アホヲタ元法学部生の日常

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ブルドックソース事件の憲法的検討―企業法務ローヤーのための憲法

ブルドックソース事件の法的検討―買収防衛策に関する裁判経過と意義 (別冊商事法務 No. 311)

ブルドックソース事件の法的検討―買収防衛策に関する裁判経過と意義 (別冊商事法務 No. 311)

1.はじめにー融合問題は民事系に限られないはず
 本年も5月11日から15日の日程で新司法試験が実施された。受験された全ての皆様、本当にお疲れ様でした。
さて、新司法試験は既に6回実施されている
 会社法の出題テーマとしては、
・事業譲渡(第1回)
・第三者割当増資への対応(第2回)
・多額の借財、株式交換利益相反取引等(第3回)
・合併、議決権行使(第4回)
・発起人及び設立時取締役の責任、見せ金(第5回)
・自己株式の取得、会社法上の責任(第6回)
 等である。特徴的なのは、その時々ホットなテーマを出題してくるということである。
 今年の第6回のテーマである、IT系会社の架空売上計上による粉飾決算などというのは、
東証Project「東方粉飾劇」で学ぶ粉飾決算 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
 でもご紹介したとおり、近時実務的に極めて重要な問題となっている。*1要するに、受験者が実務的に重要な問題を分かっているかを問うということだろう。来年も、「この2〜3年熱いテーマ」が出題される可能性が高い。


2.憲法会社法の融合問題がない!
 ところで、このような「実務的」に重要な問題の理解を問うという観点を考えると、新司法試験には1点不満がある。それは、憲法会社法の融合問題がないことである。民事系の融合問題は過去に出題されていたが、公法・私法・刑事法を又にかけた融合問題が存在しない!


 憲法会社法が融合するはずがない! こうおっしゃる方の気持ちもわかるが、ちょっと待って欲しい。会社法の争いを一審・二審で繰り広げ、それでも解決しなければ、最高裁に持っていくということになる。しかし、最高裁で戦うには、*2おおよそ「判例違反等の法律上の重要な問題があること」か「憲法違反」を言わなければない。だからこそ、会社法務の実務家も「憲法違反」の主張を最高裁で行うことは十分にあるのである。
 ブルドックソース事件では、黒沼悦郎先生、弥永真生先生、落合誠一先生、川村正幸先生、大杉謙一先生、森本滋先生等の会社法関係の多くの有名な先生が意見書をお書きになられたが、長谷部恭男先生、戸松秀典先生、園部逸夫先生が、憲法の意見書を書いていることはあまり知られていない
 それは、スティール・パートナーズ側が、高裁の決定に対し、「特別抗告」を行ったところ、その要件は憲法違反だからである*3
 そう、実務的な観点からすれば、争っている企業法務の事件が最高裁まで行った際に、憲法問題でどう戦うのかというのが、重要な憲法使いどころである。逆に、刑事事件をやる人や、行政事件(租税を含む)をやる人でなければ、それ以外に憲法を使う機会がある企業法務実務家はあまりいないのではなかろうか。
 そう、企業法務実務に即した新司法試験を行うなら、憲法会社法の融合問題を出題すべきなのである。


 こうった以上、責任をもって、融合問題の例題と回答案をご提示しよう。ただし、会社法の部分は有名なブルドックソース事件そのものであるから、回答は割愛する。実際の出題では、買収防衛プロパーで出るならピコイ事件等、取締役発動型との比較で出る可能性の方が高いだろう。また、最近は買収防衛自体が論じられることも少ないので、「株主平等原則」や「スクイーズアウト」、「MBO*4」といった文脈で、ブルドックソース事件決定の話が顔を出すかもしれないだろう。


3.憲法会社法融合問題例

〔問題〕
Xは日本企業への投資を目的とする世界的な投資ファンドであり,日本企業にも3000〜4000億円規模の投資を行なっている。Yは東証二部上場のソース製造業で、資本金約10億円である。Xは、5月18日時点において,関連法人と併せ,Yの発行済株式総数の約10.25%を保有している。
Xの子会社Aは、5月18日,相手方のY発行済株式のすべてを取得することを目的として,Y株式の公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)を開始した。当初買付価格は1株1584円とされていたが,6月15日,買付期間は8月10日までに変更され,買付価格も1株1700円に引き上げられた。
Aは,6月1日,対質問回答報告書(以下「本件回答報告書」という。)を同財務局長に提出した。本件回答報告書には,〔1〕Xは日本において会社を経営したことはなく,現在その予定もないこと,〔2〕Xが現在のところYを自ら経営するつもりはないこと,〔3〕Yの企業価値を向上させることができる提案等を,どのようにして経営陣に提供できるかということについて想定しているものはないこと,〔4〕Xは相手方の支配権を取得した場合における事業計画や経営計画を現在のところ有していないこと、〔5〕Yの日常的な業務を自ら運営する意図を有していないため,Yの行う製造販売事業に係る質問について回答する必要はないことなどが記載され,投下資本の回収方針については具体的な記載がなかった。
 このため,Y取締役会は,6月7日,本件公開買付けは,Yの企業価値をき損し,Yの利益ひいては株主の共同の利益を害するものと判断し,本件公開買付けに反対することを決議した。また,Y取締役会は,同日,本件公開買付けに対する対応策として,〔1〕一定の新株予約権無償割当てに関する事項を株主総会の特別決議事項とすること等を内容とする定款変更議案(以下「本件定款変更議案」という。)及び〔2〕これが可決されることを条件として,新株予約権無償割当てを行うことを内容とする議案(以下「本件議案」という。)を,6月24日に開催予定の定時株主総会(以下「本件総会」という。)に付議することを決定した。
本件総会において,本件定款変更議案及び本件議案は,いずれも出席した株主の議決権の約88.7%,議決権総数の約83.4%の賛成により可決された。なお,本件総会において可決された新株予約権の無償割当て(以下,当該新株予約権を「本件新株予約権」といい,その無償割当てを「本件新株予約権無償割当て」という。)の概要は,次のとおりである。
ア 新株予約権無償割当ての方法により,基準日である7月10日の最終の株主名簿及び実質株主名簿に記載又は記録された株主に対し,その有する相手方株式1。株につき3個の割合で本件新株予約権を割り当てる
イ 本件新株予約権無償割当てが効力を生ずる日は,7月11日とする。
ウ 本件新株予約権1個の行使により相手方が交付する普通株式の数(割当株式数)は,1株とする。
エ 本件新株予約権の行使により相手方が普通株式を交付する場合における払込金額は,株式1株当たり1円とする。
オ 本件新株予約権の行使可能期間は,9月1日から同月30日までとする。
カ X及びAを含むXの関係者(以下,併せて「X関係者」という。)は,非適格者として本件新株予約権を行使することができない(以下「本件行使条件」という。)。
キ Yは,その取締役会が定める日(行使可能期間の初日より前の日)をもって,X関係者の有するものを除く本件新株予約権を取得し,その対価として,本件新株予約権1個につき当該取得日時点における割当株式数の普通株式を交付することができる。Yは,その取締役会が定める日(行使可能期間の初日より前の日)をもって,X関係者の有する本件新株予約権を取得し,その対価として,本件新株予約権1個につき396円を交付することができる(以下,これらの条項を「本件取得条項」という。)。なお,上記金額は,本件公開買付けにおける当初の買付価格の4分の1に相当するものである。


〔設問1―商法〕
あなたがX社から依頼を受けた弁護士である場合、どのような手続きを取り、どのような会社法上の主張を行うか。会社法上の問題ごとに、その主張内容を書きなさい。
〔設問2―商法〕
設問1における会社法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べなさい。


〔設問3―憲法
設問2において、抗告審においてXが濫用的買収者であるとして、Xの会社法上の主張が排斥されたとする。あなたがX社から依頼を受けた弁護士である場合、特別抗告審において、どのような憲法上の主張を行うか。憲法上の問題ごとに、その主張内容を書きなさい。
〔設問4―憲法
設問3における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べなさい。

4.解答例・解説
(1)設問3について

1.憲法上の問題足りえること
 まず、Yによる本件新株予約権無償割当てが、Xとの関係で憲法上の問題足りえるかという点が問題となるが、以下述べるように、2重の意味で、憲法上の問題足りえると考える。
 まず、1つは、いわゆる間接適用説の考えから、私法の一般法規たる株主平等原則(会社法109条1項)に、憲法規定を読み込むことが可能であると考える。
 また、後述するように、Yによる本件新株予約権無償割当てはXの権利を侵害しているところ、抗告審裁判所は、Yの主張を是認した。このような抗告審裁判所という国家機関の行為は、国家によるXの人権侵害に他ならない。
 よって、これら2つの意味で、憲法上の問題足りえる。


2.憲法14条違反
 抗告審は、Xを濫用的買収者として、会社法上不平等な取り扱いが可能とするが、これは、まさにXの信条を理由とする差別である。
 ここで、憲法14条1項後段列挙事由にあたる事項については、歴史的に、偏見の対象になりやすく、また、各自にとって動かしようもないものである(Xはアクティビスト・ファンドということで投資家の資金を預かっているのであり、この方針を転換する場合には、全資産を返却する必要がある。)。そして、これら憲法14条後段列挙事由に関して差別されてきた少数者は、長年にわたる社会的偏見により民主政の過程を通じてはその権利・利益を十分に保護・実現することは困難であるから、民主的政治過程から独立した立場にある裁判所が積極的に保障することが必要である。
 そこで「信条」という憲法14条1項後段列挙事由に基づく差別については、厳格審査、具体的には、規制目的がやむにやまれないものであって、かつ、規制手段が他の方法では当該規制目的を達成できない場合にのみ合憲と解すべきである。
 しかるに、Yによる本件新株予約権無償割当ては、株主共同の利益を守ることが目的とされているが、Xはもとより濫用的買収者ではないし、仮に濫用的買収者であっても、そのような曖昧な概念によって、株主共同の利益に対する危険が顕著に存在すると言うことはできない。その意味で、規制目的はやむにやまれないものとは言えない。
 さらに、規制手段についても、事前に規定された定款規定等によるものではなく、Xによる株式取得後に株主総会決議によって新たに買収防衛策として導入されたものである。すなわち、Xの予見可能性を著しく害するものであり、これによって、未だに株主共同の利益の侵害が現実化されていない、本件公開買付け継続中に、Xの持株割合を著しく(4分の1に)希釈化させることは到底正当化されないものである。少なくとも本件公開買付けの成否が決した後(8月10日)に本件新株予約権無償割当てをする等、他の手段もあったはずである。
 よって、本件新株予約権無償割当てを是認した抗告審裁判所の判断が憲法14条違反、ないし、本件新株予約権無償割当ては憲法14条を読み込むと会社法109条違反となる


3.憲法29条違反
 憲法29条は財産権を保障しているところ、財産権保障立法については、その目的毎に異なる違憲審査基準を適用すべきである。すなわち、警察目的の規制は、積極目的規制の規制よりも、より厳しい違憲審査基準を使うべきである。
 そもそも、民主的政治過程においては、多様な利益集団がそれぞれにとって有利な政策決定を獲得すべく抗争し、妥協する過程であるところ、政治過程においては、透明で公正なルールの下に競争・交渉が行われなければならない。正面から特定の利益集団の保護をうたって制定された規制(積極目的規制)の場合、これこそが交渉と妥協による利害調整の結果であるから、裁判所が立ち入った規制を行う必要はない。これに対し、普遍的で強い正当性を標榜する消極的警察目的の規制については、その規制目的が反対派の目を眩ます意図で濫用される危険を抑制する必要があるのである*5
 本件新株予約権無償割当ての目的は、株主共同の利益の毀損を防止するためとされていることから、これは、消極的・警察的目的と解される。よって、より厳しい違憲審査基準、具体的には、重要な目的があり、かつ、手段が合理的性及び必要性がある場合でなければならない。
 Yによる本件新株予約権無償割当ては、株主共同の利益を守ることが目的とされているが、Xはもとより濫用的買収者ではない。
 仮にこの点を措くとしても、手段はXの持株割合を著しく(4分の1に)希釈化させるというものであり、当該手段に合理性も必要性もない。
 よって、本件新株予約権無償割当てを是認した抗告審裁判所の判断が憲法14条違反、ないし、本件新株予約権無償割当ては憲法14条を読み込むと会社法109条違反となる

 ということで解説です。お気づきのとおり、苦しい苦しい。一審勝負、(一審で負けたら)二審で和解というのが基本的な実務の方針であり*6、通常の取引が憲法に違反するというのは、なかなか主張が難しいところです。
 ただ、控訴審で負けた代理人は、最高裁でなんとか逆転します!」と言わざるを得ない局面もあるでしょう。そういう場合に、もちろん、判例違反等の論点で頑張ることも手ですが、憲法違反で頑張る必要が出ることもあります。その場合のロジックをどうひねるかということです。
 一応、アンダーソン毛利の赤川先生以下の先生方の特別抗告理由書*7を参考にしながら、長谷部説を基調に書こうとしているのですが、これは、弱いですね…。何が弱いかといえば、実質的には、会社法に違反しているというのを憲法14条や憲法29条にひっかけて書いている感がアリアリなところです。
 逆に、一読して「あ、これは是正しないと憲法的にマズイ!」と思わせるような上告理由書、特別抗告理由書が書ける弁護士は、優秀な上告人代理人ということになります。
 内容面では、あまりコメントする程のことでもありませんが、前提論点のうちのどれを論じてどれを論じないか悩んだのですが、とりあえず「公vs私である憲法を私vs私の局面で主張できるの」が一番重要な論点かと思って、ここに集中して論じてみました。
 14条のところも、29条のところも、昔ながらの違憲審査基準論で書きました。理由は、このエントリを書く上で参考にしたのが、「ブルドックソース事件の法的検討」425頁以下の長谷部先生の鑑定意見だからというだけなのですが…。
いわゆる三段階審査については、
もし魔法少女契約を禁止する法律ができたら、ほむほむは? まどかは!〜まどマギと憲法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
2010年代司法試験の「憲法」の方向性を決定付ける一冊!〜「憲法解釈論の応用と展開」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
をご参照下さい。

(2)設問4について

1.憲法問題足りえるかについて
 Xの主張する2点を踏まえても、憲法問題足り得ないと考える。
 まず、いわゆる間接適用説を判示した三菱樹脂事件*8は、雇用関係を念頭に、私的支配関係における個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれの態様、程度が、社会的に許容し得る限度を超える時、私的自治に対する一般的制限規定に憲法条項の趣旨を読み込むことで適切な救済を図る旨を判示した。しかるに、仮に株主平等原則(会社法109条)が私的自治に対する一般的制限規定であるとしても、XがYによって私的に支配され、その基本滴な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれのある「個人」と言い得るか、そして、その侵害の態様・程度が社会的に許容し得る限度を超えるかが問題である。本件では、Xは、Yの資本金の300〜400倍もの巨額の資産を運用する国際的投資ファンドであり、Yによって私的に支配される関係にあるとは到底言いがたい。その意味で、間接適用の対象外にあると考える。
 また、Xの第二の主張は、いわゆる司法的執行の理論によるものと思われるが、これを認めたアメリカの判例*9は、白人土地所有者が黒人に土地を譲渡したことについて、第三者(白人土地所有者*10)の請求を受け、裁判所が当該譲渡の差し止めを認めたことが、人種差別による違憲の国家行為と判断されたものである。すなわち、売買をめぐって当事者間には合意があるにもかかわらず、裁判所があえて買主の土地所有を禁止し、裁判所が積極的に私的行為を実現した*11ものであって、裁判所が消極的に私的行為を支持したものではない。仮に司法的執行の理論を日本においても採用できるとしても、本件の抗告審の判断は、単にYの私的行為を消極的に是認したに留まるのだから、司法的執行の理論の射程外である。なお、裁判所が消極的に私的行為を支持した場合ですら裁判所の行為が違憲の国家行為であると解することも理論的には可能であるが、このように解すれば、公法と私法の区別は消滅するし、間接適用説をうたった三菱樹脂事件判決とも明確に矛盾することになってしまうのだから、このような極端な説を取ることもまたできない。


2.憲法14条について
 仮にXが憲法の間接適用を主張できるとしても、憲法14条に関するXの主張は到底是認できるものではない。
 まず、最高裁は、繰り返し憲法14条後段の列挙事由は例示列挙としており、憲法14条後段の列挙事由に該当するからといって、審査基準が厳格化するとは限らないと解することも可能である。もっとも、違憲審査基準を考慮する上で、民主政から離れた機関たる裁判所が積極的に憲法判断をしていいか/すべきかという点は重要な考慮要素であることから、偏見を受け、民主政の過程を通じてはその権利・利益を十分に保護・実現することは困難な憲法14条後段列挙事由により差別されてきた少数者について審査基準を厳格に解するというXの議論は正当と考える。
 しかし、「濫用的買収者」というのを信条とするXの解釈はとりえない。すなわち、巨大な資産を有する国際的ファンドXが長年に渡って社会の偏見により差別を受けてきた少数者とは言いがたい上、「信条」の概念を宗教を超え、より広く思想上・政治上の主義を含むと解するとしても、投資理念のような内心一般を含むとは理解できない。ここまで広範に「信条」を解してしまえば、憲法14条後段の列挙事由による差別に特に審査基準を厳格とすべき意味がなくなる
 よって、一般原則に立ち戻って、一般社会観念上合理的根拠に基づく区別であるかによって結論を得るべきである。そして、その判断は実質的には本件新株予約権無償割当てが会社法上許容されるかと同一の過程をたどるはずであり、これが会社法上適法と解されるのであれば、憲法上も問題を生ずる余地がないものと解する。


3.憲法29条
 Xのいう警察目的・積極目的二分論を是認するとしても、Xが本件新株予約権無償割当てを警察目的とする点は誤っていると考える。つまり、警察目的について積極目的よりも審査が厳格化される理由は、それが人民の自然の自由を制限するものだからである。すると、会社法という人為的な制度下の本件新株予約権無償割当てが人民の自然の自由を制限すると解することは不自然であり、警察目的と解することは妥当ではない。
 それでは、積極目的と解すべきか。この点、世の中のありとあらゆる規制を警察目的か積極目的かに二分すると、消去法的には積極目的となると思われるが、すべての規制がこの2つに分類されるものではなく、それ以外の目的による制約も考えられる。本件新株予約権無償割当ても、このような積極目的でも警察目的でもない規制ととらえるべきである。このように、経済規制に千差万別で多種多様な目的のものがあると捉えた場合、違憲審査にあたっては、それぞれの具体的な規制に即し、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される自由の性質、内容及び規制の程度を検討して比較考慮すべきことになる。
 ここで、最高裁判所の先例は、財産権を含む経済的自由を誓約する国家行為の違憲審査にあたっては、当該論点に関して判断のベースラインとなるべき法原則あるいは法制度が存するかを重要な判断のポイントとしている。例えば、森林法違憲判決は単独所有・共有物分割制度をベースラインとした上で、これを制限する森林法の規定の合理性/必要性を慎重に審査している*12
 本件における判断のベースラインとなるべき法原則は、株主平等原則であり、違憲審査をするとすれば、株主平等原則から乖離した目的と必要性、乖離の程度と内容を検討し、この合憲性を審査することが求められる。そしてその判断は実質的には本件新株予約権無償割当てが会社法上適法かと同一の判断過程を経るはずであり、本件新株予約権無償割当てが会社法上適法といえるのであれば、それが憲法29条の規定に照らして違憲とされる筋合いはないものと言わなければならない。

 論文試験の答案、特に新司法試験の答案だと、単に「実質的には原判決の法令の解釈の誤りを指摘するだけであり、法令違反でなければ憲法違反にならない」といっても物足りない答案とされ、具体的なあてはめまで要求されるのかもしれません。ただ、ここでは、設問が1〜4問パッケージになっており、第1問、第2問の会社法のところで書く内容が、そのまま「あてはめ」になると思ったので、省略させていただきました。
 憲法14条については、流石に「投資思想」を信条というのは辛いでしょうし、逆に、通常の「一般社会観念上合理的根拠に基づく区別であるか」なんかで判断すれば、株主平等原則の例外として許容されるかという会社法の問題とパラレルになりますね。
 憲法29条については、色々な解釈があるとは思いましたが、積極目的でも消極目的でもない規制であるとして、ベースライン論を使ってみた。なんとなく、「濫用的買収者による株主共同の利益に対する害悪」というと消極目的のような気もしますが、本当に消極目的なのかと詰めて考えると、伝統的な公法学でいうところの「公共の安全と秩序を維持するため、一般統治権に基づき人民に命令し強制しその自然の自由を制限する作用*13」とほぼ対応するのが消極目的規制と言われていることから、少なくとも普通の消極目的規制とは違うなぁと気づいていただければ、これだけで新司法試験の合格レベルに達しているのではないかと考える。後は、それを元に自分なりにどれだけ説得的に議論を展開できるかではないか*14
 なお、この、特別抗告理由書は、実質的には原判決の法令の解釈の誤りを指摘するだけというのを私が中途半端に要約して論証するよりもずっと鋭く説得的に説明されているのが、「ブルドックソース事件の法的検討」425頁以下の長谷部先生の鑑定意見ですので、お時間のある方はぜひご覧ください。

まとめ
 これまでの6回の司法試験の中で、憲法会社法が一緒に出題された機会はない。
 しかし、行政法をやらない在野の実務法曹になった場合に、いつ憲法を使うかを考えてみよう。
 刑事事件で上告や特別抗告をする場合か、民事事件で上告や特別抗告をする場合であろう。
 民事系の問題を融合させるだけではなく、会社法憲法を融合させることは、実務法曹の養成にも役立つのではないか。

*1:金融商品取引法上の問題を検討できないのは残念だが

*2:理由不備とかそういうのは普通ないので

*3:なお、同時に許可抗告を行っており、あの有名なブルドックソース事件決定といえば許可抗告審の決定である。こちらは憲法違反でなくとも良い。

*4:最近めっさ多いので、来年くらいに出題されるかもしれません。

*5:長谷部恭男「憲法」242頁以下

*6:まあ、これが当てはまらない訴訟類型もありますが

*7:ブルドックソース事件の法的検討」372頁以下

*8:最判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁

*9:Shelly vs. Kraemer

*10:なお、黒人に土地を譲渡した白人との間で「黒人には土地を売らないようにしような」という協定を結んでいた

*11:白人間の黒人に土地を売らないという違憲な取り決めを現実化させた

*12:最大判昭和62年4月22日民集41巻3号408頁

*13:藤田宙靖行政法I(総論)」102頁

*14:自分で読んで説得性が低いので、「ああ、憲法脳が錆び付いているなぁ」と実感した次第です。