- 作者: 高木光,櫻井敬子,常岡孝好,橋本博之
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 2007/11/22
- メディア: 単行本
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行政法を学ぶ法学徒の間で一種の「伝説」になっていた絶版本がある。
高木光他著「条文から学ぶ行政救済法」である。行政訴訟法等の行政救済法について、条文をベースに、学説の方向性・筋道を示し、「重要判例」とその位置づけがわかる、格好の行政法の入門書と評判がよかった。ところが、なんらかの大人の事情で、絶版品切れとなっていた。タイミングを逃して買い逃した私は、かねてから入手を望みながら果たせないでいた。
本書は、実質的には「条文から学ぶ行政救済法」の改訂版的な位置づけの本である。著者はまったく同一で、コンセプトも同一である。期待をして購入した。
2.冒頭の「ガイダンス」がわかりやすい
本書は、行政法総論で躓いた人も行政救済法にすっと入れるように、本書の冒頭には非常にわかりやすい「ガイダンス(行政救済法の全体像)」が設けられている。
「飲食店の許可をもらったが取り消された」「1月営業を停止された」「1月営業自粛勧告を受けた」といった非常に基本的な事例をもとに、どのような救済を求められるかについて、行政訴訟のみならず、損失補償等も考慮に入れた説明がある。
このガイダンスにより、大まかに「この局面で行政訴訟法を使う」「この局面ではこんな問題が生じる」といった大まかな位置づけを理解することができる。
3.条文に即した解説
多くの学生が「行政法」学習の最初に学ぶ行政法総論。しかし、「行政法総論」や「行政実体法」といった名前の法律(法典)がある訳ではない。何を学ぶかといえば、無数の個別の法律・規則・条例等についての問題点を学ぶことになる。砂防法、墓埋法、温泉法、医療法等々、様々な「学生にとってあまり身近でない」法律が問題となる。このため、あまり具体的な「条文」に即して学ぶというトレーニングができないという問題がある。
しかし、行政救済法は5つの法律の条文をベースに学ぶことができる。「行政事件訴訟法」「行政不服審査法」「行政手続法」「国家賠償法」「土地収用法*1」である。そこで、条文に即して学ぶことが可能であり、有効なのである。
具体的には、行政救済法の主要条文について、条文を挙げた上で、それぞれの文言について、オーソドックスな解釈論を展開している。
たとえば、国家賠償法1条であれば「公務員」「公権力の行使」「故意または過失によって違法に」という各文言について、重要な判例を指摘し、民法709条との比較をしながら、わかりやすく説明している。
4.手薄な「行政訴訟法以外」を初期の段階から学べる
本書を購入して最初に驚いたのは、400ページの本のうち、「行政訴訟法」についての記述が約3分の1しかないことである。行政救済法のもっともオーソドックスな基本書の塩野「行政法II」において、「行政訴訟法」についての記述が全体の約3分の2であることから比べるとその特徴が際立つだろう。そのため、処分性等についての論述は決して詳しいとは言えない。
しかし、新司法試験、特に択一対策という意味では、行政訴訟法以外について、学部時代、そしてローの2年までにどれだけ学んでいたかが大きな意味をもってくる。択一では行政手続法、国家賠償法、損失補償法等から相当数が出題されるが、これをローの3年になってからあわてて学び始めたのでは「手遅れ」になりかねないのである。最初のうちから、すべての行政救済法をまんべんなく学ぶことが重要である。実務で相談を受けた場合でも「行政訴訟」の頭しかない弁護士より、「この場合には、不服審査でなんとかならないか」とか「国家賠償でいくべきではないか」といった問題意識を持てる弁護士の方が、依頼者によい結果をもたらすことは間違いないだろう。
本書があえて行政訴訟法の比重を減らしたのには、そういう考慮があるのではないか。
5.本書の位置づけ等について
本書により、「条文の重要性」を意識しながら、「判例の見取り図」を学び、その上で、基本書・ケースブック・判例集の「行政救済法の荒波」に乗り出していく。これが本書の位置づけであろう。
本書は前記のとおり、学説の到達点まで論じているわけではない。たとえば、「処分性」のような重要論点について、本書の知識だけで新司法試験に突っ込んでも玉砕するだけである(数ページしか言及がないのだから当たり前である)。
しかし、記載されている内容は、それぞれの論点について考える上でのベースになる考え方である。重要な判例が、百選やケースブックの判例番号と共に引用されている。そこで、本書で学んだ基本をもとに、これらの原典に当たったり、参考文献を読むことで、行政救済法の議論について新司法試験のレベルまで深めることができるだろう。
なお、本書に改善してもらいたい点としては、「それぞれの法律毎の冒頭に、ガイダンス的な文章を入れて、もう少しそれぞれの条文の構造・位置づけをわかりやすくしてもらいたかった」ということであろう。冒頭のガイダンスの後、すぐに各法律の第1条以下の条文解釈に入ってしまう。
しかし、たとえば、行政訴訟法であれば、大きく分けて
「同じ行政訴訟でも、いろんなカテゴリーがあるよ!(取消訴訟、当事者訴訟、義務付訴訟等々)」
「そもそも訴訟要件を欠くと門前払いにされる!(処分性、原告適格、訴えの利益*2)」
「審理に入ったらどんな手続きでやるの?(釈明処分の特則等)」
「実質的な審理に入った場合、どうすれば勝てるの?(裁量等)」
「判決が下りたら、その後どうなるの?(拘束力等)」
といった問題があるわけであり、そういう「法律毎の*3」大きな見取り図があれば、もっとわかりやすくなったと思われる。
まとめ
本書は、行政救済法について「条文」の文言解釈という観点から、基本的な行政救済法の考え方、および重要判例を示してくれる。
後は、基本書・判例集・ケースブックにより、本書の基本をベースに、判例にあたり、考えを深めることで、行政法を深めることができるだろう。
行政法総論を「一応」学んだ人向けの行政救済法の手がかりとなる本としておすすめできる。