アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

耳をすませばと個人情報保護法

耳をすませば (集英社文庫(コミック版))

耳をすませば (集英社文庫(コミック版))

 「耳をすませば」は、ジブリ好きな某大学生の間でも、愛好者が多い作品である。要約すると以下のようになろう。

月島雫は、東京近郊の団地に住む中学三年生。読書が好きで、受験生にも関わらずせっせと図書館に通っています。

 ある日、本の貸し出しカードに共通して書かれている名前を見つけます。その名は「天沢聖司」。彼は、雫が借りた本は、みんな先に読んでいました。

 「天沢聖司…どんな人だろう…素敵な人かしら。」

 夏休み中、雫は夕子と待ち合わせをするために学校へ行きました。高坂先生に頼み込んで図書室を開けてもらった雫は、借りた本に寄贈印の下に消された「天沢」という蔵書印を見つけます。これが気になって仕方がなかったのですが、夕子に未完成の「カントリーロード」の訳詞を見せ、「コンクリートロード」の替え歌で盛り上がったり、それを突然現れた「ヤなやつ」にからかわれたりしているうちに「天沢」のことはいつの間にか吹き飛んでいました。

 図書館の本の貸し出しカードにも「天沢聖司」の名前を見つけた雫は、再び「天沢」ってどんな人かなぁ、と思いを巡らせます。ふと、さっきの「ヤなやつ」の顔が浮かびましたが、それはあわてて打ち消したのでした。

 さて、2学期になっても「天沢」が気になる雫は、職員室の先生に聞きにいき、何とか手がかりをつかもうとします。しかし、思いの外あっさりと分かってしまいそうな感じになって、全てを聞いてしまわないうちにあわてて職員室を飛び出してしまいました。その直後、いつかの「ヤなやつ」とすれ違います。そいつは同じ学校の生徒だったのでした。あれだけ自分を冷やかしておきながら、今度はきれいに無視してくれました。彼はやっぱり「ヤなやつ」でした。

 ところが、それからほどなく再び地球屋を訪れた雫は、そこで以前から気になっていた「天沢聖司」が、他ならぬ「ヤなやつ」だということを知ってしまいます。今まで空想していたイメージが崩壊する、大変ショックなことでした。
引用元:http://www.asahi-net.or.jp/%7Ehn7y-mur/mimisuma/mimilink01.htm#book2

 さてこのストーリーを法律的に分析すると恐ろしいことが分かる。この図書館では個人情報保護法違反の個人情報の取り扱いがされているのである。

 近年、個人情報保護法ができたが、このずっと前から、地方公共団体については、条例で個人情報保護が規定され、その実施率は98%を越える。実際、舞台となった多摩市にも個人情報保護条例がある。


 そして、貸し出しカード(図書カードという呼称も)を本に挟むというシステムを採ったことで、少年A(少年の個人情報保護のために、以下、この呼称を使う。)の個人情報(姓氏、いつ、いかなる本を読んだか等々)が月島雫に対し漏洩しまっているのである!

多摩市個人情報保護条例
第10条 実施機関は、個人情報の適正な管理を行うため、次に掲げる事項について必要な措置を講じなければならない。
(1) 個人情報を正確かつ最新なものとすること。
(2) 個人情報の改ざん、滅失、き損、漏えいその他の事故を防止すること。

まさに、この多摩市個人情報保護条例10条違反の「漏洩」行為が行われたのである。

 しかも、いかなる本を読んだかという情報によりその者の思想信条が明らかになる。

第7条 実施機関は、次に掲げる事項(以下「収集禁止事項」という。)に関する個人情報を収集してはならない。
(1) 思想、信条及び宗教に関する事項

そもそも、貸し出しカード制度を作ると、少なくとも一種の思想信条に関する情報を収集することになるので、相当の必要性がある場合等でなければ避けるべきなのだ。そんなセンシティブ情報を他人が見れるようにすることは言語道断!


 しかし、これはある意味しょうがない。作中に、月島雫の父親が図書館の電子化にあくせくする様が見られる。原作は1988年に書かれ、映画は1995年に公開された。この近辺の時代背景としては、まず、日本図書館協会により「図書館の自由に関する宣言」の中に、「図書館は利用者の秘密を守る」が1979年改訂で新設された。この時期が図書館における個人情報保護の必要性が認識されだした時期なのだ。そして、図書館の電子化により、アナログの貸し出しカード制度は廃され、結果として、バーコード付きのカードで管理されることとなった。


 まさに、この移行期を描いたのが、耳をすませばであり、この時代だったからこそ、少年Aと月島雫は、相思相愛関係を形成できたのである*1


と、結論づけたんですが、私が通っていた高校では、いまだに、アナログの貸し出しカードを使っており、耳をすませばと同じような、「貸し出しカードを見て、同じ本を読んでいる人の存在にときめく」ってことが行われていたのですが....。


男×男で

まとめ
耳をすませばを法律的に分析すると、個人情報保護体制の整備の真っ只中の個人情報保護のあり方を描いた作品といえる。個人情報保護が高らかにうたわれ、バーコード付カード全盛期の現代においては、雫と天沢のような関係はありえないのだ。

関連:図書館裁判〜決戦!オフィス・ターンvs世相社 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:なお、多摩市個人情報保護条例も1999年の施行であり、それ以前に行われた、少年Aの個人情報漏洩は、問題ではあっても、違法ではない。