アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

ひぐらしの鳴く頃にと刑法〜登校を妨害されても無罪!? 嘘だっ!?

ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 (上) (星海社文庫)

ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 (上) (星海社文庫)

1.レナに誘拐されそうなくらい可愛い「沙都子」の凶悪な「事件」
 雛見沢村唯一の小学校には、トラップが仕掛けられている。
  トラップを仕掛けるのは、レナがお持ち帰りを本気で考えるくらい可愛い下級生、北条沙都子である。
  トラップマスターの異名をとる沙都子の仕掛ける罠は、フェイントを多く交え、前原圭一の行く手を阻む。
  さて、圭一がトラップのせいで登校が困難となった場合、沙都子にはどういう犯罪が成立するのか?


2.業務妨害罪かな? かなっ?
 まず、真っ先に考えられるのは、業務妨害である*1

刑法第233条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

問題は、「偽計」にあたるか。
 偽計とは、人を騙し、誘惑し、あるいは人の誤解や不知を利用する行為である*2漁場の海底に海上からわかりにくいところに障害物を沈めておいて、魚網を破損する行為は偽計とされる*3
「 お、これは、業務妨害罪になりそうかな。」


こう思われる方もいらっしゃるが、即断はまだ早い。


3.軽犯罪法違反?

軽犯罪法第一条  左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
三十一  他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者

 軽犯罪法第1条第31号は「悪戯など」による業務妨害を罰する。この関係はどうなっているのかな?


 この点、軽犯罪法業務妨害罪の「補充規定」といわれる。つまり、業務妨害罪が3年以下の懲役なのに、軽犯罪法は拘留科料と刑が軽い。そう、業務妨害罪の網にかからない業務への妨害を拾うのが軽犯罪法」なのだ。


 だからこそ、「悪戯」の意味は、一時的な戯れで、それほど悪意のない、偽計に至らないものものをいうとされる*4
 具体例としては、講演者の前にコショウをかけてくしゃみをさせる程度といわれる*5
  この点の具体的判断は難しい。実際、判例でもほぼ同じ行為が業務妨害罪になったり軽犯罪法違反になる*6


 引き戸の上の(石が入っていない)黒板消しだけなら「悪戯など」の域だろう。
 しかし、引き戸の手をかける部分にガムテープと画鋲でわながしかけられ、それをクリアすると縄跳び、そしてつまづいた先には墨汁である*7。この危険性の高さからは、もはや悪戯とは言い難い。まさに、「この程度の簡単な罠だな」という誤解を利用してひどい目に合わせようとしており、「偽計」にあたる。


4.「業務」なのか?
 ところで、偽計がなされても、妨害されるのが「業務」でなければ、業務妨害罪は成立しない。
  ここで、業務とは、人の社会生活を維持する上で反復・継続して従事する仕事を意味する*8。つまり、人間生活の中でいろいろな「妨害」「阻害」行為があるが、その全てを規制するのではなく、社会生活上特に保護が必要な、長く続けることが想定されている仕事のみを業務妨害罪で厳重に保護したのである。逆にいえば、単純な私的行為であれば、これを妨害しても、業務妨害罪にはならない。
 例えば、学校が提供する授業であれば、これを妨害することは業務妨害になり得る。
 しかし、私的行為、例えば個人的に学習するだけであれば、これは業務でない*9ので、妨害しても業務妨害罪にはならない。


 ここで、本件は、授業は始まっていないことから、その段階の登校行為が業務なのかどうかが問題になる。
一つの考えとしては、授業の「準備行為」と見て業務に入れるという考えがありえる。しかし、反対に、授業が始まり前であれば未だ「個人的学習の段階で業務性はない」という考えもまたあり得るだろう。


5.圭一が証拠隠滅罪?
ここで、気をつけるべきは、圭一は、先生が来る前に証拠隠滅行為に加担したのである。

「ほら、先生来たよ。早く片付ける!沙都子、すずりあんたのでしょ!」
魅音の一声で一気に場の空気が戻った。
すずりもまずいが引き戸の画鋲はもっとまずい!俺は刺さらないように気をつけながら、ガムテープごと引き剥がす。仕掛けたのは沙都子でも、後片付けはみんなでだ。
先生が教室に入ってきたときには、つい今あった光景は綺麗に片付けられていた。
竜騎士07「ひぐらしのなく頃に第一話鬼隠し編(上)31頁


もし、沙都子の行為が業務妨害罪なら、圭一が、トラップの証拠を隠滅した行為につき証拠隠滅罪が成立する。

刑法第104条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。

 なかなか難しいところだが、少なくとも本件のように、授業自体が直接的にも間接的にも妨害されていない場合には、登校の段階はまだ個人の活動であって、「業務ではない」と考えるべきである。さもなくば、圭一も証拠隠滅罪として2年以下の懲役である。沙都子が無罪なら、圭一の行為もまた無罪となる。

まとめ
かぁいい 沙都子の巧妙な行為は、「偽計」なのか「悪戯」かという問題や、妨害したのが「業務」なのかという非常に難しい問題を含む。
これは、レナにお持ち帰りしてもらって、私的な領域だけで「妨害」をしてもらった方が、*10法律家の世界の安寧のためにもいいのかな、かなっ!?

*1:実は234条で威力業務妨害罪もある。 威力とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を用いることである(最判昭和28年1月30日刑集7巻1号127)。もちろん、威圧や威迫でも良いが、例えば、消防長の事務机の中に猫をいれるといった行為は「威力」とされた(最判平成4年11月27日刑集46巻8号623頁)。

*2:前田雅英「刑法各論」154頁

*3:大判決大正3年12月3日刑録20輯2322頁

*4:法務省刑事局軽犯罪法研究会「軽犯罪法101問186頁

*5:法務省刑事局軽犯罪法研究会「軽犯罪法101問186頁

*6:例えば演説会妨害につき、「土井」といいながら演壇に上がろうとして4分中断させた行為は軽犯罪法違反(長野簡略式命令平成3年3月29日)だが、政見発表を間断なく野次った行為は業務妨害罪である(東京地判昭和36年9月13日判時280号22頁)。なお、いずれも威力業務妨害罪との境界事案

*7:文庫版だと26〜27頁

*8:前田雅英「刑法各論講義」149頁

*9:山口厚「刑法か各論」154頁は「学生の学習活動」があたらないと明言する。

*10:絶対に業務妨害罪にならないので