アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

法務パーソンのための地に足のついた在宅勤務論

 法務パーソンのための「地に足のついた」在宅勤務論

 


【この記事にあるエピソードは「すべてフィクション」です。某弊社がどこか分かった人が万が一存在したとしても、絶対に心の中だけに留めてください。】

 


1.はじめに
最近話題の「新型コロナウイルスに立ち向かう法務部門における新しい業務の在り方」*1 を熟読したが、残念ながら私の素直な感想は、「ポエムとしては極めて質が高いポエムである(なので、一部の人は勇気づけられる)が、結局ただのポエムに過ぎないので実務の役に立たない」、というものである。

 

このような感想を抱いたのは、「若気の至り」というか、多分一介の法務パーソンに過ぎず、管理職のような立場から物を見ることができていないことによって生じている可能性が高い*2

 

ただ、このような否定的なコメントをする以上は、何が法務パーソンにとって地に足のついた在宅勤務論なのかをきちんと示すのがフェアだろうとも思うようになった。私の中では、最近のテーマが「法務の定跡2.0」の模索なので、これに引き付けて少し検討したいと思う。

 

ここで、本書下書き作成後に、以下の論考に触れた。

 

chikuwa-houmu.hatenablog.com

これはまさに「我が意を得たり!」という論考であったので、適宜引用して進めたい。

 

2.在宅勤務の問題の本質

 

 今朝、ついつい厳しい論調のツイートをしてしまった。

 

 

 

 

 確かに、在宅勤務なら、物理的に言って「仕事中に話しかけられる」という事態はなくなる。それによって起案(資料作成、契約レビュー等)に集中できるというメリットはあるかもしれない。しかし、それは本当の意味で「メリット」なのだろうか、長期的に見ても「効率的」なのだろうか?

 


 私は、基本的には、在宅勤務の抱える問題の本質は、「不要な」コミュニケーションがなくなるところであると理解している。

 

 

 全員が基本的にオフィスに集まるとどうなるだろうか。

 

 

 例えば、朝エレベーター、エレベーターホール、そして自分の階の自席までの道のりで、別の部署の見知った顔に挨拶する。そうすると「そういえば、ちょっと今日お時間ありますか?」と言われることがある。給湯スペースやお手洗い等でもこういうことがあり得る。法務の「島」の近くをたまたま通りがかった別の部署の人と目があったときに、そういう対応が生じることもある*3

 

 また、例えば、法務の「島」で仕事をしていると、隣の席や近くの席の同僚から「そういえば、これってどう考えるんでしたっけ?」「前似た案件をやってませんでした?」と言った声がかかることがある。


 逆に、「指導してあげてくれ」と言われた後輩の様子を伺い、「煮詰まってない?」と聞くと言ったこともあった。

 

 このようなコミュニケーションは、正規のルートではない。

 


 例えば、他部門から法務への相談や契約書チェック依頼については、「法律相談メールアドレス」「契約チェック依頼メールアドレス」に連絡することを正規のルートとしている会社も多いのではないか。そうすると、単に「たまたま挨拶した」「視線があった」ことをきっかけに、直接相談予約をする、と言ったことは*4少なくとも「正規」のルートではないだろう。
 また、隣の席や近くの席の同僚からの質問については、同じ案件の担当に指名されている中でのやりとりもあるが、全く担当外の事項であっても、「この人に聞けば何か参考になるのでは?」という信頼があると、普通に全く担当外の案件でも相談が来る。
 更に、後輩の指導については、正規の指導としては、同じ案件に入り、後輩が修正した契約書のダブルチェックをすると言ったものがあるが、ちょっとした声かけ等の非正規の指導を通じて、コミュニケーションをすることもあった。

 

「相手に触れることなく」「人間としか関与しない業務」であれば、確かに 在宅勤務でも、「正規ルート」の業務の仕事はできるのだろう。問題は「それで十分か」ということである。

 

上記のような「非正規のコミュニケーション」を、「不要なもの」、「雑物」として切り捨てれば、確かに法務の業務は「絶対に」リモートワークで対応可能なのだろう。しかし、私はこの非正規コミュニケーションが、法務の仕事を円滑に行う、とりわけ、

  • 法務の敷居を低くし、社内のコンプライアンスリスクのある案件をできるだけ広く拾う
  • 法務内で円滑にコミュニケーションを行う
  • 先輩から後輩への指導を行う

といった目的を達成する上で、重要な役割を果たしてきていたと信じている。


そうすると、そのような重要な役割を果たしてきたものがなくなる在宅勤務は「喪失」と捉えるべきであり、それが失われることをもって、「メリット」や「効率化」と捉えるべきではない

 

やはり、正規のコミュニケーションルートだけで大丈夫だ、とはならないはずであり、在宅勤務でもなんとかなる、というだけで、この非正規のコミュニケーションを補う具体的な方法を提言しない限り、在宅勤務を肯定的に評価する議論に対しては、どうしても「眉に唾」をつけて聞かざるを得ない。

 

 加えて、上記の「【法務】一法務担当者なりに在宅勤務を通して感じていること」が指摘するとおり、

 

日々の業務をこなす際に、目の前の質問そのもの以外の周辺情報をいろいろと聞くことがあると思います。今回の製品はどんなものなのか、取引先はどんなところなのか、取引先の担当者さんはどんな人なのか、利益率とかどれくらいなのか、競合相手はどんな感じなんですか等々の様々な情報です。既にそれなりの関係が築けている人であればリモートであったとしても気軽に聞くことはできるのですが、そこまでは至っていない人とのリモートでのコミュニケーションになると、こういった点を聞くのに一工夫というか、普段よりもエネルギーを使っている

「【法務】一法務担当者なりに在宅勤務を通して感じていること」

 

というような、面と向かって話すのであれば気軽に聞くことができた、「一見直接関係のない事項」について、とりわけ相談者が「一見さん」(初めて接する担当者)等であれば敷居が高くなってエネルギーを使う現象も存在する。

 


3.今は「正しい」新しい業務のやり方が何かを考えるステージ


問題は、この在宅勤務を補う方法について、私がまだ十分に「経験則」を構築しきれていないことである。


・Web会議ではワード画面共有や、ホワイトボードの代わりに手書き描画ソフト等の画面共有をして、リアルタイムで議事メモを作り共有する*5
・メールだと固いかも、と思うようなやりとりについてチャットソフト(Slack等)を利用して、声がけをしてみる
・オンライン飲み会の開催

 

等公式・正規の「メール」「Web会議」等のコミュニケーションを補うコミュニケーションを考えないといけないとは思っている。

 

また、会社によっては、内線目的で携帯電話を配布していることがあるが、携帯であれば在宅でも直接電話がかかってくる。電話でコミュニケーションをする際の「敷居」と、直接「たまたま目があったから」で話す際の「敷居」はかなり違うと思われるものの、それでも在宅でなんとか「補う」方法としてはあり得る*6

 

 

 

このようにこの1ヶ月程度、つらつらと考えているものの、まだまだ「法務の定跡2.0」までは至っていない。


いっそのこと「みんなで業務時間中に『あつ森』をやって、相互に島に遊びに来ることによる交流を通じて非正規コミュニケーションを取っては」とかも夢想するが、中々容易ではないだろう。


しかも、回線の問題やハード(Webカメラ等)等の環境の問題は、法務の上がどれだけ良い人で、なんとか整備してあげたいと考えても、「調達が容易でない」「IT部門の担当」等の理由でうまくいかないところもあると思われる。

 


加えて、「メンバーごとに流れる時間が異なる」といっても、残業申請が心理的に結構大変になる(昼間の仕事ぶりが上司に見えない中、残業申請をすると、昼間集中して仕事してたのかと言われるのではないかという心配がある)ことは間違いなく、「流れる時間」が遅い人がサービス残業を強いられていないか、という点も考慮が必要である。

 


いろいろな意味で、今はそもそも「正しい」新しい業務のやり方が何か、ということを考えるステージだろう。今「やっている」業務のやり方は、もしかすると上司にとっては良いやり方で、これをずっと続けたい、と見えるのかもしれないが、下で泥臭く働いている部下にとっては、「緊急事態の暫定ということなら耐えられるが、これが続くとまずい」やり方に見えることも十分あり得る。とりわけ、上記の非正規コミュニケーションの減少ないしは対面であれば存在しなかった障壁の出現にエネルギーを使っている部下に対するフォロー等を上司がしっかりとしないまま、「いままでの仕事のやり方に戻ろうとしてはいけない」と、今のやり方を絶賛する発言をしていれば、その上司に対する幻滅感が生まれてもしょうがないだろう。

 


4 終わりに

結局明確なオルターナティブを示すことはできていないが、以上が私の現在の暫定的「在宅勤務論」である。

 

冒頭に示したとおりこの記事にあるエピソードは「すべてフィクション」である。以上の記事を読むと一見私が緊急事態宣言の結果家(ホーム)で法務をやっている「インハウス」のように見えるかもしれませんが、実はそうではなく、ほむほむ(暁美ほむらちゃん)と家(ホーム)で同居しているだけで、インハウス(在宅)勤務形態ではないかもしれませんよ。

 

*1:

www.businesslawyers.jp 

*2:

https://twitter.com/keibunibu/status/1255070738731511808

*3: なお、本エントリ執筆後に「「ハイテク企業がマイクロキッチン(休憩室)と自由に食べられる軽食を用意しているのは、人が午前中に空腹になってしまうからではない」とボック。「そこにセレンディピティー(serendipity=素敵な偶然の出会いや発見)があるからなのだ」と言う。」(https://globe.asahi.com/article/13334225?fbclid=IwAR0M6ZanyAtEss_uS2DfOOGBHZfZyWXhrUB2Or06JtD_0BIhMYvpAinFbO8)に触れた。

*4:多分「ご指名」の依頼自体も禁止はされていないと思うものの

*5:でも落ちたりというトラブルは少なくない。

*6:

https://twitter.com/flying_biwaman/status/1256054322606993408?s=20