アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

『涼宮ハルヒの分裂』の「チャイナ服ハルヒ」に隠された真実!?

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

*このエントリは、『分裂』の巻頭イラスト及びp12までのネタバレを含みます。


2007年4月1日。
週刊少年マガジン編集部にて、
キバヤシ以下のMMRメンバーが
次に取材するテーマを求めて会議をしていた。
長びく会議にナワヤがぽつりともらす。


「あ〜、はやく帰って『分裂』読みたいぜー」


それを聞いてMMRのリーダー、キバヤシの目が光った。


「なにっ、幽体分裂だと?」


すかさずタナカがつっこむ。


「ちがいます、キバヤシさん。
 『涼宮ハルヒの分裂』ですよ。
 超ベストセラーラノベ
 『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズの
  最新刊のことですよ。」


「そ、そうか。小説の続編のことだったのか。
 で、『分裂』はいったいどんなストーリーなんだ?」


「あれ? キバヤシさんはまだ『分裂』を読んでなかったんですか?
 チャイナ服を着たハルヒが、メイド服を着たみくるちゃんと一緒に
 新入団員を勧誘する話なんです。」


 タナカは、背広の内ポケットから『分裂』を取り出し、
キバヤシに巻頭部分を見せながら話を始めようとする。


スニーカーで最初の100ページは読んだが、
そこは明らかに本質ではないな。」


と、ナワヤが突っ込むが、キバヤシは、釘付けになったように、
視線を巻頭カラーイラストに向けながら、


「チャイナ・・・ハルヒ・・・チャイナ・・・」


と、うわごとのように呟く。


ガタッ


「そうか・・・そういうことだったのか・・・」


「!? どうしたキバヤシ、急に立ち上がって」


キバヤシの額に汗が浮かんできていた。


「も……もし……
 もしもオレの予想が当たっていたとしたら……
 『分裂』にはハルヒのゲーム化に関する秘密の
 メッセージが隠されている
のかもしれん!!」




「「「「 な……何だってーっ*1!! 」」」」




息の合ったように驚愕する四人。


「ひ……秘密のメッセージ……?」


キバヤシさん、『分裂』が隠しているのは
どう読んでも『驚愕』の伏線だけじゃないですか。
一体どんなメッセージが隠されているというんですか?」



キバヤシは少し間をとって言った。

 
「まずは、これ*2を見て欲しい。」


「ただの台湾版『涼宮ハルヒ』の紹介じゃないか?
 これに何か意味があるのか。」


涼宮春日
これを中国語読みで読むと
リャンゴンチュンリー*3
このうち、意味不明な「リャンゴン」はノイズと考えられるので削除し、
残りの文字を取り出す。
すると、でき上がる言葉は…


              チュンリー


ストリートファイターシリーズのチャイナドレスキャラとなる。


そう、『涼宮ハルヒの分裂』は、ハルヒシリーズ格闘ゲームを暗示していたんだよ!!!


「「「「 な……何だってーっ*4!! 」」」」


まとめ

MMR風に『分裂』のチャイナ服姿のハルヒを考察すると、
ハルヒシリーズ格闘ゲーム化が浮かび上がってくる。
格闘ゲームにせよ、アドベンチャーにせよ、
原作・アニメの世界観を殺さないゲームであって欲しいものである。

謝辞:このエントリはホームページ移転のお知らせ - Yahoo!ジオシティーズ様を大いに参考にして作らせていただきました。MMR編集部の息遣いを再現されたそのクオリティーは素晴らしいと思います。どうも、ありがとうございました。
参考:ハルヒの格ゲー風(末尾)かる日記:So-netブログ様)
関連:涼宮ハルヒの判決 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
   SOS団よ戦前非合法日本共産党の失敗に学べ! - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
   検察は朝比奈さんをこう守る
追記:あちらの方では、カタカナ・ひらがなの名前は、勝手に漢字変換するらしい(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%AE%E6%B2%A2%E3%82%8A%E3%81%88等参照)ですが、http://kanasoku.blog82.fc2.com/blog-entry-2125.htmlを見ていると、ハルヒ→春日変換は恣意的な変換ではないと思われます。

*1:AA略

*2:中国語フォントが必要です。

*3:lianggongchunri、なお北京語読み。

*4:AA略

オッパイ将棋と賭博罪〜ハチワンダイバーの法的考察

ハチワンダイバー 1 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 1 (ヤングジャンプコミックス)

 ハチワンダイバー公式ホームページ)とは、奨励会落ちで、真剣師、即ち賭け将棋に生きるハチワンダイバーこと菅田が、メイドみるく=アキバの受け師中静そよのオッパイを目指して日夜真剣勝負に励む漫画である*1

 ハチワンダイバーの賭け将棋全般の賭博罪該当性について、2007-03-28 - 三軒茶屋 別館様が考察をされている。この考察は、非常に興味深く、一見の価値があるものである。当サイトをリスペクトしていただいたことの感謝を込めて、三軒茶屋様が考察された3つの賭け将棋のうちの1つであるオッパイ将棋の賭博罪該当性の1点に限って(勝手に)三軒茶屋様の「補足」として私見を述べさせていただきたい 。

1.オッパイ将棋とは

ハチワンダイバーこと菅田は、二こ神こと神野神太郎との間で、
�菅田が勝てば、菅田は中静そよのおっぱいを揉み*2
�神野が勝てば、神野は中静そよのおっぱいを揉む
という条件で賭け将棋を行った。

オッパイ将棋の条件は上記��である。かかる条件の賭け将棋が賭博罪に該当するか。
2.賭博罪の趣旨及び要件

 刑法第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

 賭博罪は、「賭博」をした場合に成立する犯罪である(刑法第185条)。賭博とは、偶然の勝敗によって、財物・財産上の利益得喪を2人以上の者が争う行為をいう*3

 賭博を禁止した趣旨は、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎をなす勤労の美風を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、強窃盗その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれすらある*4からである。

 将棋のように、当事者の技量も結果に関係する場合でも「偶然」と言えるとするのが判例*5である。

 また、財産上の利益(サービス等)が入る点については、刑法の口語化前の185条が

偶然ノ輸贏ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者ハ五十万円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス但一時ノ娯楽ニ供スル物ヲ賭シタル者ハ此限ニ在ラス

となっていたにも関わらず、刑法口語化前からこの「財物」にはサービスも含むとするのが判例・通説であり*6、口語化後ももちろんサービスを含む。


 すると、本件オッパイ将棋においては、両者は将棋の「偶然の勝敗」によって、「財産上の利益」であるおっぱいを揉む権利の得喪を争っている以上、賭博罪に該当することになりそうである。

3.一時の娯楽に供する物
 ところが、同条但書は「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」として、賭博をしても、処罰されない例外を認める。
 そこで、おっぱいを揉む利益は、あくまでも「一時の娯楽に供する物」であるとして、オッパイ将棋を合法にできないか。


 この点、「一時の娯楽に供する物」とは「即時娯楽のために費消するような寡少のものをいう」と定義されている*7
一般には、タバコ、チョコレートや食事等が例に出される*8が、このように価値が低く、即時になくなるようなものを賭けても、勤労によって生計を維持するという勤労の美徳を害する度合いは低いことからこのような但し書きが規定されている。
 この「一時の娯楽に供する物」に該当するかについては当事者の社会的・職業的地位、賭博行為の回数、かけた財物の種類・数量・価額等が、重要な判断要素となる*9


 まず、当事者の社会的・職業的地位についえ言えば「真剣師」同士であり、これだけでも、「一時の娯楽に供する物」性を否定する大きな要素になるだろう。
 賭博行為の回数が1回というのは、「一時の娯楽に供する物」性肯定の方に働く要素ではある。
 問題は、賭けた財物の種類等であるが、「おっぱいを揉む」というサービスがどれだけの価値があるかの問題である。これらの判断は、当然客観的に判断すべき*10であるが、これを判断するための客観資料の収集は困難を極めた(注意:以下、hを除いてリンクを飛ばさないようにしている資料は、全て18禁であります。18歳未満の健全な少年少女は、アクセスをしないようにご注意下さい。)。
おっぱいを揉むことの相場を確認するための資料として、集められたものは、以下のものである。

1000円=5モミ

・おっぱい募金
パラダイステレビの「24時間テレビ」当初からの人気募金。
人気AV女優のオッパイを揉んでその満足度によって募金をするらしい。
一応の最低金額は1000円から。
基本的に5モミまで。(女優がおっぱいを腫らしてしまった経験があるため)
揉み方は自由。乳首をせめても構わない。
ttp://ura.tanteifile.com/channel/2006/08/17_01/index.html

1000円(期待値)=10秒

・おっぱいキャバクラ
「おっぱいキャバクラ」の類いのお店に連れていっていただきました。
そこは、500円払うと女の子とジャンケン出来る権利を得、
そしてジャンケンに勝つと
10秒間その子のおっぱいを揉めるというシステムでした。
ttp://blog.livedoor.jp/yama124/archives/26558812.html

4980円=半永久的

・おっぱいマウスパッド
アトリエかぐや様全面協力の下、
メディオ!オリジナルグッズ第2弾として、『おさあま』
人気キャラクターエミリー・ウィンスレットちゃんを起用した『エミリーちゃんの萌え萌えハァハァおっぱいマウスパッド』を製作いたしましたっ!!
(中略)
最近、色々なキャラクターで発売され人気を博している、女の子の胸の辺りが膨らんでいるマウスパッドが、すでに他のメーカー様からも発売されている 『立体マウスパッド』と呼ばれるアイテムです。この胸の中にはムニムニできるやわらか〜い特殊なジェルが入っていて、ホンモノのおっぱいに近い感触を味わうことができるのですが、その胸部分に手首や腕を載せたままマウス操作ができるという、男にとってはまさに夢のような PCアクセサリーとなっていますっ!!
ttp://medio.bz/goods.html

5000円=20分+その他のサービス

・いわゆる風俗営業
「Aコースは服の上からのタッチで・・・」
「Bコースはトップレス&タッチ&お尻タッチ・・・」(要約)
(中略)
ルックス ★★★☆☆ 玄人っぽいです。
サービス ★★★★★ 丁寧で手コキも良い。さすが玄人?
面倒臭い度★★★☆☆ 部屋がいっぱいの時は遊べないんですよね。
総評   ★★★★☆ 総額5000円でお尻のソフトタッチまでOKはCPいいかも。
今回の料金・・・Bコース20分4000円+部屋代60分1000円=総額5000円
池袋デリバリー手コキ『××えもん』
ttp://blog.livedoor.jp/yukichi10000/archives/50774334.html

6000円〜=45分

・セクキャバ*11
「セクキャバメイドカフェ」:大阪・京橋
料金システム
A-time(19:00〜21:00)
45分 6,000円
B-time(21:00〜LAST)
45分 7,000円
ご指名のお客様
45分 8,000円
3P指名のお客様
40分 12,000円
ttp://www.maid-cafe.org/pc/systems.html

129、426円=半永久的

・着用式乳房検診シミュレーター
(中略)
ありがとう, 2005/10/9
レビュアー: カスタマー
いままで、妹がいないせいで「お医者さんごっこ」が出来ずに辛い思いをしていました。でも、これさえあれば、弟と遊べます。
日本の医療技術の素晴らしさに、感謝の気持ちでいっぱいです。
ttp://www.amazon.co.jp/%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF-L50-%E7%9D%80%E7%94%A8%E5%BC%8F%E4%B9%B3%E6%88%BF%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%82%B7%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC/dp/B0006UG2MY

380万円=11揉み

・おっぱい詐欺
フィンランドの法廷で、女性の胸を愛撫するだけで25,500ユーロ(約380万円)はあまりに高すぎという判断が下されました。
これはなんのことかというと、名前は明らかにされていませんが、74歳の認知症患者に対して、介護を装い、近づいた20代のカップルが企んだもの。 つまりは少々呆けてきていることをいいことに、カップルのうち女性が患者の前で裸の胸をさらし、揉ませることによって法外な料金を取ろうとしていたそうなんですね。 この 「バイト」 は、都合11回行われ、請求した金額が25,500ユーロ! カップルは1年の禁固刑を受けています。
ttp://chiquita.blog17.fc2.com/blog-entry-1892.html

ということで*121000円〜380万円まで、非常にばらついてしまった。それはある意味当たり前であって、おっぱいを揉む利益は、そもそも客観的な算定が不可能なのである。かかる場合には客観的な価値に照らして相当な範囲内で、主観的な価値を基礎として算定することもやむを得ないであろう。
ここで、参考になる資料として、神野の発言がある。

えーと 100万はないかな…
でも それちかくはある
(中略)
今日 この勝負に 全財産かけてもいいと思っている
でもソッチはさすがに今 持ち合わせがないだろう
だから
お前が勝てば俺の全財産はお前のものだ
オレが勝てば
そよちゃんのオッパイを揉む
柴田ヨクサルハチワンダイバー第2巻」p53〜

即ち、神野自身としては、自己の全財産に相当するだけの価値を、そよのオッパイを揉むことに見出しているのである。
そこで、オッパイを揉む財産上の利益は100万円と算定するのが妥当である。

 以上より、100万円は明らかに「即時費消される僅少の額」とは言えず、「一時の娯楽に供する物」の要件も欠くことになる*13

4.再考−オッパイ将棋は「勝ったらオッパイを揉む」ものか?
 このままでは、神聖なオッパイ将棋が違法な賭博になってしまう。
ここで、そもそもオッパイ将棋の定義が妥当なものかを考えてみる。即ち、オッパイ将棋を

ハチワンダイバーこと菅田は、二こ神こと神野神太郎との間で、
�菅田が勝てば、菅田は中静そよのおっぱいを揉み
�神野が勝てば、神野は中静そよのおっぱいを揉む
という条件で賭け将棋を行った。

��の2条件で定義することの妥当性である。

そもそも、「おっぱいを揉む利益」は、菅田・神野間で把握されるべきではない。おっぱいの所有者はそよなのであるから、あくまでもそよ・菅田及びそよ・神野間といったそよを当事者とした場合にしか「おっぱいを揉む利益」の得喪は生じないのである*14
 そこで、オッパイ将棋の定義自体を変える必要があろう。

ハチワンダイバーこと菅田は、二こ神こと神野神太郎との間で、
�菅田が勝てば、菅田は中静そよに「おっぱいを揉ませてください。」と頼み込み、
�神野が勝てば、神野は中静そよに「おっぱいを揉ませてください。」と頼み込む
という条件で賭け将棋を行った。

 このように定義することで、オッパイ将棋の当事者双方は、偶然の結果に応じて利益を得るのではなく、むしろ偶然の結果に応じて義務を負うことがわかる。しかもその義務は、オッパイを揉ませてもらうように頼むという神野が「長い間誇り高く生きてきたつもりだ」「そのオレが恥をも捨てる」*15というかなり恥ずかしいものである*16。しかも負けた側が勝者の損失に応じた利得をするわけでもない
 このような、偶然の結果に応じて義務を負う、即ち不利益を被るだけで、誰も利益を得ない勝負を認めたところで、労働の美風を損なうことはない。そこで、オッパイ将棋は類型的に賭博に当たらないとすべきであろう。

まとめ
なんだかんだ考察してきたが、やっぱりオッパイは素晴らしい。
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡

付記:本エントリは、2007-03-28 - 三軒茶屋 別館様のエントリからネタをお借りし、勝手に補足させていただいたものである。いつものことながら、大変感謝している。


補足:2013年1月に、刑裁サイ太先生が、過去の判例を総覧し、「おっぱい」の平均価格を算定した「大嘘判例八百選」に接した。サイ太先生の偉業には頭が下がるばかりである。

*1:

*2:最初は、ここを「100万円」と書いてしまっていましたが、アイヨシ様のご指摘により訂正いたしました。申し訳ありませんでした。そして、アイヨシ様、ありがとうございました。

*3:山口「刑法」p431参照

*4:最大判昭和25年11月22日刑集4巻11号2380頁

*5:「大判例コンメンタール刑法」9巻p118によれば判例上、偶然性が認められたものとしては(中略)将棋の勝敗(大判昭和12年9月21日集16巻1299ページ)

*6:例えば、「大コンメンタール刑法」p122では「財物とは有体物又は管理可能物に限らず、広く財産上の利益であれば足り、債権を含むとする見解が通説であり、判例もこの立場である。」とする。

*7:コンメンタール刑法9巻p125

*8:山口「刑法」p432,前田「刑法各論講義」p467参照

*9:コンメンタール刑法9巻p129

*10:この点においては三軒茶屋様のご主張は「一般論として」正当である。

*11:「おさわりパブともおっぱいパブともいう。基本的に、キャバクラだが30分ごとにショータイムやダウンタイムといったものがある。何をするかというと、女の子がお客のひざの上に乗り、ディープキス、おっぱいを触らせる。」ttp://www.jineko.net/kanojotachi/data/4023628.htmlより

*12:注意:ここはオッパイサイトではなく、法学考察のサイトですよ?

*13:まあ、380万が客観的利益の範囲として不相当だとしても、食事代相当額等をはるかに上回ると考えられますので、この結論には変わりないでしょう。

*14:三軒茶屋様のご指摘通り、勝手に揉めば強制わいせつ罪にあたり得る。

*15:柴田前掲書p56

*16:ここで、「頼めば、場合によってはそよのオッパイが揉めるという莫大な利益を得られる可能性があるから利益だ」という反論があるだろうが、そもそも、勝負をしなければ「頼もうが頼まないが自由」という状態である。これが、勝負に勝ってしまうことで「必ず頼まなければならない」という状態になる。このように「頼まない」という選択肢を1つ失う状況は、なお不利益というべきであろう。

あゆあゆの「鯛焼問題」に関する法的考察〜Kanon法学の形成と展開I

Kanon 全年齢対象版

Kanon 全年齢対象版

 一部の法学部生のヲタクの間で有名な問題に、通称「鯛焼問題」と呼ばれる問題がある。

 あゆが鯛焼き屋につぶあん入りの鯛焼きを注文したところ、鯛焼き屋はこれを聞き入れて鯛焼きを製作し、あゆに引き渡した。この事案について、以下の各問いに答えよ。なお、各問いは独立した問いである。


 1 あゆは代金を支払い、引き渡された鯛焼きを一口食べてみたところ、その鯛焼きの具材はつぶあんではなくカスタードクリームであることが判明した。あゆは、こうした意に沿わない具材を入れられた鯛焼きは食べるに値しないと考え、直ちにその旨を鯛焼き屋に告げて、つぶあん入りとの交換を求めた。しかし、鯛焼き屋は「一口食べてしまった鯛焼きを返されては困る。」として、応じようとしない。このとき、あゆは鯛焼き屋に対して、法律上どのような請求が可能か。


 2 あゆは代金を支払おうとしたところ、懐中無一文であったが、何としてもつぶあん入りの鯛焼きを食べたいと思い立ち、引き渡された鯛焼きを持ったまま、鯛焼き屋の隙を突いてその場から逃走した。追跡を振り切ったと見て、あゆが鯛焼きを一口食べてみたところ、その具材はつぶあんではなくカスタードクリームであることが判明した。あゆは、こうした意に沿わない具材を入れられた鯛焼きは食べるに値しないと考えたが、ちょうどその時鯛焼き屋があゆを発見し、あゆに代金の支払いを求めた。しかし、あゆは「カスタードクリームみたいな邪道な鯛焼きに払う金なんてないよっ。」として、応じようとしない。このとき、鯛焼き屋はあゆに対して、法律上どのような請求が可能か
http://d.hatena.ne.jp/Raz/20070304/1173005296より引用

この問題について、ronnor的な回答は以下の通りである。

一.小問1について
1.あゆ(以下、「あゆあゆ」と略す。)と鯛焼屋の間においては「つぶあん」入りの鯛焼きという不特定物の売買契約*1が成立している(民法555条)。そこで、「カスタードクリーム入り」の鯛焼きの引渡しは、債務の本旨に従った弁済(日常語で言えば、「約束を守った」)とは言えない。
2.不特定物売買契約においては、債務者(この場合の鯛焼き屋)は無限の調達責任を負う。すなわち、瑕疵のない目的物を債権者(この場合のあゆあゆ)に引き渡す義務を負い、そのために、今つぶあんがなくても、問屋からつぶあんを調達する等してきちんと、債務の本旨に従った弁済として、つぶあん入りの鯛焼きを引き渡さなければならない。そこで、あゆあゆは、鯛焼屋に対し、つぶあん入り鯛焼きの引渡しを請求できる
3.ここで、遅くとも鯛焼き引渡し時まで特定(401条2項)が生じており、もはやあゆあゆは別の鯛焼の引渡しを請求できないとも思える。
しかし、特定は、債務者(この場合は鯛焼き屋)がなすべきことをなした時に公平の観点から調達義務を免除する制度であり、なすべきことをなしていない債務者を救済する制度ではない。
そこで、なおあゆあゆは鯛焼きの引渡しを請求できる。
4.あゆあゆは鯛焼き屋に対し、一定期間以内につぶあん入りの鯛焼きを渡せ、わたさなければ契約を解除すると催告し、その間までに鯛焼き屋が鯛焼きを渡さない場合には債務不履行を理由に売買契約を解除できる(541条)。この場合、損害賠償として代金と法定利息(404条)を請求できる(415条)
 ここで、原状回復義務(545条1項)として、あゆあゆはカスタード入り鯛焼き鯛焼き屋に対し返還しなければならないとも思われるが、返還は不要と解する。それは、あゆあゆファンが多数おり「あゆあゆが1口かじった鯛焼き」をヤフオクで売れば、万単位のお金が鯛焼き屋に舞い込むため、鯛焼き屋に不当な利得を生じさせ、ひいては鯛焼き屋がこの利得をねらってわざと間違った鯛焼きを渡すという不法行為を誘発させかねないことから、返還を不要と解するのが公平だからである。
5.よって、あゆあゆは鯛焼き屋に対しつぶあん入り鯛焼の履行を請求する、ないし、催告した上で解除することもでき、その場合においてはカスタード入り鯛焼きを返還する必要はないと解する。
二.小問2について
1.鯛焼き屋は、あゆあゆに対し、売買契約に基づき、代金の支払いを求めることが考えられるが、前述のように、カスタード入りの鯛焼きの引渡しは債務の本旨に従った履行とはならず、こしあん入りの鯛焼きを引き渡さない限り、代金請求はできない。
2.そこで、鯛焼き屋は、あゆあゆに対し、詐欺(96条)を理由に契約を取消(121条)し、カスタード入りの鯛焼きの返還を求めることができるか。
 ここで、あゆあゆの年齢が20歳(4条)未満と思われるところ、未成年者(5条)という制限能力者(121条但書)であるあゆあゆは「その行為によって現に利益を受けている限度」において返還の義務を負うに過ぎない。
 そこで、あゆあゆに対し「かじりかけ」の鯛焼きの引渡しを請求できるに過ぎない
3.なお、この場合においては、小問1と異なり、鯛焼き屋は「かじりかけ」の鯛焼きの引渡しを受けることができると解する。
 それは、小問1においては、鯛焼き屋の帰責性により発生した「具材の誤り」の結果、鯛焼き屋が利得することが不公平であったが、本問においては、「具材の誤り」という鯛焼き屋の帰責性をはるかに上回る「詐欺」をあゆあゆが行っている以上、鯛焼き屋に利得させても不公平ではないからである。
4.(1)そして、鯛焼き屋は、あゆあゆ自身及びあゆあゆの法定代理人*2に対し、不法行為(709条)責任として、損害の賠償を求めることができるか。
(2)まず、あゆあゆは18歳以上*3であり、責任能力*4は認められるため、不法行為責任を追求できることには問題がない。
(3)そして、責任能力を有している場合であっても,その不法行為による損害とその監督義務者の監督義務違反とに因果関係が認められる場合は,監督義務者について709条の不法行為が成立すると解する(判例同旨)。ここで、714条が「責任無能力者がその責任を負わない場合」における監督義務者の不法行為責任を規定するが、被害者保護という不法行為責任法の趣旨からは、この規定を反対解釈するべきではなく、監督義務者の監督義務違反とに因果関係が認められる以上は不法行為責任を負わせることが、未成年に現実に資力がない場合が多いことに鑑みても公平だからである。
(4)そこで、あゆあゆ自身及びあゆあゆの法定代理人に対し損害賠償(709条)を求めることができるが、その要件は「損害」であるから、あゆあゆのかじった鯛焼きを売ることで損害が填補されれば、損害賠償を求めることはできない。
5.以上より、鯛焼き屋はあゆあゆに対し、契約を取り消してかじりかけの鯛焼きの返還を請求でき、損害が填補されなければ、あゆあゆ及びその法定代理人に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求できる
                             以上

多少法的な問題点があるので、これを簡単に解説する。

一.小問1について
1.あゆ(以下、「あゆあゆ」と略す。)と鯛焼屋の間においては「つぶあん」入りの鯛焼きという不特定物の売買契約*5が成立している(民法555条)。そこで、「カスタードクリーム入り」の鯛焼きの引渡しは、債務の本旨に従った弁済(日常語で言えば、「約束を守った」)とは言えない。

 ここは、少し難しい話になるので解説しておくと、ある物を引き渡す債務は、その物が「特定物」すなわちその物の個性に着目している場合(中古のもの、不動産等)と、「不特定物」すなわち、その物の個性に着目していない、その結果数量と種類さえあっていれば別のものでもいい場合(大量生産品等)がある。まあ、「おじさんが今焼いたこの鯛焼きがいいんだ!」といった例外的場合を除けば、鯛焼きは、「この」鯛焼きでも、その脇で焼いた鯛焼きでもいい、単に味(つぶあん入り)と数(1個)だけがあっていればOKな売買なので、不特定物売買となる。

2.不特定物売買契約においては、債務者(この場合の鯛焼き屋)は無限の調達責任を負う。すなわち、瑕疵のない目的物を債権者(この場合のあゆあゆ)に引き渡す義務を負い、そのために、今つぶあんがなくても、問屋からつぶあんを調達する等してきちんと、債務の本旨に従った弁済として、つぶあん入りの鯛焼きを引き渡さなければならない。そこで、あゆあゆは、鯛焼屋に対し、つぶあん入り鯛焼きの引渡しを請求できる。

 これは、特定物売買、例えば、ある建物の売買と比較すると分かりやすいでしょう。特定物売買においては、「その建物」が大事であり、「その建物」は世界に1つしかない。そこで、買主(引渡し義務の債権者)は、引き渡してもらうまで、「その建物」をきちんと維持してもらいたいわけです。そこで、売主(引渡し義務の債務者)は、「善良な管理者(400条)」として、しっかり管理する義務を負うのである。
 これに対し、不特定物であれば、「この鯛焼き」でなくともかまわない。そこで、鯛焼き屋さんは特定物売買で売主が負うような重い注意義務は免除される。しかし、その反面、履行期には、きちんと「つぶあん入り鯛焼き1個」を引き渡す義務を負うわけで、そのために、仮につぶあんが切れたならば、問屋さん等を回ってつぶあん等をきちんと調達しないといけないという重い「調達義務」を負っている

 ちょっと分かりにくいかもしれませんが、
特定物=「その物」をきちんと維持=売主の重い注意義務
不特定物=種類と数さえあっていればいい=注意義務は免除=売主は種類と数をきちんとそろえるため「調達義務」を負う 

 と考えていただくとわかりやすいだろう。

3.ここで、遅くとも鯛焼き引渡し時まで特定(401条2項)が生じており、もはやあゆあゆは別の鯛焼の引渡しを請求できないとも思える。
しかし、特定は、債務者(この場合は鯛焼き屋)がなすべきことをなした時に公平の観点から調達義務を免除する制度であり、なすべきことをなしていない債務者を救済する制度ではない。
そこで、なおあゆあゆは鯛焼きの引渡しを請求できる。

 ここで、分かりにくい制度である「特定」が出てきます。
上で述べましたが、不特定物債務の債務者(鯛焼き屋)は調達義務を負っています。そのため、地の果てまであんこ問屋を追いかけていってつぶあんを調達しなければいけない。この重い調達義務を「頑張った債務者」については免除してあげようというのが特定の制度である。例えば、

30分後に鯛焼き屋で渡すという約束で鯛焼き屋がたいやきを完成させ、鯛焼きをパックに入れ「あゆあゆ様」と書き、あゆあゆに連絡をした。しかし、30分経ってもあゆあゆは来ない。ここで地震が起こって鯛焼きがなくなった。

こんな場合にも「調達義務があるからもう一回鯛焼きをつくれ。あんこがないなら、調達してこい!」と鯛焼き屋さんに言うのはかわいそうである。そこで、鯛焼き屋(不特定債務の債務者)がなすべきことをなしている場合には、もう調達をしなくていいよということで、調達義務が免除される、これが特定なのだ。
 さて、本問において鯛焼き屋さんは「やるべきことやっている」といえるか? つぶあん入りの鯛焼きを作る約束なのに、カスタード入りを作ったのですから、「やるべきことをやっていない」。そこで、特定の恩恵を享受させる必要はないのです。そこで、やっぱりつぶあん入りたい焼きを渡さなければならない。

4.あゆあゆは鯛焼き屋に対し、一定期間以内につぶあん入りの鯛焼きを渡せ、わたさなければ契約を解除すると催告し、その間までに鯛焼き屋が鯛焼きを渡さない場合には債務不履行を理由に売買契約を解除できる(541条)。この場合、損害賠償として代金と法定利息(404条)を請求できる(415条)。
 ここで、原状回復義務(545条1項)として、あゆあゆはカスタード入り鯛焼き鯛焼き屋に対し返還しなければならないとも思われるが、返還は不要と解する。それは、あゆあゆファンが多数おり「あゆあゆが1口かじった鯛焼き」をヤフオクで売れば、万単位のお金が鯛焼き屋に舞い込むため、鯛焼き屋に不当な利得を生じさせ、ひいては鯛焼き屋がこの利得をねらってわざと間違った鯛焼きを渡すという不法行為を誘発させかねないことから、返還を不要と解するのが公平だからである。

 代替物の履行が可能な場合は、一足飛びに契約を解除できない。契約を解除するためには、「30分以内につぶあん入りのたいやきを完成させなければ解除する」といった催告をしなければならない(541条)。

二.小問2について
1.鯛焼き屋は、あゆあゆに対し、売買契約に基づき、代金の支払いを求めることが考えられるが、前述のように、カスタード入りの鯛焼きは債務の本旨に従った履行とはならず、こしあん入りの鯛焼きを引き渡さない限り、代金請求はできない。
2.そこで、鯛焼き屋は、あゆあゆに対し、詐欺(96条)を理由に契約を取消(121条)し、カスタード入りの鯛焼きの返還を求めることができるか。
 ここで、あゆあゆの年齢が20歳(4条)未満と思われるところ、未成年者(5条)という制限能力者(121条但書)であるあゆあゆは「その行為によって現に利益を受けている限度」において返還の義務を負うに過ぎない。
 そこで、あゆあゆに対し「かじりかけ」の鯛焼きの引渡しを請求できるに過ぎない。

 未成年等の制限能力者については、その保護のため、取消の際、「その行為によって現に利益を受けている限度」において返還義務を負うに過ぎない。そこで、「食べた」とか「使った」という場合は*6残りを返せばいいことになる。

3.なお、この場合においては、小問1と異なり、鯛焼き屋は「かじりかけ」の鯛焼きの引渡しを受けることができると解する。
 それは、小問1においては、鯛焼き屋の帰責性により発生した「具材の誤り」の結果、鯛焼き屋が利得することが不公平であったが、本問においては、「具材の誤り」という鯛焼き屋の帰責性をはるかに上回る「詐欺」をあゆあゆが行っている以上、鯛焼き屋に利得させても不公平ではないからである。
4.(1)そして、鯛焼き屋は、あゆあゆ自身及びあゆあゆの法定代理人*7に対し、不法行為(709条)責任として、損害の賠償を求めることができるか。
(2)まず、あゆあゆは18歳以上*8であり、責任能力は認められるため、不法行為責任を追求できることには問題がない。
(3)そして、責任能力を有している場合であっても,その不法行為による損害とその法定代理人等の監督義務者の監督義務違反とに因果関係が認められる場合は,監督義務者について709条の不法行為が成立すると解する(判例同旨)。ここで、714条が「責任無能力者がその責任を負わない場合」における監督義務者の不法行為責任を規定するが、被害者保護という不法行為責任法の趣旨からは、この規定を反対解釈するべきではなく、監督義務者の監督義務違反とに因果関係が認められる以上は不法行為責任を負わせることが、未成年に現実に資力がない場合が多いことに鑑みても公平だからである。
(4)そこで、あゆあゆ自身及びあゆあゆの法定代理人に対し損害賠償(709条)を求めることができるが、その要件は「損害」であるから、あゆあゆのかじった鯛焼きを売ることで損害が填補されれば、損害賠償を求めることはできない。

 ここは、ちょっとわかりにくいが、詐欺という「不法行為」をあゆあゆが行っている以上、損害があれば損害賠償請求ができる(709条)。もっとも、あゆあゆは無一文*9であり、父親等の法定代理人に請求したい。
ここで、嫌な条文がある。

第714条 前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

要するに、5歳の子どものような、自分のやったことに責任が持てない人(責任能力)が不法行為をした場合には、その子を監督すべき人が損害を賠償せよという規定である。
 すると、逆に言えば、未成年が「その責任を負う」場合には、監督者は責任を負わないのではないかという問題が生まれてしまう*10
 しかし、判例は、未成年者を監督する法定代理人等がきちんと管理していないために損害が起こったんだという場合には、その未成年者が責任能力を有していてもなお、不法行為責任を負わせる*11。これは、事実上未成年は金がないということが考慮に入れられていると思われるが、被害者保護という不法行為法の趣旨からは妥当な結論だろう。

まとめ
 「鯛焼問題」については、小問1はあゆあゆの全面的勝利、小問2については鯛焼き屋の大方勝利という結果になった。
 民法は日常生活に密接に関わっており、*12刑法以上に「結論の妥当性」が重要な学問であり、この結論は肯首できよう。

補足:本日のネタは、Raz様(http://d.hatena.ne.jp/Raz/)のダイアリに影響されたものである。ここで謝意を表する。
追記:第2問につき、コメント欄にある通り、私の回答には、かなりの問題がある。この問題解決への試案を、「名無しだよもん」様が寄稿下さった。これが、特別寄稿〜あゆあゆの「鯛焼問題」についての新たな考察 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常であり、非常に興味深い。名無しだよもん様に深く感謝する。

*1:現行司法試験レベルの解答。なお、新司法試験レベルであれば、これが「製作物供給契約」という非典型契約であることを示した上で、調達義務・担保責任等において、売買の規定を類推すべきか、それとも請負の規定を類推すべきかという問題を論じるべきであろう。新司法試験おそろしや...。

*2:母親が死亡(?)しているので父親か未成年後見

*3:設定上

*4:未成年者が他人に損害を加えた場合,「加害行為の法律上の責任を弁識するに足るべき知能(責任能力)」があれば,未成年であることを理由として,不法行為の損害賠償責任を免れることはできない(712条,大判大正6年4月30日)

*5:現行司法試験レベルの解答。なお、新司法試験レベルであれば、これが「製作物供給契約」という非典型契約であることを示した上で、調達義務・担保責任等において、売買の規定を類推すべきか、それとも請負の規定を類推すべきかという問題を論じるべきであろう。

*6:生活費等の例外を除いて

*7:母親が死亡(?)しているので父親か未成年後見

*8:設定上

*9:母親の遺産があるとかの突っ込みはなし。

*10:反対解釈

*11:最判昭和49年3月22日

*12:罪刑法定主義が重要な

ゆかり車と危険運転致死傷罪

あずまんが大王 (1) (Dengeki comics EX)

あずまんが大王 (1) (Dengeki comics EX)

 平成13年に危険運転致死傷罪(刑法208条の2)が新設された*1。交通事故で人を死傷させた場合に使われる業務上過失致死傷罪は5年以下の懲役又は禁固という刑であり、悪質な交通事故でも、刑が軽くなってしまう。そこで、危険な運転を類型化し、そのような危険な運転をし、他人を負傷させた場合には、1月以上15年以下、死亡させた場合には1年以上20年以下の懲役としたのが危険運転致死傷罪である*2
しかし、この危険運転致死傷罪は、意外と要件が厳しい

危険運転致死傷)
第208条の2 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする
 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

 条文をザッと見ると、「ひき逃げ」が危険運転致死傷になるわけではないし*3二輪車による危険な運転による死傷も危険運転致死傷の適用対象外*4である。
 更に、条文上記載されたそれぞれの類型における要件を見ると、厳しさは際立つ。
・酩酊運転(1項1文)
 道路交通法上の酒酔い運転*5よりも要件が厳しく、酔っ払って単に正常な運転ができないおそれがあるだけではだめで、現にハンドル、ブレーキ等の操作を行うのが困難にならないといけない。
・高速度運転(1項2文前段)
 ただのスピード違反ではなく、速度が速すぎて、道路の状況に応じて走行するのが困難でないといけない。例えば、住宅街を相当な速度で走行し、速度違反が原因で路地から出てきた歩行者を避けられず轢いてしまった*6という場合は、危険運転致死傷にならない。
・技量未熟(1項2文後段)
 免許を持っている場合には、これにあたらない*7免許をもっていない上、ハンドル、ブレーキ等の初歩的な操作すらできない場合にはじめて適用される*8
・妨害運転(2項1文)
 いわゆる幅寄せ、あおり行為だが、単に他の車を妨害してもしょうがないと思って*9幅寄せするだけではだめで、相手方に自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する必要がある*10
・信号無視運転(2項2文)
 単に赤信号を無視するだけではだめで、重大な交通の危険を生じさせる速度で交差点に突っ込ま*11なければならない。


 この結果、ゆかり車による被害が、危険運転致死傷罪の対象にならない


 公知の事実(民事訴訟法179条参照)ではあるが、ゆかり車とは、谷崎ゆかり先生が車を運転すること、及び運転する車と定義される*12。1年生の夏休みに、ちよちゃんと大阪さんが犠牲になり*13、3年生の時にはかおりんと榊さん、智が犠牲になった*14。特に、美浜ちよの被害は甚大であり、PTSDの要件*15である
・精神的不安定による不安、不眠などの過覚醒症状*16
・トラウマの原因になった障害、関連する事物に対しての回避傾向*17
・事故・事件・犯罪の目撃体験等の一部や、全体に関わる追体験*18

 の全てを満たしている。判例によればPTSDは「傷害」(204条)にあたる*19ので、ゆかり車で美浜ちよに傷害を負わせたゆかり先生には、危険運転致傷罪が成立するように見える。

 しかし、危険運転致死傷罪(刑法208条の2)のいずれの要件も満たさないのである。
まず、一番当たりそう*20な「技量未熟」であるが、一応運転免許を持っているよう*21であり、しかも、ハンドルを動かしたりブレーキを踏むだけの技術はある*22ので、該当しない。
 「高速運転・信号無視運転」はいずれも相当の高速度の運転が必要だが、「スピードはそんな 時々はやすぎますが 時々すごく 遅いときもあります*23」ということであり、*24該当性は否定されるだろう。

 「妨害運転」も、結果的には他の車を妨害しているだけで、妨害を積極的に意図しているとは認められず*25、該当しないし、「飲酒運転」も該当しない*26

 ゆかり車の運転行為が危険運転致死傷罪の規定する類型に該当しない以上、危険な運転をして人を傷害しているのに、危険運転致死傷罪で罰せられないのである*27

 このように、危険運転致死傷罪の構成要件が厳しいことから、遺族が危険運転致死傷罪で起訴して欲しくとも、検察官が業務上過失致死傷罪で起訴する*28場合も多く、問題が起こっている。とはいえ、業務上過失致死傷罪よりも格段に刑を重くしている以上、それを正当化するには「傷害や傷害致死にも匹敵する場合」と言える場合に限定する必要があり、要件を安易に軽くすることは困難である。


 それでは、どうしようもないのか。ここで、重要なのは、危険運転致死傷罪と傷害罪の関係である。
東京高判平成12年10月27日*29は、

被告人が被告人車両で被害者車両を追跡した行為は、(中略)被害者をろうばいさせるのに十分なものであり、被害者に運転を誤らせるなどして、被害者や被害者車両の同乗者の負傷を伴う交通事故を引き起こす危険性が高いものであった(中略)。そして、このような追跡行為は、それ自体被害者車両の乗員の身体に向けられた不法な有形力の行使、すなわち暴行にあたる

とし、危険運転致死傷罪の類型にあたる運転行為が暴行にあたるとしている*30判例では、暴行の意図で傷害結果が生じれば傷害罪で処罰できる*31ため、「事故の危険の高い走行」を行い、被害者に死傷の結果を生じさせた場合には、傷害罪(204条)ないし傷害致死罪(205条)で処罰することも可能なのである。

 もちろん、単なる車の運転が「不法な有形力にあたるか」、及び本人に故意があるかの認定が難しい場合も多い*32が、ゆかり車の場合においては、
・左右と後ろの確認ができていないことはおろか、信号や歩行者すら見えていない*33
・本人が自分の運転が危険なことを重々承知である(「今度は ぶつけないぞぉ」発言*34等)
・多数の物損事故に加え、PTSDの傷害結果を多数人に発生させているかおりんの「ジェットコースターは 事故らない所が いいですよね」発言*35等)
 という事情があるので、その運転が「不法な有形力」にあたり、本人に暴行の故意が認められるので、傷害罪で処罰が可能なのである。

 更に、傷害罪を適用した場合、常習傷害罪(暴力行為等処罰ニ関スル法律第1条の3*36)の適用が可能である。これは、常習的に(反復して当該犯罪を重ねる特性を行為者が持つこと*37)傷害を行った場合に、1年以上15年以下の懲役と通常の傷害罪よりも下限を重くしたものである。
 常習性の認定は、回数、動機・態様・複数の犯行の時間的接着性等を勘案する*38といわれるが、前記事情に加え、1巻p82右4コマ目と4巻p453コマ目を比べると、3年の夏休みの方は「左フロントドアステップ」部分に新しい傷がついており、1、3年生の夏休みの2回以外にも多数回「傷害」にあたる暴走を行っていることが推測できることからは、常習性もまた認められる。そこで、ゆかり先生を常習傷害罪により重く処罰することが可能になる

まとめ
 ある犯罪の構成要件に該当しない行為であっても、その行為が「法益を侵害する非難すべき行為*39」である限り、他の犯罪や、特別刑法を探せば、ほとんどの場合、適正な処罰を可能にしてくれる条文がみつかる。
 刑法は、「法律の抜け穴」によって悪人がのさばることを許さないのだ*40

謝辞:文中引用の他に、ishidatic.com -&nbspishidatic リソースおよび情報様のishidatic.com -&nbspishidatic リソースおよび情報を参考にさせていただきました。故意・過失・結果的加重犯の他、訴訟法的な観点からも考察されております。ありがとうございました。
補足:なお、私が敬愛する山口厚御大は、「危険運転致死傷罪にあたる行為が同時に傷害罪の構成要件を満たす場合*41」について、危険運転致死傷罪のみの成立を認め、傷害罪の成立を否定する*42。山口説は、危険運転致死傷罪が暴行・傷害罪の特別法であることに整合的だが、常習傷害罪での処罰をするためには、傷害罪の成立を肯定する西田先生他の説をとるべきだろう*43

蛇足:なお、ロサ・ギガンティア*44が被害者福沢祐巳を、甘言を弄して自己の占有する車の中に連れ込み、免許証を取得して間もないため、運転技術が未熟であるにも関わらず、前記車を進行させ、もって前記福沢を自己の支配下に移したという事案*45においては、被害者はパニック状態になっただけで、直後に回復しており、傷害は認められない。さらに、無謀な追い越しやエンスト、急ブレーキ位では、「運転自体が不法な有形力の行使」とまではいえず、暴行も認められないだろう。ここは、猥褻*46目的誘拐罪(225条)で処罰すべきであり、危険運転致死傷の出る幕はないだろう。

*1:その後、毎年300件程度が起訴されている。http://www.sun-tv.co.jp/space06/0610/index.html参照

*2:危険な運転による交通事故を「過失」による軽い犯罪とはせず、むしろ暴行に準じる危険な行為をした以上、発生した重い結果について重い責任を取らせようとしている(結果的加重犯、なお川端他「裁判例コンメンタール刑法第二巻」p528では「のようなもの」をつける。)

*3:この意味は「逃げる」ことが危険運転致死傷の構成要件該当性を基礎付けないということ。「ひく」際の態様が危険運転致死傷の構成要件に該当すれば、危険運転致死傷罪で処罰できる

*4:確かにこのエントリを書いた当時は二輪車は対象外であったが、その後の改正により二輪車も対象になった。6/18追記

*5:道路交通法117条の2第1号参照

*6:川端他「裁判例コンメンタール刑法」p531参照

*7:野々上尚編「交通事故捜査II」p67参照

*8:野々上尚編「交通事故捜査II」p67参照

*9:未必的認識・認容

*10:川端他「裁判例コンメンタール刑法」p532参照

*11:突っ込むことは要件ではないが、裁判例に現れる事例は「赤信号なのに交差点に突っ込んでいく」事例ばかりである。

*12:なお、ゆかり先生が所有する車ではない。そもそも、ゆかり先生の父親の所有(1巻p82)であるし、にゃもの車でも、ゆかり先生が運転する場合はゆかり車というべきである(1巻p63参照)

*13:1巻p83

*14:4巻p45

*15:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E7%9A%84%E5%A4%96%E5%82%B7%E5%BE%8C%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E9%9A%9C%E5%AE%B3参照

*16:1巻p97参照

*17:3巻p144、4巻p44参照

*18:1巻p97参照

*19:富山地判平13・4・19判例タイムズ1081号等

*20:1巻p63「今度はぶつけないぞ」等から、技術が相当未熟なことがうかがわれる。

*21:明示の箇所はないが、普通に運転しているから....

*22:1巻p45

*23:2巻p144

*24:「速すぎ」る時に事故を起こしたのであれば別であるが、

*25:4巻p45参照

*26:まあ、ゆかり先生はいつも超ハイテンションか超鬱かどっちかなので、何かの薬物をやっている嫌疑は相当程度ありますが...。

*27:なお、前記裁判例コンメンタール刑法p534は「危険な運転行為と当該交通事故との間に因果関係が必要である」として、交通事故の発生による致死傷を要件としているように読めるが、これでは危険運転致死傷罪の処罰範囲が狭くなりすぎるのではないか。

*28:正確には「せざるをえない」といった方がいいか

*29:野々上尚編「交通事故捜査II」p17

*30:なお、この判例危険運転致死傷罪立法以前のものであることに注意。立法後は単に「暴行」の故意があるだけの場合、危険運転致死傷罪の構成要件にあたれば、危険運転致死傷罪で処理されることになる。ゆかり車のように、危険運転致死傷罪の要件にあたらない場合にこの議論の実益が出てくる。傷害の故意がある場合については、補足参照。

*31:最判昭和25年11月9日刑集4巻11号2239頁

*32:だからこそ、このような認定なしに、類型にあたり、結果が発生しただけで重い処罰のできる危険運転致死傷罪の意味がある

*33:1巻p144参照

*34:1巻p63参照

*35:4巻p46参照

*36:伊藤榮樹他「注釈特別刑法」p241参照

*37:伊藤榮樹他「注釈特別刑法」p241参照

*38:伊藤榮樹他「注釈特別刑法」p243参照

*39:違法で有責な

*40:もちろん、類推解釈や刑罰法規の濫用が許されないのは言うまでもないが

*41:傷害の故意をもって危険運転行為を行った場合

*42:山口厚「刑法各論」p57参照

*43:西田「刑法各論」p56、野々上尚編「交通事故捜査II」p18参照

*44:佐藤聖様のこと。

*45:ロサ・カニーナ」p179参照

*46:ロサ・カニーナ」p166「ぬいぐるみにそうするようにギュっと抱きしめた」辺りを引くまでもなく、猥褻目的は認められることに争いはないだろう。

看板作品の休載と錯誤〜ローゼンメイデン休載問題についての法的考察〜

コミック BIRZ (バーズ) 2007年 03月号 [雑誌]

コミック BIRZ (バーズ) 2007年 03月号 [雑誌]

雑誌には、看板作品というものがある。
Comic Gum (コミック ガム) 2007年 03月号 [雑誌]コミックガム月詠
電撃大王 2007年 03月号 [雑誌]電撃大王よつばと!*1
そして、
コミック BIRZ (バーズ) 2007年 03月号 [雑誌]コミックバーズRozen Maidenである*2

大多数の読者がその雑誌を読む目的は看板作品を読むためといって過言ではなく、看板作品が掲載されていない場合、読者は多大な精神的苦痛を感じる。

さて、

読者Aは、Rozen Maidenが掲載されていることを期待して、コミックバーズ2月号を購入したが、その号においては、Rozen Maidenが休載であり、読むことができなかった。

こんな単純な例を考える。この場合、読者Aは、法的に何か言えないか。

・契約にいたるプロセスについての法律家の考え方
この場合、思いつきそうな法的構成としては錯誤無効がある。
民法95条を見てみよう。

第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

この条文を読んだだけでは、法律を学んでいないとよくわからないだろう。要するに、こういうことである。
民法を作った先人は、人間が法律行為(ここでは法的に意味がある行為位に考えてもらってかまわない*3)をする際、以下のプロセスを経ると考えた。具体例として、マンガを挙げる。

1.動機
 「どうせ暇だし、マンガでも読んで幸せな気分になろう!」といった動機がまずはじめに存在する。
2.効果意思
 次に、心の中に法的に意味がある効果を発生させようという意思(効果意思)が生まれる。つまり、この具体例では、「マンガを買おう」という効果意思が生まれる。
3.表示意思
 とはいえ、内心に意思(効果意思)があるだけでは、契約は成立しない。きちんと効果意思を「このマンガ下さい」等という形で表示しなければならない。そこで「マンガをくれ!」というように、既に生じている効果意思を外部に表示ようという意思(表示意思)を生むことになる。
4.表示行為
 そして、この表示意思に従って実際に「マンガをくれ!」と申込む(表示行為)。うまく承諾が得られれば(いいよ!と言ってもらえれば)、売買契約の効果が生まれることになる。

そして、民法はわれわれ個人の意思を最も大切なものと考える*4

すると、この意思がないのに、誤って表示のみがされて契約が(形の上では)結ばれた場合、民法が最大の価値を置く「意思」がない以上、そのような契約は無効とすべきことになる。まさに、この理を表したのが民法95条の錯誤といわれる。

・動機の錯誤
しかし、実際には、第二段階の「意思」と異なる「表示」がされる例はほとんどない。あるとすれば、値段の書き間違い*5や単位の間違い*6位であろう。実際には、第二段階の「意思」はあるのだが、それを形成してしまったのは、第一段階の「動機」において誤解があったためだという場合(これを「動機の錯誤」という)がほとんどである。
 上記事例においても、Aは

1.動機=「Rozen Maiden読みたいな! 今日発売のコミックバーズには新作が掲載されているはずだ!」
2.効果意思=「コミックバーズを買おう!」
3.表示意思=「お店でコミックバーズをレジに持っていって「これください」と言ってお金を出そう。」
4.意思表示=「これ下さい(店でコミックバーズをレジにもっていって)」

という過程で雑誌を取得しており、2.効果意思たる「コミックバーズを買おう!」と、4.意思表示たる「これ下さい(店でコミックバーズをレジにもっていって)」に何ら齟齬は生じていない。
1.動機たる「Rozen Maiden読みたいな! 今日発売のコミックバーズには新作が掲載されているはずだ!」において、誤解(=現実*7との相違)が生じているに過ぎない。

 このような錯誤(動機の錯誤)をいかに処理するかは議論があるところだが、判例・通説は

原則として動機は意思表示の内容にならないので、錯誤無効を主張しえないが、表意者が動機に属すべき事由を明示的または黙示的に意思表示の内容とした場合には、動機の錯誤も意思表示の錯誤となる
池田真朗著「スタートライン民法総則」p118

とする。実際的にも、動機が表示されていて、契約の内容となっていれば、相手方にとって大きな弊害を与えないという考察が働いていると考えられる。
では、上記事例において、「Rozen Maidenが掲載されていること」が契約の内容となっていたか。

「Aは一言も『Rozen Maidenが掲載されているこのコミックバーズを下さい!』と言っていないじゃないか!」
この議論は一理あるが、残念ながら、判例理論では、これだけではAの主張を否定する理由にならない。
すなわち、判例は「動機が黙示に意思表示の内容となる場合」を想定している。
そこで、明確に動機を表していても、通常の行動から、暗にその動機が示されているといった場合には、動機は意思表示の内容になっている。
看板作品という場合においては、その雑誌の通常の購買動機は「看板作品を読みたい」であるから、コミックバーズを買うという時点でRozen Maidenが読みたいという動機が黙示に示されているといってよいだろう。

さて、Aが錯誤を主張するためには、まだまだクリアすべきハードルがある。
それは、「要素の錯誤」性、そして「重過失の不存在」である。

・要素の錯誤
95条においては、「錯誤」は法律行為の「要素」といえる重要な錯誤の場合のみが主張できる(条文参照)。
この「要素」の錯誤というのは、まず、「その人」が、その錯誤がなければそのような契約をしなかったという場合(因果関係)があり、かつ「通常人」も、そんな錯誤がなければ、そのような契約をしなかったという場合(重要性)である。
 例えば、あるコミックにおいて、ある場面のキャラクターの手の指が6本になっているという場合を考えれば、少なくとも「通常人」は、6本になっているというミス位で、そのコミックを買わなくなるとはいえないので、重要性の要件を欠き、要素の錯誤にならない。
 では、事例の場合はどうか。まず、その読者にとっては、看板作品が読みたくて雑誌を買っている以上、看板作品が掲載されていなければ、雑誌を買わなかっただろうという関係が認められる(因果関係)。問題は重要性であるが、

同じような取引に携わる通常人(中略)なら(そのような取引をする)などとは言わないだろうというとき、(中略)要素の錯誤となる
内田貴民法I」東京大学出版会p60*8

という内田教授の言及が参考になるだろう。

 例えば、10キロの重さの薄型テレビを買ったが、テレビが映らなかったという場合、「これを漬物石に使うこともできるから、テレビが映るかどうかは重要性のないことだ」という理屈は通用しないだろう。
 一般人を基準として、(あることを知っている場合に)取引をするかどうかを決する場合には、「普通の人がその物を買う場合に果たそうとする目的が果たせるか否か」を錯誤が重要かどうか判断する基準にするのが適当であろう*9
 すると、看板作品においては、「その看板作品があるからこそ読者が買っている」というような関係が認められ、一般的に見ても、その雑誌を購入する目的は看板作品を読むためと言える(それ以外の作品を読むためという目的で買う人の方が例外的)だろう。
 そこで、重要性の要件を満たし、なお要素の錯誤といえる。

・重過失
 最後が、Aに重過失がないことという要件である。重過失というのはほんの少し注意すれば間違えずにすんだのに間違えたということを意味する。
 錯誤が、契約の無効という重大な効果を持つものであることから、ほんの少しの注意もせず、間違ったというだけで、簡単に無効の主張を認めるのは相手方(この場合は本屋さん)に酷である。
 そこで、重過失の要件が要求された。

 通常、雑誌においてはどの作品が掲載され、どの作品が休載なのかは、後ろのほうのページに一覧化されている。そこで、そこを見ればどの作品が休載かわかる以上、それを確認すべきとして、Aに重過失を認める考えもありえる。
 しかし、この重過失は、

普通人に期待される注意を著しく欠いていること
内田貴民法I」東京大学出版会p69

であり、普通の人だったら当然すべきチェックをしないで契約をしたという場合に重過失ありとなる。
 中には用心深く休載か否かの確認をする読者もいるだろう。しかし、確認をしない読者の方が多い。ましてや雑誌がビニール等でパッケージングされていることが多い昨今ではなおさらである。
 なお、コミックバーズ2月号においては訂正印刷が間に合わなかったらしく表紙に「Rozen Maidenpeach-pitと明記されていた。かかる場合にはまずAに重過失はないことになる。

まとめ
 Rozen Maidenが掲載されていることを期待してコミックバーズを買ったのに、掲載されていなかったという場合、困ったAは「法律的」には、錯誤を主張して、契約の無効を主張できる(要するに本を返すから金を返せといえる)*10
 もっとも、本当にRozen Maidenを愛する読者であれば、返品せずに、雑誌の中にあるアンケート葉書*11「peach-pit先生との早期和解、早期連載再開を!」等と書いて編集部に送るべきあろう。
 法律的な「正解」と、真の「正解」は違うのである。

追記:1月30日に発売されるコミックバーズにおいても、Rozen Maidenは掲載されていなかった*12そうである。休載が連続すれば、次も掲載されないだろうという蓋然性が高まる(HUNTER×HUNTERを考えれば自明)。そこで、より重過失が認められやすくなる。また、休載の連続により、その「看板作品」目的でその雑誌を買う人も減少する(これもHUNTER×HUNTERを考えれば自明)ので、要素性の立証も困難になる。いろんな意味で早期に連載再開をしてもらいたいものである。

追記(5月1日):上記記載のうち削除部分である「「peach-pit先生との早期和解、早期連載再開を!」等と書いて編集部に送る」という部分は、編集部が本件休載の原因だということを前提としておりましたが、編集部が原因だという確証がない段階で、編集部側が休載の原因だと決め付けて記載した点につきお詫びし、削除いたします。

*1:少年エースA 2007年 02月号 [雑誌]少年エース涼宮ハルヒの憂鬱を当初は挙げていたが、例として不適切とのご意見を多数いただいたので、1/30に削除した。

*2:なお、Cobalt (コバルト) 2007年 02月号 [雑誌] Cobaltマリア様がみてるは意識的にはずしている。確かにこれは「看板作品」であるが、短編が載ったり、インタビューが載ったり、アニメの情報が流れたりするだけで、作品が毎号掲載されるわけではないからである。

*3:典型は契約であり、今回は契約が問題なので、以下契約で代表する。

*4:わかりやすく、かつ短くこの理を説明したものとして、「近代市民社会において望まれる市民とは、他人にあれこれ命令されて行動する人ではなく、自分の意思で周囲の人々との社会生活関係を築き、その代わり自分の決めたことに責任を持つ、つまり現代の言葉で言えば、『自己決定、自己責任』の考え方を実践できる人なのである。そこから、民法は、われわれ個人の『意思』を最も大切なものと考える。判断力のある一人前の市民に、自分たちの自主的な意思でお互いの社会関係を形作ってもらおうというのが、民法の基本的なねらいとするところなのである。」池田真朗著「スタートライン民法総則」p7参照

*5:0を1個多く書きすぎた!

*6:1万ドルを1万ポンドと書いた

*7:コミックバーズにはRozen Maidenは掲載されていない

*8:中略部分が多いのは、ドルとポンドを勘違いするという事例についての言及だから

*9:なお、「普通の人が」という留保をつけているのは、中には漬物石代わりに薄型テレビを買う人もいるかもしれないので、そういう個人的な場合を問題とするのではく、あくまでも「「一般人」を基準として考えるためである。例えば、「ダイエットできると思ったから納豆を買ったがやせない」という場合には、一般人は「誤判の供」として納豆を買うのであり「ダイエット」のために納豆を買う人は少数派であるから、要素の錯誤にはならない。ただ、96条2項の第三者による詐欺の要件を満たす場合に救済されるのみであろう

*10:この結論は、法曹資格のない一私人の私見です。こう主張しても、書店が抵抗すれば、Aは訴訟を提起して、錯誤の要件について(正確には重過失以外)立証していかなければなりません。

*11:正確には葉書に貼り付けるべきアンケート用紙

*12:http://www.new-akiba.com/archives/2007/01/_birz.html参照

涼宮ハルヒの判決〜パソコン強奪事件が裁判になったら

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

平成22年4月1日宣告 裁判所書記官 ○○○○
平成21年(わ)第9999号 恐喝*1被告事件
               判    決*2
本 籍 兵庫県西宮市○町○丁目○番地
住 居 同上
      学 生
                 涼 宮 ハ ル ヒ
                 平成6年○月○日*3
 上記の者に対する恐喝被告事件について,当裁判所は,検察官××××の出席の上審理し,次のとおり判決する。

               主    文
 被告人を懲役6月に処する。
 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
 訴訟費用は全部被告人の負担とする。

(罪となるべき事実)*4
被告人は現に20歳に満たない少年であるが*5,平成21年5月18日,兵庫県立北高等学校コンピュータ研究会からコンピュータを喝取しようと企て,同日午後4時40分ころ,兵庫県西宮市苦楽園2番町16番××号*6所在の兵庫県立北高等学校文化部棟2階のコンピュータ研究会部室において,コンピュータ研究会の部長である氏名不詳者(当時16年)に対し,「パソコン一式いただきにきました。」「1台でいいからパソコンちょうだい。」「四の五の言わずに1台よこせ。」などと申し向けてコンピュータの提供を要求し,同人がこれを拒絶するや否や,同人の右腕をつかみ,同行させた朝比奈みくる(当時17年)の胸部をさわらせた上で,その様子を写真に撮影し,更に前記部長の後背部を蹴りつけ,前記朝比奈を押し倒せしめ,その様子を写真に撮影し,前記部長に対し,「あんたのセクハラ写真はばっちり撮らせてもらったわ。」「この写真を校内にばら撒かれたくなかったら,とっとと耳そろえてパソコンよこしなさい。」「部員全員がこの子を集団で輪姦したって言いふらしてやる。」と語気鋭く申し向け,もしこの要求に応じないときには,同人らの身体,名誉等にいかなる危害が及ぶかも知れないような気勢を示して同人を畏怖させ,よって,即時同所で同人から同高等学校所有*7のコンピュータ1式(時価合計約30万円相当)の交付を受けてこれを喝取したものである。なお,被告人は,右犯行時に統合失調症のため心神耗弱の状態にあったものである。

(証拠の標目)
*括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
 一 被告人の公判供述
 一 被告人の検察官調書(乙4)及び警察官調書(乙1,2,3)
 一 コンピュータ研究会部長の警察官調書(甲2)及び同人作成の被害届(甲1)
 一 朝比奈みくるの警察官調書(甲3)
 一 実況見分調書(甲4)
 一 鑑定嘱託書*8(甲5,謄本)
 一 ××××の鑑定書
(法令の適用)
被告人の所為は刑法249条1項に該当するところ,被告人は,右犯行時に心神耗弱の状態にあったものであるから,同法39条2項により減軽をした刑期の範囲内で,少年法52条3項により,被告人を懲役6月に処し,その刑を3年間猶予し,訴訟費用については刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることにする。
(弁護人の主張に対する判断*9
1.弁護人は,被告人は,本件犯行当時統合失調症に罹患していたため心神喪失の状態にあったから無罪である旨主張する。そして、鑑定人××作成の鑑定書によれば,「被告人は,(本件犯行)当時も統合失調症(妄想型)に罹患しており,幻覚や神人に関することを中心とした比較的系統だった妄想が存在していたと推定され,事理弁識能力に異常はなかったが,当該統合失調症のため,この弁識にしたがって行動する能力が著しく減退していた状態,すなわち心神耗弱の状態にあったものと考える。」というのである。
そこで,被告人の本件犯行当時の責任能力について検討する。
2.前記証拠によると次の各事情が認められる。
(1)被告人は,平成6年○月○日に出生し,小学6年生までは自分が特別な人間だと考えて,小学校生活を満喫していた。小学校6年時の平成17年○月○日に家族で野球場に行った際,自分の人生の平凡さを実感し,落ち込むようになった。被告人は,小学校卒業後,平成18年4月に西宮市立東中学校に入学したが,積極的に自分を世界に発信することで,面白い人生を送れるようになるのではないかと考え始め,東中学校の校庭にラインマーカーでミステリーサークルを描く,同中学の屋上にペンキで星型を描く,同中学の教室の机を全て廊下に出す,同中学校中にお札を貼る等の奇行を開始した。更に,被告人の男性関係も,告白された際にすべて受け入れるが,最短で5分,最長で1週間でその男性を振るという奇妙なものであった。
 平成21年4月,被告人が兵庫県立北高等学校に入学すると,入学式の当日の自己紹介で「ただの人間には興味がありません。この中に宇宙人,未来人,異世界人,超能力者がいたらあたしのところにきなさい。以上。」と述べる等,その奇行はますます悪化した。被告人は,同年5月12日に自分でクラブを作ろうと突如思い立ち,文芸部室を無許可で占拠すると,同月13日には前記朝比奈を「ロリで巨乳な萌えマスコット的キャラ」だからという理由で後にSOS団と名づけられることになる同クラブに強制的に加入させ,書道部をやめさせた。その後本件犯行に及んだものである。
(2)被告人は,「5月の終わりに寝ていたら,高校に飛ばされた。隣にキョンが寝ていた。キョンを起こして学校に入ると,透明な巨人があらわれ,学校を壊しだした。自分はこの新しい世界で日常を送ろうと思ったが,キョンが「元の世界ではここ最近お前を中心に世界が回っていた。」「自分はポニーテール萌えなんだ。」と言ってキスをしてきた。気づいたらベッドの上だった。」「3年前,私が中学校1年生の時に北高の制服を着た3年後のキョンに会った。キョンはジョン・スミスと名乗っていた。キョンが,「織姫と彦星にメッセージを送る奴が北高にもいる」と言ったから,北高に入学した。」等と幻覚知覚体験や,幻聴・妄想を捜査段階から一貫して供述している*10
(3)以上からすれば,被告人が本件犯行当時,統合失調症(妄想型)に罹患しており,幻覚や神人に関することを中心とした比較的系統だった妄想が存在していたという右鑑定人××の判断はこれを是認することができる。
3.もっとも,犯行自体及び動機原因に異常がなく,計画的・作為的・巧妙である。
 被告人は,犯行動機として,「この情報化社会にパソコンが1台もないのは許しがたい事態だったから。」と供述する。これを単独で見れば異常とも思えるが,その後前記SOS団のホームページを作成し,団員を募集したこと等から考え合わせれば,コンピュータを入手して,SOS団の団運営に役立てたいという動機といえ,この動機が異常とまではいえない。
 また,当初からコンピュータ研究会がコンピュータを素直に渡さないことを予定して,前記朝比奈らを連れ,用意した使い捨てカメラ「写ルンです デートFlash25」を携帯してコンピュータ研究会部室へ赴き,コンピュータを渡すことを拒まれると,すぐさま前記部長の手を前記朝比奈の胸部に押し当てて写真を取る等,計画的,作為的,巧妙である。
4.被告人の統合失調症は重症ではなく,是非善悪の判断能力に異常はないが,その判断に従って行動する能力(抑止力)に問題があり,むしろ本件各犯行と統合失調症の直接の関連はない
 ××鑑定人は,「被告人の場合には,幻覚,妄想が主症状で,思考の分裂や感情意志領域の障害はそれほどでない。」「この型の統合失調症患者は,幻覚,妄想以外に異常が少ない」「被告人の場合は,幻覚,妄想などの思考障害が著名な上に,感情,意欲面の障害から特有な人格変化をきたしているが,著しい自発性欠如はなく,表面的には対人的接触は保たれており,感情の表出も保たれており,独善的考えのもとに社会常識を無視しながらも,狭い範囲の中で適応行動しており,精神荒廃に至った統合失調症とはやや異なる状況を呈している」としていることからは,狭い範囲ではあるが,ある程度社会性を保ち,人格を保っていることを認めているといえる。そして,××鑑定人は「被告人は不法性を認識するという点ではまったく異常はなく,その不法性を認識した上で,自分の行動をコントロールする能力,すなわち抑止力にのみ問題がある」としているところ,前記の通り被告人がある程度人格の維持と社会的適応性を有することから考慮すれば,その抑止力もまた,かなり劣っているが,全くないわけではないものといえる。
 被告人の統合失調症と本件犯行との関連性について,××鑑定人は「被告人は犯行当時も現在と同様な幻覚や神人に関することを中心とした妄想が存在し,その枠組みの中でSOS団活動が存在していたと推定されるので,犯行そのものと幻覚,妄想の関連性を全く否定することはできない」とするものの,同時に「SOS団の活動すべてが妄想に基づくものとは言えず,本件犯行と妄想の関連性は薄いものと言える」としており,犯行と病症とが直接関連していると認めているものではない。

5.以上のとおり,被告人は犯行当時統合失調症に罹患しているも,是非善悪の判断能力に異常はなく,その判断に従って行動する能力(抑止力)に異常があるが,その症状は重度のものではなく,かなりの程度の社会的不関性,道徳感情の鈍磨を招来しながらも,狭い範囲内ではあるがある程度人格を保ち,社会的適応性もあること,本件犯行の動機も納得でき,犯行の手段,方法が計画的,作為的かつ巧妙であり,犯行が統合失調症による妄想,幻覚などに起因するものとも認められないことなどの事情を考慮すると,被告人は,本件犯行当時軽度の統合失調症に罹患していたところ,事物の理非善悪を弁識する能力に異常はなかったが,右病気のため,かなりな程度の社会的不関性や道徳感情の鈍磨を招来し,この弁識に従って行動する能力(抑止力)が著しく減退した状態,すなわち心神耗弱の状態にあったものと認めるのが相当である。従って,本件犯行当時,被告人は統合失調症のため,是非善悪の弁別能力に障害を来たしていたとはいえ,その障害は未だかかる能力を喪失せしめる程度のものではなく心神耗弱の段階に止まったものと認められ,弁護人の心神喪失の主張は理由がないものと言うべきである。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,被害者からコンピュータを喝取しようと計画し,巧妙に被害者の羞恥心を利用してコンピュータを恐喝したが,その際被告人は心神耗弱の状態にあったという恐喝の事案である。
 被告人は,「この情報化社会にパソコンが1台もないのは許しがたい事態だったから。」等と弁解するが,このような理由はパソコンを喝取を正当化する理由にはならないのであり,動機に酌量の余地は乏しい。
 また,犯行態様は,上記の通り計画的,作為的,巧妙であり,悪質性が強い。
 そして,被告人は本件犯行について未だ反省の念を示さないばかりか,これが正当な行為だと再三強調している。そして,被告人は公訴事実以外にも前記部長らにSOS団の使用する文芸部室までLANケーブルをつなげることを強要する、前記朝比奈みくるを脅迫し,バニーガール等の格好をさせ,ビラを配らせ,写真を撮影する,学校の備品の紙を窃取してSOS団のビラを印刷する,学校の隣の敷地から青竹1本を盗む等の犯行を繰り返している。このことから,被告人に更正・改善の可能性は少なく,再犯の恐れが極めて高いと言える。
 前記部長は,平成20年4月に北高に入学以来,前記コンピュータ研究会に入部し,同部先輩の作成したコンピュータゲーム「THE DAY OF SAGITTARIUS I」に幾多の改良を加える等,熱心に活動していたものであり,犯行当日も前記研究会でウエブページ「2チャンネル」を閲覧するという,平常どおりの活動をしていたところ,まさに通り魔的な被告人の犯行により最新型のコンピュータの占有を喪失するに至ったのであり,被害者には何らの落ち度もない。
 他方,被告人が犯行当時心神耗弱状態にあったこと,被告人が未だ15歳の少年であり,統合失調症も比較的経度であり,治療結果によっては更正・改善の余地がないとはいえないこと,被害品であるパソコンにつき,犯行後,前記部長が,処分権はないものの,自由意志により被告人が所有することを認めていること,逮捕後,少年審判・公判を通じて身柄を拘束され続けていること,中西貴子,財前舞,榎本美夕紀,岡島瑞樹が被告人の減刑を求める嘆願書を書いていること*11等,被告人のために酌むべき事情も認められる。
 これら一切の事情を総合考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当と判断する。
 
平成22年4月1日
 神戸地方裁判所刑事部
 裁判官 ○○○○(印)

まとめ
コンピュータ研究会からハルヒがパソコンを奪った「事件」が、もしも立件され,家裁から検察官に送られ、起訴されたらば、心神耗弱(いいこと,わるいことをきちんと判断し、これに従って行為をする能力が著しく低い状態)として刑法39条による減軽がなされるだろう。もっとも、被告人がいないと法廷は開けない(刑事訴訟法286条)ので、ハルヒはまた閉鎖空間に逃げ込めば処罰を免れられる。その方が,この世界に与えるダメージは大きそうだが...。

関連:検察は朝比奈さんをこう守る(「ハルヒの行動に強制わいせつ罪は成立しないの?」という問題についての補足エントリ)
『分裂』の「チャイナ服ハルヒ」に隠された真実!? - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
   SOS団よ戦前非合法日本共産党の失敗に学べ! - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:キョンは「おっしゃる通りまさしく泥棒だ」と述べているが、被害者の瑕疵ある意思による交付が認められるので、窃盗ではなく、恐喝の構成要件に該当する。

*2:少年審判でないのは,設定上,家庭裁判所によって検察官送致を受けたと考えてもらえるとありがたいです。

*3:以下,2009年説に従う。まあ、この説だと「1999年に一縷の望みをつなぐ」という辺りに不自然さが出る年代ですが...。

*4:キョンと共謀の上〜というのは面倒くさいので公訴事実はアニメver.を採用しました。小説の共謀は現実にありそうな事前共謀として、リアリティがありますよね。

*5:1/18訂正

*6:1/20訂正

*7:生徒会予算+研究会員私費の場合の所有権は問題となりますが、公費が入っている以上法的には学校のものとして扱われていると解される。

*8:1/19訂正

*9:当該部分については東京地判昭和53年4月28日・判例時報894号125ページ,参照

*10:1/20訂正

*11:1/18訂正

レイニー止めと消費者法

マリア様がみてる 10 レイニーブルー (コバルト文庫)

マリア様がみてる 10 レイニーブルー (コバルト文庫)

1.はじめに
 レイニー止めという言葉がある。

コバルト文庫の人気シリーズ『マリア様がみてる』の刊行中、『レイニーブルー』の巻において、祐巳と祥子との間がこじれたまま、鬱極まりない状態で次の巻へと話が持ち越された。その間、祥子と祐巳の仲を心配する多くの純真なマリみて読者たちは、苦痛と煩悶のさなかで長い間苦しむこととなった。
引用元:民明書房『男の子でも楽しめるドキドキ百合世界』
http://www.ne.jp/asahi/yu-show/sukisuki/200409a.htm#20040912

この結果、マリみてファン達は、カタルシスを求め、次の「パラソルをさして」を待ち焦がれた訳である。

 まあ、「パラソルをさして」で、読者は幸せになれるので、問題はなさそうに見える。しかし、レイニー止めにより、読者はどうしても「パラソルをさして」を買わざるをえない状況になっているとも言える。こういう方法は法的に問題がないのだろうか。

2.君望商法

君が望む永遠 通常版

君が望む永遠 通常版

このようなレイニー止めを、正面からプロモーションに利用したといわれるのが、「君が望む永遠」である。

ちょっと長いが、この「レイニー止め」手法の絶大なる効果を実感していただくため、フロンツ様(http://www6.ocn.ne.jp/~fronts/*1の作者の方)の体験版レビューの最後の部分を引用させていただきます。

(主人公は)待ち合わせ場所に向かいます。
今日のところは絵本で許してもらおうと思う孝之。
しかし、辿り着いた待ち合わせ場所の駅前には人だかりが出来ています。
野次馬が言うには、たった今、車が突っ込み人が轢かれたらしい、とのこと。
孝之は遙が被害に遭ったのではあるまいかと現場を見に行くのですが、
タッチの差で救急車のドアが閉まり、確認できません。

そのうち野次馬がハケて警察がやってきます。
孝之は遙を探すが見つからない。
一心不乱な孝之の耳に、無機質で事務的な警察官の無線連絡が聞こえてきます。
「被害者氏名、涼宮遙。涼しいに宮、遙か彼方の遙、はい・・・」


―――体験版はここまでです。



ええええええええええええ
え!!!!!??

嘘やん!!続きは!!?遙どないなってん!!!オイ!!!!!
イヤアアアアアアアア!!!!!

―――僕、放心状態。

頭ん中まっしろです。
なーんにも手につきません。
フラフラと外へ出て行き、煙草をふかしながら
「なんでやねん・・・どうなんねん・・・・・・・」と
呟きながら何処ともなく徘徊します。
人が見たら通報されても文句は言えない状態でしたが、
プレイ開始より6時間。時刻は夜中の2時です。人なんかいません。

とぼとぼと家に帰り、冷たいを通り越してカチカチになったチーズかつを温めます。
思えば朝食と昼食を兼用で摂ったため、16時間何も食べていません。
が、一口食べただけで箸を置きました。別のもので胸がいっぱいです。


次の日の朝、公式HPで通販を申し込むべく速達用の封筒を買いに行ったのは
人として当たり前の行為だったと僕は思います。思うの!

引用元:http://www6.ocn.ne.jp/~fronts/kiminozotaiken.html

このような、「途中で衝撃的な結末を生じさせ、そこで尻切れトンボにすることで、次作、ないし本編を買わせようとする広告手法」は、法的にいかに規制されるのか。

3.消費者契約法の解釈
 消費者契約法4条3項は

3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

 一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。

 二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。

このような規定を置く。要するに、契約締結に至るまでの事業者の行為により消費者が「困惑」した場合には、消費者は契約を取消せるというものである。

 この困惑については、このような指摘がなされる。

(困惑による取消という考え方は)誠実交渉義務の考え方によるものであると言える。(中略)
消費者の交渉力を損なう積極的な行為があったが強迫には至らないというもの(が「困惑」概念の内容として判例等から抽出される)
大村敦志「消費者法」p113有斐閣

 民法においては96条1項で「強迫」により契約等をした場合には、取消得るということが定められている。しかし、「強迫」は相手に畏怖を生じさせる行為とされており、非常に強い行為しか強迫にならない。しかし、そこまでいかなくとも、消費者が事業者と対等な当事者として「あるものを買うべきか」を考え、それにより「買うか買わないかを合理的に決定する」、こういう意思決定のプロセスを損なう行為が事業者側によりなされた場合には、消費者を保護する必要があるだろう。
 そこで、このような消費者の交渉力を損なう行為により契約が結ばれた場合に、消費者がこの契約を取消せるとしたのが、4条3項である。

 この趣旨から考えれば、レイニー止め手法において確かに事業者は「住居から出ていかない(1号)」や「勧誘場所から立ち去らせない(2号)」訳ではない。しかし、上述のフロンツ様のレビューを見ればわかる通り、「レイニー止め手法により、完全に消費者の交渉力は損なわれ、「買いに行ったの」が「人として当たり前の行為」となってしまっている!」

 そこで、4条3項2号を拡張解釈ないし類推解釈をすべきである。レイニー止めにより消費者は「目的物のことが頭から離れないので、どうしても物を買ってしまう」のだが、これは「勧誘場所から消費者を立ち去らせないので、どうしても物を買ってしまう(2号)」というのと似ている。よって、レイニー止めのような、「途中で衝撃的な結末を生じさせ、そこで尻切れトンボにすることで、次作、ないし本編を買わせようとする広告手法」は、4条3項2号(類推)により、消費者はそのような手法で締結した売買契約は取消せると解すべきである。

まとめ
レイニー止めは、消費者契約法4条3項違反である。そこで、消費者は売買契約を取消すことができる!

でも、心あるマリみてファンであれば、契約取消なんて主張しませんよね*2??

*1:非常に面白いネタばかりです。

*2:もちろん、私も主張する気はさらさらありません