アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

はてなで分かる(?)大学教授の誤り

 独占禁止法は、不公正な取引方法等を規制する。例えば、パソコンOS市場市場を事実上独占するマイクロソフト社とマッキントッシュ社が互いに競争しあえば、きっとOSは安くなるだろう。しかし、両者は、利益を得るために、「ウインドウズVistaの価格を10万円以上とする、次世代マックOSであるRhapsodyの価格を10万円以上とする」といった協定(カルテル)を結ぶかもしれない。これにより、両社は利益を得るだろう(事実上、消費者には、マックとウインドウズ以外に選択肢がないので、どちらかを10万円をかけて買わざるを得ない)が、これは消費者の利益を大幅に害する。そこで、独占禁止法はこれを禁止したのである。
 今回問題となるのはソニーが、プレイステーションのソフトを売る際に、小売業者に「値引き販売や中古品取り扱いや、この横流しをしてはならない」という拘束を課したことが、独占禁止法で禁止される不公正な取引方法(19条, 2条9号の規定する一般指定12項)に違反するとした審決*1である。この審決について、 白石忠志「SCE審決と独禁法上の不公正な取引方法」(判例タイムズ1004号p33*2)という評釈がある。今回は、この評釈の誤りをはてなアンケートで指摘したいと思う。

参考条文
独占禁止法2条9項 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。
4号 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。

一般指定12項 自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次の各号のいずれかに掲げる拘束の条件をつけて、当該商品を供給すること。
一  相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
二  相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。

 さて、白石教授は、「市場」を「競争(独占禁止法2条4項)」の行われる場だとする*3。こう考えれば、当然、何に関する「競争」が問題となっているのか(どの「市場」が問題となっているのか)ということは、「公正な競争を阻害するおそれ」を違反要件とする不公正な取引方法においても論理必然的に問題となるはずだ、ということになる。

ここで、白石論文は、本審決は「新品PSソフトの小売段階での競争(換言すれば、PSソフトの市場であり、任天堂セガのハードで動くゲームを含めた「ゲームソフト市場」ではない)」を念頭に置きながら論述を進めたとする。その根拠として、本審決が任天堂セガなどのハード用のソフトをPSハードで動かすことはできないために、PSハードをもつ多くの需要者にとって、PSソフトと、任天堂用のソフトやセガ用のソフトと、が同時に選択肢とならない」としていることを挙げる。要するに、審決が「PSハード所有者にとっては、どのソフトを選ぶかという選択肢は、プレイステーション用ソフトの間でしか存在しないから、ゲームソフト市場全体を考えずに、PSソフト市場の競争だけを考えた」という点を、白石は自説の根拠としているのである。

 要するに、白石教授は、「本審決ではプレイステーションのソフトの市場での公正な競争が問題となっている」とした上で、このような捉え方について、否定的ではない、むしろ肯定的な評価を下しているのだ。

 しかし、それでいいのか? 私は、本審決の一番おかしなところこそが、まさにこの点だと考える。「PSハード所有者にとっては、どのソフトを選ぶかという選択肢は、プレイステーション用ソフトの間でしか存在しない」なんていうのは、ちゃんちゃらおかしいのであり、PSハード所有者は、多くの場合他のハード(ドリキャス等)を持っているので、そのソフトもまた選択肢にあったのである。そこで、見るべきは「ゲームソフト市場全体」であり、「PSソフト市場」に限ることはおかしいのである。

 この点は、白石教授も認識している。白石教授は、経済法の授業中に、以下のようなことを言っている。

ある人から、PS所有者の中には、他のハードを持っている人もいると指摘された。そういう人が例外的に存在することは事実だが、多くの場合には、PSハード所有者はPSソフトのみが選択肢であり、PSソフトのどれを買うかについての競争だけが問題となっている。

 この言説の前提は「PSハード所有者のほとんどがPS以外のハードを持っていない*4」ということである。この前提を突き崩せば、つまりたったひとつのハードだけを同時に使用している人はむしろマイノリテイーであり、普通の人は、複数のハードを同時に使用し、例えば、ドリキャス用ソフトと、PS用ソフトで、どちらを買おうか迷うことは自然だということを証明さえできれば、白石教授の議論は、根拠を失う。

そこで、実際に「アンケートはてな」を利用して調べてみた。
これまで1台以上のゲーム機を所有したことがある方にお尋ねします。平均いくつのゲーム機を「同時に使用」していましたか?ーーーみなさんも、複数のゲーム機を同時に使用し、「どちらのゲーム機のどのソフトを買おうか?」と悩んだ経験があるのではないでしょうか。スーファミ、ゲームギア、ネオジオプレステ、セガサターン、3DOプレステ2、ゲームキューブ、XboxそしてPSP, DS等々同時に複数のゲーム機を所有し、それらを「実際に使っていた」経験をお持ちのことと思われます。そこで、質問ですが、みなさんは平均すると同時にいくつのゲーム機を所有し、それを使っていらっしゃいましたか? だいたいでよいので数を教えて下さい。ちなみに、「使う」ゲーム機の数のみをカウントしてください。例えば、「ファミコンを買ってしばらくしてから、スーファミを買ったので、ファミコンは使わなくなった」という場合は、「1」になります。「プレステとサターンを買ってどっちのゲームも遊んでいたが、プレステ2を買ってからは、両方とも遊ばなくなった」という場合には「1.5」となります。どうぞ、よろしくお願いします。

1以下 136
1.5前後 60
2 58
2.5前後 12
3以上 34
質問は、要するに「ゲーム機を同時に何台くらいつかっていたか」というものである。
白石教授の前提は、「ほとんどのユーザーが1以下であり、それ以上の人は少数派」であった。
その前提が崩れれば、白石教授の議論は成り立たなくなるはずである。

そして、このアンケート結果からは、白石教授の誤りは明らかである。
55%(300人中164人)のゲームユーザーは、複数のゲーム機を同時に所有し、どのゲーム機用のどのソフトを選ぶべきか迷っていたのである。
平均のゲーム機所有数も、1.6台である。

 このように、アンケートはてなにより白石教授の前提とする「一人のユーザーは1つのゲーム機しか持っていない」ということの誤謬が明らかになったのである。

まとめ
アンケートはてなで、人材や資金のない一般市民も手軽に「何がマジョリティーか」を知ることができるようになった*5
今後は、大学教授も、自らの立論の妥当性を補強するために、はてなアンケートを使わざるをえなくなるだろう。
この必要性を例証するのが、まさに、この白石教授の事例なのだ!

*1:裁判所ではないので、審決。公取委審決平成13.8.1判タ1072号267頁

*2:はまぞうになかったのでこの形式を使った。

*3:これまで、市場とは「一定の取引分野」といわれてきた。ところが、「一定の取引分野」という文言は、不公正な取引方法の規制については存在しない。そこで、「一定の取引分野」が「市場」だという解釈は、不公正な取引方法の規制には使えない。そこで、市場を「競争(独占禁止法2条4項)」の行われる場だとするのが白石説である。

*4:正確には「使っていない」ということ。古いハードが押し入れに眠っていても、そのハード用のソフトは、その人の購入の選択肢にはならない。

*5:このアンケートのために使ったポイントはたった320ポイント