜか分かるかね?」


「えっと、きちんと必要な情報をもらわないと適切な法的対応について判断ができないからですか。」


 前回井上先輩に恐ろしい目にあった時のことを思い出しながら、こう答える。


「それはミクロ的な理由にはなるけど、マクロ的な理由ではない。もっと大きい理由は、法務の役割にある。」


法務の役割、ですか?」


「そもそも、営業にとって、法務の印象としては『うるさい』、『面倒』というのが定番だ。先方の契約雛形でそのままサインすれば一瞬で売上げが立ち、ノルマが実現できるのに、そこに法務が口を挟んで、法的なチェックするとか弁護士先生に見てもらうからといってしばらく待たせた上で『ここはこう直して』と事細かに言ってくる。ビジネスは遅れるし、先方との面倒な交渉が発生する。数は多くないけど、時には営業がやりたいビジネスについて『やめろ』ということだってある。」


営業の立場に立って考えると、確かに「行く手を阻む邪魔者」という印象を持たれてもしょうがないだろう。


「えっと、臨床法務はどうなんですか? トラブルが生じて『困りました、助けて下さい!』と言って駆け込んで来るシチュエーションであれば、法務のありがたみが分かるんじゃないでしょうか?」


ちょっと思いついたことを、口にしてみる。


「確かに、事業部門では到底解決不可能な大きな法的問題が発生してから法務部門が対応にあたるというシチュエーションでは、もしかすると法務に『助けてもらう』という感覚の事案もあるかもしれない。でも、そんなタイミングで相談されても、もはや『手遅れ』で、後はどう『損切り』するかだけの問題という場合も多い。より良い解決を図るという意味では、最善はトラブルの種がまだ芽吹く前、そこまでいかなくともまだ小さい芽の段階で法務に相談してもらうことが望ましい。でも、その段階では、事業部門は『まだまだ行ける、大丈夫』と思っているかもしれない。そこをどうやって相談してもらうか、そして仮に相談してもらえたとしても、『行ける』と思っている事業部門をどう『これはマズイので、手遅れになる前に対応しましょう』と説得するか、という意味では、予防法務に似たところがある。」


「そうすると、法務の役割って、前向きに進もうとする事業部門に逆らって、後ろ向きに進もうとするってことになる訳ですか。」



「キミにしては良い質問だな。確かにそういう認識の事業部門の人も少なくない。でも、そんな足を引っ張るだけの法務部門だったら、会社にとってその存在自体不要ではないかしら?」


井上先輩の口角が少し緩み、また言葉を紡ぐ。


「私は、会社の目的は『健全に発展して行くこと』だと考えている。『持続可能な発展』という言葉を言う人もいる。要するに今だけよければいい、利益だけ上げればよいという短期的なものではなく、長期的に続けられるような発展をすること。これが株主、従業員、取引先等のステークホルダー全員にとって一番有益なはず。そういう中で、事業部門の『今早く売上げを立てたい』というだけの論理で会社を動かしていいのかしら?


「それはだめ、です。」


その答えはすぐに分かった。


「そう。その意味は、法務部門も事業部門も、本当は同じ方向を見ている、ということ。事業部門は会社の『発展』のために頑張るけれど、それが『健全』かどうか『持続可能』かどうかを考えるのはあまり得意ではない。」


だからこそ僕たち法務部門が必要なんですね。」


井上先輩が我が意を得たりとばかりにうなづく。


「そう、法務部門と事業部門が信頼関係を構築して、『健全な発展』『持続的な発展』に向けて手を携えて進んで行んでいくのが法務部門と事業部門の理想の関係。」


「じゃあ、法務にコミュニケーションが必要なのも。。。」


井上先輩が僕の言いかけた言葉を引き取る。


「同じ方向を向いてやっていくということは、『健全性』『持続性』の観点から言うべきことは言わないといけないけれども、『ノー』というだけではなく、『法務リスクを低減しながらビジネスを前に動かしていける修正案・代替案等はないか』等、ビジネスや会社の『発展』のための前向きな方向性をできる限り考えていかなければならない。それが、事業部門との信頼関係の構築につながる。そのためには、法務的知識・経験とビジネスの知識・経験の双方が不可欠で、その際、私たち法務はビジネスの知識・経験が不足しているという現実を正面から受け入れ、事業部門の人達の持つビジネスの知識・経験を借りなければいけない。そして、だからこそ」


「「法務にコミュニケーションが必要。」」


思わず二人の声がハモる。「もしかして、自分は今後法務でなんとかやっていけるのではないか。」井上先輩の戦略に乗せられているだけかもしれないが、そんな感覚が芽生えて、胸の奥が熱くなった。



3.解説のようなもの
 「法務の役割とは何か」というのは昔から色々論じられているテーマであって、色々な方がいろいろなことをおっしゃっていますが、個人的に重要だと思うのは、井上先輩のいうように、「法務部門も事業部門も同じ方向を向いている」ということです。法務部門は、決して事業部門の足を引っ張る悪い輩ではないんですね。逆に事業部門にそういう風に思われてしまったら、事業部門から気軽に相談をしてもらって問題の芽を手遅れにならないうちに摘み取る、なんてことは到底不可能です。


 問題は、なかなかそのことを事業部門が理解してくれない、ないしは頭では理解していても、具体的な案件で「これは法務的リスクがあるのでダメです」といわれた場合に、そのアドバイスを簡単に聞き入れてくれないということですね。


 それに対する対応策は色々な法務の先輩方がそれぞれにお持ちだと思いますが、私の考えは(できるだけ)「前向きにビジネスを進められる代替案や修正案がないかを一緒に検討する」ということだと思います。そして、法務部門だけで代替案や修正案を考えても、(その法務パーソンのビジネス経験にもよりますが)なかなか有効な案は出てこないので、事業部門がビジネスの知識・経験を、法務部門が法務の知識・経験をそれぞれに持ち寄って、「ああでもない、こうでもない」と話しあうしかないのではないかと考えています。そして、このような過程を通じて、事業部門の人に「法務というのは、ビジネスを前に進めようと真剣に考えてくれている」と思ってもらうことこそが、事業部門と法務部門の信頼関係の構築のための王道なのだと思います*2


まとめ
 正月から始めた連載も第3回になりました。皆様、特にdtk様の御指摘を踏まえ、加筆修正をしながらよりよいものとしていきますので、法務の諸先輩方の忌憚なきご意見・ご批判をお待ちしております。


(なお、コミュ障の筆者に言わせれば、「コミュ障な人は果たして、法務の道を進むかどうか真剣に考えた方がいい」です。その理由は上記で述べた通りです。しかも、年次が上がるとマネジメントという問題まで出てきますし。。。)


ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第1回 自分が「即戦力」ではないことを理解する - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ企業法務一年目の教科書〜第2回依頼・相談を受ける際の対応 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第3回法務の役割? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第4回今すべき仕事は何か? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

ストーリーで学ぶ法務1年目の教科書〜第5回ボールを持たない - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:そもそも何回連載かも考えていない。。。52回ですかね?

*2:実際には、法務の役席者クラスになると、硬軟両面、表裏双方等様々な手法や社内人脈等の様々な資源を使い分けて海千山千の営業部長クラスを説得する手練手管があると聞いておりますが、まあこの連載は「法務一年目」ということで高度に社内政治に入り込んだ手法をご紹介することは遠慮させて頂きます。