2冊目の商業出版です! 『Q&A若手弁護士からの相談203問 企業法務・自治体・民事編』
ついに2冊目の本が出版されました!!
1 1冊目と打って変わって「真面目路線」に
このブログを約20年前から見てくださっている方からすると、「あの大学生が真面目な本を出すようになったか」、と隔世の感を覚えられるかもしれないが、2011年の1冊目の商業出版である『アニメキャラが行列を作る法律相談所』からは大幅に真面目な法律実務書を出版させて頂くことになった。
2011年に1冊目の商業出版をさせて頂いた後、Business Law Journalにおける辛口書評連載等、公的な活動もさせて頂いていたものの、なかなか商業出版ができていなかった。2022年と10年以上間隔が空いたものの、ついに2冊目の商業出版をさせて頂き、大変感慨深い。
2 京野先生との出会い
本書に関してなんといっても感謝しなければならないのが編著者を務めて下さった京野先生である。
そもそも、本書には『Q&A若手弁護士からの相談374問』という先行する第一弾の書籍がある。
同書をBusiness Law Journal2019年8月号(No. 137)122頁の「辛口法律書レビュー」で批評したのが全てのきっかけであった。京野先生から、このレビューに対して高い評価を頂き、第二弾に参加して欲しいという大変光栄なお申し出を頂いた。
その結果、第二弾は企業法務・自治体・民事編となり、最終的には、「企業法務」で頭を悩ませるような具体的な問題172問について私が文責を務めることとなった。
なお、本書はいわゆる法律事務所所属の若手弁護士を想定読者とした1冊目(『Q&A若手弁護士からの相談374問』)の後継であることから、「読み手の目線」としては、法律事務所所属の若手弁護士を想定した記述にはなっている。
但し、内容面については、法務パーソン(インハウスかを問わない)にとっても役に立つものにしようと頑張っている。
よろしくお願いします!!
江頭差分が不要になった!? リーガルリサーチの最新「スタンダード」を探る
ーLegal Library、Business Lawyer’s Library、Legal Scape及びLionBolt串刺レビューー
これは、法務系アドベントカレンダー2021年度の12月18日のエントリーです。ハードルを上げに上げた柿沼先生からバトンを頂戴しました*1!
なお、12月12日には「裏」で法務系アドベントカレンダーの記事を書いております。
- 第1 はじめに
- 第2 法務パーソンのための「リーガルリサーチ」のコツ
- 第3 リーガルリサーチツール3+1種比較!
- 第4 書籍出版の告知ー京野哲也先生の編著の下で『Q&A 若手弁護士からの相談374問』の続編を出版します!
第1 はじめに
1 お詫び
まずはお詫びから始めたい。つまり、長年の「伝統」である、江頭憲治郎『株式会社法』改訂箇所エントリを、第8版では断念する、ということである。その理由は、江頭「差分」と呼んでいたこの改訂箇所確認の目的が、「頭の中に索引を作り、実務上問題に行き当たったらすぐに該当箇所を引けるようにする」ということにあったからである。その観点からは、既にこの問題が解決してしまった(第3の5参照)以上、断念する他ないということである。
2 法務パーソンのための「リーガルリサーチ」のコツと、リーガルリサーチツール3+1種レビュー
そのような中で、以下では法務パーソンはどのようにリサーチを行うべきかという論点について、私見を総論(第2)と各論(第3)に分けて説明して行きたい。
第2では、「リーガルリサーチは超重課金ゲーム」を旨とするリーガルリサーチのコツに関し、私が約10年の法務経験で自分なりに考えてきたことを公開したい。これまで #リーガルリサーチ タグで呟いた内容を踏まえ、大幅に加筆してまとめた。
第3では、Legal Library、Business Lawyer’s Library、Legal Scape及びLionBoltを比較してみたい。
第2 法務パーソンのための「リーガルリサーチ」のコツ
1 ググればいいのか?
「Googleによって知識はコモディティ化した」という言説がある。しかし、①有料データベースや図書館等にしかない情報があること、②仮にある情報がネット上にあっても、漫然とGoogleで検索しただけでは探し出せないことの2点に留意が必要である。
Google自体はうまく利用すれば、確かにリサーチに活用できる。しかし、たくさん存在し、適切に組み合わせるべきリサーチ手段の1つに過ぎない。現代において、検索エンジンやデータベースを利用して、法律に関する的確な知識を引き出すリーガルリサーチ能力の重要性は、増大しこそすれ、減りはしない。
2 法務パーソンにとってのリーガルリサーチの重要性
法務パーソンの中には、リーガルリサーチを重視しない人もいるだろう。
・忙し過ぎてそんな暇はない
・リーガルリサーチをしても結論は変わらない
・もし必要なら顧問の先生にお願いすればいい
等、一見「もっともらしい」、やらない理由はいくらでもつけられる。
しかし、ネット上の情報でも書籍・論文の情報でも、なんなら弁護士先生との法律相談でも、「間違っている」情報が多い。ここではあえて、カッコ付きの「間違っている」としている。
例えば、「最高裁は特段の事実がない限りAの場合にはBだとした」としよう。その場合、普通は「AならB」なのであって、そのような説明はむしろ「正しい」。しかし、法務パーソンが「一般論」を知る必要があることはほとんどない*2。基本的には個別具体的な状況に応じた「Aなんだけど本当にBなのか」が問題となっており、例えばその状況によっては「Aだけど特段の事情があるのでBにならない」ということも十分にあり得る。そして、「本件」でどうかのみが事業部(社内クライアント)が知りたいことであり、本件の結論(リスクの程度が高い/低いとしか言いようがないことも多いだろうが)こそが重要である。その観点からすると、きちんと「本件」に適用するという意味において、その情報が「間違っている」情報ではないかの検証は、法務パーソンにとっての必要な能力であり、その検証はリーガルリサーチによって行う以上、リーガルリサーチは大変重要である。
このような「理想の法務パーソンが「特殊解を見つけることができる人」という話は、経文緯武先生のリーガルアドベントカレンダー記事にもあった。
3 3種類のコスト
本当にリーガルリサーチをやりたくない根源的は何か。私はリーガルリサーチはコストがかかるからだ、と考える*3。
(1) 金銭的コスト
「リーガルリサーチは超重課金ゲーム」である。基本無料である程度面白い文献も読めるが、それでは絶対「課金勢」に勝てない。雑誌・書籍を買うか、データベースにお金を払うか、図書館等でコピー代を払わないと入手できない「レアアイテム」を読んで初めて文献調査が完成する。
しかも「ガチャ」制度も導入されており、Amazonで買った書籍が「お金の無駄」だったことは枚挙にいとまがないところである。最近はソシャゲでは「天井」、つまり一定の額を注ぎ込めば必ず欲しいアイテムがゲットできる制度が導入されてきているが、リーガルリサーチにはその制度がない*4。
(2) 時間的コスト
しかも、その調査は、基本的には自分の時間を削って行うことになる。もちろん、昔と異なり、(データベースの対価を払い、Kindle化された本をKindleで買えば)かなりのリサーチがオンライン上で実施できるようになってきた。
ただ、それだけではリサーチが完結しない。つまり、未だに紙の雑誌や紙の書籍を書店や図書館で入手する必要があり、それには時間がかかる。
加えて、後述のとおり、「芋づる式」に増える、例えば、Aという文献を読むとBという文献を調べる必要があることがわかり、Bという文献を読むとCという文献を調べる必要があることが分かる等として、どんどん戦線が拡大していくことも、時間がかかる理由である。
(3) 労力的コスト
上記の時間に関するが、労力という側面もバカにならない。特に、徒労や空振りに終わることも少なくないため、そのような心理的なハードルにも立ち向かわなければならない。
4 「調べ切る」ことの困難性
上記のようなコストが非常に負担に感じられる理由は、本当の意味で「調べ切った」といえることがあり得ないからである。極端な話「実は韓国のシンポジウムで重鎮先生がその問題についてスピーチをしており、韓国語の原稿がネット上からダウンロードできた」レベルを含めた「完全網羅」は事実上不可能である。
5 この不都合な事実を前提としてどうするべきか?
ここまで、概ね
①情報は誤っている
②でも、自分で検証しようとするとコストがかかる
③コストがかかるだけではなく、きちんと調べきって情報が誤りかどうか完璧に検証しきることはできない
という「不都合な真実」を示してきた。
では、どうすべきなのだろうか?
私は、むしろ「調べ切ることはできない」という現実を自覚した上で、いかに「合理的に調べるか」を考えるべきだと考える。
その観点からは、「石柱をまずは荒く削って人型を作り、その上で、案件に応じて顔が重要なら顔、手が重要なら手を重点的に整える」イメージでリサーチを行うのが適切だろう。「顔だけ頑張って整えたけど、結局『人魚』なのか『人』なのか分かりませんでした」では話にならないし、クライアント(社内クライアントも含む)のニーズは単に「今すぐ大きな方向性だけ教えて欲しい」というもののことも多い。その要請を忘れて削り込むのは単なる「趣味」であって「仕事」ではない。
そこで、「合理的コストでに合理的な結論を得る」ことを目的としたリサーチこそが、法務パーソン*5の目的とすべきリサーチだということになる。
もちろん、趣味で「推し論点」を調べること自体はあり得ると考えるが、そのような「調べることそのものを目的とするリーガルリサーチ」は以下では検討対象としないこととする。
6 正しいリサーチの始め方
(1) 「あたり」をつける
(a) 車輪の再発明を避ける
以上を踏まえた合理的コストでに合理的な結論を得るリーガルリサーチのためには、 最初に大きな輪郭を間違わないようにする、つまり、正しく「あたり」をつけることが重要である。
その際は、車輪の再発明を避けよう。誰も考えたことのない論点が、たまたま自分の目の前に来ているなんてあり得ない。単に自分が知らないだけだ。*6
そして、参考になる情報は、優秀な人がまとめたもの(だけ)である。「優秀な人ならこの問題をどのように分類するだろう?」と考え、どこに情報がありそうかを推測すべきである。
(b) 条文・判例・文献
基本的には条文・判例・文献を調べることになる。そこで、その案件における条文・判例・文献に正しく「あたり」をつけることになるだろう。
そのうち、多くの場合は、条文が起点となっていくだろう。ただ、条文は思いつかないが、こんな事案についての(こういうキーワードが出ている)判例があったかもしれない、というアプローチや、こういうタイトルやキーワードの文献があるかな、というアプローチもあり得る。
(c)何も思いつかない場合
その分野に全く知見がない場合、どういうキーワードで検索すればいいかすら思いつかないこともあるだろう。その場合にはまさに「異世界」にいるようなものである。
グーグル検索のみでリサーチが完結することはないが、基本的には、調べたいことを自然言語で入れると「それが世の中でどのような言葉で表現されているか」が分かり、その結果、より洗練された表現で調査をすることができるという「検索キーワード探し」が一番基本的な使い方である。
Googleで、事案に関連するいろいろな表現をとにかく入れてみて、(法律の話かどうかはとも角)どういう議論がされているのかをザッと理解するのが実は早いことが多い。Googleで出てきた(法律とは無関係なものも含む)記事を利用することで、その話題についてどういうキーワードがどういう表現で用いられているのかというのを理解することは、その次のステップの(条文・)判例・文献検索の事前準備となる。
なお、Googleで探したいキーワードに"pdf"を付けて検索するという技もあるが、それで出てくる、例えば紀要論文のPDF等が単なる「とっかかり」に過ぎず、到底網羅性がないことには十二分に留意が必要である。
実際の調査の役にはあまり立たないが、いわば異世界の「案内」はしてくれるのがGoogleである。
(2) 調査対象はどこにあるかを知る
正しく「あたり」をつけられても、調査対象がどこにあるかが分からないと、調査に入っていけない。
(a)条文
誰しも自分のお気に入りの六法を持ってそれを使っているだろう。
また、六法にない法令は、e-Gov法令検索の利用が標準的である。
elaws.e-gov.go.jp 但し、改正法の織り込み等は、一部は「沿革」を押すと対応しているが、不十分なところがある。
その場合は、①商用データベース(例えば第一法規の現行法規)を利用する、②各省庁が公開する「新旧対照表」を読む等の対応が必要である。
裁判所HPを使わざるを得ないこともあるが、網羅性が非常に低い。
そこで、通常は商用判例データベースを利用することになる。
中野文庫の旧法令や大審院判例等は多くの人が読むのに難儀する「旧仮名遣い」をしている。もちろん、慣れるとだいたい分かるが、慣れるまでは「韋駄天」*7を使って、まあなんとか読めるレベルの日本語にまで直してみよう。
旧法令は「中野文庫」が参考になる。昔はジオシティーズだったがジオシティーズが閉鎖したので移転した*8。旧法令を読む際は、中野文庫のデータを、韋駄天で現代語化するのが楽。ただし、国立国会図書館デジタルコレクション*9でしか探すことができない法令もある。
(d)文献
文献は、ci.nii
NDL
商用データベースの文献検索(第一法規の「法律判例文献情報」等)で検索することになるだろう。
なお、 商用データベースの文献検索はあまり使っていないが、例えば、ci.niiだと理系等全く無関係の論文が大量に出るような学際的分野について「法律系のみ集めたい」というニーズには合致している。
7 実務上のドリルダウンの方法
(1) はじめに
上記6で、正しい方向に調査を進める準備はできた。さあ、調査を開始したら、どうやって、「目標」に向けて調査を進めていくかを検討しよう。
(2)条文からのアプローチ
(a) 条文をリサーチの起点にする
条文がある場合、まずは条文をリサーチの起点とする。
法務実務では、最終的に特定の条文の解釈・適用に収斂することが多い。そうすると、「これって、何か関係する法令があるのではないか、その法令の関係する条文は?」という観点で探すことで、正しいリサーチの起点に早期に立つことができ、「明後日の方向に飛び立って、お金も時間も労力も失う」という悲しい結果を可及的に回避することができる。
基本的には、その条文の国語的意味を元に、まずは問題となっている事案をあてはめてみる。そうすると、①条文の文言が曖昧で解釈が必要になる部分や、②まだ確認・検討できていない事実関係が問題となるだろう。この①について調査をしていく訳であるが、同時に②についても事実確認が必要である。
(b)その条文でいいのか?
ここで、パンデクテン体系の影響により、これだと思った条文の周囲だけではなく全然違うところに関連条文があるかもしれない。そこで、視野を広く持ち、色々な可能性を考えるべきである。
慣れていない場合には、関連条文が豊富な六法や法令データベースを活用することも考えられる。
(c) コンメンタール
問題となる条文がわかれば、実務では次にコンメンタール・逐条解説に行くのが手っ取り早いことが多い。その条文のその文言に関する判例と学説が要約されているので、問題の概要ないしは大枠を理解することができる。ただし、これはあくまでも調査の「始まり」に過ぎない。
一応私の代表作の一つに『大コンメンタール失火責任法』がある。
(3) (裁)判例からのアプローチ
(a)(裁)判例リサーチ
その条文の問題となる文言の解釈に関する判例があれば、その判例の解釈を踏まえなければ正しいリサーチをすることができない。
上記のとおりコンメンタールを見ると判例が出ていることが多いので、それを読むというのは1つの方法である。
そうでない場合における条文からの判例リサーチにおいて、データベースの提供する「条文番号検索」機能は有益であるが、全部を網羅していない。つまり、条文番号が条文番号として認識されていない裁判例が結構ある。そこで、例えば「X法」と「●条」を検索すると、条文番号検索よりも多く出て来ることが多い。
(b)キーワード検索
条文からリサーチできない場合においては、キーワード検索が一般的である。
まず思いついたキーワードで判例検索をし、その上で、出て来る数が多すぎればより絞り込む(キーワードを増やしてアンド検索等)、少なすぎればより上位の概念で検索する等の調整をし、トライ&エラーで探していくしかないだろう。
(c)調査官解説
最高裁判例があれば、その調査官解説を探すところまでがセットである。基本的には、
・法曹時報上に掲載
・書籍出版
という時系列なので、新しい最高裁判例であれば、ジュリストを調べることになるだろう。
(d) 複数データベースの利用
また、1つの判例DBで出てこなくても他のDBに搭載されていることもある。この点は、既に大嘘判例八百選に「判例検索クロスレビュー」を寄稿させていただいた。
なお、サイ太先生のエントリとして、以下のものも判例検索の技法として参考になる。
(4) 文献調査
(a) 「芋づる式」文献調査
条文がわかり、その法律に関するコンメンタールがあれば、そこで引用されている代表的な文献を収集して、これを読み込むことは王道であろう。
ただし、(たとえコンメンタールでも)1つの文献が引用している文献を読んで調査が終わることはない。実際には、その文献に引用されている文献を更に読んでという感じで「芋づる式」に読むべき文献が増大していくことが多い。
最近は博論についてウェブサイトで公開されることも増えているところ、「まともな」博論であれば、その前半にある学説のまとめ部分を読むと、コンメンタールよりも長めに学説をまとめており、参照すべき文献の網羅性も高いことから、有用性が高いことがある。
そのような最初に読む文献が想定されない場合には、上述のci.niiでキーワード検索をすることが有益である。
また、ある程度文献が豊富な分野であれば、商用論文データベースで串刺検索をすることも十分考えられる(但し論文データベースにある論文は網羅性がないことには十分に留意が必要である。)。
(b) site:go.jp
政府の資料が相対的に信用性が高い*10ことを利用した技法が、
「キーワード site:go.jp」
である。検索結果が多いキーワードであれば、
「キーワード pdf site:go.jp」
と、PDFを入れる方法もある。類似のものに
「site:core.ac.uk」
検索や、google scholar等もある。
(c) Internet Archives
Internet ArchiveのWayback Machineを利用すると、既に消えているものでも、探すことができる。
(d) 「著者買い」
複数冊の論文や本を読んで、良いこと(例えば、実務的文献なら「痒いところに手が届く記述」)を言っている著者であれば、「著者買い」もオススメしたい。特定の著者の書籍と論文を網羅的に入手すると、表題は違うように見えても実際には相互に関連し合う文献だったりする。
(5) 人に聞く
ここまでは、自分1人で調査をすることを前提としているが、そもそも自分1人だけで対応しなければならない訳ではない。
「他人に聞く」というのは有益であり、同僚、上司、先輩、友人、知人、そして、監督官庁等に対し、うまく聞くことで、新たな情報を知ることができるかもしれない。もちろん、忙しい人に対してはきちんと礼儀を持った正しい聞き方をすべきである*11。
(6)「信頼」できそうか?
自分にとって「勘所がわからない」分野で、例えば調べたい事項がずばりタイトルにある本を買ってみたら、それは「トンデモ本」だったということは十分にあり得る。
その信頼度を判断する重要なポイントは、「検証可能性」、つまり、本当なのかを検証できるかである。条文、判例、通達等、その議論の依拠するところを示していれば、そこから辿って検証することができる。
これに対し、信頼ができない文献の場合には、例えば「●大教授がそういった」等と権威を使ったりするが、実際にその発言を辿ることができるような検証可能性が欠けていることが多い。
いずれにせよ、自分で全く分からない分野であれば、上記(4)のとおり人に聞くのがいいだろう。
8 次のリサーチに備える
リサーチをしたら「論理」と「根拠」の2つを整理し、いつでも取り出せるように保存しておくべきである。「論理」が理解できていれば、次の似た事案で「射程」を意識しながら同じ結論か違う結論か判断できる。「根拠」を押さえていれば、その判例・文献等に戻ってリサーチを深められる。
9 「少しの差」を蓄積する!
最後に、上記のとおり、実務では、そもそも調べない人ないしは調べる時間がない人も多い(自戒を込めて)。その意味では、少し調べるだけで、他の人と少し差をつけられる。調査の習慣をつけ、「少しの差」を蓄積することで、何年後には「大きな差」になるはずである!
第3 リーガルリサーチツール3+1種比較!
1 はじめに
(1) 「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」のレビュー
リーガルリサーチツールとしては、判例リサーチツール(データベース)が代表的である。ただ、判例リサーチツール(データベース)の串刺しレビュー結果については、例えば上記の「大嘘判例800選」の寄稿記事をご参照頂きたい。
以下では、新型コロナウイルス蔓延に伴う在宅勤務の必須のツールとなった、「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」である。もちろん電子書籍そのものは広まっており、例えば10冊本があるテーマであれば体感2冊くらいはKindle化されている感覚である。ただ、例えば、会社に置いている本を家でどうしてもリサーチに使いたくなって、kindleでダウンロードすると2倍の費用になり、いくら「ホンゲル係数(エンゲル係数書籍版)の最大化」を目指していても流石に辛い。最終奥義「リボ払い」まで使ってやりくりしているが、そろそろ限界である。
そこで、「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」では、破産回避のための「救世主」として、個人的に注目している。よって、以下、比較的ポピュラーな三種の「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」と1種の異なる種類のツール(検索特化型)のレビューをしたい。
ただ、2点だけ、この「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」そのものについての感想を先行して述べたい。
(2) 複数社を組み合わせる!
出版社として「サブスクに出す」と決めた本は、結構3社の「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」ならどれを使っても入っていることが多い。そこで、例えば2社を使っても書籍の数は2倍にはならない。
ただ、私の体感では3社を並行して使うと書籍の数は約2倍になる。これだけで到底全ての文献は網羅されないが、「まあまあ」の感じにまではなる*12。そこで、負担は3倍(一番安いところと比較するともっと)になるものの、是非3社を全て契約することを勧めたい。多分法務パーソンなら、1社分くらいは会社でサブスクに入って費用を負担してくれていると信じたいので、もしそうであれば、負担は3倍にならないで済む。
(3) むしろ保管場所問題への救世主
2点目としては、この「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」の多分一番のポイントは、「微妙な本」を買うかどうか迷わなくなるということである。もちろん、オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)には良い本も多数含まれており、例えば、我妻民法(LegalLibraryのみ)や注釈民法、会社法コンメンタール(LegalScapeのみ)等は紛れもなく「良い本」である。ただ、それは既に買っているし、オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)を導入したからといって売るかといえば売らないだろう。
とはいえ、そうではない「微妙な本」について、買わなくて良くなるというのが重要な役割である。
図書館派のリサーチであれば、そもそも図書館に行って関連書籍を全部調べるのだろうが、私のような購入派であれば、関連書籍を全部買って大変な出費を強いられる。「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」があれば、まずは関連書籍のうち、サブスクで読めるものが何かを知り、「良い本か微妙な本かのアタリがつけられる」のである。これは最強である。そうすれば、「良い本と、サブスクに出ていない本だけを買う」*13ことで、リサーチが完成するのである。微妙な本は、必要に応じてサブスクで読めば良い。このような、微妙な本に関する「本の保管場所と本代が浮く」というのは、サブスクの非常に大きなメリットである。
この点については、北先生のツイートが参考になるだろう。
法律書籍のサブスクモデルは書籍の代替ではなくて図書館という箱の代替だと思うという話を聞いていた。運営側の意見は違うのかもしれませんが私も基本は同意見ですね。
— 教皇ノースライム (@noooooooorth) 2021年12月16日
2 Legal Library
(1)はじめに
多分「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」で一番ポピュラーと思われる。
(2)いいところ
純粋な法務だけの前提であれば、書籍のセレクションが相対的に良い。特に、社長が弁護士で、我妻民法等、社長が好きな本を入れている姿勢は評価できる。
また、(BLと異なり)コピぺが可能である。そこで、調べた結果良い記述が発見できたら、コピペをするだけでOKである。文献情報もワンクリックである。
(3)ここは頑張ってほしい!
上記は本当に良いのだが、検索したキーワードが当該ページで出てきている部分がマークされないのは非常に痛い。つまり、例えば「認諾」で検索して、ある書籍のあるページが出てきたとして、そのページに「認諾」があること自体はわかるが、ではいったい「認諾」がどこにあるかは、「目視でくまなく調べないといけない」のである*14。ここはBLと比較してLegalLibraryのUIの差があるところであり、改善を期待したい。
なお、商事法務の書籍がないのは、永遠の課題かもしれないが、奮起を期待したい。
3 Business Lawyers Library(BL)
(1)はじめに
多分 「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」で2番目にポピュラーなのではないかと思われる。
(2)いいところ
先ほどのLegal Libraryの悩みである、検索したキーワードが当該ページで出てきている部分がマークされないという問題がない。むしろ、検索したキーワードが当該ページで出てきている部分が黄色でマークされる。この点は直感的であって、高く評価したい。
総務・人事を含めた「広め」のラインアップになっており、また、一部雑誌も入れている*15。
(3)ここは頑張ってほしい!
BLは書籍やタイトルをクリックしても直接書籍が開かず、一度書籍紹介のようなページに飛んで、そのページから「読む」を再度クリックしないといけないのが非直感的である。とりあえず検索結果のスニペット部分か書影をクリックすることで書籍が開くので、暫定的にこれで回避しているが、いかがなものか。
コピペができないのもいかがなものか。最低限ワンクリックで書籍情報をコピーさせてもらいたい。
なお、商事法務の書籍がないのは、永遠の課題かもしれないが、奮起を期待したい。
4 LegalScape
(1)はじめに
商事法務の書籍が入っている2021年12月現在唯一の 「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」である。
(2) いいところ
商事法務の書籍が入っている。
(コピーは一応できる。)
(3)ここは頑張ってほしい!
それ以外については、テキストをベースにしたUIが使いにくい。
Kindleのリフロー型のような形で、それぞれのデバイスに適した形で情報を示す(例えば、スマホ用アプリ、タブレット用アプリを出す)なら、テキストベースは良いのだろう。しかし、特にそういう意味がないのであれば、LegalLibraryのように、固定レイアウトにした上で、コピペはできるようにする方が使いやすいと思われる。
5 LionBolt
上記3種と異なるのが、「検索」だけに特化したLionBoltである。基本的には数百〜1000冊レベルの上記3種だと、例えば「江頭株式会社法等の必須の本がない(なお、一部は前の版しかない)」という状態になり、3つを組み合わせても「まあまあ」のレベルである。これでは、リサーチの網羅性が不安である。
その中で、「3000冊の串刺し検索」を可能とするLionboltは、調査の網羅性の観点から極めて魅力的である。ステマっぽいけどステマではない記事を公表し、現在も利用を継続している。
もちろん、Lionboltが上記の「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」と異なるのは、検索ができるだけで実際には書籍を購入しないといけないという点である。この点はもちろん限界があるが、「この本のこのページに答えがある」というのが分かるのは最強である!!
また、例えば、本棚の設定をすると「江頭株式会社法の何頁にあるか」が一瞬で分かる! つまり、もはや江頭差分は不要になったのである(伏線回収)!
このように素晴らしいLionBoltだが、「この検索結果ページは表示制限中です」となることがある*16。また、 横書き表示の場合にUI上見にくいのも改善していただきたい。
第4 書籍出版の告知ー京野哲也先生の編著の下で『Q&A 若手弁護士からの相談374問』の続編を出版します!
来年早々に、上記の第2のリーガルリサーチ技法及び第3の各種リーガルリサーチツールを使って作成した成果物として、書籍が発売されます!! RONNOR名義では、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』に続く2冊目の商業出版です!
現時点(2021年12月18日時点)で公表できることとしましては、京野哲也先生が編著者を務められる『Q&A 若手弁護士からの相談374問』の続編だ、というだけですが、乞うご期待!!!
*1:博論レベルを書かないとアドベントカレンダー書けないなんていうのはハードルとして高過ぎです!!
*2:資格試験を受ける場合位ではないか?事業部が「一般論として」と言ってきたら、むしろ何か隠していることが疑われる位である。
*3:オブラートに包まず言えば、「リーガルリサーチが面倒くさいから」である。
*5:場合によっては弁護士であっても同様だろう。
*6:これに対し「最初から正解を探す姿勢だと、正解がない問題に対応できないのでは?」という疑問があるだろう。まあ「100%同じ問題」はないだろう。それでも、普通の法務パーソンは90%とか95%は他の人が検討済みの問題を検討しているはずである。だから、90%とか95%のところまでの先人の検討結果を早めに取得し、残り5~10%は自分の頭で考えるクセをつければ良い。
*7:http://www.kl.i.is.nagoya-u.ac.jp/idaten/
*8:https://geolog.mydns.jp/www.geocities.jp/nakanolib/mokuji.html
*10:統計が捏造されていた等というツッコミは、ここで入れないでください。
*11:特に監督官庁対応では、礼儀以外にも、聞き方を誤ると大きな問題が起こることもある。
*12:要するに、江頭、中山(旧版のみサブスク対象)、菅野等の最新版は自分で買って持っている前提であれば、それ以外の本がある程度掘れる、というイメージで良いだろうか。
*13:私は、本当に良い本なら、サブスクにあっても紙で買います。
*14:確かにスニペットが出てきてキーワードがマークされているが、そのスニペットの数行が、どこに相当するかは不明である。
*15:但し雑誌のバックナンバーについては、きちんと古い号も入れて頂かないと、あまり意味がない
*16:多分何度も同じ本の同じ辺りを検索することによって、その本を購入しないで済むことになる事態の可能性を避けようとしているのだろうが、大量のリサーチをすると必然的に良い本の同じ辺りが出てくるので、表示制限は困る。。。
法務パーソンがラブライブ!スーパースター!!を観るべき10の理由
法務アドベントカレンダー2021年「経営アニメ法友会」記事はラ!ス!!
さて、法務アドベントカレンダー2021年では、昨日経営アニメ法友会会長が法務に勧めるアニメ百選の第三弾を公開された。
経営アニメ法友会については、昨年の法務アドベントカレンダー2020年で「設立宣言」をした、アニメの知見を法務実務に活かすことを希望する法務実務に従事する実務家によって構成される任意団体である。
さて、昨年も、ニジガク(「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」)の布教をしていたので、同じように見えるかもしれないが、ラブライブ!スーパースター!!は、別の学校の別のユニットの物語である。経営アニメ法友会会員として、これをご紹介し、法務に活かせる知恵等についても私見を述べたい。年に10個も紹介されるちくわ会長と異なり、当方は年1個なので百選まで100年かかるが、ご容赦いただきたい。
アニメの内容は一言で言えば「学生アイドルがチームを作り、日本一決定戦(ラブライブ)に向けて頑張る」というものである(過剰な要約)。結ヶ丘女子高等学校のアイドルグループLiella!のメンバー達、澁谷かのん、唐可可、嵐千砂都、平安名すみれ及び葉月恋(順不同)の成長が綴られている。
1.「花形」と「お荷物」
どの会社にも花形部門とお荷物部門がある。法務が「お荷物」として、無能社員の左遷先になっている会社もあると聞いているが、とりあえずは「お荷物」までは行ってない会社もままあるだろう。ただ、流石に法務が「花形部門」かというと、そうでないことが多いのではないか。普通は「お金を稼ぐのに直接貢献する部門」が花形であり、バックオフィスでは「経営企画」くらいではなかろうか(偏見)。*1
なお、同じラブライブ!シリーズの別の物語であるラブライブ!サンシャイン!!における合併の側面における「花形」と「お荷物」については既にブログ記事を執筆したところである。
そのような部門間の差別と葛藤を描くのが、ラブライブ!スーパースター!!である。花形である「音楽科」と、お荷物の「普通科」の間においては、厳然とした差が存在する。特に、音楽科出身の生徒会長葉月恋は、文化祭における音楽科中心主義を打ち出し、物議を醸した。
主人公の澁谷かのんは、普通科在籍、しかも、音楽科は受験で落ちて普通科に入った、という立場である*2。法務パーソンが、自分は「花形」ではない、と悩んでいるのであれば、「お荷物部門」のかのんを主人公とする、ラブライブ!スーパースター!!は琴線に触れるとこころあるだろう。
加えて、かのんの運命は、その政治力のなさによって翻弄される。ラブライブはオリジナル曲を歌うことが必要だ。かのんが楽曲作成を担当するが、歌詞が先か、楽曲が先かという「鶏卵問題」で、その「交渉力のなさ」がたたって、先にやらされることになった。
法務がプロジェクトを行う場合でも、他の部門の方が交渉力が強く、実務では仕事を押し付けられたり、どちらが先でもいい仕事を先にやらされたりすることはありそうである。しかし、それでいいのだろうか。社内でも交渉力が弱い法務部は、「論理的な先後関係がある」等と指摘し、なるべくこのような「押し付け」回避するよう努めるべきである。
2.条件の明確化
契約では、ある条件の成就をトリガーに金銭請求権その他の権利義務が発生、移転等することが多い。しかし、「ダメな契約」だと、その条件の部分が「フワフワ」している。
ラブライブ!スーパースター!!では、かのん達のスクールアイドル活動が認められる条件が、「XXというフェスで一位を獲得したらスクールアイドル活動を認める」という、大変大雑把なものであった。フェスは、たまたまスケジュールがあった大物が「電撃参戦」する可能性がある。そのような「プロジェクトの背景になる実務的状況」を熟知している法務パーソンであれば、「要するに今参加者として見えているグループの中で1番上の順位になればいいのですね!」として、「XXXというフェスで参加するAAA、BBB、CCC・・・JJJの中で最も高い順位となる事」を条件とするべきだろう。実際には、前年度東京都代表のサニーパッションが急遽参加することになってしまった。これは、条件の明確化を怠ったことにより発生した問題と言える。
このような「勝利」条件の明確化は法律家にとって重要である。ある弁護士の先生の被請求側案件(法外な請求を受けている案件)受任時に相談を受け、請求が一定期間止まった場合の「みなし成功報酬条項」を入れるようアドバイスしたところ、後でみなし成功となった旨お礼を言われたことがある*3。
3.コミュニケーションツールの使い分け
現代の企業法務のコミュニケーションにおいては、(ビジネス)チャット、メール、電話、直接対面等の方法が利用される。2021年12月時点においては、法務部門がある規模の各社では、ワクチン接種率向上・日本の感染者急減と、オミクロン株のリスクを踏まえ、在宅(を認める体制)の継続か在宅縮小かについて難しい判断が迫られていると思われる。その中でどのようなコミュニケーションツールを利用するかは、まさに実務で重視されている点である。
ラブライブ!スーパースター!!第6話では、千砂都とは普段はライン風のチャットでやり取りをしているかのんが、違和感を覚えて電話連絡を求め、電話での対応から「異変」を察知し、千砂都の元へと駆け寄る場面が描かれる。
チャットは気軽にコミュニケーションができ、また、リアルタイムを求められないことから、「受け手」(多くは部下)側のストレスが少ない(フランクではないが、メールにもその性質がある)。反面、電話はリアルタイム性があるコミュニケーションであり、「受け手」の集中が削がれる等、デメリットがある。そこで、「電話禁止!」のような方向に動く向きもあるようである。しかし、例外的に電話のようなリアルタイム性のあるコミュニケーションを行うべき場合もある。特に、チャットであれば時間を置けるので、「繕う」ことができる。例えば、何か隠しているのではないか、本当は何か問題があるのではないか、そういう違和感がある場合に、チャットだけでは解決しないことも多い。電話で話し、「杞憂だった」ということが分かることもあれば、「いよいよおかしい」と分かることもある。
もちろん、全員100%出社になれば、このようなコミュニケーションツールの使い分けの重要性は相対的に低下するものの、まだまだ全員100%出社に戻るまでは時間がかかりそうであり、また、会社や従業員によっては在宅のメリットを享受し続けたいという向きも少なくない。つまり、今後も引き続き重要性があるポイントである。
4.成果主義における「手段」の問題
成果主義については、いろいろな批判があるところだが、人事評価に成果主義を取り入れると、「あの手この手」で、成果を上げた外観を作出する人がいる。
例えば、合宿で誰がどのベッドで寝るのかについて、可可とすみれは指相撲の勝敗のみしか合意しておらず、達成方法に関するルールを何ら設定していない。その中で、指相撲の直前にキス(!?)をして、可可を動揺させ、その隙に勝利を収めるすみれは卑怯だが、その程度ならば「盤外戦術」として許容されるだろう。
実務においても、
・実質的に1契約だが付属文書がある場合にそれを別の案件とすることで、5案件をやったことにする
・「教えて下さい」と、同僚に肩代わりを頼むが、公式には自分の案件のままとする(成果の横取り)
・他人に引き継ぐ際に「実質終わったようなもの」として1案件を片付けたことにして評価を求めるが、実際は何もできていない(もしくは適当にやっていて引き継いだ人が途方に暮れる)
等様々なトラブルがある。
そもそも成果主義がどうか、というそもそも論はあるものの、仮に成果主義にするのであれば、評価者は、その達成方法について、キチンとルールを設定することで「ズルい」等の不満をできるだけ招かないようにすべきである。
5. 教育研修と安全配慮
個を強くすることは、確かにチーム力の強化につながる。しかし、そのためには、チームで「守りながら」、徐々に強化していくことが現実的である。組織的に対応すればなんとかなるのに、自分一人で対応できるようになれ、と言って「海に突き落とす」というのはリスクが大きい。失敗すると安全配慮義務に違反する危険な行為だ。
みんなと一緒であれば歌えるが、一人では歌えないかのんに対し、一人で小学校に行って歌うことを強要している。「結果オーライ」だが、これでかのんが歌えなくなったらどうするつもりなのか。ラブライブ!シリーズは巨大なプロジェクトである。安全配慮義務違反で巨額の賠償責任を負ってもしょうがないだろう。
実務では、いくら「その人のため」と思っていても、レベルが高すぎるタスクをフォローなしに(一応千砂都達も駆けつけて固唾を飲んで見計らっていたが)一人でこなさせるといった「昭和」の教育研修手法は通用しない。「最近の若いものは」ではなく、それが各従業員がかけがえのない存在だということを前提とすれば、本来必要だった対応と考えて、安全配慮義務を尽くすべきである。
6. フォロー方法
同僚がミスをした時にフォローすることは一見良いことだが、残念ながら、逆に関係を悪化させることも多い。むしろ、一番身近にいて自分を助けてくれた人に対して怒りの感情をぶつけてくることが多いものである。
可可が料理に失敗する等問題を起こし、すみれが好意で代わりに料理を作る等「尻拭い」をしてあげても、可可は感謝しない。これは実務でもよく見られることである。
実務では、仕事の巻き取りや肩代わりでトラブルになることが多いが、責任の所在の明確化ができなくなることが一番の原因である。例えば、もともとAの責任だった仕事について、かわいそうだなと思ってBがやってあげたら、会議で期限に間に合わなかったことについてBが責任を追及される等。
基本的には「裏」でやらず「表」でやるべきであろう。きちんと上司に「この人の仕事が滞っているので、この人のこの業務は私に移管する代わりに、今から始めることを前提に、期限を伸ばすよう上司の方で交渉して下さい」と言って、上司の責任と巻き取り元の責任を明確にする。また、その際に期限やクオリティについて巻き取り案件であることを前提に当初の予定を変更してもらうことも重要である。
このような対応をしないで巻き取った方が悪い、とまでは言わないものの、巻き取りで「痛い目」にあった数多くの経験からすると、フォローの際の方法として留意が必要であろう。
7. 秘密保持
先に秘密を打ち明け、後で秘密を守るよう依頼する葉月恋は情報管理の基本がなっていない。秘密に触れ得る管理区域(例えば自宅)への立入を許可するにあたりNDAへのサインを求め、サイン後初めて立入りを認め、秘密情報を提供すべきである。
実務においては、残念ながら、NDAに「過去に開示した秘密情報も含む」と入れて対応せざるを得ない悲しい事例も存在することは否定できないが、やはり、「ベストプラクティス」としては、先にNDAを締結し、その後で秘密を開示すべきである。
また、NDAを締結したとしても、最終的にその違反に対してどの程度の実効的な救済を受けられるかは疑問であり、「NDAを締結しても出せない情報」ではないか、という観点での検討も重要である。
8.私的利用
生徒会長なのに学校で百合サイトを見ていた恋。確かにマズいものの、それだけで退学処分にできるようなものではない。
実務では、F社Z事業部事件(東京地判平成13年12月3日)、日経クイック情報事件(東京地判平成14年2月25日)、労働政策研究・研修機構事件(東京高判平成17年3月23日)等を踏まえれば、会社の通信機器等を私的に利用することが良いことにはならないものの、一定の私的利用がされることを前提に、(通常の通信内容等よりも保護が切り下げられるものの)一定のプライバシーの保護がなされる。しかも、他の従業員との平等の問題もあるので、(18禁ではない)百合サイトを見ている頻度や時間にもよるが、他の従業員と同程度の時間や頻度である限り、(注意はできても)懲戒等は懲戒権濫用の可能性がある。
9. リクルート
人をリクルートする際には、その人の琴線に触れる「殺し文句」が必要である。
センターになれないなら加入しないというすみれに対する、「センターを奪いにきなさい!」というのはかのんの殺し文句として最高であった。
実務では、そこまで「人をご指名でリクルートする」という場面は多くないかもしれないが、それでも、「エースに難しいプロジェクトチームに入ってもらう」等の場合は考えられるだろう。
そのような場合には、まず相手を熟知する必要がある。そもそもすみれにとって、かのんの「センターを奪いにきなさい!」が効いたのは、「ショービジネス」の世界の片鱗に触れながらも、うまくいかず、スカウトを待っている自分についてそれではいけないと思っていたすみれの葛藤をかのんが熟知していたから。
例えばその人がキャリアプランでほしかった経験ができる機会である等、うまく説明すれば、エースをリクルートすることもできるはず!
10「あなた自身の法務の知恵」との組み合わせを!
これらは、私がこれまで法務をやってきた経験を元にラブライブ!スーパースター!!を視聴して気づいたことをまとめたものに過ぎない。
きっとこの記事の読者の「あなた」も自分自身の経験があり、法務の知恵を蓄積していることだろう。
是非ラブライブ!スーパースター!!を視聴して、その「気付き」を #経営アニメ法友会 タグでツイートして頂きたい。それでもう、既にあなたは経営アニメ法友会の会員である!
LION BOLTのステマっぽいけどステマじゃないエントリ
法律書沼にハマる!? 法律書横断検索サービスLION BOLT
1. リサーチ系リーガルテックに新鋭現れる!?
これまでのリサーチ系のリーガルテックというのは、主に法律書サブスクサービス等が念頭に置かれていた。特に、コロナ禍によって、我々法務が在宅勤務を余儀なくされる中、このような法律書サブスクリプションサービスは、極めて不十分*1ではあるものの「ないよりまし」という感じであった。
ここに突如として、新しいリサーチ系のリーガルテックが登場した。これがLION BOLTである。
lionbolt.jpすごく簡単に言えば、著作権法の改正により、所在検索サービスが著作権者の同意を得ずに実施可能となり、検索キーワードとして入力した単語が含まれるのはどの書籍の何頁かが分かるサービスが適法となったと言われている*2。これを法律書分野で具体的に実装したものが、このLION BOLTである。
2. 「一芸集中型」サービス
このサービスの特徴は、ひたすら「一芸集中型」である。つまり、リーガルリサーチのとっかかりである「どの本の何頁を見ればいいか」について最強の効果を発揮するが、逆に言えば、それ以外は事実上何もやってくれない。
つまり、このサービスにおいては、3000冊の書籍を著作権法上の例外(権利制限規定)に基づきスキャン・OCR化して検索可能としている。そこで「検索」自体はできる。しかし、例えば「法律学小辞典」をOCR化し、単語を検索するとその項目が表示されるというサービスだと、「態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」という著作権法47条1項柱書の要件を満たせないだろう。そこで、スニペット*3は最小限しか表示されず、あくまでも「この本を持っている人は、自分の本の●頁を開いてください」「持っていなければ至誠堂書店、Amazon及び出版社のリンクをつけておいたので、リンクをクリックして買ってください」という形で「別途自分でその書籍を買うことを前提としたサービス」となっているのである。
法律書サブスクリプションサービスは、いずれも収録冊数が数百冊からせいぜい1000冊程度であって、調査の網羅性という意味では全くお話にならない。これに対し、3000冊以上というLION BOLTは、「やっと調査ツールとしてまともに使えるようになる」というレベルである。(もちろん、将来的には書籍・雑誌をあわせて最低でも1万冊は欲しいところである。)その意味では、「初めてリサーチ系リーガルテックで『使える』ものが登場した」と言っていいだろう。
しかし、上記のとおり網羅的に読むべき本とその頁数が分かるという「一芸」に特化したLION BOLTは、自分の手元に検索対象の書籍のほとんどがある状況の人*4であれば有益であるが、そうでないと「どうやってその本を調達するか(ロジスティックス&お金)」という問題が生じてしまうところ、LION BOLTはこの問題を解決してくれないのである。基本的には、どうもこの本の●頁を見ればリサーチで調べていることの「答え」が書いていそうだ、と分かれば書いたくなるし、LION BOLTにはアマゾン等へのリンクもあることから、「ユーザーを法律書沼に突き落とす」サービスという評価も可能かもしれない。
3. 「β版」としてのオススメ度の高さー「リサーチ革命」の実現
2021/10/31までLION BOLTは「ユーザ登録さえなしに」試用可能である(但し、10以上の検索結果が出た場合の11番目以降の閲覧等は試用アカウントを作成する必要がある)。
リサーチの網羅性を合理的な範囲で確保できるというLION BOLTサービスの効用に鑑みると、とりあえず「気軽に試してみる」、という価値は絶対にあり、是非適当なキーワードを入れて試すことをオススメしたい。特に「それだけ」をテーマにした書籍ができるにはまだまだマイナー・マニアックなキーワードでも、LION BOLTで検索すると10冊とかそれ以上の本が出てくるので、リサーチ漏れが防げるのは素晴らしいと言える。
私が約1週間LION BOLTを試用した結果、「文字通りの「リサーチ革命」が起こったと感じるのは、以下の調査方法である。
LION BOLTで検索
↓
「この本の●頁に『答え』があることが判明」
↓
LION BOLTのAmazonリンクからAmazon商品サイトに飛ぶ
↓
Kindle本がある
↓
Kindle本を購入しダウンロード、該当頁を表示
↓
前後の文脈を踏まえて引用(なお、Kindle本のうちコピーができるものの場合、コピーをすると勝手に書籍名等をあわせて引用してくれる)
この方法では、リサーチが爆速で完了し、ただただ驚異的である。もちろん、この「リサーチ革命」にはデメリットもある。つまり、次々と新しいKindke本を購入することになり、目の玉が飛び出るほどお金がかかる、ということであるが。。。
4. 「正式版」に向けての提言
このように LION BOLTは少なくとも無料で使える「ベータ版」としては極めて強くお薦めすることができ、また、正式版に期待している。そして、期待の裏返しとして、以下の提言を行いたい。
ただ、大量に検索結果が出るキーワードだと10個しかない大きなジャンルでドリルダウンするか、雑誌ばかりが出る場合に「書籍のみ」を選ぶかくらいしか*5できないので、この辺りは、「出版日順」とか「定評のある順」とか「関連度順」といった検索方法の機能向上が望まれる。後はコンメンタール・逐条解説だけから検索する、「コンメンタール検索」等もぜひ実現してほしい。
また、基本的には、自分の本棚を探すかネットで購入することを想定していると思われるが、真の意味で利便性を考えるなら、Amazonや法律書サブスクサービスと提携して、自分のkindle上に既にあるとか自分が加入している法律書サブスクサービスで閲覧できるとかであれば、理想的にはそこにワンクリックで飛べるとかであると最高であろう。また、出費の可及的な軽減という意味ではカーリル*6等図書館DBとの連携も望ましい*7。
なお、雑誌が判タ、法セ、法時、後はジュリスト位しか検索対象になっておらず、いわゆる学術的リサーチをするという観点からすると圧倒的に不足している。その意味では、やはりビジネスユース(企業法務部門と法律事務所)を念頭に置いているのだろうと思われるが、反面、ビジネスユースなら、商事法務、ビジネス法務、NBL、BLJ、金融商事法務等入れるべき雑誌がまだまだあるだろう。また、新たにスキャンすると大変ということであれば、(玉石混交ではあるものの、)オープンアクセスの論文を検索対象に追加した上で、クリックすると元の論文のURLに飛ぶようにしてはどうだろうか。これだけで数千本の論文が追加で収載可能と思われる。
更に、インタフェースはパソコンならまだしもスマホだと非常に見にくい。スマホで検索し、図書館や書店で探して買う、という方向性を考えているのであれば、スマホ対応は必須である。
上記のとおり「β版」としてのオススメ度は高い。ただ、正式版は毎月2980円である。Amazonと提携して、Amazonのprimeに入っているとそこにLION BOLTの費用が含まれるとかであれば全然OKであるが、本当に毎月2980円の価値があるか、10月31日まで引き続き利用を継続して慎重に判断したいところであるし、読者の皆様にも是非ご試用の上、ご判断頂きたい。少なくとも「試用の価値」は絶対にあります(断定的判断の提供 *8 )!
*1:数百冊の本しか読めないなんて、全然リサーチにならないですよね?
*2:「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な 権利制限規定に関する基本的な考え方」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_17.pdf)、特に20頁以下参照
*3:最決平成29年1月31日民集71巻1号63頁でいうところの「抜粋」
*4:私の個人的な体感だと約7割はeasily accessibleであるが、逆に言うと「残り」は事実上買わざるを得ないのでお財布が辛い…。
*5:なお「本棚」機能は、要するに既に手持ちの中から探したいというニーズに合わせて限定した範囲で検索できるということだが、それではリサーチの網羅性が保てないので、あまり意味はないだろう。
*7:なお、この辺りは、同サービスのアドバイザーである弁護士の先生の「態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」という著作権法47条1項柱書該当性に関する判断にもよるところで、買ってもらうor既に買っているならOKだが、借りさせるのであればOUTという判断もあり得るかもしれない。
#杉原千畝プロジェクト 第4弾 『新・弁護士の就職と転職』を読む
#杉原千畝プロジェクト 第4弾 『新・弁護士の就職と転職』を読む
1. はじめに
「 #杉原千畝プロジェクト 」、すなわち、ブラック法律事務所から、可哀想な被害者であるイソ弁を救済するプロジェクトに関する、3つのエントリは、望外のご好評を頂いた。
2.超有名就職・転職本
なんと、この本の旧版を本ブログでも書評していた。15年以上ブログ活動を続けていると、こういうこともある。
その中では、
「弁護士の就職と転職」は毀誉褒貶ある本であるが、
弁護士のキャリアに関し、示唆的な情報を含んだ本という意味で、一読に値する。
と結論づけていた(すっかり忘れていた!)。
その本書が、司法改革の失敗を経て、様変わりした弁護士の就職・転職の最新事情を語る『新・弁護士の就職と転職』として新登場したのである。
3.西田弁護士の語る「緊急避難的転職」
#杉原千畝プロジェクト との観点で、本書の最も読ませる部分は、「緊急避難型退職」を語る第40講である。
激務とパワハラは、心身を損なうリスクがあるので、入所3ヶ月でも、1ヶ月でも、真剣に転職を考えたほうがいい。(中略)
「このペースで働き続けるのは無理だ」とか「この高圧的な指導には絶えられない」と感じたら、緊急避難的に「今の環境から逃げ出すこと」を最優先して転職活動をするのは正解である。中長期的なキャリアよりも、まずは、穏やかに仕事ができる環境の確保を優先すべきである。
西田章『新・弁護士の就職と転職』83-84頁(強調引用者)
本書の論旨は「死ぬな! 逃げろ!」という杉原千畝プロジェクトのメッセージとも同一と言え、弁護士のキャリアの第一人者と認識が共有できていることがわかったというだけでも、本書を購入した意義はあった。
4. 心身を損ねたら終わりなのか?
ここで、本書を読んだのはもう少し前であった。しかし、読書直後にエントリをアップできなかった。その理由は、同時に本書がドキッとすることを書いていたからである。以下引用しよう。
残念ながら、心身を故障した経歴が知られると、採用選考にネガティブに働く。許されるべきではない慣行であるが、採用側に「うちにきて、再び、体調を崩されては困る」という心情が芽生えるのは避けられない。
西田章『新・弁護士の就職と転職』83-84頁
この論旨としては、まさに現在進行形でパワハラを受けている被害者に対し「早く逃げろ」と、早く逃げることに強いインセンティブを掛けるためのレトリック的なものと理解される。そして、そのレトリックの限りでは、理解可能である。
とはいえ、現に、パワハラ事務所で心身を故障する人も存在する。詳細は【禁則事項!】だが、私自身も心身を故障した経歴がある。しかし、なんだかんだいって、現在幸せに働けている。
確かに、ダメな事務所が、心身を故障した経歴がある弁護士は門前払いすると言っているという状況が存在し得ることは想像に難くない(「軟弱者は要らん!」的なイメージがすぐに思い浮かぶ)。しかし、そういう事務所は「こちらから願い下げ」なのであって、優良な転職先は、一度心身を故障しても、その後回復していれば、(場合によっては裏で起案専門、最初は顧客対応なし等のいわば「リハビリ勤務」等の措置を講じた上で)採用してくれる*1。
もちろんこのエントリを、「心身を壊してもいくらでも転職できるから、心身を壊す限界までブラック事務所に居続けていいんだ」と誤読されると、それは心の底から心外である。 #杉原千畝プロジェクト は、ブラック事務所からの可及的速やかな退職を強く奨励している。もっとも、これはいわば「予防法務」と「紛争解決法務」の話であって、予防法務的に、「心身を一度壊すと大変だから速く逃げろ」と言うことは、同時に、紛争解決法務的に「現に心身を壊してしまっても、再起は可能だ、だからまずは治療に専念しろ」と言うことと矛盾しないはずである。
その意味では、本書がやや予防法務を重視して、現在進行形でパワハラを受けている弁護士に強いメッセージを出そうとするあまり、紛争解決法務的な、既に心身を壊してしまった弁護士にはやや誤解を招く記載となっていることはいただけないだろう。
5. その他
その他、本書に関しては、以下のツイートから始まる連ツイで、主に就職活動関係の記載の練度の低さを指摘している。
西田章『新・弁護士の就職と転職』は面白いところもあるが、いわゆる「マニュアル本」として、記載に薄っぺらさがあることは否定できない。そういう意味で、そこに書いている事をそのまま疑問を持たずに鵜呑みにするのは良くない、というか鵜呑みにするパーソナリティを採りたいかというと...。 #読書
— QB被害者対策弁護団団員ronnor (@ahowota) 2021年1月14日
この点については、dtk大兄先生が、 #杉原千畝プロジェクト にからめてエントリにまとめてくださった。
色々な意味でストレスのかかる職種ということもあり、うまく行かない事例はそれなりにある。その意味で、一旦何かがおかしくなったときの危機管理は重要なところ。この点については、二次妻・無双御大こと、@ronnorさんの#杉原千畝プロジェクト、が参考になると思う。逃げ方、逃げるべきタイミングを視野においておくことは重要だろう。
今後とも、 #杉原千畝プロジェクト として、広報活動を続けていきたい。リツイート等でご協力頂けると大変ありがたい。
*1:なお、本書でも言及があったが、一般には企業の方が間口が広い。
法務の私が”即レス”をする前に裏でチェックしている3つのこと
法務の私が”即レス”をする前に裏でチェックしている3つのこと
1.今年一番感動したブログ
私が、2021年に読んだ中で、「一番感動した」ブログ記事がこちらの「法務の私が"レスが早い"と言われるために裏で頑張っている3つのこと」である。
この記事は、サメ好きな「法務のいいださん」こと飯田裕子さんが、自分の仕事のノウハウを惜しげもなく開示してくれるものであった。
とても正しい。IT系スタートアップ法務は必ず真似すべき。ただ、伝統系大企業だと、ビジネスチャットでの公開情報では不十分で、情報入手は事業との人脈力勝負であるとか、よくある雛形以外に怪しい前前前前任者みたいな人の作った雛形等を含めると覚えきれない等、限界はある。 #新人法務パーソンへ https://t.co/hfJahf1vaV
— QB被害者対策弁護団団員ronnor (@ahowota) 2021年1月14日
思わず、大絶賛の引用リツイート*1をしてしまったが、もし自分が今IT系スタートアップ法務にいれば、必ず「法務のいいださん」と同じことをやるだろう、と強く確信するエントリであった*2。なお、読書はインデックス*3作り、というのは、既に私も実践している*4。
ユニークなご経歴をお持ちで、現時点で純粋な法務そのものは半年、ということであるが、「人生何回目ですか!?」というレベルのスゴ技が披露されているので、全ての法務パーソンは、参考にすべきである。
さて、私も「即レス」派法務パーソンとして、色々なノウハウを蓄積しているが、「いいださん」のエントリに強く啓発され*5、今回は、以下のエントリの続きという意味も込めて、法務ノウハウの共有の趣旨で、「即レス」前の留意点を3つ挙げてみたい。
2.「即レス」と「お客様満足度」の向上
今は、ベンチャーでかなりスピード感のある弊社でも、「法務は熱量がすごくてレスが早い」「爆速チェック」「次にもし転職したら、次の会社の法務のレスが絶対遅く感じて困りそう」という評価を社内メンバーからもらっています。これ、すごく嬉しい。
基本的に、私は某弊社において、法務の中の評判はともかくとして(笑)、いわゆる「お客様部門」である社内の事業部門や法務以外の管理部門の評判は悪くないと思われる。その一番の理由はスピード感がある対応であり、原則として「即レス」して回答してしまっていることがあり得るだろう。
ここでいう「即レス」には2つの種類のものが存在することに留意されたい。
1つ目の即レスは、「YES」「NO」「このリンク先のとおり」等の、簡単な回答がすぐに(概ね5分以内に)帰ってくるというものである。例えば、「うちの会社って、契約する時、社長じゃなくて、営業本部長(仮)の印鑑でよかったでしたっけ?」等、定型的によく質問される事項(なぜか担当者は焦っていて、早く回答を欲しがっていることが多い)がある。
そういう「定型的な質問事項」に対する回答は、それを毎回個別に回答を考え、ポチポチ打ち込んでいると到底5分とかでは対応できないものの、各社のイントラネット*6上にアップしておけばいいわけで、このURLを付けて「即レス」で返信すると、ビジネスサイドからは、かなりありがたがられます*7。
同じようなやり方のツイートが最近バズっていたので、ご参考まで、ご紹介します。私の、メールで即レス回答法と、法律相談においてフリップを示して説明のいずれがベターかは「それが法律相談をするほどの内容か」、にもよるとは思いますが、基本的な発想は同じだと思います。
「借地借家法で定めらている賃貸人から解約できるケース」「損害賠償の制度」「消滅時効」「薬機法NGワード」などをそれぞれちょっとしたフリップにまとめて法務相談の時には常に持参するようになって、相談時間が短縮しました。どうせみんな同じようなことを何度も聞くので…
— 渡辺さん@いわしブックス (@watanababy2010) 2021年1月14日
「請負と委任の違い」「印紙税一覧」「普通借家と定借の違い」「景品規制」のフリップもよく使います。
— 渡辺さん@いわしブックス (@watanababy2010) 2021年1月14日
「ごめん、ちょっといい?」の時にフルセットで持っていくので「いきなり呼んだのにおおまかな答えが出る都合のいい女扱い」されます。「それメモらせて」用にコピーも何部か用意しておくとベター
そして「即レス」の2つ目は「とりあえず受領したよ」という趣旨のレスを、メール受領後概ね5分以内に返すことである。
XX様
法務部(仮)のアホヲタろなー(仮)でございます。ご連絡ありがとうございます。
ご依頼いただきました「業務委託契約書」につき法務でレビューし、できるだけ早くご回答致します。来週●曜日目処でよろしいでしょうか。
なお、レビューの過程で不明点等ございましたら、ご連絡させて頂くこともあろうかと存じますので、何卒よろしくお願いいたします。
基本的には、依頼への感謝、なすべき対応の内容と期限の明示を行い、今後あり得る事柄(不明点の確認等)を明らかにして、「ロードマップ」を示すという内容であり、慣れれば5分で回答が可能であろう。
こういう回答がすぐに帰ってくると、実際のレビュー結果が帰ってくるのが(特に法務内の上司による確認というフェーズが必要な場合)1週間後とかそれ以降であっても、顧客満足度という意味での「スピード感」は速いと感じてもらえるので、是非励行すべきである。(同じ1週間後のレビューであっても、何の返事もないまま1週間後に突如としてレビュー結果を帰す、という対応をすると「法務はトロい」「ビジネスのスピードについて来ていない」等という不満が出るのです...。)
3 「即レス」をしてもいいの!?
さて、ここまでは「前振り」であった。このエントリの目的は(一般論として即レスをすべきであるとしても)、実際に即レスをする前に、「本当に『即レス』をしてもいいか」を、事前にきちんと考えましょう、ということであった。
以下、
・形式的不明点・不足点はないか!
・情報共有の要否と内容(ヤバイ案件ではないか)
・宛先及びCC
という「法務の私が”即レス”をする前に裏でチェックしている3つのこと」を紹介していきたい。
4 形式的不明点・不足点はないか!
まずは、形式的不明点・不足点があれば即レスの際においてリマインドすべきであろう。その意味で、形式的不明点・不足点がないかの確認は、即レス前にやるべき重要な確認事項であろう。
具体的な「形式面」としては、上記の「やるべきこと(複数のファイルが送付された場合において、何がレビュー対象で、何が参考資料か等)」及び「納期」等に加えて、
・レビューの対象の契約書や資料等を全て受領したか(添付漏れとか「引用された見積書・約款等がない」等の確認)
・ファイルにパスワード等が掛かっていないか(納期直前にパスワード送付をお願いすることの「気まずさ」と言ったらない)
・メールの下の方が文字化けしていないか(「以下のやりとりをご参照ください」といわれて最初はいいが、下の方が文字化けしているパターンがある)
等が挙げられるだろう。
特に、「メール転送係」的なキャラクター・パーソナリティの事業部門担当者が、相手から来たメールをそのまま転送して「これ、レビューしてください」という場合には、このような形式面の確認をスルーしている可能性が高いので、法務において確認する必要性が高い。
5 情報共有の要否と内容(ヤバイ案件ではないか)
そして、意外に重要なのは「超ヤバい案件」が「しれっ」と一法務担当者のところに来ている場合である。基本的に、法務が「契約レビュー」をしてしまうと、仮にビジネスモデルチェック自体は依頼されていなくとも、その「ビジネスモデル自体が業法違反」的な場合において、「法務は何していた!」という怒られが「法務」に対して発生する。
そうすると、「レビューします! 」と即レスする前に、例えば、「部長、営業から来た協業案件の契約を転送します。説明メールを見る限り、【弁護士法72条/出資法等々】に反しているとしか思えません。お忙しいところ恐縮ですが、部長に入っていただき、一緒にWeb会議することから始めるということでいかがでしょうか。」のように、上司(ここでは部長としているが、課長等いわゆる「こういう案件」で相談すべき上司を適当に挿入して欲しい)に情報共有すべきだろう。
そこまで「やばい」話でなくとも、「確か、関連案件を同僚が受けてたな」という場合に、同僚宛(法務内の案件差配をする上司CCで)「そういえば、こんな案件ありましたが、これって、この前お話されていた例のアレの関連案件ですか?」と聞くと「おおよ!」と引き取ってくれることもある。
こういう情報共有は、「報連相」という社会人の基本として、重要である。
6 宛先及びCC
後は、あまり事案として多くはないものの、「間違った宛先のメールをCCして誤爆してる」ことがある...。例えば、「法務全員」にCCすべきところを「管理部門全員」「全社員(!?)」にCCしてしまってるとか、「他社の人の名前が法務担当者に似ているので、予測変換でその人がCCされている」等、ミスの具体的な内容はそれぞれであるが、通常「全員に返信」を押すであろうから、宛先及びCCをよく確認し、「ミスの連鎖」を発生させないようにすべきである。
7 宣伝
本エントリの原型は私がツイッターで #新人法務パーソンへ タグで呟いている法務パーソン向け投稿ですので、もしよろしければ、@ahowota アカウントをフォローください。
新件を依頼されたら、
— QB被害者対策弁護団団員ronnor (@ahowota) 2019年7月28日
・法務が行うべきこと(例えば契約レビュー等)及び納期
・レビューの対象の契約書や資料等を全て受領したか(添付漏れとか引用された約款がない等の確認)
・明らかにヤバい案件(上司に相談!)ではないか
を確認した上で担当する旨を通知するメールを出そう。 #新人法務パーソンへ
次に、当日、他の仕事が少し落ち着いたら
— QB被害者対策弁護団団員ronnor (@ahowota) 2019年7月28日
・検討の前提となるビジネス上の関係や、案件の背景事情等について確認すべき点はないか
・コンプライアンス等の理由で事業部門が進めたいビジネスそのものを修正する必要はないか
・その他会議等を依頼すべきではないか
等を検討する。 #新人法務パーソンへ
https://twitter.com/ahowota/status/1155427767900499968?s=20
*1:なお、特段の事由がない限り単純リツイートを賛同とするものとして大阪高判令和2年6月23日参照。
*2:とはいえ、伝統系大企業とIT系スタートアップでは、環境も違うので伝統系大企業法務で同じ「技」が使えるかはともかく
*4:QB被害者対策弁護団団員ronnor on Twitter: "とりあえず、その本のどこに何が書いているかを把握する読み方(インデックス作成)と、きちんと読む読み方を区別して読んでます。きちんと読む読み方だとあんまり速くはないですよ。そもそもきちんと読む必要がある本なんて、1%くらいでは?? #読書… https://t.co/Hky0WIFl3A"
*5:QB被害者対策弁護団団員ronnor on Twitter: "ちなみに、「法務の私が”即レス”をする前に裏でチェックしている3つのこと 」みたいなブログエントリ(noteではない)の需要があれば、ちょちょっと書いてみたいと思います。 #エアリプ #ブログ"
*6:各社の環境毎にシェアポイントとか色々あると理解してます。某弊社が何を使っているかは【禁則事項】です!
*7:5年後だと「法務チャットボット」がスタンダードになる可能性があるので、あくまでも「2021年の実務」とご理解ください。
5年間の辛口法律書レビューを振り返る〜その13(最終回)
5年間の辛口法律書レビューを振り返る〜その13(最終回)
13日連続更新のBLJ復活切望シリーズです。今回は最終回として2021年度の各月レビューをまとめたいと思います。
2021年1月号122頁は、 #legalAC 連動企画を実施し、改正民法特集でした。
潮見 佳男「新債権総論1(法律学の森)」
潮見 佳男「新債権総論2 (法律学の森)」
潮見 佳男「基本講義 債権各論〈1〉契約法・事務管理・不当利得 (ライブラリ法学基本講義)」
中田 裕康「契約法」
潮見 佳男他「詳解解説民法」
筒井 健夫・村松 秀樹「一問一答 民法(債権関係)改正 (一問一答シリーズ)」
中田 裕康「 債権総論第4版」
森田修「債権法改正の文脈」
道垣内 弘人・中井 康之「債権法改正と実務上の課題」
松岡久和他「改正債権法コンメンタール」
山本豊「新注釈民法(14)」
2021年2月号122頁
松田俊治「ライセンス契約法」
ライセンス契約法は、まさにBLJ連載が発祥なので「いい終わり方」ではあるが、「これで終われるもんか」という思いが強い。是非復活していただきたい!!