- 作者: 小林秀之
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: 単行本
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最近の[読書]エントリは、ここを改訂してほしい!といった注文エントリが多かったので、最近読んだこれは素晴らしい!という本を紹介したい。それが、「新 破産から民法が見える」である。
2.担保物権のモヤモヤ
この本は、破産法*1の入門書であるとともに、担保物権法についてわかったようなわからないようなもやもやしているところがある人のもやもやをスッキリ解消させてくれる本である。
担保物権というのは、抵当権や質権のように、目的物を担保にとって、金を返さない場合には、そのものを売り払って金に代え、そこから優先的に弁済を受けるという権利である*2。担保物権を一応習ったみなさんの中には、以下のようなモヤモヤがある人も多いのではないか?
モヤモヤ1:動産先取特権の条文が抵当権とかで準用されているんだけど、動産先取特権って何? どういう時にどういう役割を果たしているの?
モヤモヤ2:譲渡担保について、判例は「所有権的構成」と「担保的構成」のうち、基本的には所有権的構成をとるといわれるけど、担保的構成にも親和的な判例がある。いったいどっちなの!?
モヤモヤ3:物上代位について特定性維持説とか優先権保全説とかいろいろあるけど、よくわからない?
モヤモヤ4:担保物権は「優先弁済的効力があるから重要なんだ」というけど、債務者がお金がある人であれば、優先弁済効がなくても、何かの財産に執行すれば、お金は回収できる。結局債務者にお金がある場合には担保物権ってそんなに意味があるの?
モヤモヤ5:担保物権の通有性って何?
このような、担保物権の分野の民法の授業ではよくわからないまま、「判例はこうです」位の浅い解説で進んできた部分は、破産法の視点から見ると、全てスッキリとよく分かるようになる。
3.譲渡担保について破産の視点から見ると
例えば、譲渡担保について考える。判例は、単に2つの構成をいったりきたりしているのではなく、破産の場面では担保的構成をすすめながら、通常の(民事執行の)場面では所有権的構成にこだわっているのである*3。
AがBに対して100万円の債権を持っており、Bの機械(300万円の価値)に譲渡担保をもっているとする。通常の場合に、勝手にBの債権者がBの機械を差し押さえて売ってしまうことができれば、Aは困る。せっかく譲渡担保にとった意味はない。そこで、Aのものだから売ってはだめだよというロジックでBの債権者の差押さえを否定するのが判例で、これが「所有権的構成」といわれている。
ところが、破産した場合に、この家がAのものだといってAが機械を引き取ることを認めると、Aに不当な暴利を与える。Aは100万円しかかしていないのだから、100万円が返ってくればそれでいい、はずなのに、機械引取りを認めれば、300万円の機械をもらえる、つまり差額200万円の不当な利益を得ることになるのである。こんなことを認めることは、Aの他の債権者を害するので、実質は担保でしょ、売って100万円を受け取ったら、残りの200万円は、Bに返しなさいよというのが判例で、これが「担保的構成」といわれているのである。
単に「場面が違う」から、結論が違うというだけで、判例が一見矛盾したようなことをいっているのは実は合理的だということである。
本書は、様々な担保物権のモヤモヤを、破産の視点から解決してくれるのである。
4.破産の入門書としても秀逸
そして、本書は、担保物権を中心に、民法の分野と関連付けながら、破産実体法、つまり破産するとその人の権利義務はどうなるかについてわかりやすく解説してくれている。破産手続法の詳細は、基本書で勉強しなければいけないが、この1冊で、破産実体法の大部分について押さえされるし、新破産法の手続きの概要も説明されている。
新司法試験で破産法を選択することを視野に入れているロースクール生、破産の授業を取っているないし破産が必修の学部生は、本書で勉強することで、難解でわかりにくいといわれる破産実体法をスッキリ理解できる。
まとめ
本書は、破産法の入門書として優れているのみならず、民法、特に担保物権法のもやもやをすっきりさせてくれる。
担保物権法を一応勉強したがよくわからなかった人が担保物権法を納得しながら理解するために最適な本といえる。