Business Law Journalについて
2010年代前半の最大の業績は何か、と言われると(多数の同人誌もあるが)『アニメキャラが行列を作る法律相談所』 になるだろう。
単純なブログ書籍化ではなく、ブログのネタを原作としてほぼ書き下ろすという大変な営為であったが、同人サークル「QB被害者対策弁護団」のご協力も得て、大変ご好評頂いた。
では、2010年代後半の主な業績はというと、企業法務系ブロガーの名前でBLJに「辛口法律書レビュー」の連載を持たせていただいたことだろう。同世代の研究者の実名で検索しても1桁ということもある*1CiNiiで「企業法務系ブロガー」で検索すると、2桁の業績が出てくる、というのは異常事態以外の何者でもない。
そもそも、毎年行っている年1度の書評特集に寄稿して欲しいという話からBLJとの関わりが始まったのであった*2。最初は年1度だったのが、3ヶ月ごとの連載になり、最後は毎月の連載となった。*3「匿名ブロガー」について、その著者名ではなく記事の質で評価して連載をさせて下さる、というのは、大変貴重なオファーであり、個人的には密かに名物連載「牛島信のローヤー進化論」の連載回数を超えられないか、ともくろんでいたところであった。
一時期は、同じ会社の雑誌事業部と書籍事業部で「連載→書籍化」といういい流れができており、エコシステムが完成しているなぁと思っていた頃もあった。その後、書籍事業の中止等の経緯等を踏まえ、色々と心配していたが、150号、2020年末という1つの区切りで休刊となってしまった。
BLJ休刊に対しては、反響も極めて多く、多くの方のエントリを見たが、個人的には、企業法務戦士先生の、要旨、中堅弁護士の記事は他の企業法務系の雑誌でも読めるものであり、BLJの真骨頂は「法務担当者の生の声」を拾うというところと力説するエントリが印象に残った*4。
k-houmu-sensi2005.hatenablog.com
どのメディアにとっても、紙の雑誌の収益化というのは困難である。最近の動きを見ると、BLJと同様休刊が相次いでおり、「書籍化に向けた連載をする」「書籍等を知ってもらう」といった、従来紙の雑誌が果たしていた目的を実現する方法として、紙の雑誌以外に活路を見出す傾向が顕著である。例えば、出版社がブログサイトを作って記事を連載してもらってそれを書籍化につなげる等、法律系においても「紙の雑誌以外」の方法で工夫しているところが見られる。
ただ、「紙の雑誌」というオールドファッションなメディアにも、当然ながら、その良さがある。「必ず1ヶ月に1度締め切りが来る」という締め切り効果は、書評が継続的になんとか「形」となった大きな理由であった*5。その意味では、紙の雑誌を休刊した上で、「新企画やwebサイトなどを通じて、法曹界への貢献の道を模索していく所存」というのは、理解はできるが、率直に言って「寂しい」ところである。
また、BLJ他の紙の雑誌と比較しても、企業法務戦士先生の指摘される法務担当者に寄り添った企画を実現する企画力だけではなく、編集の力量において大きな差があったと思う。編集については、「編集に校正だけではなく、校閲もやっていただける」という、いわゆる「Y斐閣サービス」を提供しており、この点はまさに圧巻であった。編集者個人の力量という側面も大きいと思われるが、「尖った記事・企画が多いにもかかわらず安心して書ける・読める媒体」という、2つの一見相矛盾する要請を調和させられたのはこの編集力あってのものであり、(執筆者、連載陣の貢献を否定するものではないものの、)BLJが築き上げたブランドや名声はこの編集者の方の毎日の努力あっての賜物だ、と私は思う。
企業法務戦士先生は、自ブログ紹介に寄せて、「終わりは始まりの一歩目です。今が革命前夜。」*6という粋なツイートをされている。
終わりは始まりの一歩目です。今が革命前夜。#はてなブログ
— 企業法務戦士 (@k_houmu_sensi) 2020年12月27日
Never Say Good-Bye. - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~ https://t.co/mdlwJOyZ01
ブログやSNSにおける多くの読者の「これで終わるのは惜しい」という思いはまさに「革命前夜」を思わせる。電子雑誌、電子書籍(+POD)、紙の書籍形式の実質雑誌*7 その他形式は分からないが、何かの新たな「始まり」を期待したい。そこにおいて、「法務担当者の生の声を拾う」「尖った企画なのに安心して読める編集力」といった、他の雑誌にないBLJ独自の「強み」が復活していれば、(そのタイトルがBusiness Law Journalである場合はもちろん、違う名前になったとしても、)その新たなプラットフォームに、人はまた集うであろう。そして、できることなら、その新たなプラットフォームでの業績を「2020年代の主要業績です」と胸を張ることができる未来を期待したいところである。