アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

「キラキラまわる」と民法〜運送契約と履行補助者

マリア様がみてる 30 キラキラまわる (コバルト文庫)

マリア様がみてる 30 キラキラまわる (コバルト文庫)

*本エントリは、マリア様がみてるキラキラまわる」のネタばれ、およびフレームオブマインドの「謎」の答えに該当する部分が含まれております。

1.突然の運転手交替
 「キラキラまわる」の最初のイベントは、突然の運転手交替であろう。このイベントを適当に要約すると、こんな感じになる。

 遊園地デート再挑戦の日。「柏木さんが車を出す」*1約束で、やってきた柏木さん運転の車は、なぜかいつもの赤いスポーツカーではなく、深緑か濃紺の車だった。祐麒の嫌な予感は的中し、ガソリンスタンドで柏木さんと祥子様の席が変わる。あわてる祐巳の面前に、麗しの祥子様の顔写真の入った運転免許証が突き出されたのであった*2

 この事件について、法律的な問題を探ってみたい。

2.運送契約=請負
 まず、人を目的地まで運ぶという運送契約というのは、民法を探してみても、どこにも書いていない*3
民法は「仕事」をするカテゴリーの契約を大きく3つに分けており、大体これらのどれかに入るようになっているのである。
1つ目は、「雇用」であり、これは、雇い主(使用者)の命令に従って、労務を提供するものである。
2つ目は、「請負」であり、これは、仕事の完成を約束するものである。
3つ目は、「委任」であり、これは、(専門知識を背景に、クライアントから信頼・信任され)事務処理を行うものである。
依頼者に従属するのが雇用、独立的なのが請負・委任。仕事を完成させないとお金がもらえないのが請負、うまくいかなくとも頑張ればお金をもらえるのが雇用・委任である*4

 今回の運送契約は、遊園地と福沢家の往復きちんと送り届けるという「仕事」の完成を目的としているので、柏木さんと福沢姉弟の間で請負契約が結ばれたといってよい*5

3.勝手に他人に運転させてよいのかー履行補助者の使用 
 問題は、請負人である柏木さんが、勝手に祥子様に運転させてもよいのかである。これは、民法的には「履行補助者の使用」という。
 雇用関係・委任関係においては、「その人」の能力・資質が重視される。その人であればきっときちんとやってくれるという信頼があるからこそ、仕事の成否にかかわらず雇用・委任では報酬が支払われるのである。
 これに対し、請負においては、仕事が完成できなければ、履行したことにならない(報酬がもらえない)のである。事案に即せば、きちんと福沢姉弟を送り届けなければ、約束を守ったことにならないのである。
 逆に言えば、仕事さえ完成させれば、請負人自身で仕事を行う必要はないと解されている。いわゆる「下請け」のように、他人を使ってもよいのである。そう、柏木は、原則として自由に運転する者を選べるのであり、小笠原家お付の運転手に運転させてもよいし、祥子様に運転させてもよいのである*6

 どの人を使うかは、請負人の責任で決められるのだから、当然、請負人の代わりに仕事をする者(契約の「履行」を「補助」するので「履行補助者」という。)の故意・過失については、すべて請負人が責任を負うことになる。
 そこで、請負人柏木の代わりに運転を行う祥子様(=履行補助者)のミス(過失)で事故が発生したら、その責任は柏木が負うことになる*7

4.運転技術の問題
ただ、乗客に恐怖感・不快感を与えて送り迎えすることは、「送り迎えする」債務をきちんと履行とした*8といえるのだろうか。これは、なかなか難しい問題であり、運送契約の「仕事」の内容の理解にかかわる問題である。
 運送契約の仕事の内容を、「出発地点から、到達地点まで対象(物・人)を移動させること」と考えれば、福沢姉弟を家→遊園地→家と往復させれば、それで債務は履行されたといえ、後は恐怖感・不快感等の結果何らかの権利侵害があるといえれば、それは債務の履行とは別個の問題として考えることになろう*9
 これに対し、運送契約、特に客の運送においては、少なくとも一定のレベルが必要であり、一定以上上手な運転で送り迎えすることが「仕事」の内容になっていると考えれば、そのレベル以下の下手な運転であれば、(人は目的地に到達していても)仕事の完成はないというべきことになる。

 とはいえ、本件においては、「そもそも柏木さんの運転技術が極端に下手である」という事情がある。そうすると、「柏木さんに送り迎えを頼む」という場合は、上記の問題においていずれの考えに立ったとしても、要するに「とにかく目的地に着けばよい」「運転技術は問わない」という内容と考えるべきであろう。
 そこで、「たどたどしい運転」で「誰一人いいご機嫌といえる状態ではな」く目的地に到達しても、これは柏木さんにお願いしたことからくる「許容範囲」であり、やむをえないこととなるだろう。結局、祥子様の運転でも、目的地に達した*10以上運送契約の「約束を守った」「仕事を完成した」ということになる。

5.その他の問題
 このように、祥子様が運転を替わること自体は、民法上適法であることがわかったが、「車の運転を替わらせるために、助手席からハンドルに手をかけて好き勝手にする」というのは刑法上脅迫罪の成立する可能性もある。問題は未だ残っているのである。

まとめ
 「普通の人に運転を頼んだら祥子様が運転した」という場合、債務不履行の責任を問われる可能性があるが、今回は「柏木さん」に頼んでいたため、民法的には一応適法となった。
 とはいえ、祥子様が運転をするといろいろな問題が生じてくるので、法律の観点からも、それ以外の観点からも、運転は差し控えるのがよいと思われる。

 更新が停まってしまい申し訳ございませんでした。
キラキラまわる」は、ウサ耳可南子*11にやられました。
今年もよろしくお願いします。

*1:p45参照

*2:p30近辺参照

*3:なお、商法の旅客運送契約には該当しません。柏木さん≠運送人ですから。

*4:「合格請負人」とかいっている人たちが、生徒の合否にかかわらずお金を取っているといった現実もありますが...。

*5:柏木=請負人、福沢姉弟=注文者。加賀山茂「契約法講義」p518参照。なお、報酬の直接の授受がないので、この点において、非典型契約であるが、話がややこしくなるのでカットさせていただきます。

*6:このように、「原則」は、自由に他人に代わりに仕事をさせていいといっても、例外的に請負人本人が行わなければならない場合もある。たとえば、高名なA画伯に対し、その画伯の腕を見込んで絵を描いてもらうという場合、BやCの描く絵ではだめで、Aが描かなければ仕事は完成したといえない。このような性質上請負人自身が仕事を完成させなければならない特別な場合においては、なお本人が行わなければならない。ここで、運転という債務について見ると、要するに、安全に往復できればよいというのであるから、運転免許証(=安全に運転できるライセンス)がある人であれば、代替できるといえる。そこで、本人が行わなければならない場合には該当しないだろう。本件は、この「例外」には該当しない。

*7:なお、好意同乗の問題はここでは扱わない。

*8:債務の本旨に従って履行した

*9:いわゆる拡大損害と類似の問題となる

*10:なお、まだ家に帰っていませんが、キラキラまわるの巻ではここまでしか話が進んでいませんので、一応目的地に達したことにしています。

*11:p185