アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

龍田節万歳!〜楽しめる基本書「会社法大要」

会社法大要

会社法大要

注:本エントリのタイトルは「龍田ブシ万歳」であって、「龍田ミサオ万歳」ではない。

 龍田節(ミサオ)先生という商法学者がいる。京大教授を経て、現在は同志社大学教授。龍田先生の著された新会社法の基本書が「会社法大要」である。
会社法の基本書といえば「通読するなら神田、辞書にするなら江頭」というのがオーソドックスである。しかし、面白さでいえば、龍田先生の「会社法大要」に勝るものはない
 何が面白いか。それは、龍田先生独自の言い回し、「龍田節(ブシ)」である。


 本エントリでは、独断と偏見に基づく、「龍田節(ブシ)」ベスト10を公開したい。

第10位

(同族企業等は法律の手続きを守らないところ)仲がよい間は事なくすんでいるが、いったん仲たがいが起こると、法律の不遵守を喧嘩の道具に使う判例にはこういう事件が多い。(p18)

 中小企業の判例に多いかもしれません。でも、ここまで言い切るのはさすが龍田先生。

第9位

会社法立法者への)讃辞述べよう。(pii)

 「も」。

第8位

(子会社合併における計算等の規定を挙げ)これらの規定は何度読んでもわかりにくい。(p470脚注127)

 学習者を安心させてくれます。

第7位

必要な事項が記載してあれば、どんな材質(紙に限らないが壁は困る)、どんな書き方(毛筆書きなど)でも株券と認めてよい。(p217)

 確かに壁は困ります。

第6位

株主全員が同意するなら、ガラパゴスや宇宙ステーションで総会を開くことも違法ではない。(p177)

 交通費を会社が支出することは社会相当性の範囲内であれば許されると言われていますが、この場合には会社から交通費は出るのでしょうか?

第5位

新会社法に見られるように、)ひとりよがりの定義も、作ってしまえば押し付けてかまわない。こういう法律を理解させられ法律家が育てられる世の中は恐ろしい。(pii)

 
第4位

(拒否権付き株式は)黄金株と呼ばれることもあるが、おこがましい名称でありウィルス株とでも呼ぶのがふさわしい。(p288)

 黄金株批判は聞いたことがありますが、さすがにここまですごいのは...。


 ベスト3発表前に着外を一覧にします。これ以外にも、立法担当者批判*1等面白い記述満載です。

・(組合員は無限責任なので)信用できない人と共同事業をするとひどい目に遭う。(p3)
・株式は、株券という天の羽衣を脱いでコンピュータに乗り換えた。(p216)
・(取締役と会社の利益相反取引に規制を設けることで取締役が)自分は公明正大だと言いやすくしている。(p75)
・(経営判断原則をゆるく解すると)まさに経営者天国である。(p92)
・(経営の基本方針は)精神訓話のお題目では(ダメ)(p121)
・(代表訴訟の理由は、経営者が他の経営者を訴えないから。その理由は)今回恩を売っておけば、自分が失敗したとき大目に見てもらえるだろう(p163注34)
・発行会社にまさるインサイダーはいない。(p252)
・(自己株式取得についての)両規制とも葬り去った現在、出番をうかがうのが不公正支配という名の怪物である。(p254)
・自己株式が自由化され、本拠の城が崩壊した後も、(子会社による親会社株取得規制という)出城だけが残った(p272)
(インサイダー情報を)知らずに打ったり勝ったりした投資家こそ好い面の皮だ。(中略)市場参加者が対等であることを真っ向から否定する行為でり、インチキ賭博に等しい。(p351)
(新株予約件付き社債はつかみどころのない、)「ぬえ」のような資産(p364)

 最後に、トップ3です。

第3位

一万株を持つ株主が6000株分賛成、4000株分反対の投票をするなどは、統合失調であって許されない(p159)


第2位

相場操縦は、市場の自由な価格形成を腕力でねじ曲げる、神を畏れぬ行為である。(p349)

第1位

(違法配当を)タコ配当と呼ぶのは、タコが食べ物のないときに自分の足を食うといわれることによるが、残念ながらその現場を目撃したことはない。(p406脚注93)

 商法学者で現場を目撃した人はいるのでしょうか...

まとめ
龍田節著「会社法大要」は、龍田先生が少数説がちであること、および、会社の計算等、試験にあまり出ないところが異常に詳しいこと等から、あまり基本書として使う人は多くない。しかし、上記の「龍田節」を楽しむことができる、もっとも「楽しい」会社法の基本書である。

*1:脚注に多い