アホヲタ元法学部生の日常

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「ハヤテのごとく!」で読み解く司法試験

ハヤテのごとく! 01 [DVD]

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 来週末は、旧司法試験論文試験が挙行される。司法試験論文試験はどう解くのか、司法試験論文答案作成の基本を「ハヤテのごとく!」の例で読み解いてみよう

(1)Aは、自己の執事のBが、Cから親のDEが借りた借金1億5680万4000円を引き受けさせられ、借金取りのヤクザに追われているのを知り、その借金を返済してやりたいと考えた。(2)Bが自分で解決することを望んでいる場合、(3)AがBの上記債務を消滅させてやるためには,いかなる法律的方法があるか。(4)AC間に新たな合意を必要としない場合と必要とする場合とに分けて論ぜよ(旧司法試験民法平成14年第2問改題)

1.問題文の読み方
 司法試験でもなんでも、試験の基本は問題文をよく読むこと
である。
 まず、(1)であるが、ここで、あえて16歳を外しているということからは、未成年取消*1は考えなくてよいということなのだろう。また、博打の借金であるとも書かれていないということからは、公序良俗違反(90条)も考えなくてよいということなのだろう。
 よく、問題文に書かれていないが、こういう場合はどうなるだろう、こういう場合はどうなるだろうというのが頭に浮かんできて、書くかどうか悩むことがある。その場合、書かないか、書くにしても一言触れればいいだけの場合が多い*2。全部を書こうとして、時間内にページが埋まらず途中答案になったらもともこもないのである。
 次に(2)であるが、要するに、Bの同意なしにAが債務を消滅させる(3)方法を考えろということである。そこで、Bの同意が必要な方法は基本的には取れないことになる。
 更に、(3)で重要なのは「法律的」方法というところであり、「マスク・ザ・マネーに頼んでヤクザをボコってもらう」といった事実上の方法ではだめだという指示である。
 最後に(4)であるが、これは、書き方についての示唆である。答案構成として「第1 AC間に新たな合意を必要としない場合」、「第2 AC間に新たな合意を必要とする場合」として、それぞれ「1,2,3」と方法を挙げていけばよい。基本的に採点官は大量の答案を採点していてイラついていると思えばよい。そうすると少しでも読みやすい答案・分かりやすい答案が評価される。「第1→1→(1)→ア→(ア)」というように、番号を振っていく(ナンバリング)ことで、理解しやすい答案にする。ススっと読めると、その結果ボロを見落として○をつけてしまうことだってありえるのである。逆に、読みにくい答案だと、それでも一応読んではくれるが、内容を理解するためになんども丁寧に読むので、その過程でアラ・ボロが見えてしまうのである。


2.借主との間に新たな合意が不要な場合
 さて、この場合、Bを助けるには、Aはどうすればいいのだろうか。(3)法律的方法を探すには、民法の条文を探せばよい。特に、(3)債務を消滅させる方法が問題なのだから、「民法第3編・第1章・第5節 債務の消滅」が中心になるだろう。
 まず、三者弁済(474条)という方法があるだろう。これは、Aが一方的にCに債務を払うという方法である。コミック第1巻p112*3の方法は、まさにこの第三者弁済である。
 民法474条1項には「債務の弁済は、第三者もすることができる。」とあり、債権者(C)でも債務者(B)でもないAが債務を弁済できるよとしている*4
 しかし、474条2項は「利害関係を有しない第三者(A)は、債務者(B)の意思に反して弁済をすることができない。」としている。確かに、AはBの雇い主にはなっているが、ここで問題となっている「利害関係」というのは例えば、「この債務のために土地を担保として提供している人(物上保証人)」についての「債務が弁済されないと、土地が売り払われてしまう」というような深い関係をいうのであり、雇い主程度では「利害関係」はないとされる。すると、問題は、Aが弁済することがBの「意思に反」するかである。
 こういう問題を考える時には、立法趣旨に戻るのが一番簡単である。趣旨とは要するになんで、こんな条文ができたのかという理由である。474条2項というのができたのは、1つ目は、弁済すると、求償できるので、例えば、ヤクザさんとかが勝手に弁済してしまい、「払ってやったから、俺に払え」と苛烈な取立てをされるかもしれないという、第三者の介入防止である。2つ目は、第三者(A)の恩義を受けることを潔しとしないような債務者の意思の尊重である。
 とはいえ、三者弁済ができないということは、債権が消滅しないということであり、本問のようなヤクザさんが債権者の場合はともかくとして、普通の人が金を貸している場合には、債権者が困る。介入がいやだとか、恩義がいやだという債務者(B)の利益よりも、普通は債権者(C)の支払ってほしいという利益を尊重すべきだろう。
 そこで、「債務者の意思に反する場合」は単に「自分で解決したいなあ」とBが思っている場合ではなく、客観的観点から、弁済により債務者が第三者の苛烈な求償を受けるおそれがある場合のように「第三者弁済を認めることが著しく不相当な場合」と、限定的に理解することがよいだろう。
 このように限定的に考えれば、Aの弁済により、BがAに対して1億5000万の債務を負い、Aの家で人語を話せるトラと対決したり、最強ロボットと対決するという必要が出てくることを考えても、「大丈夫! 肺も肝臓も心臓も2つあるから!*5」と言って取れる臓器を取って外国に売ろうとするCの取立てと比べれば圧倒的にBにとって利益であり、「第三者弁済を認めることが著しく不相当な場合」には当らないと解するべきだろう。
 そこで、Aは474条の第三者弁済により、Bの債務を消滅させられる。


3.AとCとの間に新たな合意が必要な場合
 上で見た「民法第3編・第1章・第5節 債務の消滅」を探すと、更改がある。514条は、「債務者の交替による更改は、債権者(C)と更改後に債務者(A)となる者との契約によってすることができる。ただし、更改前の債務者(B)の意思に反するときは、この限りでない。」と規定している。
 更改というのは、前の債務全然別の債務を作ることで、その代わり前の債務を消す*6ことである。
 そして、514条本文*7により、「Cが債権者Aが債務者」という新たな債務を成立させることで、「Cが債権者、Bが債務者」というもとの債務を消滅させることができる。そこで、Bの債務を消せる。
 とはいえ、但し書き*8によると、「債務者(B)の意思に反する」ときはだめだとなっているので、この「債務者の意思に反する」の意味も考えなければいけない。
 この点は、上の474条の議論と同様に考えられるだろう。本条の趣旨も474条と同旨であり、そうであれば、債権者の弁済を受ける(ないしもっと資産ある者に債務者になてもらうこと)利益を害してでも債務者の意思を尊重すべきかという474条の議論は、ここでもあてはまる。そこで、なお、Bの債務を消せるだろう。
 この前後を探すと、保証(446条)がある。保証は債務者の意思に反してでもできる(462条2項*9)。そこで、AはCとの間で、Bの債務を保証し、自己の債務の弁済として、1億5000万円を払い、BのCに対する債務を消滅させることができる。この点が、「債務者(B)の意思」が問題となった第三者弁済等と違って保証が優れているところである。
 少し視点をずらすと、債権譲渡(466条)という手もある。債権というのは原則自由に譲り渡すことができるのであり、AはCから債権を買い取ってしまえば、Bの意思とは無関係にCを債権者でなくすることができる。ただし、債務者(B)に対し自分は今日から債権者だ!という(対抗する)ためには、CがBに「これからはAが債権者だ」と通知をする必要がある(467条1項)。
 さらに、条文にはないが、債務引受といって、自分が債務を負いますといって、引き受けることもできる。Bの債務を消して、Aだけが債務を負う*10のであれば、更改と同様に考えればいいし、Bの債務が残って、「AもBも債務を負う」という形になる*11のであれば、保証と同様に考えればいい。いずれにせよ、Bの債務を消滅させることができる。


4.参考答案

第1 AC間の新たな合意が不要な場合
1 第三者弁済(474条)によってBの債務を消滅させる方法が考えられる。
2 ここで、Aは単なる雇主に過ぎず、「利害関係者」(474条2項)ではないため、債務者Bの意思に反して弁済はできないところ、「Bが自分で解決することを望んでいる」ことから、第三者弁済はできないのではないか、問題となる。
3 思うに、474条2項の趣旨は、第三者の介入ないし恩義を望まない債務者の利益を尊重するものである。しかし、債権の満足を望む債権者の利益よりも保護の要請は高くない。そこで、「意思に反する」場合を限定的に解するべきであり、弁済により債務者が第三者の苛烈な求償を受けるおそれがある場合のように「第三者弁済を認めることが著しく不相当な場合」と、限定的に理解するべきである。
 このように限定的に考えれば、善意からBの債務をなんとかしてやろうとしているAが弁済しても、苛烈な求償は客観的にありえないといえ、「第三者弁済を認めることが著しく不相当な場合」には当らない。
4 よって、Aは、第三者弁済(474条)によってBの債務を消滅させることができる。
第2 AC間の新たな合意が必要な場合
1 更改
 債権者Cと新債務者Aとの間の更改契約を結び、債務者をBからCに交替することも考えられる(514条本文)。
 この場合は,旧債務者Bの意思に反しないことが必要であるが、同条の趣旨は474条と共通であるから同様に解して、更改を有効とできると解する。
2 保証
 また、AがCとの間でBの債務を保証し、自己の債務の弁済として、債務を弁済することが考えられる(446条)。
 この方法により、第三者弁済、更改における問題点が解消できる上、保証は,債務者の意思に反してでもなすことができ、ただ求償の範囲が制限されるだけであることから(462条2項)、とくに求償を期待しているとはいえない本問のAにとって有用な方法である。
3 債権譲渡
 更に、Aが、Cからこの債権についての債権譲渡を受けることが考えられる(466条)。
 ACで債権譲渡の合意ができれば、CからBに譲渡の通知さえしてもらう(467条1項)だけでCが債権者ではなくなる。なお、この債権自体を消滅させるには、Aが免除(519条)をすればよいが、これは単独行為であり、Bの意思にかかわらずできる。
4 債務引受
 Aは、Cとの間で合意をなし、債務引受をすることができる。免責的債務引受は、更改と同様に考えられるし、併存的債務引受は保証と同様に考えられ、いずれにせよ、Bの債務を消滅させることができる。
以上

まとめ
 「ハヤテのごとく!」は、漫画自体面白いだけではなく、労働法民法の重要問題について考えさせてくれる、法学徒必読の漫画である。
 平成14年旧司法試験民法第2問は、「Aは,20歳の息子Bが資産もないのに無職でいることに日ごろから小言を言っていたところ,BがCから500万円の借金をしていることを知り,その借金を返済してやりたいと考えた。しかし,Bは,『親の世話になりたくない。』と言って,これを拒否している。AがBの上記債務を消滅させてやるためには,いかなる法律的方法があるか。AC間に新たな合意を必要としない場合と必要とする場合とに分けて論ぜよ。」であった。上記のように考えれば、比較的シンプルかつ簡単に解けるのではないだろうか。今週末に論文試験を受験される方の健闘を祈りたい。

関連エントリ:ハヤテのごとく! と労働法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
2004年東京大学ロースクール入試問題(民法)解説
   2005年東京大学ロースクール入試問題(刑事法)解説

*1:民法5条2項

*2:例えば、二重譲渡で登記をそなえたものの背信性を基礎付けるような事情が全くなく、他の論点がたくさんある場合に、背信的悪意者排除論を長々書くというのはよくない例だろう。

*3:「してやるよ...」「全額返済」

*4:なお、1項は「債権者と債務者との契約で、第三者の弁済を許さない旨の特約をした場合」の規定(我妻栄等共著「我妻有泉コンメンタール民法総則物権債権」p849より)であるから、このような特約が読み取れない本問では検討しなくていいだろう

*5:p106

*6:我妻前掲書p910によれば「更改は、同一性を有しない、新たな債務を成立させることによって、旧債務を消滅させる契約である。」とされる

*7:債務者の交替による更改は、債権者(C)と更改後に債務者(A)となる者との契約によってすることができる。

*8:ただし、更改前の債務者(B)の意思に反するときは、この限りでない。

*9:「主たる債務者の意思に反して保証をした者」とある。但し、その場合は求償範囲が制限される。この点は、Aが精神的求償を期待している可能性があるので、問題といえば問題

*10:免責的債務引受

*11:併存的債務引受