アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

環境ガール10 大波乱の夏合宿その1 平成22年第2問設問1

18歳からはじめる環境法 (From18)

18歳からはじめる環境法 (From18)

注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。

1.波乱の幕開け? ゼミ合宿
「夏休みは合宿に行きましょう!」ほむら先生の提案で、環境法ゼミで泊まりがけの合宿をすることになった。


信玄公旗掛松事件*1の現場を見に行きましょう!とのほむら先生の提案により、場所は山梨に決まった。


「今は駅前に碑が立っているだけではないですか?」というかなめさんの質問や、「あの松って、そもそも武田信玄の時代にはまだ生えてなかったんだよな*2」という僕のツッコミはあえなく無視され、僕たちは、新宿駅*3に集合することになった。


「せ〜んぱ〜い〜!」大声で手を振っているのは、さくらちゃん。あれれ?


「さくらさん、今日は私たち環境法ゼミのゼミ合宿ですよ。」いつになく刺々しいかなめさん。


「環境法ゼミだと人数が少ないから、学部の環境法の受講者*4の参加を募ったところ、さくらさんが手を挙げたのよ。みんな仲良く環境法の勉強をしましょう!」ほむら先生が微笑む。


「わ、私は別にいいですけど…」


「ふつつかものですが、どうぞよろしくお願いします。」ペコリと頭を下げるさくらちゃん。


こうして、僕たち4人の列車の旅は始まった。


2.列車内での過去問検討
「それじゃあ、今日はウバ茶を用意したわ。少し渋みがあるけど、魔法瓶のお湯だから、タンニンが減って飲みやすいかもしれないわね。」といって魔法瓶を取り出すほむら先生。


「サンドイッチを作って来ました。あ、ありがたく食べなさいっ!」最近は、ほむら先生の前でも「地」が出てしまっているかなめさん。でも、紅茶と一緒の昼食には、ピッタリだ。


「カットフルーツを用意しました。全部ハート形にカットしたんですよ。」と、色とりどりのフルーツをとりだすさくらちゃん。


「今日は、平成22年第2問について検討しましょう。」準備ができたところで、ほむら先生が、切り出す。

A市に居住しているB(45歳)は,数年前にぜん息を発症し,その後症状が悪化してきている。 Bの居宅から10メートル離れたところにはC鉄鋼会社(以下「C社」という。)の工場があり,このC社の操業に伴うばいじん,窒素酸化物(政令により,大気汚染防止法第2条第1項第3号の 「ばい煙」に指定されている。)等の排出が認められる。Bの居宅及びC社の工場は,同法に基づく 窒素酸化物に係る総量規制の「指定地域」内にあり,C社の工場は「特定工場等」に当たる(同法第5条の2第1項)。 また,Bの居宅から30メートル離れたところには,高架式で設置されているD高速道路株式会社(以下「D社」という。)の高速道路があり,この高速道路を走行する自動車から窒素酸化物,粒子状物質(共に,政令により,同法第2条第14項の「自動車排出ガス」に指定されている。)が排出されている。Bの居宅を含む地域では,現在も二酸化窒素,浮遊粒子状物質は,環境基準値を超えており,この地域には,B以外にも,多くの呼吸器系疾患に罹患した人々がいる。
〔設問1〕
Bは,自分がぜん息にかかったのは,居宅周辺の工場,道路からの大気汚染物質の排出が原因であると考え,C社及びD社を被告として損害賠償を求めて訴訟を提起した。この場合における 法律上の問題点について論ぜよ。なお,問題文中に記載した以外の政令については,考慮する必要はない。


3.請求原因は?
「この事案は、先輩と一緒に原告になった事案に似ていますね。その頃私は小さくて、裁判のことは良くわからなかったけど、少しずつ分かってきた気がします。」さくらちゃんが、力強く語る。


「まずは、請求原因について考えてみようか。基本的な考え方は、民法と、環境法の両方を考えるってことかな。」一瞬かなめさんの目線が僕に飛んで来る。


民法だと、不法行為、環境法だと大気汚染防止法に、確か規定がありました。」


大気汚染防止法25条1項だね。無過失責任を負わせているところがポイントだね*5。」

大気汚染防止法25条1項 工場又は事業場における事業活動に伴う健康被害物質(ばい煙、特定物質又は粉じんで、生活環境のみに係る被害を生ずるおそれがある物質として政令で定めるもの以外のものをいう。以下この章において同じ。)の大気中への排出(飛散を含む。以下この章において同じ。)により、人の生命又は身体を害したときは、当該排出に係る事業者は、これによつて生じた損害を賠償する責めに任ずる。


「C社については、民法709条が適用されるのに対し、D社については、717条の工作物責任が問題となります。また、大気汚染防止法25条1項が適用されるのは、『工場又は事業場』といういわゆる固定発生源(ポイント・ソース)であって、移動発生源(ノン・ポイント・ソース)には適用されませんから、C社にのみ適用があり、D社については適用がありません*6。」かなめさんが補足する。


「まあ、結局Cについては大気汚染防止法25条1項で無過失、Dについては工作物責任で無過失ということで、加害者の過失は問題とならない*7けれど、実務的には、事業場の操業継続についての過失についても検討しているようね*8。」


4.共同不法行為
「そうすると、C社とD社に対してそれぞれの請求原因を立てて共同被告としていく訳だけれど、このまま別々に考えていいのかな?」僕の質問にはっと気づいた顔をするさくらちゃん。


「これは、民法の問題ですね。CとDを個別に考えれば、Cの行為とBの被害の因果関係、Dの行為(瑕疵)とBの被害の因果関係を考えないといけなくなってしまいます。今回のBの喘息の原因は、いわゆる都市型複合汚染によるもので、Cの排出したばい煙と、Dの道路の自動車排出ガスが複合して生じていると思われますので、これを『個別に因果関係を立証せよ』といわれたら大変です。だから、共同不法行為民法719条)を主張すればいいんですね*9!」

719条1項前段 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。


「共同不法行為の成立のためには、少なくとも外観的に見て共同性がある(客観的共同)*10ことが前提となり、その上で、強い関連共同性がある場合(719条1項前段)と弱い関連共同性しかない場合(719条1項後段の類推適用)に分けて検討されています。今回の問題は、弱い関連共同性であり*11、相互の行為が社会通念上1個の行為と客観的に観念できれば、これに該当するところ、本件では、両社が複合して全体として都市型複合大気汚染を発生させているとしてこの程度の関係を認めることはできると解されます*12。現在の下級審判例の枠組みでは、弱い関連共同性があれば、個々の行為と結果発生の因果関係が推定されるので、後は複合汚染(共同行為)により喘息(被害)が発生したことを立証すれば、CやDの行為との個別の因果関係は推定され、CDは、これに対し反証するという形になります*13。」かなめさんが一気に整理する。


「私から、細かい問題を指摘すれば、そもそも不法行為といっても、道路管理者のDが共同『行為』者(719条1項後段)という点が挙げられるわ。この点は瑕疵が損害惹起の要素を含んでいるから少なくとも719条1項後段の類推適用ができると解されるわね*14。」


5.違法性
「後は、違法性の問題かな。社会活動に従ってばいじんや排気ガスは排出されるもので、一切排出していけないという訳ではないよね。」


「あ、受忍限度が問題となります。今回は、環境基準を超過しているところ、環境基準の意義については、単なる政策目標(環境基本法16条1項参照)で、受忍限度論において、受忍限度を超えていると判断するための重要な間接事実に留まるという見方が少従来の行政側の立場でしたが、少なくとも騒音について、最高裁は、国道43号線事件で騒音の環境基準を損害賠償の受忍限度として用いた原判決を維持した*15ので、その『射程』によっては、今回も環境基準を超えている以上、受忍限度を超えていると言えます。」


「あら、さくらさんは、一度勉強したところはきちんと理解しているのね。最後の主要な問題は、因果関係ね。」


6.因果関係
「因果関係については、(1)原因物質・原因行為の発生、(2)被害者への到達、(3)被害の派生、発症、増悪、(4)以上に関する因果関係が必要になります。」かなめさんが一言でまとめる。

「原告の立証責任を軽減する議論を裁判所が認めていると聞きました*16。例えば、原告が相当程度の立証をすれば、被告が反証するという考えが有力です。」さくらちゃんが議論を進める。


「その相当程度の立証のやり方はいろいろあるけれど、この地域には,B以外にも,多くの呼吸器系疾患に罹患した人々がいるそうだから、こういう多数の人との間で、(1)因子(大気汚染)が発病の一定期間前に作用する、(2)当該因子が作用する程度が著しいほど当該疾患(喘息等)の罹患率が上昇する、(3)当該因子が除去されれば当該疾病の罹患率が低下し、当該因子を持たない集団は当該疾病の罹患率がきわめて低い、(4)当該因子が原因として作用するメカニズムが生物学的に無理なく説明できることという4点を示すことで、疫学的因果関係を用いて因果関係を推認させることが考えられるね*17。」

「ただ、喘息の原因は、大気汚染だけではありません。そうすると、C社やD社の立場からは、『一般にこのエリアに大気汚染を原因とした喘息の人が多くいるとしても、この原告であるBの疾患は、ダニアレルギー等別の原因による喘息かもしれないじゃないか』という反論が考えられます。このような、その疾病の原因となる特定の汚染物質が証明されていない、非特異性疾患の事案については、疫学的な見地から集団的な因果関係があるというだけでそこからBという個人についての個別的因果関係を認めることはできず、例えば、汚染物質に暴露した者の集団の罹患率が、そうでない者の罹患率を比較して、汚染物質に暴露した者の集団の罹患率相対的危険度、オッズ比)が4〜5倍ないといけないという見解もあります*18。」

「この、非特異性疾患の点については、公害健康被害補償法との関係が指摘できるわね。本件に関する限りで説明すると、第一種地域、要するに、硫黄酸化物による慢性的気管支炎や気管支ぜんそく等の指定疾患が多発している地域では、一定期間の居住と指定疾患の罹患だけで被害者として認定され、医療費等の補償給付を受ける事ができるというものよ。この給付財源は、ばい煙発生施設の設置者と政府が拠出する。公害健康被害補償法については、特異性疾患、つまり、その疾病の原因となる特定の汚染物質が証明されている疾病についての第二種地域の話もあるけれど、第一種地域は、まさに今回のような非特性疾患患者救済のための非常に大胆な制度といえるわ。でも、平成元年にすべての指定が解除されてしまったのよ。その理由は、硫黄酸化物が減ったということなんだけど、でも、窒素酸化物や粒子状物質に起因する被害は増加しているし、法律自体は『著しい大気の汚染』(2条1項)を問題としているだけで、硫黄酸化物に限る必要はないのだから、窒素酸化物や粒子状物質に着目した地域指定をすべきよね*19本件と類似した事案(東京大気汚染訴訟・東京地判平成14年10月29日判時1885号23頁)の真の目的がこの第一種地域指定の復活にあったことは著名よ*20。」


「環境法は、政策論が重要といわれているけど、環境訴訟は紛争解決に留まらない、立法や行政を巻き込んだ政策志向型訴訟が多いよ。東京大気汚染訴訟では、東京高裁で和解が成立して、救済制度創設等が実現した。和解協議利害関係者の将来を見通した紛争解決の枠組み設定の場所として使われ、司法を通じたより有効な救済につながっていると評価されているね*21。」


こんな話をしているうちに、僕たちは甲府駅に到着し、各停に乗り換えて日野春駅で信玄公旗掛松事件の石碑を見学した。この時は、あの後、あんなことになるとは、だれも想像できていなかったんだ。

まとめ
 ということで、後編にご期待下さい!

*1:大判大正8年3月3日民録25輯356頁

*2:窪田充見「不法行為法―民法を学ぶ」61頁参照

*3:そういえば、●●駅発のあずさは朝が早すぎて、電車で昼食を食べながら旅行に行く分には不便ですよね。

*4:行政法講中の1年生が環境法とっていいのかといったツッコミはなしということで。

*5:なお、「結果回避可能性」について検討した名古屋南部大気汚染公害事件名古屋地判平成12年11月27日判タ1066号104頁があることから、その評価について議論があることに注意。

*6:北村404頁参照

*7:北村404頁参照

*8:大気汚染防止法25条1項の法文からすれば、継続操業についての過失は議論する必要がないと思われる。しかし、まったく触れない判決はないようにみえる」とする北村404頁参照

*9:北村215頁参照

*10:最判昭和43年4月23日判タ222号102頁参照

*11:強い関連共同性というのは、予見可能性等の主観要素に加え、製品材料の受け渡しや資本結合等の客観要素も要求されるので、今回のC社とD社の関係では基本的には認められない。

*12:北村217頁及びBasic393頁参照

*13:Basic390頁参照

*14:Basic393頁

*15:詳しくは第4話参照

*16:第6話参照

*17:北村213頁参照

*18:北村214頁参照

*19:以上につき、北村268〜269頁

*20:Basic19頁

*21:実務環境法講義77頁