「企業法務」志望者は最初から会社に入るべきか?
「企業法務」志望者は最初から会社に入るべきか?
企業法務をやりたいという人のキャリアについては、色々な議論があるところである。一応以下では、議論の幅を限定するため、(弁護士登録をするかはともかく)法曹有資格者について考えよう。
1.伝統的な主流の考え
ここで、伝統的には以下のような考えが主流だったのではなかろうか。
まずは法律事務所、それも主に(準大手を含む)大手事務所か中堅・ブティック企業法務事務所に入り、そこでまずは法律家としての基礎を叩き込んでもらう、その上で、自分としてその事務所のパートナーであるとか、他の事務所の移籍、独立といった対応のどれが良いかを考えるが、そのような様々な選択肢の中には「インハウス」もあり、(ワークライフバランス等の)色々な考慮から、インハウスを選ぶ人もいる。
という感じである。
そして、この考えの裏には「可能なら外部事務所の弁護士をやりたいよね、でも色々な事情で外部事務所の弁護士をできない人の選択肢としてインハウスがある」といった、いわば外部事務所の方がインハウスよりも優れているといった思想が前提にあったように思われる。
2.「最初から会社に入るべき」論
ところが、最近、有力な実務家の先生からは、これと全く違う見解が示されている。
仰ることはよく分かるんですけど、それってただの認知バイアスの問題だと思うんですよね、というのが私の言いたかったことでした。
— 企業法務戦士 (@k_houmu_sensi) 2019年12月8日
中長期的な成功確率とか、経験値のレベル差を考えると、今の時代は最初に会社に入ったほうが遥かにリターンは多いので。 https://t.co/eEStgwMmtw
要するに、新卒(ロースクール卒又は研修所卒という意味と理解される)で、そのまま最初に会社に入ってしまえばいい、事務所に行きたければその後でもいくらでも行ける、ということと思われる。
そして、その理由としては、「中長期的な成功確率とか、経験値のレベル差を考えると、今の時代は最初に会社に入ったほうが遥かにリターンは」大きいということである。
このような議論をどのように考えるべきだろうか。
3.表層的な「先に事務所へ」論への批判
まず、私も、従来の主流の考えを前提とした、表層的な「先に事務所へ」論には大きな問題があると考えている。
まず、最初にインハウスに入れば訴訟実務の経験はあまり蓄積できない、という議論については、企業法務系事務所の弁護士でも訴訟実務あまりやらない人も結構いるという反論があるだろう。
また、「会社では、仕事が上から降って来るから営業力がつかない」とかいっても、多くの企業法務系事務所の若手弁護士も似たり寄ったりの状況だろう。
更に、「最初に会社に入ってしまうと、『事務所に行けなかった人』とみなされて、マイナスに捉えられる」というのは、「伝統的な主流の間違た考えがまだはびこっているだけ」という評価もできるであろう。
4.素晴らしい会社も増えていること
そして、私の知り合いの若い人では、積極的に「最初にインハウスに入りたい!」という人が出てきており、そのような人が入りたくなるような素晴らしい会社も増えている。
私の知り合い数人から聞いた話を統合し、特定を避けるためフェィクを入れてまとめると、以下のようなイメージである。
Aさんは有名ロースクールを優秀な成績で卒業し、司法試験も一発で通った。客観的にみれば、大手事務所にも入れるのではないかと思うが、Aさんはロースクール在学中に、企業の法務部門にインターンし、その経験から、自分のやりたいことはインハウスになることでこそ実現できる、と考え、就職活動を経て、研修所を出たら大企業であるB社の法務部門に就職することが決まった。B社には、大手事務所を辞めて最初にB社のインハウスとなった、10年目の弁護士の先輩と、B社で初めて研修所修了後そのまま「新卒」で入った5年目の先輩と、2人目の「新卒」で入ったインハウスである2年目の先輩という3人のインハウスの先輩がおり、Aさんは4人目である。
これはあくまでも「イメージ」であるが、既に何人かのインハウスが「ロールモデル」として存在するような環境において、丁寧に教えてもらいながら色々な経験を積むことができるような会社も出てきた。その中で例えば、会社の海外留学等も含む福利厚生を利用させてもらいながら、様々な経験を積んでスキルアップ・キャリアアップすることができる。
その上、現在では、そのようにキャリアを積み重ねる中で、他の会社に移ったり、法律事務所に移ったりといった様々な可能性もある。
その意味では、「(研修所卒業後そのまま)会社員になった方がいい」という側面は間違いなく存在する。
5.常にいいのか?
とはいえ、私は、常に「(研修所卒業後そのまま)会社員になった方がいい」といは言いがたいと考えている。
むしろ、以下のようなツイートをしたこともある。
弁護士10年目位まで多様な可能性を保持できる点で「普通の人」にオススメのキャリアは、
— QB被害者対策弁護団団員ronnor (@ahowota) 2019年7月27日
①新卒で大手事務所
②企業の法務部門へ出向
③事務所の留学制度で海外へ
④帰国後独立したり中規模のパートナーとなった同期の話を聞きながら、過去のインハウス経験も踏まえ今後のキャリアを決定。 #エアリプ
このツイートでいう、「普通の人」のニュアンスがわかりにくかったかもしれないが、要するに、
・周りが学部3年くらいで就活に走る中、自分としては何か「思うところ」があったからこそ、就活をせず(または就活をしても学部卒で就職せず)ロースクールに行って司法試験を受け、それに合格した人も多いのではないか。
・そのような「思うところ」との関係でみると、会社に行くことは、ある意味、「学部3年くらいで就活」した人と「同じところ」に行く、ということである。
・もちろん、学部新卒で「総合職」採用された人と、法曹有資格者として「専門職」として採用された人では、例えば「営業行きを命じられる可能性」であるとか色々キャリアに違いはある。
・とはいえ、「弁護士なんですね、すごいですね」みたいな話でなんとかなるのは最初だけであり(最初すらならない?)、実際には、「ビジネスパーソン」としての能力が問われる。そこでは司法試験までで学んだものが「若干」は使えるが、大部分は実地で覚えていかなければならない。
・例えば既に4年位会社でキャリアを積んで現在法務をやっている学部時代の同級生がいるところに、「社会人1年生です」という形で就職することに抵抗を持つ人もいるだろう。
・そのような昔の「思うところ」との関係での心理的抵抗感があるだろう人が最終的に「自分はインハウスに行くのだ」と「腹落ち」をするためには、いろいろな「プロセス」が必要であるところ、上記の大手事務所から始まるプロセスを経由すれば、最終的にインハウスに行った際にそのような 「腹落ち」ができている可能性が高く、「思うところ」があった人にとって比較的おすすめではないか。(ある意味での「モラトリアム」を設けてその中でじっくりと「腹落ち」するまで考えられるのではないか。)
ということを言いたかったところである。
まとめ
なぜ「(最終的にインハウスになるなら)研修所でたらすぐ会社に入るべき」とは常に言いがたいのかについて、「思うところ」と「腹落ち」のプロセスについて色々と考えながらつぶやいていたところ、「認知バイアス」という「パワーワード」を頂いた。これに対し、「なるほどそうか、認知バイアスか!」ではなく、「もやもや」したので「もやもや」をとりあえず言語化してみた。まとまりがないエントリであるが、箸休めとしてご笑覧いただけば。