アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

AKB48で労働法?! 〜おちゃらけてるけど深い「プレップ労働法」

プレップ労働法〈第3版〉 (弘文堂プレップシリーズ)

プレップ労働法〈第3版〉 (弘文堂プレップシリーズ)

1.おちゃらけた労働法!?
  プレップシリーズ。基本的には、「入門書」であり、取り上げる事項を絞る代わりに、当該法分野の鳥瞰図を薄いページ数で示すというものだ。
  このイメージの代表的なものとしては、米倉明先生の「プレップ民法」、戸松秀典先生の「プレップ憲法」等が挙げられる。

プレップ民法 (プレップシリーズ) 第4版増補版

プレップ民法 (プレップシリーズ) 第4版増補版

プレップ憲法 第3版 [弘文堂プレップ法学] (プレップシリーズ)

プレップ憲法 第3版 [弘文堂プレップ法学] (プレップシリーズ)

  大体200頁位で、1500円前後。薄く軽く安いが、これからその法分野を学ぶ上で頭に入れて置いた方が良いことを理解できる。これが勉強開始前に身についているのとないとでは大違いである*1


 しかし、森戸英幸先生の「プレップ労働法」は違う。330頁、2100円。
  例えば菅野和夫先生の「労働法」のようないわゆる「辞書*2」と比べると薄くて安いが、他のプレップシリーズに比べると厚いし高い*3
  

  なぜ普通より厚くて高いか。それは、この「プレップ労働法」は、ポイントを網羅し、おちゃらけた筆致で説明するという面白い試みをしているからである。


 ポイントを網羅しというのは、前書きをちょっと引用しよう。

なにしろ「さっと(ざっと)」把握するための本なので、そんなに細かいことまでは書いていない。取り上げた判例の数も多くないし、文献の引用も基本的にはしていない。断片的にサラットしか、いやそもそもまったく触れていない「論点」(なんかいかにも試験勉強チックでイヤな響きだ……)もいくつかある。そこはもっとちゃんとした、分厚い、面白くな……じゃない、マジメな本でカバーして欲しい。ただそう言いつつ、ぶっちゃけ新司法試験くらいならこの本(+ケースブック系の本を使ったロー・スクールでの講義)でも十分だと個人的には思っているのだが……
森戸英幸「プレップ労働法」v頁

 「新司法試験対応宣言」が出ている訳で、確かに単に労働契約*4だけではなく、集団的労働関係についても、「裁判所では『過去の後始末』を、労働委員会では『未来を見据えた手打ち』を」*5等と説明されている。


 おちゃらけた筆致というのは、まさに本書の最大の特徴である。
森戸英幸『プレップ労働法』: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)
様の書評でいくつか例が紹介されているので、ここにないものを2つ程。

「この転勤には応じられません。通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じます」
「そんなすごい不利益が……で、それはなにかね?」
「ハイ、熱烈な阪神ファンの私が甲子園に通えなくなります」
「アホか! ほなデーゲームも毎日通えるようにしたるわ!」
森戸英幸「プレップ労働法」73頁

 時間的には毎日通えても、そのチケット代の原資がなくなりますね。

3年目社員「さてと、お昼も食べたしー、トイレでこっそり一服もしたしー、午後の仕事の前には昼ドラ見ないとだわ。アタシ実は毎日これ見ないと生きていけないのよねー」
課長「オイ、なにをぼやぼやしているんだ、仕事だぞ!」
3年目「えっ?(>_<) でもまだあと15分あるんじゃあ……」
課長「なんだよ、こないだ就業規則変わっただろ! 昼休み15分ずれたんだよ!」
3年目「そんな……知らなかった……(あとで彼氏に電話! 寿退社!)
森戸英幸「プレップ労働法」127頁


  顔文字が出てくる教科書は初めて見た。


  こんな例で労働法を学べるのであれば、気楽に読めるし、理解も進むだろう。私が昔レビューをした「メイド喫茶で学ぶ労働法」も、森戸先生が先にネタにしておられたのだ*6
一部の人にとって最も「敷居の低い」労働法入門〜メイド喫茶でわかる労働基準法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常


2.「実は?」深い内容
 こんなおちゃらけた文体だが、内容は深い。特に設けられているコラムは、「なるほど、こんな見方もあるのか」と、ハッと気づかされるものが多かった。
  定年制をなくし、年齢を問わず働ける社会を作ることが「年齢に関わりなく解雇される社会にならないか」*7とか、労働条件を一度決めたら変えられない上一度雇ったらもう解雇できないというのでは、30〜40年の継続が予想される雇用関係として「あまりにも硬直的」であり「解雇できないのだから、その代わりに、使用者に対してある程度労働条件を変更する権限を与えようーというのが労契法と最高裁の考えなのだ*8」と合理的就業規則の変更がなぜ労働者を縛るのかを説明していたりする。
  また、法的に正当化はできないとしても、なぜ昔の会社は結婚退職制度を設けていたのか*9等も興味深い。


中でも、

裁判長「判決を言い渡しますー解雇無効です。労働契約関係は存続してます」
労働者「…(勝ったのは嬉しいけど、あれだけ悪口言った会社に今さらどんな顔して戻ればいいんだよ!)」
森戸英幸「プレップ労働法」108頁

 は、労働法における最重要問題の1つを示唆すると言えよう*10


3.AKB48で労働法?
  プレップ労働法は、団体交渉のテーマという点に関して、AKB48の今後について、労使交渉を申し入れることができるのかを考察される。

組合「会社に対し、団体交渉を申し入れます」
会社「う〜ん、団体交渉権のある労働組合がそう言ってきたならばしょうがない、交渉のテーブルにつきましょう。で、議題は?」
組合「はい、AKB48は今後どうしていくべきか、です」
会社「なんだよそりゃ(^_^;) そんなの知るか! 賃金とか待遇の話だろ、フツーは!」
組合「でも社員の大半はヲタクでして、どうせ大して上がるはずもない賃金よりもAKBの今後の方に強い関心が……
森戸英幸「プレップ労働法」279頁

 この例を読むことができただけで、2100円の元は全てとった気もするが、面白いので、ちょいと考察してみよう。


  AKBの今後を変えるとすれば、「もっと人気が出てしかるべき子を『当社の推しメン』とし、CDを労使で協調して購入して、一丸となって当社の推しメンに投票する」といった方法がある*11
  例えば、パナソニックや日立等は従業員が30万人を超えている*12が、労働側が一人1枚、使用者側が労働側と同数購入すれば60万枚以上である。この莫大な数の投票券がただ一人の「当社の推しメン」に行く、まさに組織票である。トップ獲得は間違いない*13


  そう、AKBの今後を変える方法はある。森戸先生が労使で協議しても「AKBの運命は変わらない」*14とおっしゃっているのには、AKBの「総選挙制度」の実態に照らして疑問がある。


 もっとも、ここで最大の問題は、「じゃあ、誰を推すの?」ということである。バラバラに投票しても、「票の食い合い」になるだけである。
  ここで、公知の事実であるが、AKBヲタクには、誰でも大好き(DD)な人だけではなく、推しメンを持っている人が多い。逆に言えば、メンバー単位では、アンチも多い訳である。前敦推し、優子推し、ゆきりん推し……。それぞれが派閥を形成し、特に総選挙時には阿鼻叫喚が待っている。 法曹界でも、某四大事務所の弁護士が、給料を注ぎ込んでCDを買った*15等、その熱狂に身を投じる人は少なくない。


   そんな中で、どう決めるのか?  労働組合は内規にもよるが、民主的に一人一票で多数決が多いかもしれない。そうすると、ドロドロの予備選が行われてもおかしくない。使用者側の推しメンは、上意下達組織なので上位者、つまり社長の意向が重要になるが、金額が多く、取締役会決議事項となれば、専務派・常務派の対立もビックリの修羅場が繰り広げられるだろう*16



  やっとのことで決めた「労組の推しメン」「会社側の推しメン」が同じなら問題がないが、不幸にして違う場合には安保闘争もビックリの大乱闘になっておかしくない。労働側が伝家の宝刀であるストライキ権を行使してもおかしくないだろう。それは、この問題が単なる経済条件の問題ではなく、戦後しばらくの間の極めて極端な労使対立の原因となった問題と根が同じ、思想信条の問題だからである。


 このようにこの問題が思想信条の問題ということは、例えば労組側では「CD代を組合費から出していいのか」という問題が発生するだろう。アンチにとっては、そのアンチメンバのために自分のお金が使われるのは許し難い暴挙かもしれない*17
 また、使用者側がCDを買う場合、この資金源は究極的には株主の財産である。株主が「自分の財産がアンチに行くのは許し難い」と訴訟を起こすかもしれない*18


  私も、森戸先生の「AKB48の今後については労使交渉の対象とすべきでない」という結論については賛成である。しかし、その理由を労使が協調してもAKBの運命を変えられないからという森戸説には賛同できない。
  むしろ、AKB48の総選挙に労使が首を突っ込む場合には、先鋭的労使対立の激化を招き、使用者側も社内紛争を招き、労組内部でもセクト間での内ゲバ*19を招くため、その弊害がメリットよりも大きいと考えるからである*20

まとめ
  新司法試験レベルのポイントを気楽に学べて、実は深い説明もされている。こんな入門書である森戸英幸「プレップ労働法」は、私の中での「推しメン」である*21
森戸先生には、ぜひAKB48を本格的に研究していただき*22、第4版では本書の記述をより深いものとしていただきたい。
  森戸先生は馬がお好き*23なようですが、あれも勝馬「投票券」ですしね!

あ、私の推しメンですか?
法律界最萌えトーナメント! - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
をご参照下さい。

*1:まあ、民法は池田先生の「スタートアップ債権法」という素晴らしい本がある。レビューは私は池田先生が好きだ! - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常だが、今は第五版が出ている。

*2:性質上の凶器

*3:高いとかいいながら、今日もまた1万5000円の本を買ってしまいました…。

*4:単にというがめちゃくちゃ大事。森戸先生も「95パーセントの確率で労働契約に関連する問題が出るだろう」(森戸英幸「プレップ労働法」29頁。なお、同頁には残りの5パーセントに関する記載も。)とおっしゃっている。

*5:森戸英幸「プレップ労働法」304頁

*6:森戸英幸「プレップ労働法」80頁

*7:森戸英幸「プレップ労働法」118頁

*8:森戸英幸「プレップ労働法」131頁

*9:ただ単に「♩若いコがスキだから」ではないそうである。森戸英幸「プレップ労働法」170頁を読んでみてください。

*10:勝ち筋案件では労組側や労働弁護士にノウハウがあるようです。

*11:別に、今推されメンの人の地位を更に強固にするというのでもいいです。

*12:日本の会社で従業員数が一番多い会社は何人くらいいるのですか? - 日本の会社... - Yahoo!知恵袋

*13:第三回の結果からすれば、10万票を越えれば上位2名に入れるので、5人位を推してもいいかもしれない。

*14:森戸英幸「プレップ労働法」280頁

*15:噂レベルでしか聞いてないですが、多分実話です。

*16:株主総会の株主提案で「利益処分の半分はAKBのCDを買って◯◯に投票すること」とかが出てくる時代も近い? なお、会社側がこの修羅場を総会に持ち込みたくなければ、取締役会を利益処分決議機関にしとくのがお勧めです。

*17:詳細は労働組合法の本(プレップ労働法だと273頁)を読んでいただきたいのですが、多分組合費の一部が組合内のプロセスを適正に通った上で、「組合室のBGMのためのCD代に使われる」のは一般的には許容されると理解されていると思われますが、こと思想信条になると、政党への寄付のため徴収する臨時組合費について納入義務を否定した国労広島地本事件最判昭和50年11月28日民集29巻10号1698頁の問題になります。

*18:八幡製鉄所事件参照

*19:今の労組は実力には訴えないでしょうから、比喩ですが。

*20:なお、今のところ一人説

*21:菅野、水町等で「労働法テキスト総選挙」をやっている姿をイメージしてください。

*22:SKE48とかNMB48の研究を不要と言っている訳ではないです

*23:http://homepage3.nifty.com/mstable/参照