- 作者: タブロイドと愉快な仲間たち
- 出版社/メーカー: 三才ブックス
- 発売日: 2011/09/15
- メディア: 単行本
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魔法少女まどか☆マギカの特徴は、単に「観て面白い」だけではなく、思わず「語りたくなってくる」ところだろう。
第三話でマミ先輩がマミられたのを見て、
「マミさんが……! なんであんな目にあわなきゃいけないんだよ!!」
と、知り合いに苦情を言ったり(本書「まえがき 」より)、QBの執拗な勧誘っぷりに「ドブ板営業なんてもんじゃねーよ」と呟いたり、実はQBがエネルギー回収のため派遣され、*1使い捨てにされる社畜だと知って、現実の自分との相似に複雑な感情を抱いたり…。
皆様も、こんな経験はないだろうか?
そう、魔法少女まどか☆マギカは、多様な語り手が、多様なまどか☆マギカ論を語りたくなるアニメなのだ。
そのような観点から、様々な「まどか☆マギカ論」が既に出版されているが、その最新刊*2を入手した。
それが、タブロイドと愉快な仲間たち編「超解読まどかマギカ」である。
2.多様なテーマそれぞれにピッタリのライターが競演
「超読解まどかマギカ」の特徴は、テーマが豊富ということである。
キャラ造形、魔法少女アニメの歴史、ループ構造、バトルロワイアル、芸術としての劇団イヌカレー空間、魔法少女まどか☆マギカの武器、海外オタクの視点、「ぼくのかんがえたまほうしょうじょ」等々。様々なテーマを設定し、「カーズSP」のかーず氏、「カオスアニメ大全」の久保内信行氏等の実力派のライターの方がそれぞれの得意分野を著す。
特筆すべきは、たまごまご様の「ネット上でネタ化していく『まどか☆マギカ』〜いかにしてほむらはぱんつをかぶるようになったか〜」である。
ほむほむが縞パンを履いていない? こんなの絶対おかしいよ!?〜まどかと盗品運搬罪 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
のようなものを書いていると、ついつい忘れてしまうが、作中で「マミる」なんて言葉は使われてないし、鹿目まどかは作中ではそんなにブラックではない。そして何より「ほむほむがパンツを被る姿は作中では描かれていない」のである。
そう、ほむほむがパンツを盗んでいることは、鶴屋さん(ちゅるやさん)はスモークチーズが好きと同じように、公式設定ではなく、ファンの間で広まった「公知の事実」に過ぎない。では、どうしてそんな設定がファンの間で広まったのか?
「ネット上でネタ化していく『まどか☆マギカ』」は、このようなネット上のネタ化状況を的確に描き出し、「どうしてそうなった!?」を分析された労作である。
これは1つの例であって、その他にも、色々と興味深い記事が多い。
まさに、各分野の「適材適所」の書き手が、まどマギ論を幅広く展開するのが、本書の特徴である。
3.深堀りは別の本とあわせて
このように、「超読解まどかマギカ」はまどマギ評論として面白いものの、いかんせん約250頁に約20のテーマ。1テーマ当たりのページ数には限界がある。
例えば、「『魔法は銃口から生まれる』『まどか☆マギカ』の武器たち」は、10ページの中でバランスよくマミ先輩の銃、さやかの剣、あんこの槍、ほむほむの現代武器等を説明する。素人向けに分り易く書かれている。
とはいえ、専門書と比べてしまうと深堀り度合いの差が感じられてしまう。
例えば、ほむほむがヤクザ事務所から調達したデザートイーグル。これを、本書では、
おそらく銃=暴力団という連想によるのだろう。最初の調達先は暴力団事務所。そこから入手する銃は、虚淵作品ではある意味レギュラー的な存在であるイスラエル製大型ハンドガン、デザート・イーグル。そんなものをなぜヤクザが持っているのか、というツッコミはなしにしたい。
タブロイドと愉快な仲間たち編「超読解まどかマギカ」167頁
と、わずか3行ながら、ポイントを絞って解説しており、わかりやすい割には記述の密度が高い。
とはいえ、ほむほむ銃器を事細かく解説した専門書である、GEWALT作「HOMURA WEAPONS」では、「そんなものをなぜヤクザが持っているのか、というツッコミ」についても、「マフィア(ヤクザ)がステータスとして持ってい」るという、議論を提示される。
ここで、同書は、同時に持ち出した9mmパラベラム弾はデザート・イーグルには適合しないことを指摘する。
もし、ヤクザが持っている目的が「実用」ならば、装填されている実弾に加え、適合する実弾を準備していておかしくない。適合する銃弾がヤクザ事務所にはなく、反対に、適合しない9mmがある。ステータス説はストーリー全体として矛盾なく成立する。
加えて、このパラベラム弾の伏線が、米軍基地侵入事件の際に回収されていることが等まで考察されている。
ほむほむの銃器を検討した深い同人誌「HOMURA WEAPONS」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
「HOMURA WEAPONS」では、デザート・イーグルだけで見開き2頁、文章も100行以上書いているのだから、この深堀りの度合いにおける差は当然であるが、「超読解まどかマギカ」を読んで、このトピックは面白そうだと思ったら、ぜひ次はその分野の専門書に進んでみるのが良いと思われる。
まとめ
「超読解まどかマギカ」は、適材適所で選ばれた論者が、その得意な分野について「魔法少女まどか☆マギカ」を論じる本であり、かなり多くのトピックについて、平易にかつ興味深く論じられている。
もっとも、1トピック当たり約10〜15頁という字数制限があるので、深堀度合いは専門書にはかなわない。
「超読解まどかマギカ」を読んで面白いと思った項目について専門書で深める、これがオススメの読み方だ。