LION BOLTのステマっぽいけどステマじゃないエントリ
法律書沼にハマる!? 法律書横断検索サービスLION BOLT
1. リサーチ系リーガルテックに新鋭現れる!?
これまでのリサーチ系のリーガルテックというのは、主に法律書サブスクサービス等が念頭に置かれていた。特に、コロナ禍によって、我々法務が在宅勤務を余儀なくされる中、このような法律書サブスクリプションサービスは、極めて不十分*1ではあるものの「ないよりまし」という感じであった。
ここに突如として、新しいリサーチ系のリーガルテックが登場した。これがLION BOLTである。
lionbolt.jpすごく簡単に言えば、著作権法の改正により、所在検索サービスが著作権者の同意を得ずに実施可能となり、検索キーワードとして入力した単語が含まれるのはどの書籍の何頁かが分かるサービスが適法となったと言われている*2。これを法律書分野で具体的に実装したものが、このLION BOLTである。
2. 「一芸集中型」サービス
このサービスの特徴は、ひたすら「一芸集中型」である。つまり、リーガルリサーチのとっかかりである「どの本の何頁を見ればいいか」について最強の効果を発揮するが、逆に言えば、それ以外は事実上何もやってくれない。
つまり、このサービスにおいては、3000冊の書籍を著作権法上の例外(権利制限規定)に基づきスキャン・OCR化して検索可能としている。そこで「検索」自体はできる。しかし、例えば「法律学小辞典」をOCR化し、単語を検索するとその項目が表示されるというサービスだと、「態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」という著作権法47条1項柱書の要件を満たせないだろう。そこで、スニペット*3は最小限しか表示されず、あくまでも「この本を持っている人は、自分の本の●頁を開いてください」「持っていなければ至誠堂書店、Amazon及び出版社のリンクをつけておいたので、リンクをクリックして買ってください」という形で「別途自分でその書籍を買うことを前提としたサービス」となっているのである。
法律書サブスクリプションサービスは、いずれも収録冊数が数百冊からせいぜい1000冊程度であって、調査の網羅性という意味では全くお話にならない。これに対し、3000冊以上というLION BOLTは、「やっと調査ツールとしてまともに使えるようになる」というレベルである。(もちろん、将来的には書籍・雑誌をあわせて最低でも1万冊は欲しいところである。)その意味では、「初めてリサーチ系リーガルテックで『使える』ものが登場した」と言っていいだろう。
しかし、上記のとおり網羅的に読むべき本とその頁数が分かるという「一芸」に特化したLION BOLTは、自分の手元に検索対象の書籍のほとんどがある状況の人*4であれば有益であるが、そうでないと「どうやってその本を調達するか(ロジスティックス&お金)」という問題が生じてしまうところ、LION BOLTはこの問題を解決してくれないのである。基本的には、どうもこの本の●頁を見ればリサーチで調べていることの「答え」が書いていそうだ、と分かれば書いたくなるし、LION BOLTにはアマゾン等へのリンクもあることから、「ユーザーを法律書沼に突き落とす」サービスという評価も可能かもしれない。
3. 「β版」としてのオススメ度の高さー「リサーチ革命」の実現
2021/10/31までLION BOLTは「ユーザ登録さえなしに」試用可能である(但し、10以上の検索結果が出た場合の11番目以降の閲覧等は試用アカウントを作成する必要がある)。
リサーチの網羅性を合理的な範囲で確保できるというLION BOLTサービスの効用に鑑みると、とりあえず「気軽に試してみる」、という価値は絶対にあり、是非適当なキーワードを入れて試すことをオススメしたい。特に「それだけ」をテーマにした書籍ができるにはまだまだマイナー・マニアックなキーワードでも、LION BOLTで検索すると10冊とかそれ以上の本が出てくるので、リサーチ漏れが防げるのは素晴らしいと言える。
私が約1週間LION BOLTを試用した結果、「文字通りの「リサーチ革命」が起こったと感じるのは、以下の調査方法である。
LION BOLTで検索
↓
「この本の●頁に『答え』があることが判明」
↓
LION BOLTのAmazonリンクからAmazon商品サイトに飛ぶ
↓
Kindle本がある
↓
Kindle本を購入しダウンロード、該当頁を表示
↓
前後の文脈を踏まえて引用(なお、Kindle本のうちコピーができるものの場合、コピーをすると勝手に書籍名等をあわせて引用してくれる)
この方法では、リサーチが爆速で完了し、ただただ驚異的である。もちろん、この「リサーチ革命」にはデメリットもある。つまり、次々と新しいKindke本を購入することになり、目の玉が飛び出るほどお金がかかる、ということであるが。。。
4. 「正式版」に向けての提言
このように LION BOLTは少なくとも無料で使える「ベータ版」としては極めて強くお薦めすることができ、また、正式版に期待している。そして、期待の裏返しとして、以下の提言を行いたい。
ただ、大量に検索結果が出るキーワードだと10個しかない大きなジャンルでドリルダウンするか、雑誌ばかりが出る場合に「書籍のみ」を選ぶかくらいしか*5できないので、この辺りは、「出版日順」とか「定評のある順」とか「関連度順」といった検索方法の機能向上が望まれる。後はコンメンタール・逐条解説だけから検索する、「コンメンタール検索」等もぜひ実現してほしい。
また、基本的には、自分の本棚を探すかネットで購入することを想定していると思われるが、真の意味で利便性を考えるなら、Amazonや法律書サブスクサービスと提携して、自分のkindle上に既にあるとか自分が加入している法律書サブスクサービスで閲覧できるとかであれば、理想的にはそこにワンクリックで飛べるとかであると最高であろう。また、出費の可及的な軽減という意味ではカーリル*6等図書館DBとの連携も望ましい*7。
なお、雑誌が判タ、法セ、法時、後はジュリスト位しか検索対象になっておらず、いわゆる学術的リサーチをするという観点からすると圧倒的に不足している。その意味では、やはりビジネスユース(企業法務部門と法律事務所)を念頭に置いているのだろうと思われるが、反面、ビジネスユースなら、商事法務、ビジネス法務、NBL、BLJ、金融商事法務等入れるべき雑誌がまだまだあるだろう。また、新たにスキャンすると大変ということであれば、(玉石混交ではあるものの、)オープンアクセスの論文を検索対象に追加した上で、クリックすると元の論文のURLに飛ぶようにしてはどうだろうか。これだけで数千本の論文が追加で収載可能と思われる。
更に、インタフェースはパソコンならまだしもスマホだと非常に見にくい。スマホで検索し、図書館や書店で探して買う、という方向性を考えているのであれば、スマホ対応は必須である。
上記のとおり「β版」としてのオススメ度は高い。ただ、正式版は毎月2980円である。Amazonと提携して、Amazonのprimeに入っているとそこにLION BOLTの費用が含まれるとかであれば全然OKであるが、本当に毎月2980円の価値があるか、10月31日まで引き続き利用を継続して慎重に判断したいところであるし、読者の皆様にも是非ご試用の上、ご判断頂きたい。少なくとも「試用の価値」は絶対にあります(断定的判断の提供 *8 )!
*1:数百冊の本しか読めないなんて、全然リサーチにならないですよね?
*2:「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な 権利制限規定に関する基本的な考え方」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_17.pdf)、特に20頁以下参照
*3:最決平成29年1月31日民集71巻1号63頁でいうところの「抜粋」
*4:私の個人的な体感だと約7割はeasily accessibleであるが、逆に言うと「残り」は事実上買わざるを得ないのでお財布が辛い…。
*5:なお「本棚」機能は、要するに既に手持ちの中から探したいというニーズに合わせて限定した範囲で検索できるということだが、それではリサーチの網羅性が保てないので、あまり意味はないだろう。
*7:なお、この辺りは、同サービスのアドバイザーである弁護士の先生の「態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」という著作権法47条1項柱書該当性に関する判断にもよるところで、買ってもらうor既に買っているならOKだが、借りさせるのであればOUTという判断もあり得るかもしれない。