アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

「ラブライブ!The School Idol Movie」から学ぶ、法務部門と法務パーソンのあり方

ラブライブ!The School Idol Movie」から学ぶ、法務部門と法務パーソンのあり方

 

 

 


明日からまた新しい年度が始まる。年度の始まりに応じて、新しいことを始める人も多いだろう。そして、そのような新しいことが始まる時期だからこそ、あえて「温故知新」の観点から、経営アニメ法友会企画として、古い話を振り返りたい。

2024年3月に4DXで再公開されたこの作品は、元々は2015年公開の映画である。つまり約10年前の「古い」作品である。既にこの作品の法的分析については、このブログ上で行ったところである。

 

ronnor.hatenablog.com

 

しかし、その後、約10年に渡り法務経験を増加させた現時点で、四大法務交流会の一角を占める経営アニメ法友会の一会員として、この映画が、いかに企業法務に役に立つかを力説したい。

 

 

1 法務の「原点」を明確にする

 

法務は、忙しい。その理由は、依頼してくるビジネス(なお、人事労務経理、広報、総務等のバックオフィス部門からの依頼もあり、ここではそれらを含む概念として「ビジネス」と呼んでいる)として、「自分からの依頼にすぐに対応して欲しい」とリクエストすることが多いからである。これらのリクエストは、ビジネスにおけるそれぞれの担当者としては確かに合理的である。例えば、今月のノルマを達成するには、後⚫︎日で契約を締結しなければならない、やっと相手と基本合意に達したというのに、法務が「チェックに1週間かかるし、色々修正するので修正内容について相手と交渉が必要」と述べる場合、「法務がビジネスを止めている」と憤ることも心情的には理解できなくもない。とはいえ、法務リソースは有限であり、ビジネスに言われるがままに対応していると、すぐパンクし、残業等の大変なことになる。だからこそ、そのような「悩ましい」場合に立ち戻るべき原点が必要である。

本作品においては、周囲の期待(下記4参照)に応えてスクールアイドルを続けるべきかを悩む穂乃果に対し、(その心象風景又は将来像と思われる)女性シンガーが、自分もグループで歌っていたのがグループが終わると言うタイミングでいろいろなことを考えた等と述べ、それでどうしたのかと問う穂乃果に対し、以下の回答をする。

 

簡単だったよ

とても簡単だった

今まで自分たちがなぜ歌ってきたのか 

どうありたくて何が好きだったのか

それを考えたら、答えはとても簡単だったよ

ラブライブ!The School Idol Movie」より引用


このアドバイスを法務の文脈に引き直せば、立ち戻るべき原点がないからこそ、個別の対応についてフラフラしてしまう。その結果として、原点を確固たるものとしておけば簡単なことがなかなか決まらない。だからこそ、経営とすり合わせた上で、何について法務として優先対応し、何を相対的に劣後させるかという大方針を策定するべきである。この大方針は、法務の方針であるから法務において策定すべきではあるものの、これはまさに、営業のAさんも、開発のBさんも、総務のCさんも「早くしてくれ」と言う中、会社として真に優先すべきは何か、という話である以上、企業全体の戦略と整合的な「原点」を構築し、その内容どおりで優先順位をつけて進めることについて経営と握ることが重要である。

 

 2 個人としても「原点回帰」をして決める

上記は、法務という部門全体の話だけではない。我々法務パーソンとしても、様々な迷いが生じることがある。

例えば、以下のようなものである。

 

・より良い法務となるためにどうすればいいか、法律の勉強をする、ビジネスを学ぶ等いろいろな方法があるが、全てをする時間はない

・プレイヤーとして専門性を磨くか、マネージャーとして昇進を目指すか

・今の会社に留まるべきか、それとも転職して新たなチャンスを掴むべきか

 

このような悩みに対しては、自分自身が常に立ち戻ることができる「原点」が何かを明確にすることが重要である。

μ'sは、単なるアイドルではなく、期間限定で、短い高校生の時期だけにおいて全力を尽くそうとするスクールアイドルであることで、最大の輝きを発揮した。これこそがμ'sの「原点」であり、穂乃果は、女性シンガーの助言により、そこに立ち戻ったことで、結論を導くことができた。

我々も、自分は何のために法務をやっているのか等、自分の人生の岐路で常に立ち戻れる根本的な価値観を明確にして進んでいくべきである。

 

3 組織として変化しながら包摂するNYのような組織であり続ける

ダイバーシティ&インクルージョンという言葉は人口に膾炙しているが、それが用いられる文脈によっては、ネガティブなニュアンスのこともみられる。しかし、これをポジティブに、より良い組織づくりに活かすべきである。

その例が劇中で「次々に新しく変化していく」「なんでも吸収してどんどん変わっていく」と評されるNYである。

組織は人が入っては出ていく。この3月で去る人、4月に来る人も多いだろう。その中で、組織は柔軟に変化してそれらの新しい人材が活躍できるよう広く受け入れる必要がある。そして、このような、なんでも吸収して次々に新しく変化していくNYのような組織こそが、常に活性化され続け、進化し続ける組織である。


4 周囲の期待との付き合い方

そもそも誰にも何も期待されてないという場合だってあるかもしれない。しかし、個人でも法務という組織でも、何らかの期待を受けることはあるだろう。例えば上司に「今期はこれをやってほしい」と期待されるとか、経営から法務が「こういう役割を果たしてほしい」と期待される等である。そして、その期待を前向きに使える場合もあるが、それに押しつぶされることもある。

μ'sに対しては、理事長等から引き続きアイドルを続けてほしいという期待が表明された。ただ、μ'sはそのような期待がされてるからと言うだけで、唯唯諾諾と、何も考えずに期待に応える存在ではない。つまり、プラスになる限りで役立てるがそれが絶対ではなく、期待があっても「原点」と異なればこれと違う選択をするのである。

我々も、期待と適切に付き合い、適切な範囲でそれをプラスに利用するが、マイナスにならないようにすることが重要である。


5 次世代への承継

 私が今回映画を再度鑑賞して、目に涙を浮かべたのは、μ'sが慣れない(海未が死ぬ思いをした)海外撮影などを行いながら、ドーム大会をなんとか実現させ、スクールアイドルという伝統を作り出そうと努力する姿である。10年後の「答え合わせ」を知っている私は、心の中で「大丈夫、Aqoursも、ニジガクも、Luella!も、蓮の空も、あるんだよ!」と大声で叫びながら涙した。

 

今の法務が「最盛期」で終わってはならない。仮に今の法務が良い組織であっても、例えば「名物法務部長」が去って、法務組織が崩壊したなら、それは最善の結果ではない。やはり、次世代にその想いを伝えていかなければならない。そのような方法の一つとして、法務として重要なことを言語化し、教育研修を通じて全員で共有し、次の世代に引き継ぐことがあり得る。もちろん、今の法務をコピーする必要はない。Aqoursは、偉大すぎる伝説のμ'sを意識はしながらも自分たちらしさ、自分たちなりの輝きを追求した。次世代が自分達なりの法務の姿を追求することは問題なく、むしろそのよりよい追求のための基礎を構築することこそ、我々の仕事である。