- 作者: 升田純
- 出版社/メーカー: 民事法研究会
- 発売日: 2009/09
- メディア: 単行本
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法務部員の方は、震災以降、ビジネスサイドから、震災に関する相談を受けることも多いだろう。
これらの問題は、もちろん外部弁護士に相談することが有益であるが、基本的な問題なら、法務部レベルで迅速にアドバイスしておきたいし、弁護士に依頼するにせよ少なくとも問題点の切り分け位はやっておきたい。
その意味で、ゴールデンウイークに震災法務本を読んで置くのはよい機会と思われる。
ここで、震災法務本は続々発刊されており、現在緊急出版されたものよりも、良いものが出る可能性が高い。しかし、一応、まとまった本の読める時間を取れるGW向けということで、既刊のみを扱った。
ちなみに、Amazon売り切れ本が多い。リアル書店、例えば、東京なら弁護士会館ブックセンター等に行って探して見てはいかがだろうか*1。
2.「風評損害・経済的損害の法理と実務 」
現代的話題の本を(主に民事法研究会から)量産されることで有名な升田純先生の本である。
震災直後と異なり、法務に持ちかけられる相談も、取引上の影響等が増えているのではないだろうか。「風評被害」っぽい話が出てくれば、本書は参考になる。
本書は2009年9月に書かれた本である。そこで、本書にまとまっている判例のうち、主にJCO臨海事故の判例が参考になるだろう。
納豆商品の風評被害を肯定した2つの東京地判*2や、事故との因果関係の立証の困難性をうかがわせる水戸地判平成20年2月27日*3等が挙げられている。
特に興味深いのは、敦賀湾の原子力事故による、金沢の魚への風評被害が問題となった名古屋高金沢支判平成1年5月17日*4であり、事故によって敦賀湾の海藻等に微量の放射性物質は検出されたが、魚に問題はない事案で、敦賀湾から相当程度離れた金沢の魚について「消費者が、敦賀湾から遠く離れ、放射能汚染が全く考えられない金沢産の魚まで敬遠し、更にはもっと遠隔地の物も食べたくないということとなると、かかる心理状態は、一般に是認できるものではなく、事故を契機とする心情的判断の結果であり、事故の直接の結果とは認めがたい」として、相当因果関係を否定した。
本書も「議論を呼ぶ」としており、必ずしも肯定的評価をしているものではないが、高裁の判断ということで、風評被害の責任範囲を画する基準を検討する上で良きにつけ悪しきにつけ参照されるだろう。
このような風評被害に関する裁判例をコンパクトに知ることのできる本書は、ゴールデンウイークに読むにはもってこいではないか。
3.震災の法律相談Q&A
- 作者: 淀屋橋山上合同
- 出版社/メーカー: 民事法研究会
- 発売日: 2011/04
- メディア: 単行本
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震災法務の基礎が書いているQ&A集である。
こういうQ&A集としては、ネット上の記事や、古い本はいろいろあり、これらも有益である。また、今後も続々刊行予定と聞く。
ただ、淀屋橋・山上合同事務所が緊急出版された本書は、今次の震災を念頭に置いているのにもう出版されたというのが長所である*5。阪神大震災で作成したパンフをアップデートされたということで、質的にも一定のものを保ちながら、もう出版が可能となっている。
内容は、広く浅く である。
特定非常災害特別措置法、不動産、取引、不法行為、会社法、労働法等の様々な分野のQ&Aが提供される。
反面浅いは浅いので、具体的問題に対応してない場合もあろうが、本書の基本的な考え方さえ分かれば、法務的な切り分けも容易になるだろう。
4.「大震災と株主総会の実務 」
- 作者: 中村直人,山田和彦
- 出版社/メーカー: 商事法務
- 発売日: 2011/04
- メディア: 単行本
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既に
緊急出版「大震災と株主総会の実務 」を読む〜実務の方向性を決定づける一冊 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
で紹介した良書である。
なお、類書として、
- 作者: 松山遙,水野信次,野宮拓,西本強
- 出版社/メーカー: 商事法務
- 発売日: 2011/05
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同書は、想定問答集が詳しいところに特徴があるので、総会担当者であれば、両方読んでも良いだろう。
まとめ
ゴールデンウイーク、アニメや積んでいた漫画・ラノベを見るのはとっても重要なことである。私も予約しているまどマギBDをとても楽しみにしている。
しかし、まとまった時間のとれる貴重な機会であるので、三冊くらい震災法務に関する本を読んでもよいのではないだろうか。本エントリが、皆様の本の選択の一助となれば幸いである。